碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

福岡に飛んで、出張講義

2017年11月30日 | 大学
上智福岡高校 ザビエルホール


2017.11.29

ドラマ「コウノドリ」を支える、吉田羊の存在感

2017年11月30日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評



TBS系「コウノドリ」
吉田羊の存在感が大きい

今期の綾野剛主演「コウノドリ」は第2シーズンだ。しかし主人公の鴻鳥サクラ(綾野)が、患者の気持ちに寄り添いながら出産をサポートしていく、心優しい産科医であることは変わらない。

鴻鳥の信条は「妊娠は病気じゃない。でもお産に絶対はない」。確かに妊娠・出産は病気ではないが、リスクを伴うことも事実だ。たとえば第5話ではIUFD(子宮内胎児死亡)というつらいエピソードが描かれ、第6話では切迫早産で入院していた若い妊婦(福田麻由子)が、甲状腺クリーゼで命を落とした。

実際、死産の4分の1は原因不明だという。産科専門医にもわからないことはあるし、出来ないことも多い。鴻鳥たちはその現実を真摯に受け止め、何が出来るのかを徹底的に考えていく。

しかも一人のスーパードクターの活躍ではなく、「チーム」としての取り組みを描いていることがこのドラマの特徴だ。特に助産師の小松留美子(吉田羊)の存在は大きい。視聴者は、異なる職種のメディカルスタッフが対等の立場で連携して、治療やケアと向き合う「チーム医療」の現場を垣間見ることができる。

先週、小松が「卵巣チョコレート嚢胞(のうほう)」という病気で子宮摘出手術を受けた。「母にならない選択」をした女性の気持ちに、ドラマ自体が丁寧に寄り添っていることに、あらためて感心した。

(日刊ゲンダイ 2017.11.29)

【気まぐれ写真館】 北門にもクリスマス・イルミネーション

2017年11月29日 | 気まぐれ写真館
2017.11.28

「劇団4ドル50セント」湯川玲菜のCMデビュー

2017年11月28日 | 「日経MJ」連載中のCMコラム



日経MJ(日経流通新聞)に連載しているコラム「CM裏表」。

今回は、ハウス食品 クリームシチュー「わたしのライバル宣言~この冬、負けたくない。」篇について書きました。


ハウス食品「クリームシチュー」
冬の主役「お鍋」に
堂々ライバル宣言

舞台は夕暮れの校舎だ。屋上に一人の女子高生(湯川玲菜さん)が現れる。しかも真剣な表情で、「皆さん、聞いて下さい!」と呼びかけるのだ。

演劇部に優れた仲間がいる。いつも圧倒されてきた。才能の差だと思っていた。でも、本当は努力の差だった。だから背中を追いかけるのはやめる。これからは憧れの存在ではなくライバルだと決めた。つまり堂々の「ライバル宣言」だ。

まるで青春ドラマのワンシーンのようだが、そうではない。「あなたを超えて冬の主役になってみせる」と叫ぶ彼女、実はクリームシチューだったのだ。そしてライバルは、なんと「お鍋」。冬の人気料理ナンバーワンの座を目指す野心作である。擬人化という手法は珍しくないが、その徹底した作り込みに拍手だ。

湯川さんは、秋元康さんが主宰する「劇団4ドル50セント」のメンバー。先行する“お鍋”たちを震撼させる、強力なライバルに成長するかもしれない。

(日経MJ 2017.11.27)


雑で緻密なクドカン脚本「監獄のお姫さま」 

2017年11月27日 | 「毎日新聞」連載中のテレビ評


週刊テレビ評
「監獄のお姫さま」 
雑で緻密なクドカン脚本


この秋、最も楽しみにしていたドラマが宮藤官九郎脚本「監獄のお姫さま」(TBS系、火曜午後10時)だ。脚本家として、すっかり巨匠となったクドカンだが、変わらないヤンチャぶりとマイペースがうれしい。

6年前、女子刑務所で知り合った4人の受刑者(小泉今日子、森下愛子、菅野美穂、坂井真紀)と1人の刑務官(満島ひかり)。出所した彼女たちが、ある事件にからんだ復讐(ふくしゅう)を果たそうとするのが、このドラマである。

初回で、ターゲットとなる会社社長、板橋(伊勢谷友介)を拉致してしまう。彼の婚約者を巡る殺人事件で逮捕された、「爆笑ヨーグルト姫」こと先代社長の娘(夏帆)の冤罪(えんざい)を晴らすのが目的だ。

第2話以降、刑務所での様子も描かれてきた。小泉の罪は夫に対する殺人未遂だが、他のメンバーの罪状や事情も徐々にわかってくる。そして物語の軸となる「姫」が、獄中で板橋の子を出産した経緯も明かされた。

クドカンドラマの特色は、登場人物たちのキャラクターが物語を生むことだ。どんな人物なのか。これまでどう生きてきたのか。それがそのままストーリーにつながっていく。

「冷静に!」が口癖の馬場カヨを演じるのは、「あまちゃん」(NHK、2013年)の小泉。満島、坂井、そして森下たちは、「ごめんね青春!」(TBS系、14年)のメンバーだ。

クドカンドラマのツボを熟知している彼女たちの会話、いや、おばちゃんたちの「わちゃわちゃ」したダベリを聞いているだけでおかしいのに、朝・昼・晩の食事ごとに流れる「ごはんの歌」みたいな、おちゃめな仕掛けもたくさんあって、つい笑ってしまう。

別世界のようでいて、どこか世間と地続きでもある女子刑務所。クドカンは、この密度の高い閉鎖空間を生かしながら、物語にマニアックな笑いをちりばめ、個性派女優たちが快演や怪演でそれに応えているのだ。

このドラマでは、17年12月の「現在」と、刑務所時代などの「過去」を頻繁に行き来することになる。時間のジャンプや連続ワープみたいなものだが、時間軸が錯綜(さくそう)するので、一見分かりづらいかもしれない。

しかし、時間を操ることは、ドラマという「劇的空間」ならではの醍醐味(だいごみ)。見る側が鼻面を引き回される、もしくは終始翻弄(ほんろう)されるのもまた、クドカンドラマの快感だ。

そういえば、拉致されている板橋社長が、彼女たちの「企て」と「行動」について、こんな感想を口にしていた。「雑なのか緻密なのか、わからない」と。言い得て妙というだけでなく、このドラマの面白さも見事に表現している。

(毎日新聞 2017年11月24日 東京夕刊)

【気まぐれ写真館】 キャンパスはクリスマス・イルミネーション

2017年11月27日 | 気まぐれ写真館
光の十字架に月


2017.11.26

【気まぐれ写真館】 日曜日の入学試験

2017年11月27日 | 気まぐれ写真館




2017.11.26

「ユニバーサル広告社」が描く、普通の人たちの喜怒哀楽

2017年11月26日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評



テレビ東京系
「ユニバーサル広告社
~あなたの人生、売り込みます!~」
普通の人たちの喜怒哀楽

小さな港町にある「さくら通り商店街」は、全国各地にある“シャッター商店街”のひとつ。そこにユニバーサル広告社が移転してきたことで物語が動き出した。

だが、この会社は有名でも大手でもない。社長の石井(三宅裕司)、クリエーティブディレクターの杉山(沢村一樹)、デザイナーの村崎(要潤)、事務のエリカ(片瀬那奈)だけの極小会社だ。

舞い込む依頼も結婚式場のチラシ制作、鮮魚店の呼び込み企画など小さなものばかり。しかし杉山たちは、採算度外視で誠実な仕事をしていく。

もちろん広告ひとつで何かが劇的に変わるわけではない。杉山も、父親と純喫茶を営む娘・さくら(和久井映見)に、「広告は魔法ではありません。小さな輝きを大きな輝きに導き、その輝きを多くの人に知らせるのが広告です」と言っていた。これは納得できる。

原作は荻原浩の小説だが、脚本の岡田惠和のカラーが色濃い。とっぴな事件や出来事ではなく、普通の人の喜怒哀楽を大切にしているのだ。商店街の人たちの気持ちも、また杉山たち自身も、少しずつ変わってきた。それは十分にドラマチックだ。

「ひよっこ」を書いた岡田の脚本でもあり、沢村は「お父ちゃん」に、和久井が「愛子さん」に見える瞬間もあるが、それも“ひよっこロス”の視聴者に対する心遣いだと思えばいい。

(日刊ゲンダイ 2017.11.23)

【気まぐれ写真館】 夕景  47年目の11月25日

2017年11月25日 | 気まぐれ写真館
2017.11.25

【気まぐれ写真館】 「市ヶ谷駐屯地」に向かって合掌 2017.11.25

2017年11月25日 | 気まぐれ写真館

三島由紀夫の命日 あれから47年

【気まぐれ写真館】 百合ヶ丘から富士山遠望

2017年11月25日 | 気まぐれ写真館
2017.11.24

『コウノドリ』は、リアルな「医療ドラマ」であると同時に「社会派ドラマ」でもある!?

2017年11月24日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム


『コウノドリ』は、リアルな「医療ドラマ」である
と同時に「社会派ドラマ」でもある!?

今期ドラマには、『ドクターX~外科医・大門未知子~』(木曜21時、テレビ朝日系)と『コウノドリ』(金曜22時、TBS系)という、2本の「医療ドラマ」があります。

同じ医療ドラマでも、米倉涼子さんの『ドクターX』は、病院内外での権謀術数も含め、切った張ったのアクション物に近く(笑)、男性視聴者が多い。対して『コウノドリ』は赤ちゃんと妊婦さんが中心で、女性視聴者に主眼を置いていて、うまく差別化が図られています。


「医療ドラマ」への支持

今回、『ドクターX』はシーズン5、『コウノドリ』はシーズン2。なぜ、医療ドラマは視聴者の支持を集めるのでしょうか。

第一に、しっかり作られた「医療ドラマ」は、同時に「社会派ドラマ」でもあるということ。なぜなら、医療システムとは、社会システムそのものでもあるからです。

現在、医療は経済などと並んで市民の大きな関心事の一つです。いや、市民の間に医療に対する危機感・不安感が、今ほど広がっている時代はないかもしれません。

それでいて、医療の世界は、なかなか外部からうかがい知ることができません。市民(視聴者)がもつ医療そのものへの関心が、医療ドラマを支持する要因の一つだと言えます。

また、医療ドラマの主人公である医師は、「強き(病気)を挫き、弱き(患者)を助ける」わけですから、本来「ヒーロー」の要素をもった職業です。ならば医療ドラマは、生と死という究極のテーマを扱う「ヒーロードラマ」だということになります。『ドクターX』など、その典型でしょう。


「鴻鳥(こうのとり)サクラ」というキャラクター

さて、『コウノドリ』です。何と言っても、主人公である鴻鳥サクラ(綾野剛)のキャラクターが興味深いですよね。患者の気持ちに寄り添い、出産という大事業をサポートしていく優秀な産科医。

しかも天才ピアニストという別の顔も持っています(病院にはナイショですが)。実の親を知らずに育つ中で、自分の思いをピアノで表現することを知ったそうです。この謎の部分が主人公に陰影と奥行きを与えているのは確かです。

毎回の読み切り形式ですが、一組の夫婦の症例を軸にしながら、他の患者たちの妊娠や出産をめぐるエピソードも同時進行で織り込んでいきます。


日常的に共存する「生と死のドラマ」

そして、このドラマの核にあるのは、「妊娠は病気じゃない。でもお産に絶対はない」という認識です。これは鴻鳥本人の言葉ですが、確かに妊娠・出産は病気ではありません。だから健康保険などは適用されない。これも鴻鳥の弁なのですが、「産科医だけが、患者さんに『おめでとう』って言える」。

しかし、さまざまなリスクを伴うことも事実で、産科には日常的に生と死のドラマが共存しています。たとえば第5話では、IUFD(子宮内胎児死亡)という辛いエピソードが描かれました。

初めての赤ちゃんを失った夫婦に対し、鴻鳥は、どうしても原因がわからなかったこと、また事態を予測できなかったことを謝罪します。ちなみに、四宮春樹医師(星野源)によれば、「死産の4分の1は原因不明」なのだそうです。

また第6話では、切迫流産で入院していた若い妊婦さん(福田麻由子)が、甲状腺クリーゼのために命を落としてしまいました。直前に、ヘルプで行った産科医院で彼女に接していた下屋加江医師(松岡茉優)は、「もっと自分に力があったら」と後悔し、強く責任を感じます。

実際、産科の専門医にもわからないことはあるし、出来ないことも多い。それは当然のことかもしれません。しかし鴻鳥は、その「当然」にひるんだりせず、むしろ真摯に受けとめ、自分たちに何が出来るかを徹底的に考えていくのです。


誠実に描かれる「チーム医療」

そう、「自分」ではなく、「自分たち」に何が出来るかが大事で、このドラマでは鴻鳥一人ではなく、仲間たちとの、つまり「チーム」としての取り組みが描かれていきます。それは、大門未知子という一人のスーパードクターが大活躍する、『ドクターX』との違いでもあります。

特に、助産師さんの小松留美子(吉田羊)の存在は大きい。異なる職種のメディカルスタッフが、お互いに対等の立場で連携して、治療やケアと向き合う。このドラマを通じて、視聴者は「チーム医療」の現場を垣間見ることができます。

さらに、生まれたばかりの新生児も含め、毎回「本物の赤ちゃん」が多数登場するのも、このドラマの特徴です。リアリティーを追求する、制作陣の細部へのこだわりが、十分な効果を生んでいます。

リアリティーといえば、『コウノドリ』には、3名の「取材協力者」と、同じく3名の「医療監修者」、さらに5名の「医療指導者」がいます。間違った医療情報、誤解を受けるような物語展開を避けるために、それだけの人員を擁しているのです。

プロデューサーは、那須田淳さんと峠田浩さん。『逃げるは恥だが役に立つ』を手がけていたお二人です。『逃げ恥』もまた、エンターテインメントでありながら、しっかり社会派ドラマとしての側面を持っていました。

後半戦では、どんな展開を見せてくれるのかと思っていたら、先週、下屋医師(松岡茉優)が「救命」へと転科を果たしました。「母子の両方を救える産科医になりたい」というのが動機です。その覚悟のほどは、下屋が髪を切ったことにも表れていました。(松岡さんの女優魂に拍手!)

加えて、小松さん(吉田羊)の体調も風雲急を告げているようで、「チーム」の行方に注目です。

【気まぐれ写真館】 晴天の「勤労感謝の日」 

2017年11月24日 | 気まぐれ写真館
2017.11.23


「勤労感謝の日」ですが、「授業日」でした

『ユニバーサル広告社』は、今期ドラマの「隠れた名品」か!?

2017年11月23日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム


沢村一樹主演『ユニバーサル広告社』は、
今期ドラマの「隠れた名品」か!?


斜陽の商店街と、倒産寸前の広告会社の出会い

金曜8時のドラマ『ユニバーサル広告社~あなたの人生、売り込みます!~』(テレビ東京系)は、斜陽の商店街と倒産寸前の広告会社が出会うことで生まれた物語です。

小さな港町(ロケ地は神奈川県の三崎みたいですね)にある「さくら通り商店街」。名前は「さくら通り」ですが、桜の木1本ありません。全国各地で見られるような、閉めてしまった店が目立つ“シャッター商店街”のひとつです。ただ他所と違うのは、ここにユニバーサル広告社が移転してきたことかもしれません。

とはいえ、ユニバーサル広告社は電通や博報堂のような、大手の有名広告会社ではありません。社長の石井(三宅裕司)、CD(クリエイティブディレクター)の杉山(沢村一樹)、デザイナーの村崎(要潤)、そして事務職のエリカ(片瀬那奈)の4人だけという極小会社です。

中でも杉山は、かつて大手でバリバリと活躍していたCDです。故あって退職したのですが、当初は「引く手あまただろう」とタカをくくっていました。しかし、世の中はそんなに甘くなく、石井社長に拾ってもらったという経緯があります。

安い家賃のオフィスを求めて、さくら通り商店街の古ぼけたビルに引っ越してきたものの、舞い込んでくる依頼は結婚式場のチラシ制作、鮮魚店の呼び込み企画など利益にならないものばかり。しかし杉山たちは、とことん相手の身になって、採算度外視で誠実な仕事をしていきます。


小さな輝きを、大きな輝きにする仕事

もちろん、広告一つで何かが劇的に変わるわけじゃないですよね。杉山も、広告に過剰な期待をしていた喫茶店の娘・さくら(和久井映見)に向かって、「広告は魔法ではありません」と釘を刺します。でも続けて、「魔法じゃありませんが、小さな輝きを大きな輝きに導き、その輝きを多くの人に知らせるのが広告です」と言っていました。これは納得できる。

原作は荻原浩さんの小説ですが、脚本を担当する岡田惠和さんのカラーが色濃い。突飛な事件や出来事ではなく、普通の人の喜怒哀楽、つまり「日常の中にあるドラマ」を大切にしているのです。

だから杉山たちはヒーローでも救世主でもない。しかし、商店街の人たちの気持ちを少しずつ変えてきている。また杉山自身も徐々に変わってきました。それは十分にドラマチックです。

朝ドラ『ひよっこ』を書いた岡田さんの脚本でもあり、沢村さんはすでに懐かしい「お父ちゃん」に、和久井さんが愛すべき乙女「愛子さん」に見える瞬間があったりします。でも、それだって“ひよっこロス”となった視聴者に対する、やさしい心遣いだと思えばいい(笑)。


癒し系の「隠れた名品」!?

今期のドラマには、『陸王』、『ドクターX~外科医・大門未知子~』、『監獄のお姫さま』といった大作や話題作が並び、全体として豊作だと思います。

そんな中で、波瀾万丈の大きな物語も、緊迫の派手な見せ場もないのですが、この『ユニバーサル広告社~あなたの人生、売り込みます!~』は、見た人がちょっとほっこりできる、癒し系の「隠れた名品」なのではないでしょうか。

書評した本: 豊田有恒 『「宇宙戦艦ヤマト」の真実』ほか

2017年11月22日 | 書評した本たち


「週刊新潮」に、以下の書評を寄稿しました。

あの大ヒット作とその裏の人間模様
豊田有恒 『「宇宙戦艦ヤマト」の真実』

祥伝社新書 842円

1974年の放送以来、何度も劇場版が制作され、日本を代表するアニメの一つとなった『宇宙戦艦ヤマト』。SF作家である豊田有恒は、この作品に企画段階から関わっていた。『「宇宙戦艦ヤマト」の真実』は、貴重な誕生秘話から制作の内幕までを明かす回想記だ。

ある日、仕事仲間から「本格的なSFアニメをやりたいプロデューサー」に会って欲しいと頼まれる。それが西崎義展との出会いだった。著者は、「原案」のクレジットを入れるという口約束を信じて、「設定」を考える役目を引き受ける。

本書で興味深いのが、『ヤマト』の物語構造が作られていくプロセスだ。著者は影響を受けたものとして、アメリカのSF作家、ロバート・A・ハインラインの『地球脱出』と、中国の伝奇小説『西遊記』を挙げる。

またアレキサンダー大王の名が由来となる「イスカンダル」や、宇宙空間を一気に飛び越える「ワープ航法」など、著者ならではのアイデアを開陳。ただし、海底に眠る戦艦大和を用いることを言い出したのは漫画家の松本零士だそうだ。

一方、『ヤマト』がヒットしていく中で、西崎による“私物化”が進んでいく。著者が「クリエーターの生き血を吸う吸血鬼のような正体」と言う、この毀誉褒貶の激しいプロデューサーの実像が当事者によって語られたという意味で、本書は画期的な一冊かもしれない。

ちなみに西崎は7年前、自身の会社が所有する船「YAMATO」から転落し、75歳で没している。


バーナデット・マーフィー [著]/山田 美明 [訳]
『ゴッホの耳―天才画家 最大の謎―』

早川書房 2,376円

なぜゴッホは自身の耳を切り落としたのか。新たに発見された資料を手掛かりに、約130年前に起きた事件の真相に迫る。耳を手渡されたという娼婦。同居者だったゴーギャン。そして弟のテオなど関係者たちの個性も際立っている。その夜、天才画家に何が起きたのか。


河出書房新社編集部 [編集]
『池澤夏樹、文学全集を編む』

河出書房新社 1,728円

個人が世界文学全集と日本文学全集を編む。それは一つの事件だった。全集の意味、「選び方」の決め方から、完結によって見えてきたものまでが明かされる。また大江健三郎との対談や斎藤美奈子の論考、さらに編集鼎談などが“文学のいま”を映し出していく。

(2017年11月16日号)


岩間 優希 『PANA通信社と戦後日本』
人文書院 1,456円

戦後に活動を始めたPANA通信社(現・時事通信フォト)。その軌跡を探ったノンフィクションだ。設立したのは米軍唯一の中国人従軍記者、宋徳和。ベトナム戦争取材で注目された岡村昭彦も関わっていた。知られざる現代アジア・ジャーナリズム史である。


小池 真理子 『感傷的な午後の珈琲』
河出書房新社 1,620円

『闇夜の国から二人で舟を出す』(小社刊)から、12年ぶりのエッセイ集となる。2011年の震災がもたらしたもの。読者からの手紙に記された高齢者の性。著者が考える小説の読み方。夫で作家の藤田宜永氏との軽井沢暮し。親しかった人たちへの追悼も本書の軸だ。

(2017年11月09日号)