碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

吉田鋼太郎「おいハンサム‼2」最後までハンサムだった

2024年05月30日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

最後までハンサムだった

吉田鋼太郎主演「おいハンサム‼2」

東海テレビ制作・フジテレビ系

 

吉田鋼太郎主演「おいハンサム‼2」(東海テレビ制作・フジテレビ系)は2年ぶりの続編だ。

舞台は前シーズン同様、源太郎(吉田)が妻の千鶴(MEGUMI)と暮らす伊藤家。3人の娘は独立しているが、何かあると実家に顔を出す。

独身の長女・由香(木南晴夏)は、いまだに元カレの大森(浜野謙太)と縁が切れないままだ。また夫の浮気で離婚した次女の里香(佐久間由衣)は、会社の屋上で出会った謎の男(藤原竜也)が気になって仕方ない。

そして三女の美香(武田玲奈)は、婚約者・ユウジ(須藤蓮)の浮気疑惑でモヤモヤが続いている。そんな家族の前で、ちょっとハンサムな顔をして人生訓を述べる源太郎も以前と変わらない。

軸となるのは、オムニバス形式のような同時並行で描かれていく娘たちの日常だ。何か事件や大きな出来事が起こるわけではないのに、目が離せない。

それは、ややトンチンカンな男選びも含め、彼女たちが「素の自分」で世間と向き合っているからだ。迷ったり悩んだりする姿がチャーミングかつユーモラスで、つい応援したくなる。

25日の最終回、源太郎の訓示は「選択」について。選ぶことは大切だが、正解を求め過ぎない。自分の選んだ道を正解にしていく。その上で、選択の責任は自分でとること。

そう語る源太郎は、やはり最後までハンサムだった。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.05.29)


「9(ナイン)ボーダー」悩めるボーダーたちへの応援歌

2024年05月22日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

川口春奈主演「9(ナイン)ボーダー」

悩めるボーダーたちへの柔らかな応援歌

 

うまいタイトルをつけたものだ。川口春奈主演「9(ナイン)ボーダー」(TBS系)である。ここでは20代や30代といった各年代の最終年やその状態を指している。

孔子は「三十にして立つ、四十にして惑わず、五十にして天命を知る」などと、節目の年齢における理想像を「論語」で示した。

だが、実際に29歳や39歳というボーダーに立った時、何となく焦りを感じたり、どこか落ち着かない気分になる人は少なくないはずだ。

銭湯を営む大庭家の長女・六月(木南晴夏)は39歳。会計事務所を経営しているが、別居中だった夫と離婚した。

次女で29歳の七苗(川口)は勤めていた会社を勢いで辞めてしまった。そして、やや引っ込み思案の三女・八海(畑芽育)は19歳の浪人生だ。

3人は、「私、これからどうしたいんだ?」という迷いの中にいることで共通している。

しかし、彼女たちは基本的に元気だ。七苗がつき合い始めた記憶喪失の青年・コウタロウ(松下洸平)や、六月を慕う部下の松嶋(井之脇海)など、心優しき男たちが近くにいる。何より三姉妹が互いに支え合う姿がほほ笑ましい。

脚本は「恋はつづくよどこまでも」(TBS系)などで知られる金子ありさだ。

やりたいことや夢には時間制限がないこと。年齢で線引きして諦めないこと。このドラマは、悩めるボーダーたちへの柔らかな応援歌だ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.05.21)

 

 


土曜ドラマ「パーセント」 NHK大阪が手掛ける野心作

2024年05月15日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

 

土曜ドラマ「パーセント」NHK

NHK大阪が手掛ける野心作

 

土曜ドラマ「パーセント」(NHK)の舞台は、ローカルテレビ局の「Pテレ」。主人公はバラエティ班で働く吉澤未来(伊藤万理華)だ。

ある日、提案していた学園ドラマの企画が採用される。念願のドラマ班に異動し、自分の企画を実現できると喜ぶ未来。

しかし、編成部長は条件を付ける。それはドラマの主人公を障害者の設定にすること。局が進めるキャンペーン「多様性月間」の一環だった。

やがて未来は、劇団に所属する車椅子の女子高生・ハル(和合由衣)と出会う。

障害の当事者である彼女に障害者の役を演じてもらおうとするが、「障害にめげずとか、乗り越えてとか、好きじゃない」と拒否される。

「障害者が何かしら壁を感じる時、社会のほうに問題がある。それは障害者が乗り越えることじゃない」と言い切った。

このドラマは、単なる「お仕事ドラマ」でも「障害者ドラマ」でもない。

管理職の30%に女性を登用する「クオータ制」や、従業員に占める障害者の割合を定めた「障害者雇用促進法」の意義は大きい。

だが、数値の設定だけでは解決しない問題があることを、物語に取り込もうとする野心作だ。

脚本は劇作家で演出家の大池容子によるオリジナル。制作統括は「カムカムエヴリバディ」などの安達もじり。

「バリバラ」を制作している、NHK大阪が手掛けるドラマであることも注目だ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.05.14)

 


石原さとみ主演「Destiny」後半戦も期待できそうだ

2024年05月08日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

石原さとみ主演「Destiny」

後半戦も期待できそうだ

 

5月7日、石原さとみ主演「Destiny」(テレビ朝日系)が前半戦の第1部を終える。

横浜地検中央支部の検事・西村奏(石原)は、胸の奥に2つの重荷を抱えて生きてきた。

1つは大学時代の友人・カオリ(田中みな実)が、運転していたクルマを大破させて死亡したこと。2つ目が15歳の時に起きた、東京地検特捜部の検事だった父・英介(佐々木蔵之介)の自殺だ。

カオリの死をめぐっては、当時奏の恋人だった真樹(亀梨和也)がクルマに同乗しており、その後、消息不明となっていた。ところが真樹が突然現れ、奏は12年前に何があったのかを知る。

しかも真樹の父で弁護士の野木(仲村トオル)が、奏の父の死に関与していたことも浮上してきた。

奏が独白する。「罪を犯すか、犯さないか、紙一重なんだよね。人なんて分からない」

奏は検事という立場を生かしながら、父の死の真相を探り始めた。さらに真樹との再会で、婚約者である医師の奥田(安藤政信)との関係も微妙なものとなりそうだ。

サスペンスとラブストーリーの融合を目指した吉田紀子の脚本は、その構成力で見る側を引き込んでいく。

また3年ぶりの連続ドラマ復帰となる石原。過去と現在が交錯する展開の中で、抑制の利いた演技で感情の揺れを表現するなど、成熟度が増している。後半戦も期待できそうだ。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2024.05.07)


日曜劇場「アンチヒーロー」魅力的なダークヒーローの登場

2024年05月01日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

日曜劇場「アンチヒーロー」TBS系

法はそれほど単純でも

一面的でもないことを教えてくれる

 

NHK朝ドラ「虎に翼」のヒロイン・猪爪寅子(伊藤沙莉)は、弁護士になることを目指して大学で法律を学んでいる。彼女が法に対する信念を表明する場面があった。

「私はね、法は弱い人を守るもの、盾とか傘とか温かい毛布とか、そういうものだと思う」。

確かに正論だが、法はそれほど単純でも一面的でもない。それを教えてくれるのが、今期の日曜劇場「アンチヒーロー」(TBS系)だ。

主人公である弁護士、明墨正樹(長谷川博己)は言う。「(依頼人が)本当に罪を犯したかどうか、我々弁護士には関係ないことだ」と。法の扱い方によっては、有罪であるべき人間も無罪に出来るということだ。

最初の案件は町工場社長の殺害事件。逮捕・起訴されたのは社員の緋山(岩田剛典)だ。

検察側は監視カメラの映像や現場にあった緋山の指紋、被害者から採取した皮膚のDNA鑑定、そして有力な証言などを並べて有罪を主張した。

明墨は違法すれすれの調査も辞さずに反証材料を集め、検察側の論拠を撃破してしまう。

さらに検察官と法医学者による証拠の捏造も暴いていく。最終的に緋山は無罪となるが、その真相は……。

明墨を突き動かしているのは、自分たちの都合でシロ(無罪)もクロ(有罪)にしてしまう、検察という権力に対する怒りだ。魅力的なダークヒーローの登場である。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.04.30)


「花咲舞が黙ってない」正義感だけではない強い憤り

2024年04月24日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

正義感だけではない強い憤り

今田美桜主演

「花咲舞が黙ってない」

 

第1シーズンの放送が2014年、第2シーズンはその翌年だった。「花咲舞が黙ってない」(日本テレビ系)が9年ぶりの復活である。

銀行本店が問題を抱えた支店を指導する「臨店班」。そこに配属された花咲舞が水面下の不祥事や悪事に立ち向かう。

最大の武器は、たとえ相手が上司であっても、間違ったことや筋の通らないことには、「お言葉を返すようですが!」と一歩も引かないガッツだ。

新シーズンでは、かつて杏が演じた舞は今田美桜に。臨店班の先輩・相馬も上川隆也から山本耕史にバトンタッチした。しかし、ドラマの基本構造は変わっていない。

第1話では、立場を利用して顧客から裏金を得ていた支店長をやり込めた。

そして第2話では、顧客の機密情報をライバル社に流すことで、有利な再就職を目論んだ中年行員にストップをかけた。

いずれの場合も、舞は正義感だけで相手を“成敗”するわけではない。そこには、立場の弱い者や抑圧されてきた者に対する共感からくる、強い憤りがあるのだ。

「私もこの銀行が正しいとは思っていません」と舞。だが、「銀行員としての道を踏み外してやったことは、働いている全ての行員を侮辱する裏切り行為です!」と言い切った。

そんな舞を「不祥事隠ぺい」の道具として扱う、執行役員(要潤)たちの存在も物語に適度な緊張感を与えている。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.04.23)


「くるり~誰が私と恋をした?~」テーマは、自分って何?

2024年04月17日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「くるり~誰が私と恋をした?~」

「自分って何?」という

普遍的テーマが潜んでいる

 

火曜ドラマ「くるり~誰が私と恋をした?~」(TBS系)。主演は、これがゴールデン・プライム帯での連ドラ単独初主演となる生見愛瑠だ。

緒方まこと(生見)は階段からの転落事故で記憶を失ってしまう。名前はもちろん、自分に関する情報は皆無。唯一の手掛かりは、ラッピングされた男性用の指輪だった。

やがて彼女を知っているという男たちが現れる。会社の同僚で「唯一の男友達」と称する朝日結生(神尾楓珠)。フラワーショップの店主で、「元カレ」だという西公太郎(瀬戸康史)。さらに偶然出会った年下の青年、板垣律(宮世琉弥)も何やら訳アリふうだ。

主人公が記憶喪失という設定のドラマは珍しくない。たとえば木村拓哉主演「アイムホーム」(テレビ朝日系)がそうだったように、自分が何者で、何をしてきたのか。家族も含め周囲の人たちにとっての自分は、一体どんな人間だったのか。それが分からないことがサスペンスを生むからだ。

このドラマも、まことと3人の男をめぐる一種のミステリーになっている。しかし、それ以上に注目したいのは、「過去の自分」探しと「未来の自分」づくりが、同時進行していく物語の新しさだ。そこには「自分って何?」という普遍的なテーマが潜んでいる。

記憶喪失モノは暗くなりがちだが、生見の明るさを生かした出色のラブコメになりそうだ。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2024.04.16)


「アリバイ崩し承りますスペシャル」 浜辺美波は異色探偵がよく似合う

2024年04月11日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「アリバイ崩し承りますスペシャル」

浜辺美波は異色探偵がよく似合う

 

6日夜に放送された、浜辺美波主演「アリバイ崩し承りますスペシャル」(テレビ朝日系)。2020年の連ドラが単発形式で復活したのだ。

主人公は、亡き祖父から古い時計店と「アリバイ崩し」の能力を受け継いだ美谷時乃(浜辺)だ。原作は大山誠一郎の同名小説だが、ドラマは大きなアレンジを加えている。

時乃にアリバイ崩しを依頼するのが新米刑事ではなく、中年の管理官(安田顕)であること。もうひとつが、刑事の話を聞くだけで推理していた時乃を、現場にも行けるようにしたことだ。

今回の事件の被害者は、1人暮らしの資産家・富宰建一(春海四方)。重要参考人となった3人の甥や姪の中で、犯人の最有力候補は元シェフの朝倉正平(矢本悠馬)だった。しかし、朝倉には鉄壁のアリバイがあった。

宅配便のシステムを利用したトリック。替え玉によるアリバイ工作。時乃はそれらを見破っていくが、朝倉は逆転劇を仕掛けてくる。全体はライト感覚なミステリードラマでありながら、見る側を最後まで引っ張るストーリー展開は本格的だ。

何より、少ない手がかりをもとに明るく楽しそうに「アリバイ崩し」に挑む異色探偵が、浜辺によく似合う。前作から4年。朝ドラ「らんまん」や映画「ゴジラ-1.0」などを経て、硬軟自在な表現にも磨きがかかっている。

いずれ連ドラの新シーズンも期待できそうだ。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2024.04.10)


Nスぺ「未解決事件/下山事件」歴史の闇に光を当てた秀作

2024年04月03日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

NHKスペシャル

「未解決事件 File.10 下山事件」

現在につながる歴史の闇に光を当てた秀作

 

3月30日の夜、NHKスペシャル「未解決事件File.10 下山事件」が放送された。これまでに「グリコ・森永事件」や「地下鉄サリン事件」などを扱ってきたシリーズの最新作である。

下山事件に関しては、松本清張「日本の黒い霧」をはじめ、長年様々な考察が行われてきた。現時点で、新たな視点や知られざる事実の提示は可能なのか。それが注目ポイントだった。

大きな軸の一つが、下山事件を担当した主任検事・布施健たちが残した極秘資料だ。

15年におよぶ捜査の内容が記された、700ページの膨大な資料を4年かけて解析し、取材を進めていく。浮かび上がってきたのは、GHQ直轄の秘密情報組織「キャノン機関」がソ連に送り込んだ、韓国人二重スパイの存在だ。

さらに制作陣は、キャノン機関に所属していた人物をアメリカで見つけ出す。二重スパイの写真を見せると、面識があったと証言した。

またGHQの下部機関であるCIC(対敵情報部隊)にいた人物の遺族とも面談し、本人が「あれは米軍の力による殺人だ」と語っていたことを聞き出す。事件はアメリカの反共工作の中で起きていたのだ。

番組は森山未來が布施検事を演じるドラマ編と、ドキュメンタリー編の2部構成。両者は合わせ鏡のように補完しあいながら、現在の日本社会に繋がる歴史の闇に光を当てており、見応えがあった。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.04.02)


今期ドラマの隠れた佳作「アイのない恋人たち」

2024年03月27日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

 

今期ドラマの隠れた佳作

「アイのない恋人たち」

朝日放送・テレビ朝日系

 

先日、福士蒼汰主演「アイのない恋人たち」(朝日放送・テレビ朝日系)が幕を閉じた。

主な登場人物は30代の男女7人だ。売れない脚本家の真和(福士)。食品会社で企画開発をしている多門(本郷奏多)。交番勤務の警察官・雄馬(前田公輝)。3人は高校時代からの友人だ。

彼らは多門の同僚である栞(成海璃子)、ブックカフェを営む絵里加(岡崎紗絵)、区役所勤務の奈美(深川麻衣)たちと合コンで知り合う。

やがて多門と栞、雄馬と奈美、そして真和と絵里加という3組のカップルが出来る。しかし真和には、初恋の相手だった愛(佐々木希)という忘れられない女性がいた。

かつての「男女七人夏物語」のような、にぎやかな恋愛群像劇かと思いきや、全く違った。

それぞれが他者との距離感をうまくつかめないでいる。無理に本音を隠したり、逆に思わぬ形で本音をぶつけることで、相手も自分も傷つけてしまう。

恋愛も含め、自分がこれからどう進めばいいのか、戸惑うばかりの7人。そこには見る側と地続きの等身大の姿があり、時には自画像を突き付けられるような痛みがあった。

脚本の遊川和彦が描こうとしたのは、普通の人が日常を生きる中で抱える不安や迷い、同時にその先にある希望だったのではないか。

福士たちキャストの好演もあり、今期ドラマにおける“隠れた佳作”となった。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.03.26)


ドラマ「舟を編む」原作をより深めた脚本、後半も期待

2024年03月20日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「舟を編む~私、辞書つくります~」

NHKBS

原作をより深めた脚本、後半も期待だ

 

ドラマ「舟を編む~私、辞書つくります~」(NHKBS)の主人公は、出版社に勤務する岸辺みどり(池田エライザ)だ。

ファッション雑誌の編集者だった彼女は、突然、辞書編集部への異動を命じられる。そこでは作業開始から13年という辞書「大渡海」の編纂が行われていた。

当初は戸惑っていたが、変わり者の主任・馬締光也(まじめみつや、野田洋次郎)に影響され、辞書作りにハマっていく。

原作は2012年に本屋大賞を受賞した、三浦しをん「舟を編む」だ。この小説では、営業部から引き抜かれてきた馬締の歩みが軸となっていた。また2013年に松田龍平主演で映画化された際も、ほぼ原作通りだった。

一方、このドラマでは原作の後半に登場する、みどりをヒロインに据えた。彼女は馬締のような言葉の天才ではない。ごく普通の女性だ。

いや、だからこそ見る側は、彼女を通じて言葉の面白さや奥深さ、辞書を編む作業やその意味を身近に感じることができる。

たとえば、「恋愛」の「語釈(語句の意味の説明)」を任されたみどりは、既存の辞書が「男女」や「異性」に限定していること気づく。感情論ではない根拠と、異性を外しても成立する語釈を探っていくのだ。

原作をより深めた、蛭田直美の脚本。それぞれの個性を生かした、池田や野田の演技。全10話の半ばまで来たが、後半も大いに期待できそうだ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.03.19)


異なる脚本家と演出家による競作「ユーミンストーリーズ」

2024年03月13日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

夜ドラ「ユーミンストーリーズ」NHK

異なる脚本家と演出家による

競作としても楽しめる

 

興味を引く企画だ。ユーミンこと松任谷由実の楽曲に触発されて書かれた短編小説をベースに、3本のオムニバスドラマが作られた。夜ドラ「ユーミンストーリーズ」(NHK)である。

先週放送された1本目は、綿矢りさが原作小説を書いた「青春のリグレット」だ。

結婚して4年の菓子(かこ、夏帆)は夫・浩介(中島歩)の浮気を知り、2人の関係を修復しようと旅行に誘う。行き先は八ヶ岳のコテージ。だが、そこで浩介から離婚を切り出され……。

菓子が八ヶ岳に来たのは2度目だ。以前つき合っていた陸(金子大地)と一緒だった。陸を物足りない相手と思っていた菓子は、旅行の後で別れてしまう。

これからどうするのかと陸に訊かれ、「次につき合う人と結婚するかな?」と菓子。陸はたったひと言、「無理だよ」と突き放す。

岨手(そで)由貴子の脚本は原作を大胆にアレンジしている。過去と現在、2つの旅が交差する構成が見事だ。

かつて誰かを傷つけ、惨めな思いをさせてきた自分。そして今、深く傷つき、惨めな思いをしている自分。

しかし、そこにあるのは「リグレット(後悔)」だけではない。人生の岐路に立つ30代女性を、夏帆が繊細に演じていく。

今週放送されているのは柚木麻子原作の「冬の終り」。来週は川上弘美の「春よ、来い」だ。異なる脚本家と演出家による競作としても楽しめる。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.03.12)


「Eye Love You」テオ君の可愛らしさがハンパじゃない!

2024年03月06日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

テオ君の可愛らしさがハンパじゃない!

二階堂ふみ主演「Eye Love You」TBS系

 

二階堂ふみ主演「EyeLove You」(TBS系)には大きな特色が2つある。

まず、ヒロインの侑里(二階堂)が、他者の心の声が聞こえる「テレパス」の能力を持っていること。そして、恋の対象がテオ(チェ・ジョンヒョプ)という年下の韓国人青年であることだ。

見ていると、「マカロニ・ウエスタン」を思い出す。1960年代から70年代にかけて人気を博した、イタリア製の西部劇だ。クリント・イーストウッド主演「荒野の用心棒」などがあった。

このドラマ、いわば日本製の韓国恋愛ドラマのようなものだ。なまじ相手の本音が分かってしまうため、恋愛を遠ざけてきた侑里。しかし、テオは韓国語なので心の声は理解できない。

誤解や気持ちのすれ違いはあったが、ようやく自分も好きだと伝えることができた。やや現実離れしている侑里の純情ぶりも、「和製韓流ドラマ」だと思えば微笑ましい。

それにしても、「テオ君」の愛玩動物的可愛らしさが半端じゃない。キュートなキャラクターは韓国恋愛ドラマには必須。

日本人俳優がキラキラした目で「僕は侑里さんの特別になりたいです!」などと言ったら、テレくさくて見ていられないだろう。韓流、恐るべし。

人の心を読む能力が登場する韓国ドラマには「君の声が聞こえる」などがあるが、本作は三浦希紗と山下すばるによるオリジナル脚本だ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.03.05)

 


日曜劇場 「さよならマエストロ」音楽は人の心を救うことができる

2024年02月28日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「音楽は人の心を救うことができる」

日曜劇場

「さよならマエストロ

 ~父と私のアパッシオナート~

 

早い。もう2月が終わろうとしている。日曜劇場「さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~」(TBS系)も第7話まで放送された。

夏目俊平(西島秀俊)は世界的指揮者。娘の響(芦田愛菜)は、かつて有望なバイオリニストだった。

しかし彼女は5年前の「事件」でバイオリンを捨て、以来、俊平を拒絶し続けている。俊平も音楽から離れた。

しかも、俊平は妻で画家の志帆(石田ゆり子)から離婚を迫られている。音楽に没頭するあまり、自分や家族を顧みない夫に愛想をつかしたのだ。

「あなたが指揮棒振ってる間、私は人生棒に振ってた」と手厳しい。このドラマ、父娘を含む家族再生の物語なのだ。

最近、ようやく5年前の出来事の真相がわかってきた。「(父と)共演するには、私は(力が)足りなかった。そんなつまらないことで、私は家族を壊したんです」と響。沈む彼女を、市役所の同僚である大輝(宮沢氷魚)が支えていく。

音楽に愛された指揮者と不器用すぎる父親の両面を巧みに演じる西島。思春期から脱出できないもどかしさを抱えた娘を、丁寧に見せる芦田。終盤に向って、2人の更なる化学反応が楽しみだ。

今月6日、指揮者の小澤征爾さんが亡くなった。享年88。小澤さんは、「音楽は人の心を救うことができる」という俊平の言葉を体現する、真のマエストロだった。合掌。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.02.27)

 


反町隆史主演「グレイトギフト」クセが強くて先が読めない

2024年02月21日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

反町隆史主演

「グレイトギフト」

クセが強くて先が読めない!

 

反町隆史主演「グレイトギフト」(テレビ朝日系)は、かなりクセの強い医療ミステリーだ。

藤巻達臣(反町)は大学病院の病理医。コミュニケーションが苦手で、院内での存在感も薄い。ところが、未知の殺人球菌「ギフト」を発見したことで運命が変わる。

人間の体内に入ったギフトは瞬時に死をもたらし、その後消滅する。症状は心不全にしか見えず、完全犯罪が可能だ。

病院教授の白鳥(佐々木蔵之介)も、藤巻の同僚で心臓外科医の郡司(津田健次郎)も、ギフトを利用して巨大な権力を握ろうとしている。

一方、藤巻は入院中の妻(明日海りお)を盾に取られ、白鳥の命令に従ってギフトの培養を続けるばかりだ。いわば悪に加担しているわけで、正義のヒーローではない。

しかも妻と郡司は不倫関係だったりする。その優柔不断ぶりも含め、「藤巻どーする?」とツッコミを入れながら見るのがこのドラマの醍醐味だ。

また、藤巻の相棒的な検査技師・久留米(波瑠)も相当の変わり者。藤巻を恋愛対象ではなく「人間として好き」と言うが、敵か味方か不明だ。

さらに高級ラウンジのオーナーである杏梨(倉科カナ)や、病院事務長の本坊(筒井道隆)など、クセ強系の人物ばかりが並ぶ。

脚本は「ラストマン―全盲の捜査官―」などを手がけた、黒岩勉のオリジナル。先が読めないことがありがたい。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.02.20)