7月14日、教育基本条例下の辻谷処分を撤回させるネットワーク(Tネット)総会・学習会が開催されました。学習会講師の山口正紀さんのご了承をいただきましたので、当日のレジュメを2回に分けて掲載します。
君が代を憲法で強制したい安倍壊憲
~憲法・メディア・天皇制~
2013年7月14日 Tネット学習会
山口正紀(ジャーナリスト/人権と報道・連絡会世話人)
〈はじめに――私と天皇制〉
●夢に見た大阪大空襲の「記憶」―父母の戦争体験から
●昭和天皇と仁徳天皇陵――「天皇はなんでエライの」
●ベトナム戦争報道から学んだ「戦争加担と加害の歴史」
●皇太子一家来県取材の「業務命令拒否」(1977年、宇都宮支局)
・皇太子一家来県はニュースか
・なぜ新聞は敬語報道を続けるのか
・1975年、原爆投下を「やむを得なかった」、戦争責任を「言葉のアヤ・文学方面のこと」と言ったヒロヒト
●1988~89年の「自粛・崩御」報道
・自粛の動きを記事に
・「崩御」報道を拒否
●2002年日朝平壌会談後、週刊金曜日「拉致一色報道が隠す日本の侵略責任」記事への圧力
Ⅰ 9条を1条に――私の日本国憲法観
1――平和憲法をどう理解するか
⑴交戦権放棄=政府の「戦争する権利」を縛った規定
・前文「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意」及び9条2項「国の交戦権はこれを認めない」が意味するもの
・「政府の行為」の反省――侵略戦争はもちろん、「自衛戦争」も認めない
・自衛権(正当防衛権)はあっても、政府に「自衛戦争」をする権利は与えない
・背景にアジア諸国2000万人以上、日本人300万人以上の「侵略戦争の惨禍」
⑵戦力放棄=「武力による威嚇」でなく「平和外交」による安全保障を(暴力否定)
・前文「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」及び9条1項「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇または武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」が意味するもの
・武力による威嚇――「俺は銃を持ってるぞ、言うことを聞かないと撃つぞ」
・戦力不保持と平和外交――「私はあなたを信頼しています。話し合いで解決しましょう」
2――前文・9条の精神に反する「1~8条」=象徴天皇制
⑴日本国憲法の基本原理と矛盾する象徴天皇制
①憲法の基本原理――平和主義、民主主義、主権在民、基本的人権、自由と平等
②天皇制の基本原理――侵略戦争の思想的基盤(アジア侵略の正当化=八紘一宇の思想)
・一君万民・家父長制・血統主義の差別思想、すべての人権を制限できる天皇大権
⑵天皇制温存によって失った「侵略・戦争責任」を問う姿勢
①最高責任者に責任がないなら、「臣民」にも責任はない
・なぜ侵略戦争をしたのか、その検証のカベ/メディアも「仕方がなかった」論で逃避
②放置された侵略被害国・被害者への謝罪と賠償責任
・被害国への「経済協力」で被害者個人への賠償を回避(「慰安婦」問題など)
・相次ぐ妄言、払拭されないアジアの対日不信
3――天皇・沖縄・安保・自衛隊と平和憲法
⑴マッカーサーの「一存」で天皇制温存
①東京裁判の被告人選定段階で発表された「戦争放棄」憲法草案
・マッカーサー3原則(象徴天皇制、戦争放棄、封建制廃止)1946年2月13日、日本政府に手交
・天皇の発議で「憲法改正草案」発表(1946年4月17日)
・東京裁判(1946年5月3日開始)で天皇訴追回避
②オーストラリアなどの「天皇訴追要求」を抑えた「戦争放棄憲法」
・天皇の「平和主義」の証として盛り込まれた戦争放棄
⑵冷戦に向けたマッカーサーの戦略――天皇利用と沖縄要塞化
①天皇制を中心とした保守・右翼勢力の温存(至上命題だった「共産革命」阻止)
②軍事戦略としての沖縄の直接支配=全島要塞化(「日本軍の捨て石」から「米軍の要石」に)
・沖縄を切り捨て、犠牲にして生まれた「平和憲法」
⑶平和憲法を形骸化した単独講和と日米安保体制(1951年)
①ソ連・中国を「仮想敵国」に、単独講和とセットで日米安保条約(日米軍事同盟)
②日本全国の米軍基地は憲法が禁じた「軍備・武力」=近隣への脅威
・砂川事件で、「安保による米軍駐留は違憲」判決(1959年)
③朝鮮戦争(1950年)をきっかけに再軍備、警察予備隊→保安隊→自衛隊(1954年)
⑷自衛隊と日米安保・米軍基地は平和憲法違反
・自衛隊も安保も近隣諸国に重大な脅威を――積極的平和外交の放棄、近隣諸国民の不信
⑸問い直すべき侵略戦争の原因と責任
①歴史認識の見直しと共有――侵略被害国の市民との共同作業
②教育とメディアの責任――戦争に加担した歴史とその原因
③「被害者意識」の平和運動からの脱却――加害の反省に立った平和運動へ
⑹平和憲法と現実の矛盾解消へ
①象徴天皇制をどうするか――立憲君主制から共和制へ
②自衛隊をどうするか――災害救助組織への改組
③安保・沖縄の米軍基地をどうするか――日米軍事同盟からの脱却
Ⅱ 自民党「日本国憲法改正草案」
1――前文が示す自民党改憲草案の基本的性格
⑴現行憲法の前文から憲法の神髄である文言を削除=否定
・「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する」=侵略戦争の反省
・「国政は国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する」=国民主権の原理
・「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理念を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」=武力ではなく、平和を愛する諸国民への信頼による安全
・「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」=全世界の人々の平和的生存権
⑵「草案」が前文に入れた文言
・「日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち、国民統合の象徴である天皇を戴く国家」=「天皇を戴く」=国民主権の否定
・「日本国民は、国と郷土を気概を持って自ら守り」=国民の国防義務明記
・「和を尊び、家族は社会全体が互いに助け合って国家を形成する」「我々は自由と規律を重んじ…」=個人の内面に属することであり、憲法に書く必要のない問題
・「良き伝統と我々の国家を末永く子孫に継承するため、ここにこの憲法を制定する」=立憲主義への無理解。憲法の目的は、個人を尊重し、その権利を実現するために国家権力を縛ることであり、これは「改憲」でなく、事実上の新憲法制定
2――自民党憲法改正草案の特徴と問題点
⑴立憲主義の否定=憲法を「権力を縛るもの」から「国民を縛るもの」へ
①基本的人権の永久不可侵性を否定し、国民に憲法遵守義務
・憲法97条「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって、これらの権利は、過去幾多の試練に堪へ、現在および将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである」をまるごと削除
・草案102条1項=「全て国民は、この憲法を尊重しなければならない」として、国民に憲法遵守義務を押し付け=立憲主義に反する規定
・草案102条2項=天皇の憲法遵守義務を削除
②政府・首相の権限拡大、国会の権限縮小
・草案54条1項=閣議にかけずに総理大臣が衆議院を解散できる
・草案72条3項=総理大臣に国防軍の最高指揮権
・草案98条=武力攻撃、内乱、大規模災害などの「緊急事態」に、総理大臣が「緊急事態宣言」をし、緊急財政処分などができる大権(事実上の戒厳令)
③改憲発議要件の緩和=いつでも権力に都合のいい改憲を可能に
・草案100条=96条を「改正」し、改憲発議要件を両院の「3分の2以上」から「過半数」に
④新たな「国民の義務」のオンパレード
・草案前文=国防義務(「日本国民は、国と郷土を気概を持って自ら守り」
・草案3条=日の丸・君が代尊重義務
・草案9条の3=領土・資源確保義務
・草案24条=家族の尊重、助け合い義務(家族が個人より優位に立つ家父長制への復帰)
・草案25条2=環境保全義務(国民にも保全義務)
・草案99条3項=緊急事態指示服従義務(緊急事態宣言が発せられた場合、何人も国・公共機関が発する指示に従わなければならない=人権制限も)
⑵平和主義の否定=戦争のできる国作り
①第2章「戦争の放棄」→第3章「安全保障」に
・前文と連動した侵略戦争の反省の否認、武力によらない安全の否認
②草案9条=現憲法9条の全面否定
・草案9条の2=自衛権の発動、国防軍保持を明記、交戦権否認条項を削除
・草案9条の2第3項=国防軍の任務として①国際社会の平和と安全確保=海外派兵②公の秩序維持=治安維持
・草案9条の2第4~5項=軍事機密保護法、軍事法廷設置
・草案25条の3=在外国民保護規定を新設。「国防軍」海外派兵の根拠に
・草案66条2項=「内閣総理大臣その他の国務大臣は文民でなければならない」を「現役の軍人であってはならない」に緩和(大臣になる前に退役すればいい?)
⑶天皇の神格化=大日本帝国憲法化
・草案前文「天皇を戴く国家」(先取り=4月28日の政府行事で安倍らが「天皇陛下万歳」)
・草案1条=天皇を元首にし、神格化の方向に(国民主権の否定)
・草案3条=日章旗(日の丸)を国旗、君が代を国歌に(尊重義務)
・草案4条=元号制定の明記
・草案5条=現憲法「憲法に定める国事に関する行為のみを行ない」から「のみ」を削除
・草案6条4項=現憲法「内閣の助言と承認により国事行為を行なう」を「内閣の進言を必要とする」に(進言=天皇は内閣より目上?)
⑷人権の制限・抑圧、平等原理の否定
・草案12条=憲法が保障する自由と権利に「責任及び義務が伴うことを自覚し、公益及び公の秩序に反してはならない」の条件(法律による人権制限容認=明治憲法化)
・草案13条=現憲法「個人として尊重される」の「個」を削除し、個人の尊重を認めないものに
・草案15条3項=公務員の選定権限を「日本国籍を有する成年者」に限定(外国人参政権の明文否定)
・草案18条=身体の拘束に関して現憲法の「奴隷的拘束」をはずし、「社会的経済的関係において」を加筆(政治的関係での拘束・徴兵を容認するため?)
・草案19条=思想・良心の自由を現憲法の「侵してはならない」から「保障する」に(権力を縛るための条項を「権力が保障する」に)
・草案20条=政教分離原則を骨抜きに(現憲法20条1項の「宗教団体による政治上の権力行使の禁止規定」を除外。国の宗教活動の禁止を定めた20条3項に「社会的儀礼または習俗的行為の範囲をこえないものについては、この限りでない」と追加。公人の靖国参拝などを容認)
・草案21条=表現の自由(集会、結社、言論、出版その他)に「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行ない、並びにそれを目的として結社することは、認められない」と条件(警察・検察の判断で、あらゆる表現に規制をかけることを可能に)
・草案24条2=婚姻について「両性の合意のみに基づいて成立」という現憲法の規定から「のみ」を削除(合意に基づかない婚姻=家父長制下の戦前回帰も)
・草案25条の4=犯罪被害者への配慮規定(被疑者・被告人の人権と対立させる新規定)
・草案28条=勤労者の労働基本権、団結権を保障する現憲法に「公務員については、全体の奉仕者でることに鑑み」として、「制限することができる」との追加規定
・草案36条=公務員による拷問・残虐な刑罰について、「絶対にこれを禁ず」としている現憲法から「絶対に」を削除(禁止は絶対ではない!)
・草案77条2項=「検察官は、最高裁判所の定める規則に従わなければならない」との現憲法の規定に「弁護士その他裁判に関わる者」を追加(弁護士自治への介入)
⑸自民党改憲草案が狙うのは「戦争のできる神の国」復活
①「天皇を戴く国家」を浸透させるための「日の丸・君が代」尊重義務
・「義務」に従わないと「非国民」=石原都政・橋下府・市政を憲法に明文化
②闘い・抵抗の武器を奪う21条改悪
・「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動」とは
③戦争できる国に向けた9条改悪(「国防軍」だけでない問題点)
・軍機保護法・軍事法廷復活=先取りとしての秘密保全法
⑹「96条先行改正」は憲法破壊
①「96条改正」は、立憲主義・憲法の根幹にかかわる問題
・安倍首相は「国民の過半数が憲法を変えるべきだと思っても、国会議員の3分の1が反対すれば改正できないのは問題」などと国会答弁
・憲法は権力者の横暴な権力行使から国民の権利・自由を守るための歯止め
・だからこそ改憲発議には厳しい「特別多数決」の条件=96条の「3分の2」規定
・「縛られる側」の権力者たちがルール変更するのは、憲法を根底から否定する行為
②「憲法に風穴を空ける」96条改悪
・自民党新憲法草案(2005年)を作った舛添要一氏は『読売』のインタビューで「まず96条を改正し、憲法に風穴を空ける」と言明
・96条さえ変えれば、あとは与党がいつでも好きな時に好きなように憲法を変えることができる
Ⅲ 差し迫る〈安倍壊憲〉の危機
1――民主党政権下でも進行していた壊憲
⑴末期の鳩山政権下で国民投票法施行(2010年5月18日)
①改憲派が3分の2の賛成で憲法「改正」案を通過させれば、「改憲のための国民投票」が可能に
②平和憲法が壊憲勢力の「人質」にとられるという、戦後初めての危険な状況
⑵菅政権下、民主・自民が参院の「憲法審査会」規程作りで合意
①2010年10月19日、参院の民主・自民国会対策委員長が参院の憲法審査会規程作りで合意
②憲法審査会=憲法改正原案を審査する「改憲のための」機関
・衆院では09年6月、麻生政権下で自公が審査会規程を強行制定
・参院では民主党などの反対で規程が作れず、政権交代後も宙に
⑶東日本大震災のさ中にも壊憲の動き
①2011年5月18日、民・自・公の賛成により、参院憲法審査会規定を決定
・背景に2010年夏以降、菅直人政権下で進行した民主党の「第2自民党化」
・前原グループを中核とした菅政権は普天間・辺野古問題、「尖閣」問題で著しく自民党化
②震災のどさくさに紛れ、6月7日、「憲法96条改正をめざす議員連盟」設立
・総会には民・自・公など国会議員約100人が参加、賛同者は200人を突破
③橋下徹「大阪維新の会」も改憲・96条改悪で「公約」
・2012年3月に発表した「維新8策」(公約叩き台)に「96条改正)」
⑷国民投票法制定から4年半、野田政権下で憲法審査会始動(2011年10月20日)
①臨時国会冒頭、衆参両院で憲法審査会委員(衆院50人、参院45人)選任
②以後、衆参両院で憲法逐条審査
2――国民投票法の問題点
⑴有権者の5人に1人の賛成でも実現する憲法改定
①最低投票率の制限がなく、20%の賛成でも改憲が可能
・憲法96条は「国民の過半数の賛成」による承認、国民投票法は「有効投票数の過半数」
②外国の多くは最低投票率の規定
・デンマークは全有権者の40%以上の賛成、韓国は有権者の過半数の投票が条件
⑵市民の知る権利を侵す「広報」規定
① 改憲派の広報機関となる「国民投票広報協議会」
・国会議席数に応じた委員=自動的に3分の2以上が改憲派に
②放送を利用した無料広告も改憲派の宣伝機関に
・有料CMは規定なし(財界の買占めも可能に)
⑶公務員・教職員から、言論・表現の自由を奪う「地位を利用した投票運動の禁止」規定
①自治体労働者・教育労働者には、憲法を論じることを許さない違憲規定
・授業で憲法9条の意味を語ると「政治的行為」に(いくらでも拡大解釈可能)
②公務員には本来「憲法尊重擁護の義務」(99条)
・任期中の改憲を公言した安倍首相、橋下徹・大阪市長らこそ、99条違反
3――自民党圧勝の総選挙
⑴自民党の「改憲」公約をきちんと報道しなかったメディア
①安倍晋三総裁は11月21日、「日本を、取り戻す。」と銘打った衆院選政権公約を発表
・集団的自衛権行使、「国際平和協力法」制定、「憲法改正草案」に沿って国防軍の設置
・96条改正=憲法改正の発議要件を「両院の3分の2以上」から「過半数」に緩和
・「憲法改正原案の国会提出」に積極的に取り組む方針を明記
②政権公約を報じる各紙22日朝刊各紙一面の見出しは経済政策が中心
・《成長重視、保守を前面/TPP交渉に条件》(『朝日』)
・《物価上昇2%目標明記/日銀法改正を視野》(『読売』)
・《「経済成長3%以上」/安保「安倍色」濃く》(『毎日』)
・《TPP「国益なら交渉」/金融緩和の実行強調》(『日経』)
・『東京』が《再稼働判断3年以内/改憲し国防軍創設》、『産経』が《集団的自衛権「行使可能」/経済再生 司令塔カギ》とした以外、改憲を取り上げた見出しなし
・記事本文でも『朝日』『毎日』『日経』の一面には、「改憲」の2文字が皆無
・原発、沖縄、憲法を争点からはずし、自民党政権公約が「経済再生」を実現するかのような報道
⑵自民圧勝・民主惨敗の選挙結果
①選挙結果を端的に表現した『東京新聞』12月17日朝刊1面の見出し
《自民290台 政権復帰/安倍氏 首相再登板へ/4割投票棄権 推定投票率最低水準/維新含め改憲派3分の2/脱原発の民意と隔たり/「9条」が焦点に/維新、自民に協力方針》
②自公で3分の2、自民+維新でも3分の2以上
・自公で衆院の3分の2(320)を上回る325議席
・自民+維新でも3分の2を大きく上回る348議席
・「9条改正」賛成は343人(75・6%)、「集団的自衛権行使」容認は81・1%(共同通信調査)