碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

2013年 テレビは何を映してきたか (12月編)

2013年12月31日 | テレビは何を映してきたか 2010年~13年
ハワイ島 2013


「日刊ゲンダイ」に連載している番組時評「TV見るべきものは!!」で
振り返る2013年のテレビ。

ついに12月です。

追いつきました(笑)。


2013年 テレビは何を映してきたか (12月編)

「オリンピックの身代金」 テレビ朝日

 先週末、テレビ朝日が2夜連続で「オリンピックの身代金」を放送した。1964年の夏、東京五輪をめぐって繰り広げられる緊迫のサスペンスだ。
 東大院生・島崎(松山ケンイチ)の兄が五輪施設の工事現場で急死する。出稼ぎとして無理を重ねた結果だった。日本の経済成長を支えながらその犠牲となる人々と、置き去りにされる地方の現実に憤った島崎は、国家を相手の犯行計画を練る。
 事件を追うのは捜査一課の落合(竹野内豊)。自身の戦争体験、妹・有美(黒木メイサ)と島崎の関わりなど、その心中は複雑だ。藤田明二監督は正攻法で男たちの心情と行動を描いていく。50年前の東京や群衆シーンにも手抜きはない。全体として大人の鑑賞に耐える堂々の大作となった。
 それにしてもこの豪華なキャストはどうだ。メインはもちろん、天海祐希、江角マキコ、唐沢寿明、沢村一樹、柄本明などが出演時間の長短に関わらず脇を固めていた。20年ほど前、売れっ子俳優や人気タレントの中には「2ケタの局には出ない」とうそぶく人たちもいたのだ。2ケタとは当時のテレビ朝日が10チャンネル、テレビ東京が12チャンネルだったことを指す。思えば隔世の感だ。
 この企画は7年後の東京五輪開催の決定前から進んでいた。いわば賭けであり、それに勝つのもまた現在のテレ朝らしい。

(2013.12.03掲載)


「太陽の罠」 NHK

 NHK土曜ドラマ「太陽の罠」は3つの側面をもつ。まず太陽光発電とその特許をめぐる企業ドラマであること。次に1人の女をはさんで2人の男が対峙する恋愛ドラマ。そして全体の仕立てはサスペンスドラマだ。
 太陽光パネルの開発に社運を賭けるメイオウ電機が、パテント・トロールと呼ばれるアメリカの特許マフィアから訴訟を起こされる。社内の情報漏えいが指摘され、ある若手社員(AAAの西島隆弘、熱演)が疑われる。しかも彼は開発部長(伊武雅刀)に対する殺人未遂の罪まで背負わされてしまうのだ。
事件の背後には西島の上司(尾美としのり)や年上の妻(伊藤歩)、謎の企業コンサルタント(塚本高史)などがいる。彼らもそれぞれ秘密を抱えているところがミソだ。そうそう、刑事役の吉田栄作も中年男のいい味を出している。
 脚本は大島里美(「恋するハエ女」で市川森一賞)のオリジナル。企業、恋愛、サスペンスの3要素を盛り込みながら、視聴者にどのタイミングで何をどこまで教えるのか、その計算が実に緻密だ。おかげで、見る側も幻惑されながら推理を楽しむことができる。
 現在、全4回のうち前半が終わったところだ。特許戦争の行方。尾美の精神状態。伊藤の真意。塚本の狙い。そして西島の決着。まさにここからが佳境だろう。

(2013.12.10掲載)


「林修先生の今やる!ハイスクールSP」 テレビ朝日

 日本人は学ぶことが好きだ。また、教えられ好きでもある。「世界一受けたい授業」(日本テレビ)や「そうだったのか!学べるニュース」(テレビ朝日)のようなバラエティは、この特性を活かしたものだ。
 先週金曜に放送された「林修先生の今やる!ハイスクールSP」(テレビ朝日)も、そんな“教えて!系”バラエティーの1本だ。林といえば、例の「今でしょ!」が流行語大賞を受賞。今年、各局で引っ張りダコだった文化人の一人だ。
 とはいえ、この番組の林は教える立場ではない。逆に生徒となって学ぶというのがミソだ。しかも講師として登場したのが作家の百田尚樹。『永遠の0』『海賊とよばれた男』などのベストセラーを放ち、最近ではNHK経営委員への抜擢が話題となった。こちらもまた「時の人」である。
 今回の講義は「ベストセラーの作り方」がテーマだ。出版界の現状、作品づくり、作家の収入など具体的な話が並んだ。たとえば小説は頭から書かず、書きたい場面をストックしていき、最後に再構成する。また書店員を味方につけるのが本を売る秘訣だという。
 何しろ生徒役が林と伊集院光なので、百田先生も教え甲斐がある。見る側もつい身を乗り出す説得力があった。仕掛けと工夫次第で、“教えて!系”バラエティーのブームは来年も続きそうだ。

(2013.12.17掲載)


「TV見るべきものは!!」年末拡大SP 総括!2013年のテレビ 

 日本でテレビ放送が開始されてから60周年を迎えた2013年。将来編まれる放送史には、「あまちゃん」(NHK)と「半沢直樹」(TBS)の年だったと記されるはずだ。近年その凋落ぶりばかりが話題となっていたテレビだが、中身によっては見る人たちの気持ちを動かせることを再認識させた意義は大きい。
 しかし、その一方でテレビが自らの首を絞めるような不祥事も多かった。まず、ガチンコ対決を標榜してきた「ほこ×たて」(フジテレビ)のヤラセ問題だ。「どんな物でも捕えるスナイパー軍団vs.絶対に捕らえられないラジコン軍団」で、対決の順番を入れ替えるなど偽造を施していたのだ。また、猿とラジコンカーの勝負では、猿の首に釣り糸を巻いてラジコンカーで引っ張り、猿が追いかけているように見せていたという。特に後者は動物虐待でもある悪質な演出だ。
 さらに問題なのは、過去の真剣勝負まで疑いの目で見られたことだろう。町工場の職人技など、「モノづくり日本」の底力をバラエティーの形で見せてきた功績も、視聴者を裏切る形で損なわれてしまった。一連の背後には、かつての「発掘!あるある大事典Ⅱ」(関西テレビ)のデータねつ造事件と同様、テレビ局と制作会社の関係における構造的な問題も存在する。BPO(放送倫理検証機構)はこの件の審議入りを決めたが、ぜひ深層にまでメスを入れて欲しい。
 次に、テレビ朝日のプロデューサーによる1億4千万円の横領事件。制作会社に架空の代金を請求するという、あまりに古典的かつ不用意な手口と金額の大きさに呆れるばかりだ。新2強時代といわれ、視聴率で日本テレビとトップ争いをするまでになったテレビ朝日のイメージダウンだけでなく、テレビ業界全体の体質とモラルが疑われる事件だった。
 また、今年はみのもんたの番組降板騒動もあった。本人は降板の理由を、次男が窃盗未遂容疑で逮捕されたことによる「親の責任」に限定していたが、それだけではないことを視聴者は知っている。社長を務める水道メーター会社が関わった談合問題、取材対象でもある政治家たちとの近い距離、度重なるセクハラ疑惑など不信感の蓄積があったのだ。
 同時に、視聴率を稼ぐタレントであること、局の上層部と関係が深いことなどから、毅然たる判断を保留し続けたTBSに対しても視聴者は冷ややかな目を向けた。前述のヤラセ問題や横領事件などと併せて、「所詮テレビはこんなもの」と思わせてしまったことは、身から出た錆とはいえ残念でならない。
 最後に特定秘密保護法である。正面切ってこの悪法に反対したテレビ局があっただろうか。いや、百歩譲って、この悪法の問題点をどこまで本気で伝えただろうか。報道機関として自身も多くの制約を受けることよりも、政権や監督官庁の顔色を気にして鳴りを潜めていたとしか言いようがない。こうした態度もまたテレビへの不信感を助長させるものだ。
 「あまちゃん」と「半沢直樹」で、一時的とはいえ輝きを見せたテレビ。来年の盛り上がりが、ソチオリンピックとワールドカップ・ブラジル大会だけでないことを祈りたい。

(2013.12.24掲載)


・・・・今年も、この日刊ゲンダイの連載をご愛読いただき、ありがとうございました。

年明け、2014年の「TV見るべきものは!!」は、1月第2週からスタート。

来年も、どうぞよろしく、お願いいたします!




2013年 テレビは何を映してきたか (11月編)

2013年12月31日 | テレビは何を映してきたか 2010年~13年
ハワイ島 2013


「日刊ゲンダイ」に連載している番組時評「TV見るべきものは!!」で
振り返る2013年のテレビ。

11月分です。


2013年 テレビは何を映してきたか (11月編)

「ごちそうさん」 NHK

 NHK朝ドラ「ごちそうさん」、大健闘である。前作「あまちゃん」が国民的ドラマと呼ばれるほどに大化けしたので、後任としてのプレッシャーは相当強かったはずだ。しかし、蓋を開けてみれば週間視聴率は20%半ばをキープし、スタートから4週連続首位と絶好調だ。その理由は何なのか。
 まずはヒロイン・め以子(杏)の人物像だ。子どもの頃から食べることに関しては飛びぬけているが、それ以外は「おいおい、大丈夫か?」と思ってしまうくらい普通の女性。どこにでもいそうだからこそ視聴者は親近感を覚え、構えずに見ることができる。
 次に料理の魅力だ。朝ドラは朝食の時間であり、ご飯を食べるシーンが多いドラマは、見るだけで満腹になるのが欝陶しい。だが、そんな心配も不要だった。料理が美味そうなだけでなく、とにかく美しいのだ。だから“胃もたれ感”もない。これはフードスタイリスト・飯島奈美の手腕だろう。「かもめ食堂」などの映画や、東京ガスのCMなど、料理が重要な役割を果たす映像作品で頼りにされるのも当然だ。
 そして何より、ドラマ全体が丁寧に、ゆったりと作られていることが大きい。「あまちゃん」が剛速球だったとすれば、「ごちそうさん」はほっこりしたスローカーブだ。今週から突入した大阪編で、そこにエグ味が加わるのも期待大である。

(2013.11.05掲載)


「午前零時の岡村隆史」 TBS

 ナインティナインの岡村隆史が単独司会の新番組を始めるというので見てみた。TBS「午前零時の岡村隆史」(水曜夜11時58分)である。
 6日の第1回目は「岡村と99人の仲間たち」。 岡村会の99人が路上に落ちているお金を探す。1日でどれくらいの金額になるかという企画だ。
 その理由が笑える。あの滝川クリステルが「お・も・て・な・し」のプレゼンで語ったように、日本では1年間に3000万ドル(30億円)の現金が警察に届けられる。だが、実際に落としたとされる総額は84億円。ならば残りの54億円を見つけ出そうというのだ。
 「ウオーリーを探せ!」とそっくりな赤いボーダーシャツを着た99人が、渋谷や新宿など15ヵ所の繁華街に散って、自動販売機の下や植え込みの中を探す。一円玉から複数の財布までが出てきて、合計1万1168円也。これを警察に届けた。
 確かにバカバカしい内容だ。しかし、「バカバカしいことをマジでやるバラエティー」としては“買い”かもしれない。それに、岡村が99人に指示を出すだけではなく、自分も自販機の下を覗き込んでいたところがいい。しかも別の番組の収録があって、途中でいなくなる様子まで見せていた。
 この番組を担当するのは「入社10年目以下のディレクター」だ。企画力も含め、彼らがどこまで頑張るかで成否が決まる。

(2013.11.12掲載)


「夫のカノジョ」 TBS

 TBSの連ドラ「夫のカノジョ」(木曜夜9時)が、先週14日に視聴率3.1%を記録した。これはすごい。初回4.7%でスタート。第2話が4.8%、第3話は3.7%、そしてあわや2%台かというところを踏みとどまった状態だ。
 もちろん裏の「ドクターX」が強いことだけが原因ではない。2人のカラダが入れ替わるという設定は映画「転校生」をはじめ、ドラマ「パパとムスメの7日間」、「山田くんと7人の魔女」など前例だらけだ。
また、入れ替わる39歳の主婦(鈴木砂羽)と20歳のOL(川口春奈)の関係が、「妻が夫の愛人だと誤解した」だけという設定も実に弱い。そして一番の欠点は、中途半端なドタバタ劇のようなストーリーが幼稚なこと。ナレーションを子役の鈴木福くんが担当しているのも象徴的だ。
 しかし、この瀕死のドラマにも「見るべきもの」はある。それは鈴木砂羽だ。ホクトの「きのこCM」で見せた“主婦のエロス”は秀逸だった。残念ながら一週間で放送打ち切りになったが、このドラマの行方によっては鈴木に「打ち切り女優」のレッテルが貼られてしまう。それはイカン。
 現状でも打ち切りは十分あり得る。視聴率が2%台まで落ちたら本当に終わるだろう。そうでなくても「ゴールデンの3%ドラマ」自体、貴重な“生ける伝説”である。見るなら早いほうがいい。

(2013.11.19掲載)


「解禁!暴露ナイト」 テレビ東京

 テレビ東京「解禁!暴露ナイト」(木曜夜11時58分)が始まったのは昨年の秋だ。うたい文句は、「職業の裏側、大事件の裏側、ニッポンの裏側、芸能界の裏側、など様々な世界の裏側を知り尽くした人物が大暴露!」。深夜ならではのゲリラ番組として、堂々の2年目に突入している。
 先週も話題は多岐にわたった。冒頭は厚労省の村木厚子さんが逮捕された「大阪地検特捜部・証拠でっち上げ事件」だ。取材を続けてきたジャーナリストが実名で登場し、「逮捕できるよう事実関係を合わせていく」という検察のハウツーを暴露していた。
 次に現役の競馬エージェントが騎手や馬主の表に出ない話を開陳。騎手には酒好きが多く、「その日の1レース前に検問したら全部アウト」などと大胆に発言していた。さらに弁護士が解説する悪質NPOや偽装質屋の手口にも驚かされた。
 番組を見ていると、初回の放送だけで打ち切りとなった、「マツコの日本ボカシ話」(TBS)を思い出す。当事者を登場させようという狙いは悪くなかったが、表現や演出手法でつまずいた。同じ轍を踏まないよう、ぜひ気をつけて欲しい。
 また、それ以上に気になるのが秘密保護法案だ。成立したら、この手の暴露番組も、何がどう抵触したのか分からないまま潰されるだろう。やはり悪法と言わざるを得ない。

(2013.11.26掲載)


2013年 テレビは何を映してきたか (10月編)

2013年12月31日 | テレビは何を映してきたか 2010年~13年
ハワイ島 2013


「日刊ゲンダイ」に連載している番組時評「TV見るべきものは!!」で
振り返る2013年のテレビ。

こちらも何とか10月まで来ましたが、もう大晦日ですね(笑)。



2013年 テレビは何を映してきたか (10月編)

「ボクらの時代」 フジテレビ

 映画「そして父になる」の是枝裕和監督と主演の福山雅治、そして共演のリリー・フランキーが、フジテレビのトーク番組「ボクらの時代」(日曜朝7時)に登場した。
 映画の公開前後に、出演者や監督がメディアに露出するのは当たり前になっている。しかし、視聴者はゲストと称する彼らを見ても、「ああ、またか」としか思わない。それは「宣伝だから出てやった」という傲慢さや、「観客動員につながる」というソロバン勘定が透けて見えるからだ。
 その意味で今回の番組は異色だった。PRうんぬんを超えて彼らの話が興味深かったのだ。まず、無類の清潔・整理好きの福山が可笑しい。居酒屋では飲みながらテーブルをおしぼりで拭いている。自分の部屋ではテレビのリモコンの定位置も守る。仕事以外でストレスを溜めないための努力だが、神経質に聞こえないところが実に福山らしい。
 また是枝監督の少年時代。働く母親の姿を見て、「グレてなんかいられない」と思ったという話も、リリー言うところの「おだやかな映画監督」らしいエピソードだった。
 この番組の良さは、あえて司会者を置かずに、出演者たちの自然な会話を大事にしていることだ。それに、うるさい「話し言葉のテロップ表示」もない。トーク番組のキモはテーマとキャスティング。中身のある人間の話には誰もが耳を傾ける。

(2013.10.01)


「ファミリーヒストリー」 NHK

 俳優やタレントの家族の歴史をさかのぼるドキュメンタリー番組「ファミリーヒストリー」。昨年の「浅野忠信編」などが評判を呼んだこともあり、この秋、レギュラー(金曜夜10時)となった。
 先週は今田耕司編だ。母方と父方、それぞれの曾祖父までリサーチが行われていく。軸となっているのは今田の母・良子さんのヒストリーだ。パラオで育ち、戦争で引き揚げてきた経験をもつ。では、なぜ祖父母はパラオにいたのか。それを探っていくと、戦前の庶民の生き方が見えてきた。
 戦況の悪化でパラオから引き揚げることになった幼い良子さん。母親と2人で乗るはずだった貨客船は米軍の攻撃で沈没。自分たちの船は奇跡的に横浜へたどり着く。後年、必死で自分を守ってくれた母親が、実は「育ての母」だったことを知る。
 今田の父方の曾祖父は大阪で炭屋を営んでいた。だが、その息子である祖父は東京で僧侶となる。ここにもまた今田本人が驚くようなエピソードがあった。自分の存在自体が、人の意思だけでなく様々な偶然で成り立っていることがわかる。
 思えば、私たちは自分の両親の生い立ちや子ども時代のことを知らなかったりする。ましてや祖父母となると・・。この番組をきっかけに、家族の話に耳を傾けてみるのもいいかもしれない。それは自分自身を知ることにつながるからだ。

(2013.10.08)


「独身貴族」 フジテレビ

 最初にタイトルを知った時、「まずいなあ」と思った。フジテレビの新ドラマ「独身貴族」(木曜夜10時)である。独身貴族って半分もう死語じゃないのか。もっと言えば、時代とズレているような気がしたのだ。
 主演はSMAPの草剛。映画製作会社の社長で経済的にも恵まれており、結婚には否定的だ。一緒に暮らすのは弟の伊藤英明。同じ会社の専務だが、こちらは相当な女好きで現在離婚調停中だ。
 このドラマが彼らのバブリーな独身貴族ぶりを描くだけなら、大人が見る必要はない。しかし、思わぬ伏兵がいた。北川景子である。脚本家を目指す彼女の作品を巨匠の名前で映画会社に提出したことで物語が動き出す。
 脚本は「アンフェア」の佐藤嗣麻子。映画「ALLWAYS・三丁目の夕日」の山崎貴監督は夫だ。デフォルメされてはいるが、フジテレビが得意とする映画製作の一端を垣間見せている。今後、恋愛が物語の主軸になるにせよ、“お仕事ドラマ”としても楽しめそうだ。
 そして何より北川景子のコメディエンヌぶりは一見の価値がある。お嬢様系の役柄もいいが、初主演ドラマだった「モップガール」や本作のような、ちょっとドジだが一生懸命なキャラクターがよく似合う。今回はそこに“メガネっ娘”としての魅力も加わった。同世代の綾瀬はるか、堀北真希を追撃するチャンスか。

(2013.10.15)


「ドクターX~外科医・大門未知子~」 テレビ朝日

 この秋のドラマレースで目を引くのが、テレビ朝日“シリーズ軍団”の活躍だ。初回が19・7%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)の「相棒」。今期最高の22・8%を記録した「ドクターX~外科医・大門未知子~」。さらに23時台の「都市伝説の女」も8・4%の高視聴率で始まった。
 この3本に共通するキーワードは「進化」だ。前シリーズのいいところを継承しながら、視聴者を飽きさせない工夫を忘れない。その好例が米倉涼子主演の「ドクターX」である。
 まず新たな舞台の設定だ。前回の帝都医大付属病院の分院から本院へ。これは「半沢直樹」が大阪西支店から東京本部に異動したようなものだ。これにより大学病院“本店”ならではの権力闘争も描けるようになった。
 次に新キャラクターの投入だ。外科統括部長に西田敏行。映画「釣りバカ日誌」の浜ちゃんもいいが、西田はアクの強いヒール役も実に上手い。そして内科統括部長は三田佳子だ。現在72歳の三田が58歳の敏腕女医を堂々と演じている。出てくるだけで画面が豪華に見えるのはさすが大女優だ。
 次期院長の座をめぐって対立するこの2人。いわばハブとマングースの戦いだが、その暗闘が激しいほど、「私、失敗しないので」とマイペースで患者の命を救っていく米倉が際立つ仕掛けだ。まさに座長芝居である。

(2013.10.22)


「サンデースクランブル」 テレビ朝日

 27日のテレビ朝日「サンデースクランブル」に出演した。テーマは、みのもんた問題。前日の土曜に行われた記者会見を踏まえ、この件を多角的に考えてみたいということで呼ばれたのだ。
 冒頭、会見の印象を聞かれた武田鉄矢さんは「痛々しくてお気の毒」と金八先生の優しさでコメント。私は70分の映像を全部見ていたので、「見事な座長芝居、ワンマンショー。ここ一番の大勝負での言葉の使い方を含め、うまかった。これでミソギを終えたと思っているのでは」と答えた。
 次に番組の降板に関して、テリー伊藤さんは以前から降板不要とおっしゃっていたが、私はそうは思えない。「自らの名前を冠した番組で、事件や不祥事に対して白黒つけてきた。その影響力を考えると、やはり公人。一般のおとうさんとは違う責任がある」と述べた。
 実は、会見での発言でとても気になる部分があった。報道番組は降りるがバラエティーは続ける。その理由は「政治や年金問題を斬ることはないから」と言うのだ。これはおかしい。政治や年金をバラエティーならではのアプローチで問うことは可能だし、行われている。発言はバラエティー全体を見下したものではないのかと指摘した。
 今回の降板、息子の問題はきっかけである。長年の“負の蓄積”を清算する時がきたのだと視聴者にはわかっている。

(2013.10.29)

2013年 テレビは何を映してきたか (9月編)

2013年12月30日 | テレビは何を映してきたか 2010年~13年
ハワイ島 2013


「日刊ゲンダイ」に連載している番組時評「TV見るべきものは!!」で
振り返る2013年のテレビ。

その9月編です。

文末の日付は掲載日。


2013年 テレビは何を映してきたか (9月編)

「リミット」 テレビ東京

テレビ東京の「ドラマ24」(金曜深夜0時12分)は、これまで「勇者ヨシヒコと悪霊の鍵」「まほろ駅前番外地」「みんな!エスパーだよ!」など、ひと癖あるドラマを送り出してきた。現在放送中の「リミット」もまた、サバイバルサスペンスという挑戦的な1本だ。

高校生たちを乗せてキャンプ場へ向かっていたバスが事故を起こす。5人の女子生徒が生き残るが、決して一枚岩ではない。事故前まで、いじめグループにいた者、いじめられていた者、傍観していた者など複雑だった。

しかも、その中の1人が殺害されたことで疑心暗鬼と反目が深まる。後から合流した男子生徒を含め、確かに誰かが殺人犯なのだ。このサスペンス要素が第1の見所である。

また、極限状態に投げ出されたことで「学校カースト」は変質し、立場の逆転現象も起きる。彼女たちが自分と他者との関係を再構築していくプロセスが第2の見所だ。

さらに、生徒役の若手女優たちの競演がある。主演は桜庭ななみ。常に冷静な土屋太鳳。殺人を疑われ、崖から転落する工藤綾乃。いじめに遭っていた山下リオなどだ。全員が、セーラー服をボロボロにしながら体当たりで演じている。

現在、同世代では「あまちゃん」の能年玲奈がブレイクしている。このドラマ、彼女たちにとっても今後を左右する「サバイバル」かもしれない。

(2013.09.03)


「あまちゃん」 NHK

「スタートから一週間あまり、すでにこのドラマから目が離せなくなっているのは宮藤官九郎の脚本のお手柄だ」――このコラムにそんな文章を載せたのが4月9日。5ヶ月が過ぎて、今や「あまちゃん」は堂々の国民的ドラマとなった。

そして先週、誰もが「一体どうやって見せるのだろう」と注目していた震災と津波がついに描かれた。東京へ向うため北三陸鉄道に乗っているユイ(橋本愛)。天野春子(小泉今日子)の「それは突然やってきました」というナレーションが流れる。夏ばっぱ(宮本信子)の携帯電話が「緊急警報」を告げて・・・。

結果的に、宮藤官九郎とスタッフは津波の実写映像を視聴者に見せることをしなかった。観光協会に置かれていたジオラマの破壊された無残な姿。電車が止まったトンネルを出て、外の風景を見たユイと駅長の大吉(杉本哲太)の表情。そして津波が運んできたと思われる、線路の周囲に散乱した瓦礫。敢えてそれだけにとどめたのである。

この描き方は見事だ。本物の映像なら視聴者の目に焼きついている。また被災地の皆さんもこのドラマを見ている。あの日の出来事を思い起こさせるには必要かつ十分、しかも表現として優れたものだった。

物語は終盤。アキ(能年玲奈)たちの地元愛が、いい形で実を結んでいくことを祈るばかりだ。

(2013.09.10)


「夏目☆記念日」 テレビ朝日

テレビ朝日「夏目☆記念日」(土曜深夜1時15分)は夏目三久の冠番組だ。銀座のバーにたとえるなら、「マツコ&有吉の怒り新党」では雇われのチーママだが、こちらは堂々のオーナーママ。自分のお店である。

この場所で最初に開いたのは「ナツメのオミミ」。以来、店名と内容を変えながら1年半、これが3軒目の店となる。

番組のコンセプトは明快だ。毎回ひとつの「記念日」を取り上げて、その道に詳しい方々に話を聞くというもの。最近だとバイクの日、ロールケーキの日ときて、先週はバスの日だった。

スタジオにバス好きの素人さんを招き、VTRを挟みながらのバス談義だ。バスを個人で購入し自家用車として使っている人。一日中、地元のバスを乗り継いでいる人。バスに乗るためだけに全国行脚を続ける人。本人たちは大真面目だが、その過剰な「バス愛」の発露が実に微笑ましい。

この番組で夏目が守っていることが3つある。相手の話を急かさない。無理に盛り上げようとしない。そして、見え透いた迎合をしない。この「夏目3原則」+「夏目スマイル」が功を奏して、番組に登場する素人たちがのびのびと話せるのだ。

痛恨の「写真流出」騒動から4年。古巣の日本テレビに対しても、「真相報道バンキシャ!」登板で落とし前をつけた夏目は、まさに今が盛夏だ。

(2013.09.17)


「たべるダケ」 テレビ東京

テレビ東京ってのは、ほんと面白い放送局だ。漫画を原作にしたドラマはどこの局でもやるが、「たべるダケ」(金曜深夜24時52分)みたいな作品に挑戦するのはここくらいなものだろう。もちろんホメ言葉だけど。

ヒロインは、「食」にしか興味のない謎の女。というか常にハラペコのシズル(後藤まりこ)だ。いきなり現れ、ひたすら食べて、消えてしまう。でも彼女と出会い、一緒に食事をした人間は何かが変わるのだ。ちょっと元気が出たり、自分を再発見したり、時には救われたりもする。

そんなシズルに魅かれたのが柿野(新井浩文)だ。3人の元妻への慰謝料を抱えながら他人の世話ばかりしてきた男が、今度は自分のためにシズルを探し回る。とはいえ、そもそもシズルとは何者なのか。その謎も間もなく明らかになりそうだ。

毎回の見せ場はシズルの食べっぷりである。ハンバーグ、卵納豆かけご飯、タラ鍋と焼きたらこ等々、それはもう嬉しそうに口に運ぶ。先週の天ざるも豪快な音と共に食す姿がアッパレだった。思えば、人は悲しい時も辛い時も絶望した時も腹が減る。そして、まずは食べることで生きるチカラが湧いてくるのだ。

「半沢直樹」が終わった。「あまちゃん」は今週末には完結だ。そして、「たべるダケ」も次回が最終話。味見するなら、ラストチャンスである。

(2013.09.24)






2013年 テレビは何を映してきたか (8月編)

2013年12月24日 | テレビは何を映してきたか 2010年~13年
ハワイ島 2013


「日刊ゲンダイ」に連載している番組時評「TV見るべきものは!!」で
振り返る2013年のテレビ。

その8月編です。

2013年 テレビは何を映してきたか (8月編)

土曜ドラマ「七つの会議」 NHK

NHK土曜ドラマ「七つの会議」全4話が先週で完結した。舞台はある中堅電機メーカー。東山紀之演じる営業課長が企業ぐるみの不祥事隠蔽に巻き込まれていく。

問題となったのは強度不足の製品用ネジだ。乗り物の座席を固定するのに使われており、大事故を引き起こす危険性があった。しかしまともにリコールすれば、親会社や孫請けの零細企業も含めての大打撃だ。会社は一人の社員に不祥事の罪を着せようとする・・・。

このドラマが描いたのは「組織のダイナミクス(力学)」の怖さだ。個人の批判的精神が抑え込まれ、価値判断は停止し、組織の目的に向けて自己を超越してしまうのだ。隠蔽工作について社長(長塚京三)が言う。「過ちではない。決断だ」。

ドラマを見ていて、いくつもの現実の事件を思い出した。日本ハム牛肉偽装、三菱自動車リコール隠し、ミートホープ食肉偽装等々。その指揮をとった役員や不正と知りつつ従っていた社員は、会社と自分のことは考えても、社会に目を向けてはいなかった。

原作は「半沢直樹」と同じ池井戸潤の小説だが、企業が抱える危うさをあぶり出したこのドラマ、スポンサーを必要とする民放では作れなかったかもしれない。東山や吉田鋼太郎などの好演と、「ハゲタカ」の堀切園健太郎ディレクターの手堅い演出にも拍手だ。

(2013.08.06)


報道ドラマ「生きろ~戦場に残した伝言~」 TBS

終戦特番のシーズンに入った。そのうちの1本が4日に放送されたテレビ朝日の「二十四の瞳」だ。誰もが知っているタイトルだが、無難な名作のリメイクという“後ろ向き感”は否めない。他に企画はなかったのか。

その点、TBSが7日に流した報道ドラマ「生きろ~戦場に残した伝言~」は意欲作だった。主人公は島田叡(しまだあきら)。戦中最後の沖縄県知事として、住民の命を守ることに専念した実在の人物だ。

内務省の役人だった島田が沖縄に赴任したのは終戦の5ヶ月前。戦況の悪化に伴い、一般人の犠牲者は増える一方だった。島田はさまざまな規制を取り払い、また軍にも抗議しながら、1人でも多くの沖縄県民が生き延びる道を探っていく。

島田を演じたのは緒形直人だが、その生真面目な雰囲気は役柄にぴったりだ。島田に心酔した警察部長(的場浩司)と共に最後は行方不明となる。

そんな“伝説の知事”の人間像と行動を描くために、番組は島田と身近に接した関係者の証言や資料に基づくドラマとドキュメンタリーで構成されていた。沖縄の人々が本土防衛の「捨石」とされる過程を伝える上でも、この手法は有効だった。

「軍隊は住民を守らない。住民たちが沖縄戦で得た教訓だ」というナレーションを聞きながら、島田は現在のこの国をどう見るだろうと思った。

(2013.08.13)


NHKスペシャル「従軍作家たちの戦争」 

日中戦争から太平洋戦争にかけて、百人以上の作家が戦場に送り込まれた。いわゆる従軍作家だ。林芙美子、吉川英治、丹羽文雄、石川達三、石川洋次郎、そして火野葦平。「麦と兵隊」などで知られる火野を軸に、作家と軍の関係を探ったのが、14日に放送されたNHKスペシャル「従軍作家たちの戦争」である。

まず人物への迫り方と距離の取り方に感心した。火野や陸軍の馬淵逸雄中佐(メディア戦略担当)の内面にまで踏み込みつつ、あくまでも客観情報に徹している。また戦争によって栄誉を受けた火野(後に自殺)をいたずらに貶めることも、庇うこともしないのだ。

しかし、親族に向けて密かに伝えた戦場の現実、戦後に修正を加えた肉筆原稿の存在、兵士の言葉を借りた自戒の念などを丁寧に構成することで、「従軍作家・火野」ではなく「人間・火野葦平」の姿が見えてきた。

ナレーションは俳優の西島秀俊。番組では登場人物に関する心象コメントが最小限に抑えられており、全体の印象が無機質になる可能性もあった。そこを救っていたのが、人間味を感じさせる西島の声だ。伝えるのではなく、聴かせることで視聴者に考える余地を残した。

実は、見終わって火野以上に印象に残ったのが菊地寛だ。軍のメディア戦略と作家の大政翼賛運動のクロスポイントにいた男。次回作で、ぜひ。

(2013.08.20)


土曜ドラマ「夫婦善哉」 NHK 

面白い題材を見つけてきたものだ。NHK土曜ドラマ「夫婦善哉」である。原作は、今年生誕百年を迎えた織田作之助が昭和15年に発表した小説だ。貧しい生まれながら売れっ子芸者となった蝶子(尾野真千子)が、化粧品問屋の長男坊・柳吉(森山未來)と出会い、惚れてしまう。さあ、そこから波乱万丈の“女の人生”が展開していくという物語だ。

このドラマを見ていてまず感じるのは大阪弁のもつ味わいだ。駆け落ちに失敗して、蝶子の稼ぎに頼っている柳吉。それなのに蝶子の貯金を新地で使い果たしてしまう。怒る蝶子に向かって「お前のほうがええ女や」と言い放ち、「堪忍してやあ」と逃げ回る柳吉が、なんとも憎めない、人間臭い男に見えてくるのは大阪弁の功徳だろう。

また、典型的な「ぼんぼん」で、困った男の代表選手のような柳吉を、「一人前の男に出世させたい」と頑張る蝶子。もちろん、このダメ男(森山、好演)は簡単に思い通りにならないが、それでも惚れ続ける健気さに泣ける。このあたり、尾野真千子の面目躍如だ。

このドラマには大阪の「うまいもん」がいくつも登場する。かつて豊田四郎監督作品で森繁久彌演じる柳吉が作っていた「山椒昆布」も出てきた。いわく言い難い男と女の関係と、大阪ならではの涙と笑いに、この名シーンは欠かせない。

(2013.08.27)



2013年 テレビは何を映してきたか (7月編)

2013年12月21日 | テレビは何を映してきたか 2010年~13年
ハワイ島 2013


日刊ゲンダイに連載している、番組時評コラム「TV見るべきものは!!」。

この「同時代記録」を再読しながら、今年のテレビが何を映してきたかを振り返っています。

今日は7月分。

あの「半沢直樹」が始まったわけですね(笑)。

それに、日本テレビの「Woman」も。 

各文章は掲載時のまま。

文末の日付は掲載日です。


2013年 テレビは何を映してきたか (7月編)

「激流~私を憶えていますか?」 NHK

かつて1人の女子中学生が修学旅行中に失踪した。男女一緒のグループで京都の町を歩き回っていた際の出来事だ。それから20年。30代半ばになった女子3人(田中麗奈、国仲涼子、ともさかりえ)にメールが届く。文面は「私を憶えていますか?冬葉」。冬葉は失踪した女子中学生(刈谷友衣子)の名前だった。

NHKドラマ10「激流~私を憶えていますか?」(火曜夜10時)が始まった。原作は柴田よしきの長編小説。全8回の脚色は「Dr.コトー診療所」などの吉田紀子だ。

奇妙なメールをきっかけに、現在は刑事の桐谷健太と銀行マンの山本耕史も加えた5人が再会を果たす。しかも桐谷以外の4人は、それぞれ私生活や仕事にトラブルを抱えていた。メールの差出人は本当に冬葉なのか。そうでないなら、誰がどんな目的で・・・。

謎解きもさることながら、このドラマの見所は田中、国仲、ともさかという同世代女優の競演にある。仕事の壁、離婚問題、主婦売春と、30代半ば女性の少しお疲れ気味の日常がリアルだ。いや、それ以上に、これから明らかになっていくはずの15歳から35歳まで、20年という“女たちの激流”こそがドラマの核だろう。

さらに教師役の賀来千香子と母親役の田中美佐子による、50代熟女優対決も見逃せない。それにしても、美少女・刈谷はどこへ消えたのか。

(2013.07.02)


「Woman」 日本テレビ

夏ドラマが動き出した。今期の特色は、お馴染み女優のお馴染みシリーズが並んでいることだ。フジテレビの江角マキコ「ショムニ2013」、日本テレビの観月ありさ「斉藤さん」など。制作側にとって視聴率の歩留りが読める安心企画である。

その意味で、シングルマザーの子育て物語「Woman」(日本テレビ・水曜夜10時)はチャレンジ企画だ。夫(小栗旬)を事故で亡くした満島ひかりが2人の子供を自力で育てている。保育園が月3万8千円、託児所が4万6千円。パートの掛け持ちをしても家計は苦しい。夜にかかる仕事の時給は高いが、幼い子供たちだけで過ごす時間が長くなって不安だ。

肉体的な疲労、子供の世話を十分にできないことへの苛立ち、社会に対する疎外感、さらに寂しさが追い打ちをかける。そんな「いっぱいいっぱい」のシングルマザーを、満島は体当たりの動きと驚くほど繊細な表情で見せていく。

駅の階段を幼い娘と共に乳母車を抱えて駆け上がる姿。同じ境遇の臼田あさ美に、今の状況から抜け出すには「フーゾクか再婚」と言われた時の切ない目。こういうドラマでは、視聴者は健気さを強調されれば嫌味と感じ、同情を誘う下心が見えれば反発する。綱渡りともいえる演技が求められるこのドラマ、満島の代表作の一つになりそうな気迫に満ちている。

(2013.07.09)


「半沢直樹」 TBS

夏ドラマの初回視聴率がとても高い。テレビ朝日「DOCTORS2」19.6%。フジテレビ「ショムニ2013」18.3%。そしてTBS「半沢直樹」が19.4%だ。個別の分析はともかく、最大の要因は「毎日メチャ暑い!」ことだろう。この猛暑では外で夜遊びする気にならない。みんな、早く家に帰って、クーラーの効いた部屋で休息したいのだ。多分。

「半沢直樹」の注目ポイントは2つある。まず主人公が大量採用の“バブル世代”であること。企業内では、「楽をして禄をはむ」など負のイメージで語られることの多い彼らにスポットを当てたストーリーが新鮮だ。

池井戸潤の原作「オレたちバブル入行組」「オレたち花のバブル組」は、優れた企業小説の例にもれず、内部(ここでは銀行)にいる人間の生態を巧みに描いている。福澤克雄ディレクター(「華麗なる一族」など)の演出は、この原作を相手に正攻法の真っ向勝負だ。

第2のポイントは主演の堺雅人である。今年6月、「リーガル・ハイ」(フジ)と「大奥」(TBS)の演技により、ギャラクシー賞テレビ部門の個人賞を受賞したが、まさに旬と言っていい。シリアスとユーモアの絶妙なバランス、そして目ヂカラが群を抜いている。

思えばタイトルを「半沢直樹」としたのは大胆な選択だったはず。その大胆さも吉と出た。

(2013.07.16)


「DOCTORS2~最強の名医~」 テレビ朝日

昨年秋、米倉涼子主演の「ドクターX~外科医・大門未知子~」で、それまでフジテレビの独壇場だった医療ドラマでの“陣地取り”に成功したテレビ朝日。この夏、「DOCTORS2~最強の名医~」を投入したのもいいタイミングだ。

舞台は野際陽子が経営する総合病院。赤字だけでなく、働く者たちのプロ意識のv低さが際立っていたこの病院を改革するのが敏腕外科医の沢村一樹だ。患者を救うためには手段を選ばない沢村の清濁併せ呑みと、神の手のごとき手術ぶりが見どころとなっている。

そして第2の主役というべきなのが高嶋政伸だ。病院長・野際の甥で外科医だが、傲慢にしてエキセントリック。沢村を目の敵にしている。病院の後継者を自任するが、人望は全くない。先週も野際から「人格者になれ」と言われて、ガンジーの伝記を読み出す始末だ。

強気と弱気を繰り返し、叔母である野際に「卓(すぐる)ちゃん、がんばって」と励まされる姿は、「ずっとあなたが好きだった」(TBS、92年)の“冬彦さん”を想起させるほどエグい。
 
この高嶋の怪演は一見の価値がある。最近は元妻・美元とのドロ沼離婚裁判ばかりが目立ったが、そのうっぷんさえ役柄に投入しているかのようだ。これからますます加速するであろう沢村の超人化と高嶋の怪人化。2枚看板がこのドラマの強みだ。

(2013.07.23)


「孤独のグルメ シーズン3」 テレビ東京

昨年このコラムでも取り上げたテレビ東京「孤独のグルメ シーズン2」が、ソーシャルテレビ・アワード2013の「日経エンタテインメント!賞」を受賞した。一見、ソーシャルメディアとの連動性は薄そうだが、ツイッターなどへの投稿が非常に多いというのだ。

この夏、堂々の「シーズン3」が始まった。主人公はお馴染みの井之頭五郎(松重豊)だ。個人の輸入雑貨商だが、仕事の描写はごくわずか。商談で訪れた町に実在する食べ物屋で、松重が一人で食事をするだけなのだ。

基本的には東京エリアが舞台だが、先週は伊豆急に乗ってのプチ出張。川端康成「伊豆の踊子」で知られる河津町でグルメした。食したのは名物のワサビを使った「生ワサビ付きわさび丼」だ。

カツオ節をまぶしたご飯に自分ですりおろした生ワサビを乗せ、醤油をかけて混ぜるだけの超シンプルな一品。しかし、松重の表情でその美味さがわかる。しかもそこに、「おお、これ、いい!」とか、「白いメシ好きには堪らんぞ~」といった心の声がナレーションされると、見る側も俄然食べたくなってくる。

そう、このドラマのキモは口数が少ない主人公の台詞ではなく、頻繁に発する心の声、つまり「つぶやき」にあるのだ。いわば松重の「ひとりツイッター」ドラマであり、ソーシャルテレビ・アワードの受賞も納得だ。

(2013.07.30)


2013年 テレビは何を映してきたか (6月編)

2013年12月17日 | テレビは何を映してきたか 2010年~13年
ハワイ島 2013


日刊ゲンダイに連載している、番組時評コラム「TV見るべきものは!!」。

ひとつの「同時代記録」として再読しながら、今年のテレビが何を映してきたかを概観しています。

今日は6月分。

各文章は掲載時のまま。

文末の日付は掲載日です。


2013年 テレビは何を映してきたか (6月編)


「応援ドキュメント・明日はどっちだ」 NHK

「応援ドキュメント・明日はどっちだ」(火曜夜10時55分)は、関ジャニ∞にとってNHKでの初レギュラーである。「明日に向かって頑張っている人たちを応援する」がコンセプトで、対象となる人物にある期間、密着取材するのだ。

スタジオには関ジャニの渋谷すばる、村上信五、横山裕がいるが、軸はあくまでも取材VTRだ。これまでに36歳の崖っぷちプロボクサー、赤字温泉を立て直すべく大奮戦する父子、大工の棟りょうを目指して修業中の女性などが登場した。

この番組の特色は、取材対象の取り組みを数週にわたって放送すること。立ちはだかる壁を越えようとする努力や失敗や達成のプロセスを、いわば“連続ドラマ形式”で見せてくれるわけで、そこから見る側の感情移入も生まれるのだ。

たとえば警察犬の訓練士になるために北海道から上京してきた若者は、迫る実技試験を前に犬が自分の思うように動かないことに苛立つ。しかし、やがて犬の気持ちに寄り添うことで活路を開いた。最初に見た時は「大丈夫か?」と思えた青年が、だんだんプロフェショナルの顔のなっていく様子は確かに応援したくなる。

また関ジャニの3人が上から目線だったりせず、挑戦者たちを真摯に応援していることにも好感が持てる。連ドラ型の成長ドキュメントは、彼ら自身にも当てはまるのだ。

(2013.06.04)


「みんな!エスパーだよ!」 テレビ東京

「夏帆」である。「優香」の登場以来、この手の水商売の源氏名みたいな芸名にも慣れてしまったが、思えば夏帆ってのもすごいネーミングだ。デビューからもう10年。顔と名前が知られたのは、やはり「三井のリハウス」のCMだろう。大人い美少女、清楚なお嬢さんといった路線でここまでやってきた。

その意味で、今回のテレビ東京「みんな!エスパーだよ!」(金曜深夜0時12分)は大きな転換点になるのではないか。何しろヤンキー女子高生の役だ。しかも人の心の声が聞こえるという超能力者(エスパー)。路上ですれ違った男の「お、ヤリマン女子高生。いくらかな?」といった“心の声”にキレたりする。

主演は染谷将太で、夏帆はエスパー仲間の1人なのだが、彼女が出てくると画面が生き生きする。一本気なヤンキーぶりと、自分の超能力への戸惑いぶりがカワイイのだ。加えて制服の短いスカートによるアクションで、毎回のパンチラもお約束だ。夏帆21歳、頑張ってます。

メイン監督は映画「ヒミズ」の園子温。愛知県東三河の長閑な風景をバックに、エスパー高校生たちの“ゆるくて笑える”戦いを描いている。確かに力を合わせての活躍だが、映画「ファンタスティック・フォー」の超能力者たちのように世界を救う大きな話じゃないところがいい。いや、パンチラは夏帆を救うかも。

(2013.06.11)


「世界の村で発見!こんなところに日本人」 テレビ朝日

なぜか最近、タイトルに「日本」の文字が入る番組が目立つ。「YOUは何しに日本へ?」(テレビ東京)、「世界の日本人妻は見た!」(TBS)、「世界ナゼそこに?日本人」(テレビ東京)、そして今回取り上げる「世界の村で発見!こんなところに日本人」(テレビ朝日・金曜夜9時)などだ。

いわゆる海外在留邦人は、永住者と長期滞在を併せると約118万人もいる。単なる旅行者ではなく、現地に暮らす人たちだからこそ見えてくる「海外」と「日本」があるはずで、この番組もそこを狙っているのだ。

先週の放送では女優の伊藤かずえがパラオへ。小さな島に76年前から住んでいるという日本人女性に会いに行った。ただし、出演者は自力で目的の日本人を捜し歩くのがこの番組の特色だ。現地の人たちに話しかけ、移動手段を探し、右往左往するプロセスから、その国の様子が見てくる。

また、ようやく会えた女性が語る半生が壮絶だ。パラオで日本人の両親から生まれたが、戦争で父親が死亡。子供が多かった母親は、日本に帰る際に彼女をパラオに残す。大人になって一度母親を訪ねたが、日本になじめず戻ってきたと言う。

70年近い歳月が流れても戦争の傷痕は消えていない。そのことを私たち日本人は知るべきだろう。バラエティの形を借りた堂々のドキュメントだ。

(2013.06.18)


「噂の!東京マガジン」 TBS

TBS「噂の!東京マガジン」(日曜午後1時)がスタートしたのは1989年。現在24年目となるが、今や希少な長寿番組だ。ではこれだけ続いている理由は何なのか。

まず、変わらないことだ。総合司会は一貫して森本毅郎で、パネラーである井崎脩五郎、清水國明、山口良一といった面々も20年以上変らない。進行役の小島奈津子以外、おじさんばかりという特殊番組だが、馴染みの顔が並ぶ安心感がある。また一緒に年齢を重ねていく共生感もたっぷりだ。

次にシンプルな構成。何しろコーナーは3つしかなく、これまた長年不動のラインナップである。週刊誌の見出しをチェックし、ランキングする「今週の中吊り大賞」。街角で若い女の子が料理に挑戦する「やって!TRY」。そして、番組名物「噂の現場」だ。

実は放送時間の半分を占める「噂の現場」こそがこの番組のキモである。話題の出来事や現象の現場を訪ね、両論併記で取材していく。たとえば、先週は世界遺産登録された富士山だった。観光客増加を当て込んで盛り上る人たちがいる一方で、環境破壊や登山者の安全を危惧する声があることを紹介していた。

この一歩引いて見る姿勢の中に、野次馬的好奇心とジャーナリズム的批評精神が共存しており、長寿の秘訣もそこにある。番組の課題は、出演者たちの超高齢化だけだ。

(2013.06.25)



2013年 テレビは何を映してきたか (5月編)

2013年12月15日 | テレビは何を映してきたか 2010年~13年
ハワイ島 2013


日刊ゲンダイに連載している番組時評コラム「TV見るべきものは!!」を時間順に読み直し、今年のテレビが何を映してきたかを振り返っています。

今日は5月分。

各文章は掲載時のまま。文末の日付は掲載日です。


2013年 テレビは何を映してきたか (5月編)


「島耕作のアジア立志伝」 NHK

テーマ、視点、表現。これらは「ドキュメンタリーの3大要素」である。3つ全てが新しいものなどそう簡単には作れないが、たとえ一つでもチャレンジがあれば、それは見るに値するドキュメンタリー番組なのだ。

先週、NHK総合で「島耕作のアジア立志伝」の初回スペシャルが放送された。テーマはアジアの大物経営者たちの人物像と経営戦略。日本企業が彼らから学ぶことは多いのではないか、というのが視点。加えて「アニメ・ドキュメンタリー」という表現手法も大きな特色である。

タイトル通り、弘兼憲史のビジネス漫画「島耕作」シリーズの主人公が番組の案内役で、声を担当するのは唐沢寿明だ。

たとえば1回目に登場した華僑の巨大企業グループ総帥。少年時代における父親とのエピソードや、20年以上前に中国の小平との間で行われた会談の様子などは、アニメならではの再現性と臨場感で描かれていた。

また本人への密着取材やインタビューも、地に足が着いた中身のある内容だった。外資に開放される前に市場を開拓する「風険投資」。危機を機会(チャンス)と捉え、「勇敢に賢く闘う」姿勢など、確かに刺激的だ。

大人が見るべき1本ではあるが、この「初回スペシャル」以外は基本的にBS1での放送となる。前後して地上波でも流せばいいのにと思う。

(2013.05.07)


「雲の階段」 日本テレビ

離島にある医師不足の診療所。医師免許を持たない事務員(長谷川博己)が、献身的な看護師(稲森いずみ)のサポートで医療行為を行っていた。

しかし急を要する令嬢(木村文乃)に手術を施したことから彼の運命が変わってくる。「雲の階段」(日本テレビ・水曜夜10時)は恋愛・医療・サスペンスの要素を併せ持つ欲張りなドラマだ。

見どころは主演・長谷川の“葛藤”である。無免許ではあるが、人の命を救っているという自負。その技量を極めたいという強い欲求。また稲森と木村、立場もタイプも違う女性2人をめぐる三角関係も複雑だ。自分の中で湧き上がってきた、人生に対する野心と欲望をどこまで解き放つのか。

そんな“内なるせめぎ合い”を、長谷川はオーバーアクションで見せるのではなく、ふとした表情や佇まいで丁寧に表現していく。その一方で、手術場面での「目ヂカラ」は半端ではない。

先週までの平均視聴率は9%。同じく平均で12%台をキープする「家族ゲーム」と裏表であることを思えば大健闘だろう。それに物語の主な舞台が島から東京へと移り、ここからが勝負所となる。離島での手術はあくまでも患者の命を救うためだったが、東京の総合病院でのそれは自身の栄達のためでもあるからだ。

登るほどに致命的で危険な階段だが、そこからしか見えない風景もある。

(2013.05.14)


「ラスト・シンデレラ」 フジテレビ

37歳の米倉涼子(37)がミニの制服姿で頑張っているが(日本テレビ「35歳の高校生」)、こちらの“涼子”も、「お忘れなく!」とばかりに元気ハツラツだ。「ラスト・シンデレラ」(フジテレビ・木曜夜10時)の篠原涼子、39歳である。

役柄は、仕事はできるが「彼氏いない歴10年」という美容師。その“おやじ女子”ぶりが笑えるが、最大の強みは篠原を含め3人の女性をヒロインとしたことにある。未婚の篠原、バツイチで肉食系の飯島直子、そして夫と子供がいる大塚寧々。NHK朝ドラ「あまちゃん」が3世代で縦のトリプルヒロインだとすれば、こちらは横並びのトリプルヒロインだ。

篠原と年下のBMXライダー(三浦春馬)、また同期の美容師(藤木直人)との関係が物語の軸だが、それ以上に他の2人が気になる。飯島はこれまでの欲望一直線な生き方を変えようとしているし、大塚は夫以外の男性との出会いにドキドキしている。篠原はたとえ三浦に翻弄されようと、藤木とすったもんだしようと、まあ、大丈夫。しかし、飯島や大塚にはこの世代の女性特有の危うさがあり、目が離せないのだ。

実はこのドラマ、放送開始から一度も視聴率を下げたことがない。13%台でスタートし、毎回じわじわと上げて先週は15%まできた。篠原の奮闘に加えてのトリプルヒロイン効果である。

(2013.05.21)


「SWITCHインタビュー 達人達」 Eテレ

誰かの話を聞くのはインタビュー。2人が向き合って話しあうのは対談。

しかしEテレ土曜夜10時「SWITCH(スイッチ)インタビュー 達人達」では、注目すべき人物2人が、前半と後半でインタビュアーとゲストの立場を交代(スイッチ)する。いわゆるインタビューや対談の枠を超えた、新感覚のインタビュー番組だと言っていい。

番組の生命線は人選と組み合わせだ。たとえば構成作家・小山薫堂とアートディレクター・佐藤可士和の回では、企画や発想の手法といった互いの手の内をどこまで見せるか、その「カードの切り方」に醍醐味があった。

先週は脚本家の宮藤官九郎と、バイオリニストの葉加瀬太郎だ。朝ドラ「あまちゃん」が絶好調の宮藤は、田舎の人たちの「ここには何もなくて」という自信のなさや、逆に外部から「本当に何もないですね」などと言われると頭にくる感じを描きたいと語っていた。

一方の葉加瀬は、ブラームスに対する特別な思いと、その楽曲には年齢を重ねることで新たな発見があると明かしていた。そんな葉加瀬の古典回帰には、昨年宮藤が歌舞伎の脚本を手掛けたことに通じる模索の姿勢がある。

相手が単なるインタビュアーではないからこその話の広がりと展開。さらに互いの仕事の現場が垣間見られる興味。1粒で2度おいしい“対談ドキュメント”だ。

(2013.05.28)


2013年 テレビは何を映してきたか (4月編)

2013年12月12日 | テレビは何を映してきたか 2010年~13年
ハワイ島 2013


日刊ゲンダイに連載している、番組時評コラム「TV見るべきものは!!」。

リアルタイムの記録を通じて、今年のテレビが何を映してきたかを
振り返っています。

今日はその4月分。

ついに、「あまちゃん」が登場しました(笑)。

各文章は掲載時のままで、文末の日付は掲載日です。



2013年 テレビは何を映してきたか (4月編)


マルチチャンネルドラマ「放送博物館危機一髪」 NHK

先週末、NHKがテレビ60年を記念して、マルチチャンネルドラマ「放送博物館危機一髪」をオンエアした。マルチチャンネルというのは地デジ化によって実現した機能。1つのチャンネルを、ハイビジョンと最大3つまでの標準画質に分けて放送することが可能なのだ。このドラマでは部分的にマルチにすることで、場所の違う2つのシーンを同時進行で見せていた。

主人公は、放送博物館からの中継番組を任された新人ディレクター(松井玲奈@SKE48)だ。愛宕山のNHK放送博物館でテレビ60年の企画展が開催されるという設定で、そこに幽霊騒動や淡い恋などがからむ。恋といっても松井ではなく、かつてアナンウンサーだった博物館長(本人も元NHKアナの野際陽子)のソレだけど。

最大の見せ場は何回か挿入されるマルチシーン。博物館にいる松井と放送センターにいる先輩ディレクター(秋元才加@AKB48)、視聴者は見たいほうをリモコンのボタンで選択する。片方だけを見ていても支障のないストーリーになっているが、逆にそれが物足りなかった。

このマルチチャンネル、特に災害時には有効だ。実際、東北エリアのNHK総合では、昨年春まで震災ニュースと通常番組をマルチで流していた。今回はいわば汎用性の実験だが、ドラマで生かすにはもうひと工夫必要だ。

(2013.04.02)


「あまちゃん」 NHK

迷走ストーリーと怒鳴り合いのNHK朝ドラ「純と愛」が終わり、「あまちゃん」が始まった。東京の女子高生(能年玲奈)が、母親(小泉今日子)の実家がある岩手の田舎町にやってくる。彼女がこの海辺の町で祖母(宮本信子)の後を継いで海女に、それも「アイドル海女」になっていくという物語だ。

スタートから一週間あまり、すでにこのドラマから目が離せなくなっているのは宮藤官九郎の脚本のお手柄だ。シンプルでわかりやすい展開。実体感のある登場人物たち。驚いた時の方言「じぇじぇ!」をはじめ、思わず口真似したくなるセリフ。何より全体のおおらかな雰囲気がいい。

そして、「母娘三代」の巧みなキャスティング。能年の天然度、小泉のヤンキー度、宮本のガンコ度と、それぞれの素の持ち味が生かされている。

中でもこのドラマの小泉は必見である。聖子ちゃんカットで家を飛び出した80年代から現在までの“女の軌跡”が全身から漂う役柄と、リアル小泉が重なって見えるのだ。昨年の「最後から二番目の恋」(フジ)でも光っていたが、今回の小泉ママはより一層“無敵の40代”と呼ぶにふさわしい。

そうそう、キャストで言えばヒロインの親友役の橋本愛、若き日の小泉を演じる有村架純など、能年の同時代ライバルと言える実力派美少女たちの競演にも注目だ。

(2013.04.09)


「めしばな刑事タチバナ」 テレビ東京

佐藤二朗と聞いて、すぐ顔が思い浮かぶ人は少ないかもしれない。しかし顔を見れば、「ああ、あの人ね」とすぐわかる。映画「20世紀少年」での警官役のような、ちょっと不気味なキャラクターをやらせたら右に出る者はいないからだ。最近は「勇者ヨシヒコと魔王の城」(テレビ東京)などを通じて若い衆の間にもファンが増えている。

先週から始まったテレビ東京「めしばな刑事タチバナ」(水曜夜11時58分)はこの佐藤が主役だ。ごく身近なB・C級グルメを愛し、豊富な実体験とウンチクを語り出したら止まらない。取調室で黙秘を続ける容疑者も、つい話に加わり墓穴を掘ってしまうほどだ。

栄えある第1回のテーマは立ち食いそば。吉そば「えび天そば」や、梅もと「薬膳天そばセット」などが熱く語られた。店や商品は実名。値段も明示される。しかも上司との立ち食いそば論争が事件の解決につながってしまうのが笑える。

ドラマのテイストは狙い通りのB・C級で、深夜にぴったり。敷居は低いが、病みつきになりそうな味だ。実際、見終わってすぐ、立ち食いそばへ駆けつけたくなった。

また、ドラマの原作が漫画というケースは多い。しかし、掲載誌が「アサヒ芸能」というところがオトナには嬉しい。もっさりした無精ひげの主役・佐藤は、まんま原作漫画のタチバナである。

(2013.04.16)


「TAKE FIVE~俺たちは愛を盗めるか~」 TBS

この春の新ドラマも刑事・警察物が多い。ある程度、視聴率の歩留りが読めるからだが、視聴者にとっては似たような料理が並ぶわけで、食傷気味にならないか心配だ。

そんな中、追う側(刑事)ではなく、追われる側(犯罪者)を主人公にする“逆張り”の発想で仕掛けてきたのが、TBSの金曜ドラマ「TAKE FIVE~俺たちは愛を盗めるか~」である。

「テイク・ファイブ」は義賊とも呼べる伝説の窃盗集団。かつてそのメンバーだった唐沢寿明は、現在足を洗って大学の教壇に立っている。ところが、謎のホームレス(倍賞美津子)からレオナルド・ダ・ヴィンチの絵画の写真を見せられたことから、泥棒チームの再結成へと動いていくのだ。

先週の第1回を見たが、全体がチャチな作りじゃないことに感心した。銀行の担保倉庫への侵入も、泥棒嫌いの女刑事(松雪泰子)たちの描き方も大人の鑑賞に堪えるものだ。何より映像センスと軽快なテンポがいい。

さらに、唐沢と窃盗団「テイク・ファイブ」が抱えている過去の謎も興味をひく。それは設定と登場人物の造形がしっかりしている証拠だろう。

原案脚本の櫻井武晴は、ドラマ「相棒」や公開中のアニメ映画「名探偵コナン 絶海の探偵」を手がけるベテラン。映画「麒麟の翼」でも組んだ、伊與田英徳プロデューサーとのコンビは期待大だ。

(2013.04.23)


「刑事110キロ」 テレビ朝日

“石ちゃん”こと石塚英彦が主役のテレビ朝日「刑事110キロ」(木曜夜8時)が始まった。タイトルに主人公の「体重」を入れ込んだドラマなんて、日本テレビが1980年に放送した「池中玄太80キロ」以来ではないか。80キロは主演だった西田敏行の当時の体重だが、それを30キロも上回っているのが笑える。

舞台は京都。交番勤務の警察官である石塚が、「捜査一課長付き刑事」に抜擢される。見込まれたのは長年の交番勤務で培われた人間観察力だ。交番に持ち込まれる用件を聞く前に当てたりする。だが、それ以上に力を発揮するのが、犯人でさえつい気を許してしまうその体型。つまりデブが武器になっているのだ。

このドラマの特色は、デブ刑事という“のほほん感”と、東映刑事物という“かっちり感”の不思議な融合にある。それを可能にしているのは、意外なほど達者な石塚の演技だ。

先週の第一回でも、あの市原悦子を相手に堂々の座長芝居だった。物語の軸は殺人事件とその解決だが、石塚のおかげで、おどろおどろしくない。午後8時枠でもあり、“ファミリー刑事ドラマ“として成立させている。一種の新機軸だ。

木曜のテレ朝は、この「刑事110キロ」と「ダブルス」で、刑事ドラマの二段重ね編成となる。水曜の「相棒」と併せて、お家芸・得意技で攻め続ける作戦と見た。

(2013.04.30)



2013年 テレビは何を映してきたか (3月編)

2013年12月08日 | テレビは何を映してきたか 2010年~13年
ハワイ島 2013


日刊ゲンダイに連載している、番組時評コラム「TV見るべきものは!!」。

ひとつの「同時代記録」として、今年のテレビが何を映してきたかを概観できると思います。

というわけで、今日は3月分です。

各文章は掲載時のまま。

文末の日付は掲載日です。


2013年 テレビは何を映してきたか (3月編)


「マイケル・サンデルの白熱教室@東北大学」 NHK

日本でもすっかりお馴染みになったハーバード大学のマイケル・サンデル教授。先週末、NHKでシリーズ最新作「マイケル・サンデルの白熱教室@東北大学」が放送された。サブタイトルは「これからの復興の話をしよう」。学生と市民、1000人が集まった。

過去の「白熱教室」では架空の課題を設定していたが今回は違う。「自主避難と補償」「人命救助と犠牲」など話は極めて具体的だ。まず感心したのは、会場にいる人たちを議論に巻き込んでいく手腕だ。二者択一の質問を投げかけ、参加者に選択の理由を述べてもらう。また反論や再反論の合間に論点を素早く整理し、議論が堂々巡りにならないよう配慮するのだ。

最も盛り上がったのは、復興に際して合意とスピードのどちらを優先させるかという議論だった。若者が住民の意見を一致させることの必要性を主張すると、シニア世代の男性が「それは絵に描いた餅」と反論。さらに別の男性が「合意というより納得が大事。それには時間も必要」と訴える。最後に教授は、他者の意見を理解し、敬意をもって議論することの大切さを説いていた。

自分の頭で考え、それを言語化する。同時に他者の意見に耳を傾ける。その上で自ら判断を下さなくてはならない時代。サンデル教授とこの番組は、「思考と議論の道場」としてかなり有効だ。

(2013.03.05)


NHKスペシャル「わが子へ~大川小学校 遺族たちの2年~」

東日本大震災から2年。先週から今週にかけて、各局で関連番組が何本も流された。その中で特に印象に残ったのが、8日に放送されたNHKスペシャル「わが子へ~大川小学校 遺族たちの2年~」である。

石巻市立大川小学校では、全校生徒108人のうち74人が津波の犠牲となった。また11人いた教員も10人が亡くなってしまう。まさにあり得ないような悲劇だった。

番組には3組の遺族が登場する。妻と小学生だった長男を含む3人の子供を失った父親は、まだ見つからない我が子を探して今もショベルカーのハンドルを握っている。

また6年生の娘を亡くした父親は教育員会の調査結果に納得がいかない。しかし自身も中学校の教員であるため、声を上げることに二の足を踏んでいた。そして大川小学校の教員だった息子に先立たれた母親は、その悲しみだけでなく、結果的に息子が生徒たちを守れなかったことへの負い目と共に暮らしている。

これは、「安全なはずの学校でなぜ?」という疑問に答える検証番組ではない。遺族たちの消えない悲しみと、生き残った者としての複雑な思いを静かに伝える“こころのドキュメント”だ。時間が経って逆に増してくるつらさもあることを知ると同時に、あらためて震災とその犠牲者、遺族の存在を忘れてはならないと思わせてくれた。

(2013.03.12)


「おトメさん」 テレビ朝日

連続ドラマが次々と最終回を迎えている。テレビ朝日「おトメさん」も先週がラスト。思えば、ホームドラマとしては異色の1本だった。

その理由は3つある。まず嫁と姑(ネットではトメ)という昔ながらの題材に新たな切り口を持ち込んだことだ。「強者である姑と泣かされる嫁」というパターンを壊し、姑(黒木瞳)が嫁(相武紗季)に戦々恐々とする。

次にホームドラマでありながら、結構ハラハラさせるサスペンス仕立てになっていたこと。元キャバクラ嬢という嫁の正体がつかめなかったり、姑が抱えている秘密が明かされなかったり。その上、ある男の失踪事件や立てこもり事件まで展開されたのだ。

そして3つ目は2人の女優のチャレンジである。どんな役もどこかキレイゴトに見える黒木が、罵倒され苛められる姑になりきり、ひたすら明るく元気なイメージの相武が、かなりハラのすわった嫁を好演した。

特に最終回での本音のぶつけ合いは圧巻だった。「何なの!この家を無茶苦茶にして」と黒木が吠えれば、相武も「だったら、やり直せばいいじゃない!」と応戦。家族が本音を言い合うことで、一度壊れた家庭を再生していく道が見えてきた。

最終回の視聴率13.6%。平均11.5%という数字も今期では上位となる。ホームドラマという古い器も使い方次第なのだ。

(2013.03.19)


「最高の離婚」 フジテレビ

今期連ドラで最も視聴率を稼いだのはTBSの「とんび」だ。しかし、NHKの二番煎じをぬけぬけと出す臆面のなさと、ベタな家族愛の大売り出しに、やや辟易。初期段階で離脱した。

逆に「どうするんだ」「どうなるんだ」とつい最終回まで見続けてしまったのがフジテレビ「最高の離婚」だ。互いに不満や不安を抱えていた2組の夫婦、瑛太&尾野真千子、綾野剛&真木よう子の物語。大事件が起きるわけではない。しかも最終的には「雨降って地固まる」的な着地だったにも関わらず、見る側は大いに楽しんだ。

何より彼らのセリフの応酬が素晴らしい。瑛太が「結婚は、3Dです。3D。打算、妥協、惰性。そんなもんです」とボヤけば、尾野も「(男が子供だから)妻って結局、鬼嫁になるか、泣く嫁になるのかの二択しかないのよ」と憤る。

他にもこのドラマでは、夫や妻が互いに「言いたくても言えない」「言いたくても言わない」「できれば言わずに済ませたい」本音がセリフの銃弾となって飛び交っていた。脚本は「それでも、生きてゆく」(フジ)の坂元裕二である。

どちらも、結婚せず恋人のままでいたほうがいいタイプのカップルだが、最後は「結婚も悪くないじゃん」と思わせるあたりは、旬の役者4人の相乗効果だ。続編があってもおかしくない。

(2013.03.26)


2013年 テレビは何を映してきたか (2月編)

2013年12月05日 | テレビは何を映してきたか 2010年~13年
ハワイ島 2013


日刊ゲンダイに連載している、番組時評コラム「TV見るべきものは!!」。

この「同時代記録」も1年分まとめてみると、その年のテレビが何を
映してきたか、それなりに概観できます。

というわけで、今日は2月分をまとめてみました。

各文章は掲載時のまま。

文末の日付は掲載日です。


2013年 テレビは何を映してきたか (2月編)

「信長のシェフ」 テレビ朝日

テレビ朝日「信長のシェフ」(金曜夜11時15分)の主人公・ケン(玉森裕太)は料理人だ。戦国時代にタイムスリップしたが、その料理の技や知識を駆使して織田信長(及川光博)に仕えている。

主人公が医師だったTBS「JIN―仁」の料理版とも言えるが、日曜のゴールデンとはスケールが違う。比較は酷だろう。むしろ深夜枠の予算で歴史ドラマ(このジャンルは金がかかる)をやろうとしたチャレンジ精神を評価したくなる。何より肝心の料理に関して手を抜いていないところがいいのだ。

先週登場した料理は「芋がらのリゾット」や「鯛のソテー天ぷら風」。毎回、この時代にはない食材や調味料をどう調達するかが見ものだが、ケンは雪で冷やした牛乳でバターを作り、天ぷらに必要な油を椿の実から抽出。不可能に思えた料理も何とか作り上げていく。こうした調理場面のカメラワークが、まんま料理番組の見せ方になっているのもご愛嬌だ。

鯛は家康(カンニング竹山)にとって特別な食べ物で、この一品が信長からの離反をくい止める。この辺りは及川と竹山の見せどころであり、特に及川の信長が秀逸だ。繊細にして大胆。冷静と激情。及川が予想以上のフィット感で演じている。そんな“織田ミッチー信長”の発見こそ、実はこのドラマ最大のお手柄かもしれない。

(2013.02.05)


「メイドインジャパン」 NHK

1953(昭和28)年2月1日に、NHKがテレビ放送を開始してから今月でちょうど60年。人間ならめでたい還暦だが、現在のテレビは祝杯どころではない。広告収入の低下や視聴者のテレビ離れへの対応策はもちろん、新たなビジネスモデルも構築できていないからだ。

一番問題なのは視聴者側の「テレビの見方」の実態とのズレだろう。先日、朝日新聞の記事にもなったが、ドラマの中には「録画再生率」が視聴率を上回るものもある。にもかかわらず、「リアルタイム視聴」のみを重視する現在の放送ビジネスには無理があるのだ。放送開始60年を機に、こうしたテレビの存続にかかわる議論もして欲しい。

そんな中、恐らく「録画率」も「録画再生率」も高かったと思われるのが、NHK「メイドインジャパン」全3話である。舞台は倒産の危機に直面した巨大電機メーカー。唐沢寿明をリーダーとする再建チームの取り組みを描いて見応えがあった。

パナソニック、シャープ、ソニーなどの現状を見れば、これは民放では出来ないドラマだ。モノ作りと技術、個人と組織といった問題だけでなく、会社や仕事、生きがいとは何なのかにまで迫った井上由美子の脚本に拍手。「日本人こそがメイドインジャパンそのものだ」というセリフが鮮烈だ。

テレビ60年、作り手たちの「まだまだこれから」の思いも伝わってきた。

(2013.02.12)


「よるべん」 TBS

ゴールデンタイムには見るべきものが少ないTBSだが、深夜番組は頑張っている。以前取り上げた「マツコの知らない世界」と、今回の「よるべん」(木曜深夜0時55分)はその代表格だ。

「よるべん」のコンセプトは、ビジネスマンが知ったかぶりにならないための秘密スクール。劇団ひとりがいわば級長さんで、若手ビジネスマンたちと一緒に専門家のレクチャーを受ける。

先週は「不動産投資vs.金(きん)投資」がテーマだったが、登場した2人の専門家の話が具体的で実に分かりやすい。片方がボロい家を手に入れてリフォームし、ルームシェア形式で貸し出すことを提唱。もう一方は金を短期で売買するのではなく、長期の積み立て投資を勧めた。途中、劇団ひとりが投げかける、「初心者にもできるんですか?」といった素朴な疑問にもしっかり応じてくれて、納得感も十分だ。

この番組が発見した真実は、「本物の先生は巷(ちまた)にいる」。自分たちが知らないこと、知っているつもりでよく分からないことを教えてくれるのは学校の先生ばかりじゃない。むしろ街場の実戦で鍛えられ、成功も失敗も経験してきた“その道のプロ”から直接学ぶことは多く、そして楽しいということだ。

劇団ひとりの好奇心と遊び心が深夜枠のユルさとマッチして実現した、笑える大人塾である。

(2013.02.19)


「YOUは何しに日本へ?」 テレビ東京

テレビ東京「YOUは何しに日本へ?」(水曜夜11時58分)は、1月に始まった新しいバラエティー番組だ。司会はバナナマンで、タイトルのYOUは来日したばかりの外国人を指す。空港で彼らにインタビューして、目的やキャラクターが面白そうな人に密着取材を申し込むのだ。

先週、最初に登場したのはハワイから来たフラの先生。力士のような体型の男性だが、その指導は堂に入ったもので、中年男女の生徒たちからも慕われている。かと思うと、ハワイアンイベントの前日に親友が急死との知らせが届き、先生は一層熱の入った歌や踊りを披露する。

もう1人はヱヴァンゲリヲンが大好きなオーストラリア青年。コミックマーケットで「NARUTO」のコスプレ娘たちと記念写真を撮り、秋葉原でお目当てのフィギュアを必死で探し回る。その熱心さは国内のアニメファンに負けていない。

この番組を見ていると、ふと自分が外国人目線でこの国を眺めているような気になる。ふだん当たり前と思っていた現象が不思議だったり、やけに新鮮だったりするのだ。ちょっとした日本再発見番組なのである。

出演するタレントはバナナマンの2人だけ。背景はイラストでスタジオセットもない。高いコストパフォーマンスと外国人への密着という一点突破の作りがアッパレだ。

(2013.02.26)


2013年 テレビは何を映してきたか (1月編)

2013年11月05日 | テレビは何を映してきたか 2010年~13年
ハワイ島 2013

今年も、あと2ヶ月を切ってしまいました。

毎年、飽きずに思うのは、やっぱり「早いなあ」です(笑)。

年末には、その年に書いたものを整理というか、まとめて掲載するのですが、いつもバタバタになるので、たまには少しずつ、やっておこうと思います。

日刊ゲンダイに連載している「TV見るべきものは!!」。

この「同時代記録」も、1年分まとめてみると、その年のテレビが何を映してきたかを、多少は概観できます。

というわけで、今日は1月分をまとめてみました。

「ああ、こんなのやってたなあ」と、番組とその当時の自分のことが思い浮かぶでしょうか。

各文末の日付は掲載日。

2月分以降は、また随時アップしていく予定です。



2013年 テレビは何を映してきたか (1月編)


「新春TV放談2013」 NHK

正月3日深夜に放送されたNHK「新春TV放談2013」は、NHKのみならず民放各局のテレビ番組をネタにしてのトークバラエティー。司会は上田早苗アナと千原ジュニアである。

今年で5回目となるが、テリー伊藤、秋元康、鈴木おさむ、関根勤など、怖いものなしのパネラー陣がいい。フジテレビ「最後から二番目の恋」について、鈴木が「初回で小泉今日子に閉経の話をさせたのはすごい」と言えば、関根も「中井貴一のピンと伸びた背筋に感心した」と笑わせる。また過去のドラマのコーナーでは、秋元がフジの「北の国から」を評して、出演者が実年齢を重ねるドラマ作りこそ「最高の贅沢」と語っていた。

そして最も盛り上がったのが各自の体験談だ。日テレ「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」の当たり企画「早朝バズーカ」は、週刊誌で見た早朝ソープの広告がヒントだったとテリーが明かす。関根は師匠の萩本欽一が台本を捨て、口立てで出演者のセリフを決めていく様子を再現してみせた。

思えば、他局の番組を話題にすることは、民放ではタブーに近い。「NHKならでは」という意味で、これほど「ならでは」な番組もないかもしれない。惜しいのは放送時間が75分と短いことだ。次回は人気番組ランキングの紹介といった段取りもやめて、彼らの話をもっと聞かせてほしい。

(2013.01.08)


まほろ駅前番外地」 テレビ東京

一昨年映画化された「まほろ駅前多田便利軒」(原作・三浦しをん)の続編が連続ドラマになった。金曜深夜のテレビ東京「まほろ駅前番外地」である。同局のドラマ「鈴木先生」が映画化されて12日から公開されているが、映画の続きとしてドラマが作られるのは珍しい逆パターンだ。

キャストは映画と同じ瑛太と松田龍平。瑛太は東京郊外の「まほろ市」(モデルは町田市)で便利屋をやっている。その中学時代の同級生(当時はそれほど親しくなかった)で、事務所に居候しながら仕事も手伝っているのが松田だ。

第1回では地元のプロレスラー・スタンガン西村(静岡プロレス出身のスタンガン高村がモデル)から引退試合の相手になることを依頼される。細身の瑛太と松田が覆面レスラーを務めるだけで笑えるが、物語は大人の男を泣かせる展開となる。

このレスラー代行の話は2冊の原作本にはない。脚本も兼ねる大根仁監督(映画「モテキ」)のオリジナルストーリーだ。ワケあり男2人の微妙な距離感だけでなく、周囲の人たちとの関係から生まれる空気感も実に心地よかった。

また、このドラマにはいわゆるヒロインがいない。別の局が作ったら、若手人気女優を投入したに違いない。だが、それでは“脱力系相棒物語”という特色が薄まってしまう。これでいいのだ。

(2013.01.15)


「夜行観覧車」 TBS

先週から始まったTBS「夜行観覧車」(金曜夜10時)の舞台は、架空の高級住宅地「ひばりが丘」だ。平均的サラリーマンである宮迫博之と鈴木京香にとっては背伸びした買い物だが、嬉しい新居だった。それが2009年のことだ。

そして2013年1月現在。向かいに住む開業医の家で惨劇が起きる。夫が何者かに殺害され、妻の石田ゆり子は半狂乱に。この4年間に一体何があったのか。ドラマは過去と現在を行き来し、視聴者は謎めいた住宅街から目が離せない。

主演は鈴木だが、断然石田が気になる。まず、「絵に描いたような幸せ」のセレブ家族というのが怪しい。そして石田が醸し出す“日常系エロス”も、このまま黙っていないような気がするのだ。

しかし、このドラマには鈴木や石田を凌ぐ秘密兵器が存在していた。自治会婦人部長の夏木マリである。“ひばりが丘の女帝”ともいえる彼女は、この地にふさわしくない者として鈴木を扱うのだ。浅野内匠頭に対する吉良上野介のような底意地の悪さ。絶対隣人にはしたくないタイプを、夏木がシレっとした見事な怪演で見せつける。

家庭内のことは家族にしかわからない。いや、家族だって互いのすべてを知ってはいない。原作は「告白」の湊かなえ。鈴木、石田、夏木のトライアングルがどう変形していくのか、楽しみだ。

(2013.01.22)


「書店員ミチルの身の上話」 NHK

もしかしたら女優・戸田恵梨香の代表作になるのではないか。NHKよる★ドラ「書店員ミチルの身の上話」(火曜夜10時55分)を見ていて、そんな気がした。

ヒロインは地方書店勤務のごく普通の女性。ところがこのミチルちゃん、結構トンデモナイ。彼女を慕う彼氏(柄本佑)がいる。彼女を気遣う幼なじみ(高良健吾)もいる。それなのに出版社の営業マン(新井浩文)とちゃっかり不倫関係。しかも、その不倫男にくっついて東京まで来てしまう。

「それって、ただのズルズル女じゃん」と言うなかれ。20代女性が無意識に抱く、「これまでも、これからも、平凡な人生しかないのかな」というモヤモヤを、ミチルはごく自然に体現している。本人はどこまで考えて行動しているのか、いや何も考えていないのか、その浮遊感が絶妙なのだ。

現在、物語は共同購入の宝くじが2億円の大当たりで、それをミチルが独り占めしようとしているといった状況。そう簡単にいくはずもないし、振り回されている男たちや女たちの反撃だってあるだろう。それに、このドラマのナレーションでミチルを「私の妻」と呼んでいる謎の男(大森南朋)も気がかりだ。

幸せの青い鳥を探すどころか、捕まえても握りつぶしてしまいそうな、困ったミチルちゃん。予測不能なその成り行きから目が離せない。

(2013.01.29)



2012年 テレビは何を映してきたか (12月編)

2012年12月31日 | テレビは何を映してきたか 2010年~13年

「日刊ゲンダイ」に連載している番組時評「TV見るべきものは!!」で
振り返る2012年のテレビ。いよいよ大詰め(笑)、12月編です。


2012年 テレビは何を映してきたか (12月編)

「キッチンが走る!」 NHK

旅番組に「食」の要素は欠かせない。行く先々の地元料理は旅の大きな楽しみの一つだ。“食べ物エンタテインメント紀行番組”を標榜するNHK「キッチンが走る!」(金曜夜8時)は、旅と食を新たな視点で組み合わせたハイブリッド型だと言っていい。

この番組では俳優の杉浦太陽とプロの料理人が、キッチンワゴンと呼ばれる“動く台所”に乗って全国各地へと旅をする。まずは旅人として町を歩きながら旬の食材を探すが、地元の人たちとの何気ない会話がいい。その上でオリジナル料理を作り、生産者の方々と一緒に味わうのだ。

先日は長野県木曽町を訪れた。御嶽山(おんたけさん)の麓であり、自然は美しく厳しい。ここで杉浦とシェフパティシエの柿沢安耶が見つけたのは白菜、かぶ、紅玉リンゴなど。料理のテーマは、代々この山里に暮らす人たちをイメージした「輪と層」だ。ペースト状の野菜を入れ込んだ「そばクレープ」。リンゴの酸味を生かした「押しずし」。食材を作ったご当人たちが、そのおいしさに驚き、喜んでいた。

ここにあるのは、自然と折り合いをつけながら、その地域ならではの食材を作り続ける人たちへの敬意だ。また料理は本来、フジテレビ「アイアンシェフ」のように誰かと競うものではない。料理、そして食べることの楽しさも十分に伝わってくる。

(2012.12.04)


「土曜プレミアム・大型ミステリー特別企画 再会」 フジテレビ

8日にフジテレビ「土曜プレミアム・大型ミステリー特別企画 再会」が放送された。ウリは江口洋介、常盤貴子、堤真一、香川照之という“夢の共演“。もちろんそれなりの見ごたえはあった。

物語の軸となるのは、この4人が少年時代に体験したある出来事、仲間だけの秘密だ。それが27年後の事件によって明らかになっていく。原作は横関大の江戸川乱歩賞受賞作だが、小ぶりな物語でもありインパクトには欠ける。それを豪華キャストで補うつもりだったのだろう。

しかし、視聴者にすれば、常盤、香川とくれば映画「20世紀少年」。江口の風貌も豊川悦司風だ。ただでさえこのドラマには少年時代の友情やタイムカプセルといった、似たようなアイテムが登場するのに、このキャスティングはいかがなものか。救っていたのは堤である。

さらに警察官にしてDV男でもある江口の押しかけ女房風は長澤まさみ。陰で男を支え続ける女の役はまだ早そうだ。堤の新妻・相沢紗世と同様、カップルとしての“座り”の悪さばかりが目立ち、ドラマの緊張感を削いでいた。

それは警察署長役に「踊る 大捜査線」の北村総一朗を持ってきたことにも言える。こちらは内容よりフジテレビというブランドを優先した配役だが、やはりシラける。全体としてやや残念な豪華作品だった。

(2012.12.11)


「マツコの知らない世界」 TBS

ゴールデンタイムでも見かけるが、やはりこの人には深夜がよく似合う。TBS金曜深夜0時50分からの「マツコの知らない世界」のマツコ・デラックスである。

毎回、ゲストと1対1でのトーク・セッション。しかも招くのはいわゆるタレントや有名人ではなく、あるジャンルの専門家だ。マツコは不案内な“知らない世界”であればあるほど、興味津々で相手の話を聞いていく。このシンプルなコンセプトこそが番組の魅力だ。

先週登場したのはカジノディーラーだった。日本にもカジノが出来ることを見越して、8年前にカジノスクールを開校したという人物だ。すでに卒業生は400人。マツコがすかさず訊ねる。「いまだにカジノがないのに、どうすんのよ?」。

また、彼が校長を務めるカジノスクールのパンフレットを眺めて、副校長がなかなかの美女であることを発見。その瞬間、「この副校長とはデキてるんですか?」と突っ込む。相手との間合いの詰め方が抜群にうまいのだ。

今年を代表するベストセラーとなった阿川佐和子の「聞く力」を読むまでもなく、マツコには人の話を自在に引き出す力がある。それは相手に、「半端なタブーはないんだ」「本音を言ってもいいんだ」と思わせる力でもある。テレビの中で独特の自由な位置取りに成功した、頭脳派・マツコならではの聞き技だ。

(2012.12.18)


TV見るべきものは!!ドラマ大賞2012

この1年のドラマの中から独断と偏見で選んだ「TV見るべきものは!!ドラマ大賞」の発表だ。

まず第5位はテレビ朝日「ドクターX~外科医・大門未知子~」。“NOと言える女”米倉涼子のハマり具合は、「相棒」に次ぐヒットシリーズの誕生と見た。第4位は震災から1年後に放送されたテレビ東京「明日をあきらめない…がれきの中の新聞社~河北新報のいちばん長い日」。地元紙の記者たちが、戸惑い悩みながら取材する姿が印象に残った。

続く第3位はフジテレビ「リーガル・ハイ」だ。見どころは、「性格の悪いスゴ腕弁護士」堺雅人の〝怪演〟だ。「大奥」(TBS)もそうだが、難しい設定であればあるほど堺の存在感が光る。第2位はNHK「はつ恋」。自分を捨てた初恋の男と再会するのは木村佳乃だ。人妻の心と体の揺れを、情感に満ちた大人の演技で見せてくれた。

そして栄えある大賞は、TBS・WOWOW共同制作ドラマ「ダブルフェイス」である。暴力組織に潜入している刑事(西島秀俊)と、警察官でもあるヤクザ(香川照之)。特に自分を押し殺して生きる男を、役に溶け込んだかのように演じた香川が秀逸。“日本のラッセル・クロウ”と呼びたい。

というわけで、来年も1本でも多くの「見るべきドラマ」が登場することを祈りつつ、皆さん、よいお年を!

(2012.12.25)

2012年 テレビは何を映してきたか (11月編)

2012年12月30日 | テレビは何を映してきたか 2010年~13年

「日刊ゲンダイ」に連載している番組時評「TV見るべきものは!!」で
振り返る2012年のテレビ。その11月編です。


2012年 テレビは何を映してきたか (11月編)

「2000万円落下クイズ!マネードロップ」 TBS

先週、TBSの水トク!「2000万円落下クイズ!マネードロップ」が、ユースケ・サンタマリアの司会で放送された。元々は海外の番組であり、「フォーマット」と呼ばれる番組の企画・構成を買い付けて制作した。

この番組の特徴は賞金2千万円をいきなり挑戦者に渡してしまうことだ。全問正解なら賞金を持ち帰ることができる。途中で間違えたら、目の前の現金が奈落の底に落ちていく仕掛けだ。だから、マネードロップ。

千原兄弟などの芸能人ペアが挑戦者で、問題は「ギネスブックに世界で最も栄養価の低い野菜として認定されているのは?」。キャベツ、キュウリ、ホウレンソウからの3択で、正解はキュウリ。はっきり言って小学生レベルの内容だ。

そもそも芸能人たちは出演料をもらって番組に出ている。この上、この程度のクイズで2千万円をゲットされたら、視聴者はまじめに働くのがイヤになるだろう。さらに現金をわざと落下させるという“これ見よがし”の演出が日本人に合っているかどうかも疑問だ。しかも、1万円札で札束を作ると数が少なくて迫力不足と考えたらしく、なんと千円札を使って札束を“増量”しているのが何ともビンボーくさい。

アイデア不足、企画の枯渇から安易な輸入に頼った上、この中途半端な出来では、恥の上塗りと言われても仕方ない。

(2012.11.06)


「ドクターX~外科医・大門未知子~」 テレビ朝日

テレビ朝日「ドクターX~外科医・大門未知子~」が好調だ。3回目までの平均視聴率は17.9%。キムタクの「PRICELESS」(フジ)もおさえ、堂々の連ドラ1位である。何がそんなにウケているのか。

ジャンルでいえばよくある医療モノ。また珍しいとは言えないスーパードクターだ。ところがヒロインの大門(米倉涼子)には大きな特徴がある。それが「断る力」だ。

勝間和代の著書で、彼女が手のひらをぐいと突き出した「お断りポーズ」の表紙を思い出すが、米倉はもっとクールだ。フリーランスの医師として契約外のことはしない。道理に合わないこと、納得できないことは、相手が誰であれ、はっきりと拒絶する。「NO」と言える日本(by石原慎太郎)ならぬ、「NO」と言えるヒロインなのである。

そんな米倉センセイの立居振舞いが、医師や職員に患者を「患者さま」と呼ばせ、ひたすら“集客”に励む病院の経営陣との対比もあり、見る側をスカッとさせるのだ。

その断固たる「NO」を支えるのが外科医としての超絶スキルである。先週も味覚障害を引き起こす舌咽神経鞘腫(ぜついんしんけいしょうしゅ)の難しい手術を見事に成功させていた。 

米倉の「(どんな手術も)私、失敗しないので」の決め台詞。自信を持って言える政治家が、今この国に何人いるだろう。

(2012.11.13)


「孤独のグルメ シーズン2」 テレビ東京

水曜の深夜23時58分という半端な時間に始まるテレビ東京「孤独のグルメ シーズン2」。これが結構クセになる。

登場するのは井之頭五郎(重松豊)ほぼ一人。個人で輸入雑貨を扱っているが、重松の仕事ぶりを描くわけではない。商談のために訪れる様々な町に実在する食べ物屋で、フィクションの中の人物である重松が食事をするのだ。テレビ東京は「グルメドキュメンタリードラマ」と称している。

番組のほとんどは重松が食べるシーンで、そこに彼の“心の中の声”がナレーションされる。たとえば先週放送した京成小岩駅近くの四川料理「珍珍」。重松が食べたのは「豚肉のニンニクタレかけ」「魚の四川漬物煮込み」など実際にこの店で出している品々だ。

さらに他の客の水餃子を目にした重松は、「見るからにモチモチした皮。口の中で想像がビンビンに膨らむ。たまらん。たまらん坂(田原坂?)」などと内なる声を発し続ける。この“とりとめのなさ”が何とも心地いい。

常に一人で食事をする重松(設定では独身)だが、そこにいるのは「職業人」としての自分でも「家庭人」としての自分でもない。いわば本来の自分、自由な自分だ。それが大人のオトコたちには実に羨ましいのである。誰の目も気にせず、値段や見かけに惑わされず、美味いものを素直に味わうシアワセがここにある。

(2012.11.20)


「高校入試」 フジテレビ

ある地方の名門高校。入試前日の教室だ。黒板に大きな模造紙が貼り出されている。そこには、「入試をぶっつぶす!」の巨大な筆文字。教師たちはびっくりする。そして視聴者も驚いた。

長澤まさみ主演のドラマ「高校入試」(フジテレビ 土曜23時10分~)はそんなふうに始まった。その後、入試当日もトラブルは続く。受験生の携帯電話による中断。答案用紙の行方不明。別の答案用紙の発見などだ。しかも一種の密室であるはずの「学校内部」の混乱ぶりが次々とネットの掲示板に書き込まれていく。

脚本は小説「告白」などで知られる作家・湊かなえ。ストーリー・テリングの技はさすがである。物語の時間軸は入試前日と当日の2日間。舞台のほとんどが学校の中という限定された設定にも関わらず、きっちり連ドラとして成立させている。あと数回を残すのみになっても、入試妨害の犯人はもちろん、その目的も着地点も見当がつかない。

また、特に際立っているのがネット掲示板の持つ“負のチカラ”と、その不気味さだ。ケータイやスマホという日常的ツールが個人や組織を追い詰める凶器となることを存分に見せてくれている。

最後に主演の長澤。これまでのドラマのようなヘンに際立つキャラクターではなく、「普通の20代女性」を演じている点がいい。今後への大事なステップになるはずだ。

(2012.11.27)

2012年 テレビは何を映してきたか (10月編)

2012年12月27日 | テレビは何を映してきたか 2010年~13年

「日刊ゲンダイ」に連載している番組時評「TV見るべきものは!!」で
振り返る2012年のテレビ。その10月編です。


2012年 テレビは何を映してきたか (10月編)

「水玉の女王草間彌生の全力疾走」 NHK

先週28日のNHKスペシャル「水玉の女王草間彌生の全力疾走」。今年83歳になる前衛芸術家を追った、人物ドキュメンタリーの力作だった。

ちなみに、昨年夏のBSプレミアム「世界が私を待っている~前衛芸術家草間彌生の疾走」は、ギャラクシー賞テレビ部門の「選奨」に輝いている。今回の番組はその後の1年半に密着。軸となるのは草間が挑む100枚の新作である。

アーティストが創作する現場を撮ることはかなり難しい。ましてや草間は精神病院を“自宅”とし、車いすでアトリエに向かう状態だ。精神的にも肉体的にも不安は多い。彼女がカメラという“非日常”の存在を拒否しても不思議ではないのだ。

しかし番組はほぼ完全に密着する。「私って、どうしてこう天才なんだろう」とつぶやきながら絵筆を握る草間が微笑ましい。また創作と並行して草間が積極的に関わる「ビジネス」の部分にまでカメラを向けていた。取材対象者と取材する側との信頼関係がなければできないことだ。しかも番組は“天才”草間に媚びてはいない。敬愛しながらも冷静に距離を保って撮っている。この距離感が実に見事だ。

かつて活動拠点のアメリカから志半ばで帰国した草間。今回ヴィトンとのコラボでニューヨークを訪れるシーンは“女王の凱旋”のようだった。疾走はまだ続きそうだ。

(2012.10.02)


「純と愛」 NHK

NHK朝ドラ「純と愛」がいいスタートダッシュを見せている。その原動力は遊川和彦の脚本だ。

念願のホテルに就職したヒロイン・純(夏菜)が、規則を超えて宿泊客の要望に応じたことで上司から叱責される。最初は我慢していたが、言い返さずにはいられない。「お客さんを笑顔にできなかったらホテルの負けじゃないですか!」「セクションだの経費削減だの、お客さんには関係ないっちゅーの!」。

青臭いと言われても純は真剣だ。しかし指導係の先輩に同意を求めると「犬は飼い主を選べない」とピシャリ。さらに「自分はいつも正しいと思っている人間は成長をやめたのと同じです」と一喝される。そんなセリフの応酬から目が離せない。

遊川和彦のドラマは、いつも人間の表と裏を見せてくれる。一見ごくフツーの家庭がもつ「裏の顔」を、徹底的に描いてみせたのが「家政婦のミタ」だった。ともすれば「建前」や「きれいごと」が並びがちな朝ドラ枠で、“本音ドラマ”を展開すること自体がチャレンジだ。

懸念材料はもう一人の主人公・愛(風間俊介)の存在だろう。愛と書いて「いとし」と読ませる青年だ。彼がもつ「顔を見れば、その人の本性が見える」という“特殊能力”を、視聴者がどう納得するか。いずれにせよ、久しぶりにスリリングな朝ドラである。

(2012.10.09)


「ゴーイングマイホーム」 フジテレビ
 

先週、連ドラ「ゴーイングマイホーム」(フジテレビ系、火曜夜10時)が始まった。脚本・演出を映画「誰も知らない」などの是枝裕和監督が務めているが、驚くべきホームドラマである。

登場するのは阿部寛と山口智子の夫婦をはじめ、ごく普通の人物ばかり。しかもそこで展開されるのは日々の仕事であり、子供の教育であり、親の世話だ。殺人事件も派手な恋愛も、泣かせる難病も出てこない。それなのに彼らの日常から目が離せない。それは、ドラマなのにドキュメンタリーのようなリアル感があり、先が読めないからだ。

また、是枝演出による阿部や山口の演技の自然なこと。会話も実在の夫婦のようだ。そこにはドラマらしい大仰な言葉、ドラマで聞いたことのある言葉はない。たとえばCM用の料理を手掛けるフードスタイリストである山口智子が笑顔で言う。「美味しそうと、美味しいは別なんだよ」。

聞けば、初回視聴率13%にフジテレビは不満を漏らしたとか。とんでもないことだ。何しろ普段視聴者が目にする“お手軽”ドラマとは別物なのである。違和感を持ってもおかしくない。むしろ13%取ったことで、今どきの視聴者のレベルの高さを喜ぶべきだろう。

たとえ次回の視聴率が下がっても、この秋「大人が見るべき1本」として、口コミでじわじわと支持が広がるはずだ。

(2012.10.16)


「ダブルフェイス」 TBS・WOWOW
 

ヤクザ組織に潜り込み、幹部となっている刑事(西島秀俊)。優秀な警察官でもあるヤクザの潜入員(香川照之)。そんな男たちの暗闘を描いたのがTBSとWOWOWの共同制作ドラマ「ダブルフェイス」だ。そのTBS版「潜入捜査編」が、15日に放送された。

冒頭は、急な雨から逃れてビルの軒先で一休みする2人の男だ。互いの素性も知らないままの、一瞬の遭遇と別れ。その表情と佇まいが、これから始まる物語を予感させる、実にいいシーンだ。

このTBS版は大きな麻薬取引を軸に展開されるが、本当の身分を隠した2人の動きがスリリングで目が離せない。特にヤクザと警察官の境界が見えなくなった西島の苦悩が濃厚に表現されている。もちろん香川も負けてはいない。あくまでも冷静に警察を裏切り続ける男を、役に溶け込んだかのように演じている。

2人の男優を支えるのは羽原大介(映画「フラガール」)の脚本と「海猿」の羽住英一郎監督だ。組織の中の個人にこだわることで、原作映画「インファナル・アフェア」とも、そのリメイク「ディパーテッド」とも異なる独自のドラマとなった。

香川が中心の「偽装警察編」は27日にWOWOWで放送予定。未加入者の「そんなあ~」という反応も狙い通りだろう。2つの局による“ダブルフェイス”な試み、まずは成功と言える。

(2012.10.23)


「アイアンシェフ」 フジテレビ

フジテレビが鳴り物入りで“復活”させた「料理の鉄人」、いや「アイアンシェフ」。26日にその1回目が放送された。フジは記者会見で、単なるリメイクや逆輸入ではなく「凱旋(がいせん)帰国」と豪語していたが、そうは見えなかった。

確かに変わった点はある。かつての鹿賀丈史に代わって勝負を仕切るのは玉木宏だ。当然、鉄人たちも審査員も当時とは違う。しかし「キッチンコロシアム」という舞台が象徴するように、基本的な中身は同じだ。一定条件の中で料理人を競わせ、それを過剰ともいえる演出でショーアップすることに尽きる。

成功した過去の番組が語られる時、最高視聴率など「よかったこと」のみにスポットが当たる。一方、その番組が衰退し淘汰されていった理由に触れることはない。はっきり言って、「料理の鉄人」も中期以降はあまり感心しなかった。その最大の理由は審査員にある。途中から芸能人が目立ち、当の料理人はもちろん視聴者も「あんたに言われたくないよ」とツッコミを入れたくなったのだ。

今回もその感が強い。秋元康や林真理子などに混じって、明らかに映画の宣伝のために出てきた周防正行・草刈民代夫妻や伊藤英明が審査しているのは一体何なのか。岸朝子や平野雅章などが、専門家としての名前を賭してジャッジしていた姿が懐かしい。

(2012.10.30)