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アトラスでひと騒ぎ【14】(子世代)

2022-07-18 14:55:44 | 子世代妄想
どもですあきらです。
子世代小説、続きです…!

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 オレが剣を抜いたのを見て、女は瞬間踵を返してその場から駆け出した。――逃げる気かっ!
 朝とはいえ薄暗い森の中、見失ったら終わりである。追いかけるオレ達に向かって、女は唱えていたのであろう、力あることばを解き放つ。
「『火炎球(ファイアー・ボール)』!」
「っ! こんな森の中で!?」
 慌てて避けたオレ達の後ろで、着弾した炎が森の木々を燃やしていく。
 ――おいおいおいっ、そこに倒れてるアンタの仲間たちは目に入らないのか!?
「アハハハッ、そんなのあたしが気にすると思う?」
 嘲笑う女の声をかき消すように、オレの後ろで声が響く。
「『氷結弾(フリーズ・ブリット)』!」
 レオナの呪文だ。冷気の球が、瞬間的に火のついた木々を凍らせていく。
 続けて、同じ呪文を唱えるルシウスの声も響く。どうやら彼にもある程度の精霊呪文の心得があったようだ。
「あら、やるじゃない」
 余裕たっぷりに、走り続けながらまた何か呪文を唱えようとする女に、オレはその足を止めるべく呪文を放った。
「『地精道(ベフィス・ブリング)』!」
「ぎゃっ」
 かかった! 地の精霊に干渉し、女の足元に簡易的に落とし穴を作ってやったのだ。足を取られた女が転びそうになった瞬間、オレは更に追撃の呪文をお見舞いした。
「『影縛り(シャドウ・スナップ)』」
 呪文と共に、片手でナイフを投げる。それは狙いを外すことなくバランスを崩して転んだ女の『影』に突き刺さった。
「うっ、……動けない……!?」
 慌てたように声を上げる女。だが、魔族でもない人間の女には、深々と地面に縫い留められた影をどうにかする事は出来ない。――とうとう捕まえた。

「ハァ……やった。レオナ、どうする?」
 振り返って尋ねれば、レオナは真顔でその場に動けない女を見下ろした。
「……死なない程度に痛めつける」
「ひっ」
「うむ、そうしようか」
 頷き合うオレとレオナに、ルシウスが慌てたように口を挟む。
「ちょっ、怖いですよお二人ともっ!?」
「だってなー。今のこいつ、憲兵に突き出してもリナ=インバースの名を騙ったってことは認めなさそうじゃないか? それじゃ本物の名誉の回復にはならないんだよな……」
「うんうん」
「それにほら、ルシウスもこの女には腹立ててただろ?」
「いや、あの、えーと……ランツさん?」
 困ったようにおっさんの名前を呼ぶルシウス。――真面目なやつ。
 ランツのおっさんはまじまじと女を見下ろした後、こちらを見て苦笑した。
「若い頃ならスケベ心で『助けてやろう』って言ったかもしれんなー……だが、ま、殺さないってんならいいんじゃないか? ちょっとは痛い目見ないとこいつも反省しないだろうし」
「ランツさんまでっ!?」


「……と、言うわけだ。観念しな」
「えーーと……?」
 自分の運命を悟ったらしい、女がだらだらと冷や汗を流すのにオレは思い切りにやりと笑って見せる。――きっと悪役面なんだろうなあ、オレ。
「自分はリナ=インバースの偽物だ、って認めるか、死ぬほど痛い目に遭うか。二つに一つ、ということで」
「えっと、あの、認める、認めるわっ!」
 慌てて言う女の声にはまったく誠意も反省も感じられない。絶対嘘だ。
 というわけで、オレは聞こえないふりをする。
「ウーン、聞こえないなあ……レオナ、どうだ?」
「ぜんぜん、聞こえないわ」
 こくこくと頷くレオナ。苦笑するランツに、おろおろするルシウス。
 そして絶望する女。
「なんでよっ!??! なんで、待って、…………イヤーーーーッ!!!」

 哀れ、女の悲鳴と罵倒が、必死の謝罪に切り替わるのにそう時間は掛からなかった。


続く


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