碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

NHK「紅白歌合戦」視聴  その⑤

2012年12月31日 | テレビ・ラジオ・メディア

「紅白歌合戦」紅組の司会を務めた堀北真希。

落ち着いてたし、言葉は明瞭だし、華があって、堂々の司会ぶり。

予想外に、と言ってはナンだけど、とてもよかった。

一方、総合司会の有働アナの姿をあまり見なかったような。

その印象が、ほとんどないんだけど、これも演出?(笑)





・・・ということで、「紅白」もエンディングを迎え、
2012年もあと15分ほどに。

皆さん、今年もお世話になりました。

来年も、どうぞよろしくお願いします!



NHK「紅白歌合戦」視聴  その④

2012年12月31日 | テレビ・ラジオ・メディア



なぜか、ナビブ砂漠から、MISIA。

砂漠に負けないというか、砂漠がこれだけ似合う日本人アーティスト、そうはいない(笑)。

そして、美輪さんに、永ちゃん。

なんだか凄いことになっています(笑)。





NHK「紅白歌合戦」視聴  その③

2012年12月31日 | テレビ・ラジオ・メディア

「花は咲く」が流れた。

あらためて、この曲に込められたものを思う。








NHK「紅白歌合戦」視聴  その②

2012年12月31日 | テレビ・ラジオ・メディア

今年の「紅白」。

総合司会として、有働アナが頑張っています。

見ていると、ステージ上のスクリーンや、会場全体を使った、いろんな演出が行われていますね。

その中身や効果もいろいろですが(笑)。





小林幸子の後継?







それから、いつもより、「番宣」多過ぎじゃないかい?(笑)

NHK「紅白歌合戦」視聴 その①

2012年12月31日 | テレビ・ラジオ・メディア

例によって、信州の実家で年越しです。

NHK「紅白歌合戦」と、日テレ「ガキ使 絶対に笑ってはいけない熱血教師24時」を、往復しながら見ています(笑)。

「紅白」では、先日、息子につき合って名古屋・栄の「SKE48劇場」に行ってきたこともあり、SKE48の紅白「単独出場」を見届けました。

特に、息子がイチオシの「ごまちゃん」こと小木曽汐莉さんを軸に視聴(笑)。








まあ、とにかく、みんな、一生懸命に歌い踊っていました。

無事にSKEの出演場面が終わって、父子ともにほっとしております(笑)。


<ブログ内の関連記事>

名古屋といえば、SKE!? 2012年12月28日
http://blog.goo.ne.jp/kapalua227/e/e3867fe59a5e0b0235c9707ae1a32510

2012年 テレビは何を映してきたか (12月編)

2012年12月31日 | テレビは何を映してきたか 2010年~13年

「日刊ゲンダイ」に連載している番組時評「TV見るべきものは!!」で
振り返る2012年のテレビ。いよいよ大詰め(笑)、12月編です。


2012年 テレビは何を映してきたか (12月編)

「キッチンが走る!」 NHK

旅番組に「食」の要素は欠かせない。行く先々の地元料理は旅の大きな楽しみの一つだ。“食べ物エンタテインメント紀行番組”を標榜するNHK「キッチンが走る!」(金曜夜8時)は、旅と食を新たな視点で組み合わせたハイブリッド型だと言っていい。

この番組では俳優の杉浦太陽とプロの料理人が、キッチンワゴンと呼ばれる“動く台所”に乗って全国各地へと旅をする。まずは旅人として町を歩きながら旬の食材を探すが、地元の人たちとの何気ない会話がいい。その上でオリジナル料理を作り、生産者の方々と一緒に味わうのだ。

先日は長野県木曽町を訪れた。御嶽山(おんたけさん)の麓であり、自然は美しく厳しい。ここで杉浦とシェフパティシエの柿沢安耶が見つけたのは白菜、かぶ、紅玉リンゴなど。料理のテーマは、代々この山里に暮らす人たちをイメージした「輪と層」だ。ペースト状の野菜を入れ込んだ「そばクレープ」。リンゴの酸味を生かした「押しずし」。食材を作ったご当人たちが、そのおいしさに驚き、喜んでいた。

ここにあるのは、自然と折り合いをつけながら、その地域ならではの食材を作り続ける人たちへの敬意だ。また料理は本来、フジテレビ「アイアンシェフ」のように誰かと競うものではない。料理、そして食べることの楽しさも十分に伝わってくる。

(2012.12.04)


「土曜プレミアム・大型ミステリー特別企画 再会」 フジテレビ

8日にフジテレビ「土曜プレミアム・大型ミステリー特別企画 再会」が放送された。ウリは江口洋介、常盤貴子、堤真一、香川照之という“夢の共演“。もちろんそれなりの見ごたえはあった。

物語の軸となるのは、この4人が少年時代に体験したある出来事、仲間だけの秘密だ。それが27年後の事件によって明らかになっていく。原作は横関大の江戸川乱歩賞受賞作だが、小ぶりな物語でもありインパクトには欠ける。それを豪華キャストで補うつもりだったのだろう。

しかし、視聴者にすれば、常盤、香川とくれば映画「20世紀少年」。江口の風貌も豊川悦司風だ。ただでさえこのドラマには少年時代の友情やタイムカプセルといった、似たようなアイテムが登場するのに、このキャスティングはいかがなものか。救っていたのは堤である。

さらに警察官にしてDV男でもある江口の押しかけ女房風は長澤まさみ。陰で男を支え続ける女の役はまだ早そうだ。堤の新妻・相沢紗世と同様、カップルとしての“座り”の悪さばかりが目立ち、ドラマの緊張感を削いでいた。

それは警察署長役に「踊る 大捜査線」の北村総一朗を持ってきたことにも言える。こちらは内容よりフジテレビというブランドを優先した配役だが、やはりシラける。全体としてやや残念な豪華作品だった。

(2012.12.11)


「マツコの知らない世界」 TBS

ゴールデンタイムでも見かけるが、やはりこの人には深夜がよく似合う。TBS金曜深夜0時50分からの「マツコの知らない世界」のマツコ・デラックスである。

毎回、ゲストと1対1でのトーク・セッション。しかも招くのはいわゆるタレントや有名人ではなく、あるジャンルの専門家だ。マツコは不案内な“知らない世界”であればあるほど、興味津々で相手の話を聞いていく。このシンプルなコンセプトこそが番組の魅力だ。

先週登場したのはカジノディーラーだった。日本にもカジノが出来ることを見越して、8年前にカジノスクールを開校したという人物だ。すでに卒業生は400人。マツコがすかさず訊ねる。「いまだにカジノがないのに、どうすんのよ?」。

また、彼が校長を務めるカジノスクールのパンフレットを眺めて、副校長がなかなかの美女であることを発見。その瞬間、「この副校長とはデキてるんですか?」と突っ込む。相手との間合いの詰め方が抜群にうまいのだ。

今年を代表するベストセラーとなった阿川佐和子の「聞く力」を読むまでもなく、マツコには人の話を自在に引き出す力がある。それは相手に、「半端なタブーはないんだ」「本音を言ってもいいんだ」と思わせる力でもある。テレビの中で独特の自由な位置取りに成功した、頭脳派・マツコならではの聞き技だ。

(2012.12.18)


TV見るべきものは!!ドラマ大賞2012

この1年のドラマの中から独断と偏見で選んだ「TV見るべきものは!!ドラマ大賞」の発表だ。

まず第5位はテレビ朝日「ドクターX~外科医・大門未知子~」。“NOと言える女”米倉涼子のハマり具合は、「相棒」に次ぐヒットシリーズの誕生と見た。第4位は震災から1年後に放送されたテレビ東京「明日をあきらめない…がれきの中の新聞社~河北新報のいちばん長い日」。地元紙の記者たちが、戸惑い悩みながら取材する姿が印象に残った。

続く第3位はフジテレビ「リーガル・ハイ」だ。見どころは、「性格の悪いスゴ腕弁護士」堺雅人の〝怪演〟だ。「大奥」(TBS)もそうだが、難しい設定であればあるほど堺の存在感が光る。第2位はNHK「はつ恋」。自分を捨てた初恋の男と再会するのは木村佳乃だ。人妻の心と体の揺れを、情感に満ちた大人の演技で見せてくれた。

そして栄えある大賞は、TBS・WOWOW共同制作ドラマ「ダブルフェイス」である。暴力組織に潜入している刑事(西島秀俊)と、警察官でもあるヤクザ(香川照之)。特に自分を押し殺して生きる男を、役に溶け込んだかのように演じた香川が秀逸。“日本のラッセル・クロウ”と呼びたい。

というわけで、来年も1本でも多くの「見るべきドラマ」が登場することを祈りつつ、皆さん、よいお年を!

(2012.12.25)

日経MJで、今年のテレビCMについてコメント

2012年12月30日 | テレビ・ラジオ・メディア

『日経MJ(日経流通新聞)』に、「2012年テレビCMトップ10 広告効果 識者に聞く」という記事が掲載された。

広告効果について、識者11人に対する調査を行った結果と、その解説だ。

また、この記事の中には、「今後の有望株(売り上げに貢献しそうなタレント・有名人)」の名前も並んでいます。

男性部門で、私が「清潔さと一途さ」を理由に挙げた松坂桃李さんが1位となっておりました(笑)。


物語性 なごみの感覚

2012年のテレビCMは、消費が減速する中に小さな夢物語を描き、安心や共感と共鳴させた作品が目立った。日経MJが識者11人に実施したアンケートで、最も企業の売り上げに貢献したとみられるCMはソフトバンクモバイル「SoftBank」。定番だが新味を増して評価された。2位のトヨタ自動車は若者や東北へのメッセージ性が支持された。


<2012年テレビCMトップ10>

1位 SoftBank(ソフトバンクモバイル)
2位 「ReBORN」シリーズ(トヨタ自動車)
3位 マルちゃん正麺(東洋水産)
4位 キリン メッツコーラ(キリンビバレッジ)
5位 カロリーメイト(大塚薬品)
6位 iPhone(アップル)
7位 ボス(サントリー食品インターナショナル)
7位 ユニクロ(ファーストリテイリング)
9位 オランジーナ(サントリー食品インターナショナル)
9位 au(KDDI)




(日経MJ 2012.12.28 )


ちなみに、2011年の「テレビCMトップ10」は、以下の通りでした。

1位 消臭力(エステー)
2位 iPhone(アップル)
3位 九州新幹線(JR九州)
4位 SoftBank(ソフトバンクモバイル)
4位 au(KDDI)
6位 ソウルマッコリ(サントリー酒類)
6位 チキンラーメン(日清食品)
6位 「上を向いて歩こう」「見上げてごらん夜の星を」
   (サントリーHD)
9位 エコ家電(日立アプライアンス)
10位 ユニクロ(ファーストリテイリング)


2012年 テレビは何を映してきたか (11月編)

2012年12月30日 | テレビは何を映してきたか 2010年~13年

「日刊ゲンダイ」に連載している番組時評「TV見るべきものは!!」で
振り返る2012年のテレビ。その11月編です。


2012年 テレビは何を映してきたか (11月編)

「2000万円落下クイズ!マネードロップ」 TBS

先週、TBSの水トク!「2000万円落下クイズ!マネードロップ」が、ユースケ・サンタマリアの司会で放送された。元々は海外の番組であり、「フォーマット」と呼ばれる番組の企画・構成を買い付けて制作した。

この番組の特徴は賞金2千万円をいきなり挑戦者に渡してしまうことだ。全問正解なら賞金を持ち帰ることができる。途中で間違えたら、目の前の現金が奈落の底に落ちていく仕掛けだ。だから、マネードロップ。

千原兄弟などの芸能人ペアが挑戦者で、問題は「ギネスブックに世界で最も栄養価の低い野菜として認定されているのは?」。キャベツ、キュウリ、ホウレンソウからの3択で、正解はキュウリ。はっきり言って小学生レベルの内容だ。

そもそも芸能人たちは出演料をもらって番組に出ている。この上、この程度のクイズで2千万円をゲットされたら、視聴者はまじめに働くのがイヤになるだろう。さらに現金をわざと落下させるという“これ見よがし”の演出が日本人に合っているかどうかも疑問だ。しかも、1万円札で札束を作ると数が少なくて迫力不足と考えたらしく、なんと千円札を使って札束を“増量”しているのが何ともビンボーくさい。

アイデア不足、企画の枯渇から安易な輸入に頼った上、この中途半端な出来では、恥の上塗りと言われても仕方ない。

(2012.11.06)


「ドクターX~外科医・大門未知子~」 テレビ朝日

テレビ朝日「ドクターX~外科医・大門未知子~」が好調だ。3回目までの平均視聴率は17.9%。キムタクの「PRICELESS」(フジ)もおさえ、堂々の連ドラ1位である。何がそんなにウケているのか。

ジャンルでいえばよくある医療モノ。また珍しいとは言えないスーパードクターだ。ところがヒロインの大門(米倉涼子)には大きな特徴がある。それが「断る力」だ。

勝間和代の著書で、彼女が手のひらをぐいと突き出した「お断りポーズ」の表紙を思い出すが、米倉はもっとクールだ。フリーランスの医師として契約外のことはしない。道理に合わないこと、納得できないことは、相手が誰であれ、はっきりと拒絶する。「NO」と言える日本(by石原慎太郎)ならぬ、「NO」と言えるヒロインなのである。

そんな米倉センセイの立居振舞いが、医師や職員に患者を「患者さま」と呼ばせ、ひたすら“集客”に励む病院の経営陣との対比もあり、見る側をスカッとさせるのだ。

その断固たる「NO」を支えるのが外科医としての超絶スキルである。先週も味覚障害を引き起こす舌咽神経鞘腫(ぜついんしんけいしょうしゅ)の難しい手術を見事に成功させていた。 

米倉の「(どんな手術も)私、失敗しないので」の決め台詞。自信を持って言える政治家が、今この国に何人いるだろう。

(2012.11.13)


「孤独のグルメ シーズン2」 テレビ東京

水曜の深夜23時58分という半端な時間に始まるテレビ東京「孤独のグルメ シーズン2」。これが結構クセになる。

登場するのは井之頭五郎(重松豊)ほぼ一人。個人で輸入雑貨を扱っているが、重松の仕事ぶりを描くわけではない。商談のために訪れる様々な町に実在する食べ物屋で、フィクションの中の人物である重松が食事をするのだ。テレビ東京は「グルメドキュメンタリードラマ」と称している。

番組のほとんどは重松が食べるシーンで、そこに彼の“心の中の声”がナレーションされる。たとえば先週放送した京成小岩駅近くの四川料理「珍珍」。重松が食べたのは「豚肉のニンニクタレかけ」「魚の四川漬物煮込み」など実際にこの店で出している品々だ。

さらに他の客の水餃子を目にした重松は、「見るからにモチモチした皮。口の中で想像がビンビンに膨らむ。たまらん。たまらん坂(田原坂?)」などと内なる声を発し続ける。この“とりとめのなさ”が何とも心地いい。

常に一人で食事をする重松(設定では独身)だが、そこにいるのは「職業人」としての自分でも「家庭人」としての自分でもない。いわば本来の自分、自由な自分だ。それが大人のオトコたちには実に羨ましいのである。誰の目も気にせず、値段や見かけに惑わされず、美味いものを素直に味わうシアワセがここにある。

(2012.11.20)


「高校入試」 フジテレビ

ある地方の名門高校。入試前日の教室だ。黒板に大きな模造紙が貼り出されている。そこには、「入試をぶっつぶす!」の巨大な筆文字。教師たちはびっくりする。そして視聴者も驚いた。

長澤まさみ主演のドラマ「高校入試」(フジテレビ 土曜23時10分~)はそんなふうに始まった。その後、入試当日もトラブルは続く。受験生の携帯電話による中断。答案用紙の行方不明。別の答案用紙の発見などだ。しかも一種の密室であるはずの「学校内部」の混乱ぶりが次々とネットの掲示板に書き込まれていく。

脚本は小説「告白」などで知られる作家・湊かなえ。ストーリー・テリングの技はさすがである。物語の時間軸は入試前日と当日の2日間。舞台のほとんどが学校の中という限定された設定にも関わらず、きっちり連ドラとして成立させている。あと数回を残すのみになっても、入試妨害の犯人はもちろん、その目的も着地点も見当がつかない。

また、特に際立っているのがネット掲示板の持つ“負のチカラ”と、その不気味さだ。ケータイやスマホという日常的ツールが個人や組織を追い詰める凶器となることを存分に見せてくれている。

最後に主演の長澤。これまでのドラマのようなヘンに際立つキャラクターではなく、「普通の20代女性」を演じている点がいい。今後への大事なステップになるはずだ。

(2012.11.27)

2012年 こんな本を読んできた (11月編)

2012年12月30日 | 書評した本 2010年~14年

「週刊新潮」の書評ページのために書いてきた文章で振り返る、この1年に読んだ本たちです。


2012年 こんな本を読んできた (11月編)

マブルーク・ラシュディ 中島さおり:訳 『郊外少年マリク』 
集英社 1890円

2005年秋、フランスで移民の若者たちを中心とする暴動が起きた。その際、クローズアップされたのが「郊外問題」だ。

パリなど大都市の郊外にある低所得者層居住地域。そこは人種差別、失業、貧困、教育、宗教など様々な問題が混在する場所だ。特に都市部における移民系家庭出身者に対する差別には暗く根深いものがある。

本書の主人公マリクは、パリ郊外の大型団地で生まれ育ったアルジェリア系移民だ。母親との暮しは貧しい。父親も知らない。だが、そのことを母親に問いただそうとはしない。少年ながら、マリクにはどこか大人の部分があるからだ。学校の勉強は面白くはないが、友だちはいる。サッカーも上手い。女の子にもモテる。いっぱしの不良として成長するが、自分と周囲を冷静に見つめる目を忘れない。

物語は5歳から26歳までのマリクを描いている。社会人になってからは、移民であることや学歴から突然の解雇を言い渡されるなど辛いことも多い。だが、マリクは自暴自棄になったりはしない。不思議な楽天性と明るさが彼を支えている。

この小説の舞台であるパリ郊外の団地と日本の老朽化した団地の風景が、ふと重なって見えてくる。新たな“郊外小説”の登場だ。
(2012.10.31発行)


森 まゆみ『千駄木の漱石』
筑摩書房 1785円

夏目漱石が東京・千駄木で暮らしたのは、英国留学から戻った直後の明治36年から、日露戦争をはさんで39年の年末まで。東京帝国大学や第一高等学校の教壇に立ちながら、徐々に作家へと移行していく時期だ。この間に書いたのが『吾輩は猫である』『坊ちゃん』『草枕』などである。

著者は漱石を自らの故郷に迎えた“隣人”の如く、その軌跡を丁寧に追っていく。借家だった住居の歴史。生真面目に準備された講義。帝大での学生たちとの軋轢。寺田寅彦など弟子たちとの交流。そして家庭における夫や父としての漱石。

中でも興味を引くのが、小説『道草』で描かれた人間模様と、漱石とその周辺にいる実在の人々との重なり具合。作品は実在の姉、兄、妻、養父などとの確執を浮き彫りにしているのだ。著者は『吾輩は猫である』を滑稽小説にして近隣憎悪小説、また『道草』を心理小説にして近親憎悪小説と呼んでいるが、卓見である。

さらに本書では、妻である鏡子との“せめぎ合い”も読みどころの一つだ。神経質で夢見がちな夫とヒステリーの妻がいる環境から、なぜいくつもの名作が生まれたのか。「僕は世の中を一大修羅場と心得ている」という漱石自身の言葉が実に味わい深い。
(2012.10.10発行)


中川恵一『放射線のものさし~続・放射線のひみつ』 
朝日出版社 1260円

原発事故から1年半。関心が薄れてきた今こそ放射線について知るべきだ。著者は大事なのが「ものさし」、つまり程度問題だと言う。過度な恐怖心や根拠のない楽観論に左右されず、リスクと向き合った上で自己判断をしていく。まだ何も終わってはいないのだから。
(2012.10 .25発行)


宮本まき子『輝ける熟年~人生の総仕上げはこれからです!』 
東京新聞 1260円

家族問題評論家の著者が、東京新聞に連載した「まだイケる、もっとイケるぞ団塊・熟年世代」の単行本化。事例は的確、アドバイスは具体的だ。離婚よりリフォーム。お金持ちより友だち持ち。必要なのは「自分のことは自分の時代で始末をつける」の気概と覚悟だ。
(2012.09.25発行)


酒井順子 『この年齢(とし)だった!』 
集英社 1470円

あの有名人の「転機」は何歳の時だったのか。自分が年齢を重ねるにつれ、ちょっと気になる。ここに登場するのは26歳でブレイクしたマドンナ、47歳でジョン・レノンを失ったオノ・ヨーコ、51歳で亡くなった向田邦子など27人の女性だ。大人のための異色偉人伝。
(2012.09.30発行)



佐江衆一 『あの頃の空』 
講談社 1680円

大人の男なら誰にもある、忘れられない“あの頃”。それは少年時代であり、働き盛りの頃であり、また定年を迎えた日だったりする。本書は、人生の秋を生きる男たちの思いを、78歳になる著者が昭和という時代を背景に描く短編集である。

巻頭に置かれた「駅男」の主人公・瀬木は、定年間近の会社員だ。いつもの駅のホームで、ベンチに座ったままの男を見かける。気にしながら乗り込んだ電車の中で開いたのは、通っている創作講座の講師が書いた短編集だ。その一編「駅男」には、瀬木とよく似た人物だけでなく、ホームのベンチから動かない男までが登場していた。

また「リボン仲間」では、職探しの日々から逃避したストリップ劇場で、小さな救いを見つける53歳が描かれる。ファンからご贔屓のストリップ嬢に向かって投げられる鮮やかなリボン。そこには男たちの純情が込められていた。家族には秘密で通いつめるうち、自分の中の何かが変わっていく。

さらに巻末の「花の下にて」では、夫を失ってから長い年月を生きてきた79歳の妻の心情が、読む者の胸を打つ。夫婦とは何か。生きるとは何か。そして死とは何なのか。著者が現在の境地を垣間見せてくれるような味わいの秀作だ。
(2012.09.30発行)


椎根 和 『完全版 平凡パンチの三島由紀夫』 
河出書房新社 2940円

5年前の原著には担当編集者として三島の近くにいた著者にしか描けない、素顔の作家の姿が記されていた。そして出版後に書かれた文章、さらに「平凡パンチ」との関係を概観できる年表を加えて再編集したのが本書だ。特に映像への傾倒についての指摘が光っている。
(2012.10.25発行)


勢古浩爾 『いつか見たしあわせ~市井の幸福論』 
草思社 1470円

アランから福田恒存まで先達たちによる洞察を踏まえながら、あくまでも普通の人々の「しあわせ」を探る。万人に通用する幸福論などない。幸せは自分で決めるものである。いや、しあわせ探しを止めた時こそ幸福かもしれない等々、融通無碍にして等身大の幸福論だ。
(2012.10.18発行)


丸々もとお・丸田あつし『最新版 日本夜景遺産』
河出書房新社 2520円

夜景評論家と夜景写真家の最強チームによる夜景尽しの写真集だ。室蘭の測量山は7本の電波塔が色違いでライトアップ。大阪平野の光を一望する奈良・信貴生駒スカイライン。造船所がオレンジ色に輝く長崎・弓張岳展望台。その静謐な美しさは夜ならではの絶景だ。
(2012.10.30発行)


玄侑宗久 『中途半端もありがたい 玄侑宗久対談集』 
東京書籍 1470円

大震災をはさんで行われた10人との対談。五木寛之は「いかに老いを楽しむか」を語り、日本人独特の宗教感覚と「般若心経」の関係を養老孟司が探る。また山田太一が「曖昧さの効用」を説き、山折哲雄は科学の限界を見据えつつ原発を問う。静かで熱い言葉が並ぶ。
(2012.10.17発行)


瀬戸川宗太 「懐かしのテレビ黄金時代~力道山、『月光仮面』から『11PM』まで」 
平凡社新書 798円

テレビ番組の劣化が激しい昨今。ならば黄金期と呼べる時代には、どんな番組が流れていたのか。本書が扱っているのは昭和30年代から40年代半ばまで。「ジェスチャー」「七人の刑事」「てなもんや三度笠」「鉄腕アトム」「七人の孫」「ウルトラQ」など、懐かしい番組の数々が当時の記憶を呼び覚ます。

ドラマは90年代をピークに下降したと著者は言う。その原因の一つが、最大の競争相手だった映画界の衰退した際、テレビの活力も奪っていったという分析は新しい。番組づくりの基本は昔も今も人間である。
(2012.10.15発行)



建倉圭介 『東京コンフィデンス・ゲーム』 
光文社 2310円

コンフィデンス・ゲームとは信用詐欺のことだ。すべてを失った青年が、奇妙な仲間たちと共に仕掛ける大勝負である。

すべては母親の葬儀から始まった。怪しい男たちが現れ、「未回収の仏像代」として2千万円を要求してきたのだ。認知症気味の母親を騙した霊感商法だったが、息子の武史は逃れられない借金を背負っただけでなく、銀行員の職も失う。

唯一助けになりそうだったのが、亡き父親が創業者の一人だったIT企業の社長・水原だ。しかし、彼は武史と会おうとさえしない。また父親の株を母親から不当に安く買い取っていたこと、現在この会社を売ろうとしていることも判明する。さらに急死した父親の死因にも疑問があった。武史は企業買収を装った信用詐欺を思いつく。

ここからは、まるで映画「七人の侍」のような仲間探しが行われる。集まったのは本物の詐欺師、コミュニケーション不全のコンピュータ青年、子持ちの女性声優、そしてアル中の会計士などクセのある面々だ。必要な資金は、武史が自分の命を担保に準備する。

著者は企業買収の仕組みを開陳しながら物語を加速させていく。騙す者と騙される者の緊張感で一気に読ませるコン・ゲーム小説だ。
(2012.10.20発行)


升本喜年 『映画プロデューサー風雲録~思い出の撮影所、思い出の映画人』 
草思社 3045円

昭和29年、著者は松竹映画に入社してプロデューサー助手となる。以来、約30年にわたり映画製作の現場で過ごしてきた。本書は撮影所が“夢の工場”だった時代の回想であり、日本映画史の貴重な証言でもある。

まず、ここに描かれる松竹大船撮影所の内側が興味深い。助監督連中を引き連れて構内を闊歩する小津安二郎監督。その一方で、自己主張を始める大島渚など「松竹ヌーベルバーグ」の若手監督たち。「男はつらいよ」が当たる前の、素顔の渥美清。著者がプロデューサーとして関わった渋谷実監督と城戸四郎社長の意地の張り合い等々。名作は極めて人間くさい場所から生み出されていたのだ。

時代は変わり始め、やがて映画がテレビに圧迫されるようになる。そんな中で著者が手掛けたのが“歌謡曲映画”だ。都はるみの「アンコ椿は恋の花」を皮切りに、「霧にむせぶ夜」などを映画化していく。またコント55号と水前寺清子を起用したコメディや渡哲也などによる男性路線映画も成功させる。最後の作品は「蒲田行進曲」だった。

実は、多くのヒット作に携わりながら著者の名前は画面にクレジットされていない。“監督至上主義”の松竹らしさだが、それもまた遠い風景になってきた。
(2012.10.20発行)


藤巻秀樹 『「移民列島」ニッポン~多文化共生社会に生きる』  
藤原書店 3150円

ブラジル人が住民の半数という愛知県豊田市の団地。農家が迎えた外国人妻たちで賑わう新潟・南魚沼市。この国の外国人集住地域、そして都会の移民街で何が起きているのか。日経新聞編集委員が、実際に現地に住み込むことで明らかにした力作ルポである。
(2012.10.30発行)


佐藤親賢 『プーチンの思考~「強いロシア」への選択』 
岩波書店 2310円

「現代の皇帝」とも「非情な独裁者」とも呼ばれるプーチン。今、その政権にNOを突きつける中間層市民は、彼が実現した安定と経済成長の産物である。なぜそうなってしまったのか。共同通信モスクワ支局長の著者がその政治的選択と目指すところを探る。
(2012.10.24発行)


児玉 清 『人生とは勇気~児玉清からあなたへのラストメッセージ』 
集英社 1470円

昨年惜しまれつつ逝去した著者が遺したインタビューとエッセイだ。疎開の辛い記憶から役者としての矜持までを語っているが、随所に名言が並ぶ。「演じるとは複眼を持つこと」「いい文章は自分の中の何かを研ぎ澄ます」。最後まで本を愛し抜いた生涯だった。
(2012.10.31発行)



波多野 聖 『疑獄 小説・帝人事件』 
扶桑社 1575円

帝人事件は昭和9(1934)年に起きた大疑獄事件だ。帝国人造絹糸株式会社の株売買をめぐる贈収賄容疑で閣僚や高級官僚、財界人など16人が検挙され、当時の斎藤実内閣は総辞職に追い込まれた。本書はこの事件に材をとった、歴史ミステリーの力作である。

かつて敏腕ファンド・マネージャーだった「私」は、スイスの旧友を訪ねた際、奇妙な依頼を受ける。それは銀行の金庫に眠っていた帝国人絹の古い株券と日本語が書かれたノートに関する調査だった。

帰国した私は帝人事件について追い始める。それは経済事件であり、また政治事件でもあった。ノートに記されていたのは詳しい経緯であり、渦中にいた人物でなければ知り得ないことばかりだった。一体誰が何のために書いたのか。なぜスイスの銀行がこれを保管してきたのか。そして古びた株券は何を意味するのか。

本書の白眉はまるで事件当時にタイムスリップし、目撃しているかのような迫真性にある。昭和初期という激動の時代。帝人株を手に入れようとする者たちの暗闘。さらに「番町会」と呼ばれた財界人グループの栄光と蹉跌。やがて歴史の闇に消えていったはずの、戦前最大の疑獄事件の真相が明らかになっていく。
(2012.11.10発行)


和田 竜 『戦国時代の余談のよだん。』 
KKベストセラーズ 1575円

映画化された『のぼうの城』の著者による初のエッセイ集だ。全体は創作秘話と戦国武将をめぐるエピソードの2部構成である。歴史という、うるさ型マニアが多数存在するジャンルを扱いながら、この見事な肩の力の抜け方と独自の視点。やはり只者ではない。

小説『のぼうの城』は、映画用のシナリオとして書いた『忍ぶの城』(城戸賞受賞)が元になっている。作品の舞台は現在の埼玉県行田市にあった忍城(おしじょう)。レンタル自転車を漕ぎながらの取材は、ほとんど珍道中だ。周囲を湖に囲まれていたという忍城の跡を探すと、現在は中学校のグラウンド。石田三成が忍城を水に沈めるために造った堤防は、わずか数十センチの土手に成り果てていた。目の前の現実から400年前を想像するプロセスが可笑しい。

また武将たちを見るポイントもユニークだ。家康が敵を欺くために「馬鹿を演じていた」という説に対し、それは家臣たちによる単なる「深読み」に過ぎないと持論を展開。また秀吉はここ一番で捨て身になれる男であり、信長はモラルにおいて子供っぽい。さらに信玄は戦(いくさ)を面倒くさがっていたのではないかと推測する。いずれも既成概念にとらわれず、自身の感性で彼らと向き合った結果である。
(2012.11.10発行)


菊池省三・関原美和子 
『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡~生きる力がつく授業』
 
講談社 1260円

荒れていた学級を甦らせた小学校教諭、その1年間の記録である。教室の張り紙が象徴的だ。「無くしたい言葉」として、死ね、ばか、キモイなど。「あふれさせたい言葉」は、ありがとう、ごめんねなど。生徒たちに降りそそぐ“褒め言葉”が彼らの心を変えていく。
(2012.10.03発行)


三輪太郎 『大黒島』
講談社 1785円

中禅寺湖の島にある小さなお堂を守るのは、銀行を辞して僧侶となった私だ。ある日、かつての同僚が現れ昇進祈願をしていく。半年後、彼の願いは叶ったが、息子が事故に遭った。私は大黒天の力と意思を問う、ある賭けに出る。リアルと幻想を行き来する奇譚集だ。
(2012.10.18発行)


鈴木琢磨『今夜も赤ちょうちん』 
ちくま文庫 840円

東京、気仙沼、そしてソウルの居酒屋100軒が並ぶ、罰当たりな「呑兵衛コラム」集だ。読めば、自分がカウンターに座り、飲んで、食べて、しゃべっているような、悔しい錯覚に陥る。著者は毎日新聞編集員。3年前に出版された単行本の大幅加筆&再編集版である。
(2012.10.10発行)


柴田勝二 『三島由紀夫 作品に隠された自決への道』 
祥伝社新書 861円

三島由紀夫は、なぜ1970(昭和45)年11月25日に自衛隊市ヶ谷駐屯地に乱入し、自決という方法でその生を閉じたのか。著者は、その謎を解く鍵が三島作品の中にあると考え、独自の視点で分析していく。たとえば、「潮騒」に込めた新たな<日本>への希求。「金閣寺」における対米追随への批判。国家と天皇への絶望に満ちた「サド侯爵夫人」。そして三島の文学と行動を理解する上で重要な意味をもつ、「豊饒の海」4部作の第1巻「春の雪」。やがて読者は驚くべき三島の決意と、11月25日の意味にたどりつく。
(2012.11.10発行)



小路幸也 『スタンダップダブル!』 
角川春樹事務所 1575円

「東京バンドワゴン」シリーズで知られる著者の最新作は、故郷の北海道を舞台に描く、痛快にしてハートフルな高校野球小説だ。

旭川の神別高校野球部はこれまで目立つことのなかった弱小チーム。剛速球投手もホームランバッターもいない。ところが、今年はなぜか強い。新聞記者の絵里は彼らに注目する。試合を見ていると、外野に飛んだヒット性の当たりをことごとくキャッチしてしまう。センターを守る青山健一の見事な守備だった。しかも絵里の目には、健一がピッチャーで双子の青山康一の投球と同時に、ボールの落下点を目指して走り出しているように見える。その妙技には仲間しか知らない秘密があった。

チームを率いるのは、かつて甲子園球児だった田村監督だ。「僕もこのチームの一人です。それ以上でも以下でもありません」という田村は、選手たちの気持ちを第一に考えて戦術を組み立てていく。それは高校野球の常識やセオリーとは異なる独自のものだ。本書の読みどころの一つがそこにある。

やがて始まる地区予選。ひたすら甲子園を目指す選手たちには自分たちだけの理由があった。しかし、その理由と強さの謎を探ろうとする者が現れて・・・。
(2012.11.18発行)


鷲巣 力 『「加藤周一」という生き方』 
筑摩書房 1785円

加藤周一が亡くなって4年。現在のこの国の混迷ぶりを見る時、加藤がいたらどんな発言をし、どのような行動をとったろうと思う人は多いはずだ。著者は担当編集者として長く加藤に接し、著作集の編集にも携わった。本書では膨大な作品はもちろん、「研究ノート」など未発表資料も駆使しながら人間・加藤周一を解読していく。

ここに記された加藤の人物像は、その複雑性、多面性において、世評や通説を覆す。早熟にして晩成。理知的にして情熱的。合理と不合理、西洋文化と日本文化、思索と行動などが加藤の中に絶妙なバランスで並立していたのだ。

加藤を解く最初の手がかりは「詩歌」である。加藤は大切に思っていた妹や愛した女性たちへの気持ちを詩歌に込めた。次に著者は加藤を形作ったものとして祖父や父、師の渡辺一夫、友人である林達夫などを挙げる。特に「合わせ鏡」として林を配置することで、加藤の実相を浮かび上がる。

自身の「あり得たかもしれない人生」を、石川丈山、一休宋純、富永仲基の3人に託して語っていた加藤。読み進むにつれ、言葉・知識・信念・政治・美という、この稀有な知識人を表す5つのキーワードの意味が見えてくる。
(2012.11.15発行)


橋本 治 『橋本治という立ち止まり方』 
朝日新聞出版 1890円

2008年から今年にかけての時評エッセイ集。本をめぐる考察に始まり、難病による突然の長期入院、さらに昨年の大震災と、孤高の作家の怒涛の日々が綴られる。らせん階段を昇るような著者の思考の連なりが、思わぬ視界を与えてくれる。立ち止まって考えるべし。
(2012.10.30発行)


昨日、東海ラジオ「源石和輝モルゲン!!」で

2012年12月29日 | テレビ・ラジオ・メディア

いやあ、楽しかった。

って、昨日の東海ラジオ「源石和輝モルゲン!!」です。

これまでは自宅はもちろん、羽田空港のロビーとか、御殿場の山の中とか(笑)、いろんな場所から、電話出演をしてきたわけですが、今回は名古屋のスタジオにおじゃまして、話をさせていただきました。

朝5時からの打ち合わせに同席。

6時からの生放送をサブ(副調整室)で見学。

そして7時台の「モルゲン・ジャーナル」のコーナーに出演、という流れでした。






テーマが「2012年の放送メディア総括」ということだったので、テレビ、ラジオ、それぞれについて話をしたのですが・・・

後半のラジオのところで、突如、「オールナイトニッポン」のテーマ曲「ビター・スイート・サンバ」が流れてきた途端、もうただのラジオ小僧になってしまった(笑)。

昨日12月28日が糸井五郎さんの命日で、この日が「ディスクジョッキーの日」となっているそうで。

40数年前、信州の中学生だった頃、東京から流れてくる電波を必死でキャッチし、糸井さんたちの声や音楽を聴いていたことも思い出してしまった。

そして10日に亡くなった小沢昭一さんの「小沢昭一的こころ」も、ほぼスタートから聴いていたので、そんな話も。

さらに放送評論をしている者としては、つい最近、東海ラジオが制作したラジオドキュメンタリー「よみがえる話芸 節談説教(ふしだんせっきょう)」が、芸術祭大賞を受賞したことにも触れたいわけで。

まあ、そんなこんなで、途中からは嵐のような「モルゲン・ジャーナル」になり、その勢いで、コーナーが終わった後の放送にも、つまり9時の番組終了まで、そのまま参加させていただいてしまったのだ(笑)。




そうやってスタジオ内にいて、目の前で展開される生放送は、やはり見事なプロの仕事でした。

出演の源石さん、堀真理子さんはもちろん、サブで作業をしている幸山ディレクターをはじめとするスタッフの皆さんの、まさに“チーム・モルゲン”としてのパワーに拍手です。









そして、放送中、乱入者である(笑)私にも、あたたかいメッセージを送ってくださったリスナーの皆さんに、感謝です。

ありがとうございました。


*番組サイトに、この日の様子が写真入りでアップされています。
http://www.tokairadio.co.jp/program/morgen/journal/entry-7362.html



「週プレ」で、池上彰さんの選挙特番についてコメント

2012年12月29日 | テレビ・ラジオ・メディア

週刊プレイボーイの最新号で、選挙特番の池上彰さんが話題に。

この記事の中でコメントしております。


選挙特番の断トツMVP!
テレ東・池上彰の
“タブーなし”の毒舌ぶり!!

自民党の圧勝で終わった衆院選。テレビ各局はそろって選挙特番を放送したが、ここでも第三極ならぬ“第三局”が注目を集めた!

テレビ東京系の『TXN衆院選SP 池上彰の総選挙ライブ』である。キャスターを務めるジャーナリストの池上彰(あきら)氏が、中継で出演した各党代表者や候補者にズバズバ斬り込んだことから、ネットでは「池上さんから“池神さん”になった」と絶賛の嵐!

また、平均視聴率は8.6%(ビデオリサーチ調べ・関東地区)でTBSを上回り、テレ東“指定席”の最下位を脱出! トップのNHK(同17・3%)にこそ大きく離されたものの、それ以外の民放局に肉薄する健闘ぶりだった。

その内容を振り返ってみよう。

まず、始まって30分ほどで、早くも池上氏が刀を抜く。故・中川昭一元財務大臣の妻で、北海道11区の中川郁子(ゆうこ)氏が選挙運動中に土下座したシーンがVTRで流れると、超クールにバッサリ!

「いまだに土下座戦術があるんですね。21世紀に驚きです」

さらにスタジオで「議員のなり方」について解説した後、中継で出演した世襲議員の自民党・小渕優子氏にこんな質問を浴びせる。

「お父さんが国会議員じゃなかったら、政治家の道を選んでいましたか?」「世襲が家業になっているとの批判はあるが?」

祝勝ムードだった小渕氏も、これには苦笑いするしかない。

公明党・太田昭宏氏との中継後には、「組織」についての解説をし、普段テレビでは語られることの少ない公明党と創価学会の関係についても言及した。

「宗教団体が政治家を支援していることもあります。創価学会は872万世帯。これだけの人が公明党を支援しているので、大変な組織票を持っている」

その後、16歳の視聴者から寄せられた「公明党の候補者はみんな創価学会なんですか?」という質問にもズバリと回答。「創価学会の人が多いんですけど、なかには違う人もいます」

また、日本維新の会・石原慎太郎代表との中継では、

「例えば、今の日本の会計制度。こんなバカなことをやっているのは先進国で日本しかない。やっているのは北朝鮮とか、パプアニューギニアとか、フィリピンくらいなもの」(石原氏)

「北朝鮮と同じようにほかの国を呼ぶから“暴走老人”と呼ばれるんです」(池上氏)

「いや、北朝鮮は北朝鮮でしょ」(石原氏)

「違います。パプアニューギニアやフィリピンを、北朝鮮と同じに扱う言い方をされるから“暴走老人”と言われる」(池上氏)

「そうじゃないよ。人の話をちゃんと聞きなさいよ。同じような単式簿記をやっているという国ということで言ったの」(石原氏)

「それは失礼しました」(池上氏)
と丁々発止(ちょうちょうはっし)のやりとり。スタジオから拍手が起こった。

日本維新の会・橋下徹代表代行にも容赦なし。声を荒らげて、政党運営を会社経営にたとえる橋下氏に、「それらを比較するのは相当乱暴なことだと思いますが」と反論。火に油を注いだ。

なぜ、池上氏だけがここまで“やりたい放題”できるのか?

上智大学新聞学科・メディア論の碓井広義(うすいひろよし)教授に解説してもらった。

「昨年3月にテレビのレギュラー番組をすべて降板し、ジャーナリストとして足かせなく自由に取材ができるようになったのが大きい。番組を持っていたら、やはり各方面に気を使う部分はありますから。

テレビ東京の選挙特番に出続けているのも、一番しがらみがないからでしょう。もし、これが日本テレビだったら親会社の読売新聞の意向に従わなければいけない部分も出てくる」


来年の参院選も期待してます!

(取材・文/高篠友一  週刊プレイボーイ 2013.01.14号)





2012年 こんな本を読んできた(10月編)

2012年12月29日 | 書評した本 2010年~14年

「週刊新潮」の書評ページのために書いてきた文章で振り返る、この1年に読んだ本たちです。


2012年 こんな本を読んできた(10月編)

モーリス・ルブラン:著 平岡敦:訳『ルパン、最後の恋』 
早川書房 1365円

モーリス・ルブランが70年前に書いた「アルセーヌ・ルパン」の物語を“新作”として読める。それだけで十分事件ではないだろうか。ルブランが亡くなったのは1941年、真珠湾攻撃の年だ。以来、遺族のもとで封印されてきた幻の遺稿が、今年になってフランス本国で出版された。その日本語版が本書である。

舞台は1920年代のパリ郊外。ルパンの“最後の恋”の相手は、自殺したレヌエ大公の娘・コラだ。次の英国王候補オックスフォード公の婚約者である彼女は、後見人とも言える4人の男たちに囲まれて暮らしている。実はその中の一人、サヴリー大尉こそ正体を隠したルパンであり、その胸の内にはコラへの恋心が秘められていた。

やがてルパンに危機が迫る。原因は一冊の古い本だった。その時、彼を助けて大活躍するのが、日ごろ勉強を教えている貧しい子供たちだ。その関係はどこか明智小五郎と少年探偵団を思わせる。マリ・アントワネットの血を引く美女。3人の殺し屋。暗躍する謎の組織。緊張の中にユーモアを織り交ぜつつ、物語はクライマックスへと向かう。

巻末に置かれた、単行本初収録となるルパン・シリーズ第1作も貴重だ。
(2012.08.20発行)


柳 美里『沈黙より軽い言葉を発するなかれ~柳美里対談集』 
創出版 1470円

「話すことは、聴くことから始まる」と言う著者の、本書は初の対談集である。登場するのは映画監督・岩井俊二、漫画家・山本直樹、詩人・和合亮一、女優・寺島しのぶなど8人。いずれも著者が「本当に逢いたいひと」であり、規範や基準から外れている、もしくはそれに疑義を呈している表現者たちだ。

自らエロマンガと呼ぶ性を描く作品の一方で、連合赤軍事件を素材にした長編漫画『レッド』を描き続けている山本。「僕は小さい物語しか描けないし、描きたくない」というスタンスだからこそ、連合赤軍を「好きになったとか、嫌いになったとか、何を食ったとか、そういう目線」で語ることができるのだ。

映画に関して、「最初から人には習わないと決めていました」と岩井。高校時代から教育を拒否し、すべて独学でやると決めた少年は今、誰とも似ていない独自の美学に満ちた映像作品を撮っている。

寺島は歌舞伎の家に生まれた女の子という境遇の特異性を淡々と語る。父(七代目尾上菊五郎)との関係を「今でもすごく息苦しい」と告白する娘が、スクリーンの中では男たちと激しく渡り合ってきた。仕事の上では自分に妥協を許さない姿勢が著者と重なってくる。
(2012.08.30発行)


小玉 武 『佐治敬三~夢、大きく膨らませてみなはれ』 
ミネルヴァ書房 2940円

「『洋酒天国』とその時代」で開高健や山口瞳を擁した寿屋(現・サントリー)宣伝部とその時代を活写した著者。本書は彼らを生かし切った二代目社長、佐治敬三の生涯を追った人物評伝の力作である。ひたすら「個」を開くことに専心した男の80年を知る。
(2012.08.30発行)


白川浩司 「遥かなる『文藝春秋』」
小学館 1890円

前著「オンリー・イエスタデイ1989」は、著者の「諸君!」編集長時代を回想したものだ。本書では、同じく編集長を務めた「文藝春秋」を通じて向き合った人間と社会を語っている。特に興味深いのは細川政権誕生の舞台裏。それは現在の政治状況に繋がるからだ。
(2012.09.05発行)


新津 きよみ 『彼女の時効』 
光文社 1470円

殺人の時効は廃止されたが、死亡事故を起こしたひき逃げ犯は5年で時効だ。その理不尽さが遺族を苦しめ続ける。夫を奪われた久子が事故現場で出会った奇妙な女性もまた犠牲者だった。2人は助け合いながら、互いの運命を変えた事故の真相を究明していく。
(2012.09.20発行)



石持浅海 『扇動者』 
実業之日本社 1470円

テロ、もしくはテロリストと聞けば、多くの人は暴力という言葉を想起する。しかし、本書に登場するテロ組織は一風変わっている。何しろ血を流すことなく、国民の政府への不信感をあおることで政権交代を成し遂げようというのだから。

舞台は軽井沢に置かれた施設だ。宿泊と作業が可能な閉じられた空間である。集まったのは7人男女。コードネーム「春日」をはじめ、全員が普段は一般市民として生活しながら、裏で反政府活動に参加している。週末になると集合して作業を行うが、互いの本名や素性は知らないままだった。

このグループの役割は兵器開発。今回のミッションは「子供という切り口で政府を揺さぶる」兵器を作り出すことだ。白熱した議論が行われ、一旦休憩した後で夕食をとる。だが、女性メンバーの「千歳」だけが食堂に現れない。探してみると、彼女は部屋で殺害されていた。

施設は一種の密室。外部からの侵入者もいない。犯人は内部にいる可能性が高い。誰が、なぜ、どうやって実行したのか。しかも兵器の製作は中止することができない。そのリミットも迫る。本格推理の密室殺人とテロリズムという意外な組み合わせから生まれた、異色ミステリーである。
(2012.09.20発行)


佐々木美智子・岩本茂之 『新宿、わたしの解放区』 
寿郎社 2625円

破天荒な女性がいたものだ。北海道の根室に生まれ、高校を卒業して就職し、結婚。離婚してキャバレーに勤め、札幌ススキノ経由で上京。新宿でおでんの屋台を引き、日活撮影所で映画の編集者となる。次いで写真を学んだかと思うと新宿ゴールデン街でバーを開く。

時代は騒乱の60年代後半である。羽田空港闘争、三里塚闘争、日大闘争、そして東大安田講堂の攻防戦。著者はカメラを持って、また時には体ひとつで現場に立ち続ける。その最中に出会ったのが日大全共闘議長・秋田明大だ。2人は行動を共にする仲となる。

これだけでも十分に波乱万丈な人生だが、著者の真骨頂はここからだ。単身ブラジルへと渡り、アマゾンでレストラン・バーを開店。現地のマフィアから銃弾を撃ち込まれても怯まず、店を繁盛させる。やがて帰国するが、まるでトランジットの如く東京に滞在しただけで、今度は大島へと移り住むのだ。現在78歳。代々木で行われた反原発集会にも参加している。
 
ここには誰もが知る映画監督、俳優、作家など多彩な人物たちが登場する。しかもその多くが世を去った。本書が一人の女性の半生記であると同時に、貴重な昭和現代史となっているのはそのためだ。
(2012.09.20発行)
 

関川夏央 『東と西 横光利一の旅愁』 
講談社 2310円

横光利一の小説『旅愁』は、昭和11年に実行した欧州旅行での体験がベースとなっている。本書ではこの作品を軸に、横光の精神の軌跡をたどる。そこにあるのは戦前という時代であり、当時の日本社会であり、欧州文化である。明かされる作家と作品の関係が興味深い。
(2012.09.28発行)


五十嵐恵邦 『敗戦と戦後のあいだで~遅れて帰りし者たち』 
筑摩書房 1785円

敗戦により外地に取り残された日本人は686万人だ。やがて続々と引き揚げてきたが、大幅に遅れて帰国を果たした者もいた。たとえば『人間の條件』の五味川純平、横井庄一、小野田寛郎などだ。彼らの戦いと戦後を追うことで見えてくる戦争体験の意味。
(2012.09.15発行)


佐々木玲仁 『結局、どうして面白いのか~「水曜どうでしょう」のしくみ』
フィルムアート社 1785円

北海道のローカル番組でありながら、いつしか全国区の存在となった「水曜どうでしょう」。それはいかに作られ、人気の秘密はどこにあるのか。著者は気鋭の臨床心理学者。作り手たちへのインタビューを手掛かりに、この空前絶後の番組を分析していく。
(2012.09.14発行)


なぎら健壱 『町の忘れもの』 
ちくま新書 998円

著者がフォークシンガーであることを知らない世代も増えてきた。テレビの「タモリ倶楽部」で居酒屋巡りをしている口ひげ男は、ただのオジサンではない。下町探索をさせたら日本一という大変な人物なのだ。

本書は新聞に書き溜めた、いわば「懐かしいもの」大全である。共同アパート、コンクリートのごみ箱、リアカー、原っぱ、銭湯の番台、手動式エレベーター、デパートの屋上遊園地などなど。失われたもの、消えゆくものへの愛着と感謝を込めたエッセイに唸り、著者自らレンズを向けた写真にこころ和ませる。
(2012.09.10発行)



本城雅人 『希望の獅子』 
講談社 1785円

80年代初頭、横浜に3人の高校生がいた。少しワルの志龍(ジーロン)、運動では誰にも負けない亮仔(リャンジャイ)、そして日本人の母親をもつ将一。中華街を自分たちの庭のように駆け回っていた彼らの友情の証が中国式獅子舞だ。互いの信頼がなければ不可能な技を軽々と決める最強チームだった。ところが、ある日を境に3人の姿が消えてしまう。そして歳月だけが中華街を通り過ぎた。

2012年、横浜で男の死体が発見される。亮仔だった。捜査にあたるのは県警の若手である山下と、加賀町署のベテラン刑事・樋口だ。30年もの間、消息不明だった男の出現。どこでどう暮していたのか。誰になぜ殺されたのか。さらに残りの2人、志龍と将一はどうなったのか。生きた亮仔を最後に目撃したのは、かつての彼らを彷彿とさせる獅子舞の練習に励む高校生だった。30年という時間を隔てて、過去と現在とが交錯していく。

3年前の松本清張賞候補作『ノーバディノウズ』以来、斬新な野球小説で評価を高めてきた著者。書き下ろし長編となる本書は、時間軸だけでなく日本と中国にまたがるスケールの大きな物語だ。裏社会の闇と恋と友情。慟哭の結末が待っている。
(2012.09.27発行)


松岡正剛 『松丸本舗主義~奇蹟の本屋、3年間の挑戦。』 
青幻舎 1890円

東京駅北口近くにある丸善丸の内本店。その4階の一角に、“書店内書店”とでも言うべき「松丸本舗」が出現したのは3年前だ。まず驚かされたのは書棚。変形エスカルゴ型、もしくはチェコのプラハ的迷路といった風情で、うねるような書棚が延々と続いていた。

また、並んでいる本たちも、一般的な分類ではなく、あるキーワードやイメージによって集められ、関連づけられていた。それはまるで松岡正剛という“知の司祭”の頭の中か、個人図書館に迷い込んだようなスリルと興奮を与えてくれた。

さらに「本は三冊で読む」という著者の読書コンセプトを具現化すべく、ジャンルやサイズや選者の異なる三冊がバンドでくくられ、売られていた「三冊屋」など、多彩なコーナー企画も刺激的だった。

その「松丸本舗」が幕を閉じた。65坪、各1冊、10万種、289棚、1074日間。本書は多くの人に支持され、惜しまれながら消えていった稀代のリアル書店の記録である。選書の仕方、本棚の在り方と並べ方をはじめ、「歴史や人生の中のつながりとして、本を見る」ことの意味が解き明かされている。書店としては存在しなくても、松丸本舗が深めた「本の持つ極上の愉悦」は今後も消えない。
(2012.10.23発行)


大橋博之 『SF挿絵画家の時代』 
本の雑誌社 1890円

こんなアプローチがあったのか、と感嘆すべき一冊。SF小説を読む者の想像力を刺激する挿絵画家たちの列伝である。小松崎茂、真鍋博、金森達、深井国など、名前と共に画風の記憶が甦る71名が並ぶ。原画はもちろん印刷という“公開”の形も大切にした人たちだ。
(2012.09.25発行)


木村伊兵衛ほか 『昭和の記憶~写真家が捉えた東京』 クレヴィス 2520円

名写真家たちが伝える昭和という時代、街、そして人。昭和12年の銀座、千人針の風景は土門拳だ。田沼武能が撮ったのは街頭テレビの前に並ぶ無数の笑顔。昭和30年代のサラリーマンの表情は長野重一である。モダン東京から高度成長に至る34年間のドキュメントだ。
(2012.09.20発行)


逢坂剛・川本三郎
『さらば愛しきサスペンス映画』
七つ森書館 2310円

「あらゆる映画や小説はサスペンスである」。巻頭に掲げられた逢坂の名言だ。またDVDや衛星放送も大いに活用すべし、と川本。ストーリー、監督、そして女優の魅力もサスペンス映画の楽しみだ。同世代の2人が語りつくす名作、傑作、異色作の数々に圧倒される。
(2012.10.05発行)



木内 昇『ある男』
文藝春秋 1680円

舞台は明治時代初期。諸藩がそれぞれ“国”だったものが、いきなり中央政府が統括する国家となった。そこに生じる無理や矛盾を背負わされたのは地方の人々だ。直木賞作家が4年ぶりに送り出すこの短編集は、7人の無名の男たちを通して描く歴史の軋みである。

巻頭の「蝉」では、南部の銅山で働く金工(かなこ・鉱山労働者)が東京へと向かう。政府の要職にある井上馨に会うためだった。男たちの生きる場である銅山を、自らの利権のために奪う極悪人。男が命がけの直訴の果てに見たものは。

「実は、紙幣を、造っていただきたいのです」と懇願されるのは、引退を決意した老細工師だ。相手は新政府の転覆を企てる一党。依頼された贋金はその軍資金となるという。男は彼らを指導しながら仕事を進めるが、職人としてどうしても譲れない一線があった(「一両札」)。

他に、中央からやってきた県知事と地元住民との軋轢に翻弄される地役人(「女の面」)。福島県令・三島通庸が押し付ける重い税負担に怒る農民たち。それを抑える男はかつての京都見廻組だった(「道理」)。いずれも時代の変わり目に遭遇した男たちの悲惨にして滑稽、重厚にして軽妙な物語が楽しめる。
(2012.09.30発行)


園 子温(その・しおん)『非道に生きる』
朝日出版社 987円

著者は『冷たい熱帯魚』『ヒミズ』などの作品で知られる映画監督。本書は自らの生い立ちから演出法までを語った“自伝的映画論”ともいうべき一冊である。

著者によれば、映画には2種類ある。一つは観客の政治や社会、人生に対する欲求不満を解消する「満足させる映画」。そしてもう一つが、人を怒らせ苛立たせ、感情を逆なでして緊張感を生み出す「覚醒させる映画」だ。自身はその両方を撮っていきたいと言うが、実際には後者の作品が圧倒的に多い。たとえば『自殺サークル』では、新宿駅のホームで女子高生54人が集団飛び込み自殺をするシーンが観客の度肝を抜いた。

また最近の主流である「製作委員会方式」の映画作りを嫌い、リサーチやマーケティングなどから作品を発想することを禁じ手としている。その結果、最低最悪の映画になっても、自分の欲望を映画に焼きつければよしとする。さらに「これは映画ではない」と非難されようと、その「ではない」部分を極北まで突き詰めるのが面白いと言うのだ。自分の本音で映画を撮る監督が少ない中では異色中の異色。腹が据わっている。

最新作は原発事故に翻弄される家族を描いた『希望の国』。目指しているのは世界標準の映画だ。
(2012.10.05発行)

一橋文哉『となりの闇社会~まさかあの人が「暴力団」?』PHP新書 798円

一読して驚くのは、普通の市民のすぐ近くに暴力団がいるということだ。企業どころか震災や生活保護制度を利用して行政にも食い込んでいる。さらに「手渡し詐欺」という新手で家庭にまで触手を伸ばす。「人間の欲望あるところに闇はある」の言葉がリアルだ。
(2012.10.02発行)


孫崎 享『アメリカに潰された政治家たち
小学館 798円

『戦後史の正体』で注目された著者の最新刊。日本の主要な政治家たちがいかにしてアメリカを激怒させ、その報復を受けてきたか。登場するのは岸信介、鳩山一郎、田中角栄、小沢一郎など。“対米追随”の総決算ともいうべき現政権までの流れが一目瞭然だ。
(2012.10.02発行)


大野左紀子『アート・ヒステリー』
河出書房新社 1575円

アートのヒストリーではない。「これこそアート」「いや、こっちだ」と叫び合う様相を、元アーティストの著者はヒステリーと呼ぶ。民主主義と資本主義と美術教育が生んだ現代のモンスターの正体とは何なのか。キーワードは「父」「傷」そして「異物」だ。
(2012.09.30発行)


斎藤貴男 『私がケータイを持たない理由』 
祥伝社新書 819円

電車内の光景を見よ。誰もが掌中の機器を見つめ、指先で画面に触れ、その呆けたような表情を隠そうともしない。ケータイは利便性と引き換えに多くの代償を求める。対面している相手を無視。交通事故を誘発。監視社会の助長。またいじめの道具でもある。

そんな指摘を並べる著者だが、ケータイを憎んでいるのではない。ケータイによって露呈される人間の醜さ、その本性を見て、「こんな道具を使う資格があるのか」と憤っているのだ。未熟な現代人にもできそうな、「休ケータイ日」を試してみたくなる。
(2012.09.30発行)


名古屋といえば、SKE!?

2012年12月28日 | テレビ・ラジオ・メディア

今回の名古屋は、高校生の息子と2人旅です。

ずっとSKE48のファンである彼は、年内最後の公演のチケットを、
抽選で奇跡的に入手。




地下鉄の栄駅、8番出口から外へ出ると、まんまSKE劇場のある
SUNSHINE SAKAEだ。





「祝 SKE48 NHK紅白歌合戦 単独出場!」の垂れ幕。

この「単独出場!」の文字に込めた思いが泣かせる(笑)。

やはり、地元ですから。




2012年 こんな本を読んできた (9月編)

2012年12月28日 | 書評した本 2010年~14年

「週刊新潮」の書評ページのために書いてきた文章で振り返る、この1年に読んだ本たちです。


2012年 こんな本を読んできた(9月編)
遠藤武文 『天命の扉』 
角川書店 1785円

乱歩賞作品『プリズン・トリック』の著者による、社会派密室ミステリーだ。

長野の県会議員が狙撃されて死亡する。現場は県議会場という密室。突然起きた停電の最中だった。また被害者の上着のポケットから短歌が書かれた紙片が見つかる。そこには「善光寺」「恨み」などの文字があり、県警捜査一課の城取は自分が逮捕し、後に死刑となった竹内という殺人犯のことを思い浮かべる。

当時、竹内は裁判で無実を訴え、アリバイとして「俺は善光寺の本尊を盗んでいた」と説明した。だが本尊は絶対秘仏であり非公開。住職でさえ見たことがなく、竹内の主張は検証されなかった。城取は県議殺害と竹内との関連を調べ始める。

事件の直前、県知事・諏訪部大樹のツイッターにも同じ短歌が書き込まれていた。深く気にしなかった諏訪部だが、自分のすぐ近くにいた人間が射殺されたことで短歌の意味を考える。すると今度は「いろは歌」が印字されたFAXが届く。それは明らかに冤罪を訴えるメッセージだった。

19年前に起きた冤罪疑惑事件と密室殺人。2つの謎を提示した上で、著者は鮮やかな手並みで読者を物語世界に誘導していく。知事と刑事。2人の男の生き方も深い印象を残す。
(2012.07.30発行)


清水勉・桐山桂一 『「マイナンバー法」を問う』 
岩波ブックレット 525円

今年2月、政府が衆議院に提出した「共通番号制法案」。国がすべての国民と定住外国人に生涯不変の番号をつけ、個人データのマッチングを容易にしようというものだ。本書では弁護士と新聞解説委員による反対論が展開されている。

政府が説明するこの制度の目的は、①公平な税制の実現、②真に必要としている人への社会保障の提供。そのために正確な所得を把握する必要があり、社会保障と税に共通する個人識別番号が有効と言うのだ。

しかし、実際には番号制を採用しても「正確な所得把握はできない」と著者。自営業者の個人的消費と事業用の区別は困難で、それをチェックする税務署職員も足りない。また「真に手を差し伸べるべき者」がどのような人たちで、いかなる「給付」を保障するのかも定かではない。それどころか法案の目的規定には、公平な税制の実現も社会保障の充実も書かれていない。つまり法律の運用がどのような方向へ進むのかは不明なのだ。

その上、プライバシー保護への配慮は実に不十分。他人に見せることが前提の個人識別番号であり、「なりすまし」も生みやすい。便利・迅速と引き換えの多くの危険性を本書は明らかにしている。
(2012.08.07発行)


佐藤 優 『読書の技法』 
東洋経済新報社 1575円

副題は、誰でも本物の知識が身につく熟読術・速読術「超」入門。膨大な読書量を支える技と大人の学び方を伝授している。中でも高校の教科書・参考書を活用した基礎知識獲得法はすぐにも実践可能だ。根底にあるのは「人生の時間は有限」という強い覚悟である。
(2012.08.07発行)


福田和代 『ZONE(ゾーン)~豊洲署刑事・岩倉梓』 
角川春樹事務所 1785円

かつては「埋立地に工場と倉庫が並ぶ町」だった東京江東区豊洲。大規模な再開発で、今や高級住宅街と化している。そんな古さと新しさの混在する地域を舞台に、生活安全課に所属する女性刑事の活躍を描く。普通の女性が追う“日常的事件”は警察小説の新機軸だ。
(2012.08.07発行)


土橋 正 『文具上手』 
東京書籍 1575円

新聞記者が愛用するB5サイズノート。空間デザイナーが頼りにするペンと紙。文具販売のプロが使っている万年筆。12人の仕事師が登場し、その文具術を開陳する。共通するのは「こだわらないというこだわり」。文具は仕事の武器ではなく、親しい友人だとわかる。
(2012.08.03発行)



朝倉かすみ 『幸福な日々があります』 
集英社 1470円

不思議な味わいの長編小説だ。ここにはヒロインである「わたし」が2人いる。結婚したばかりの幸福な時代の「わたし」と、夫と別れようとしている10年後の「わたし」が交互に登場するのだ。

森子は46歳の専業主婦。3つ年上の夫は大学教授だ。見た目も穏やかな性格も、森子を大
事にする気持ちにも文句はないはずだった。しかし、森子は突然宣言してしまう。親友と
してはすごく好きだが、「夫としてはたぶんもう好きじゃないんだよね」と。離婚に応じよ
うとしない夫を家に残し、ひとり暮しを始める。

10年前に結婚した時も言いだしたのは森子のほうだ。どこか安心したかったからだが、望み通りの生活に入ってからも時々心が揺れた。たとえば夫は何でも習慣化する。森子は単純作業は好きだが習慣は苦手だ。「しなければならない」という雰囲気、ルールめいた感じが窮屈なのだ。他人には贅沢と思われそうだが、森子は誰にも言わなかった。

物語は10年を行ったり来たりしながら、ゆっくりと進んでいく。連載時のタイトルは「十年日記」であり、心の動きがまさしく詳細に書き込まれている。人はなぜ人を好きになり、なぜそうではなくなっていくのか。夫婦の深層にじわりと迫る。
(2012.08.10発行)


孫崎 享 『戦後史の正体 1945-2012』 
創元社 1575円

本書の主旨は極めて明快。戦後の日本は、常に存在する米国からの圧力に対して、「自主」路線と「対米追随」路線の間で揺れ動いてきたというのだ。しかも著者は外務省国際情報局長や駐イラン大使を歴任した、日本外交の内幕を知る男だ。政治家や官僚がすべて実名で登場する刺激的な一冊となっている。

記述は編年体であり、敗戦・占領の時代から始まる。この頃は吉田茂の「対米追随」路線と、重光葵の「自主」路線が激しく対立した。重光は当然のごとく追放。また自主路線派だった芦田均もわずか7カ月で首相の座を追われた。

そして冷戦の開始、朝鮮戦争の勃発により、米国の対日政策が変化する。日本に経済力をつけさせ、その軍事力も利用しようと図る。やがて安保条約が結ばれたが、それはひたすら米国側に都合のいい内容だった。講和条約は安保条約成立のためであり、その安保条約は米軍を日本に駐留させる行政協定を結ぶために必要だったのだ。

「日本の最大の悲劇は、占領期の首相(吉田茂)が独立後も居座り、占領期と同じ姿勢で米国に接したことにある」と著者は言う。その後の日本がいかに敷かれたレールを走ってきたかが、はっきりとわかる。
(2012.08.10発行)


布施鋼治 『東京12チャンネル運動部の情熱』 
集英社 1575円

東京12チャンネルは現在のテレビ東京。かつては「番外地」などと揶揄される弱小放送局だった。その運動部で、ローラーゲーム、女子プロレス、キックボクシングなど、スポーツ放送の地平を切り開く仕事に取り組んだ男たちがいた。智恵と汗が光る放送史だ。
(2012.07.31発行)


ニュース企画:編集 『テレビ60年 in TVガイド』 
東京ニュース通信社 7500円

来年、放送開始から60年を迎える日本のテレビ。A4サイズで1.7㌔の重さをもつ本書は、老舗テレビ雑誌の特集記事と写真の集大成だ。懐かしい番組はもちろん、各時代の世相・流行・風俗にも言及。「テレビは何を映してきたか」を伝える、貴重な資料となっている。
(2012.08. 08発行)


三浦しをん 『お友だちからお願いします』 
大和書房 1470円

辞書編纂の世界を描いた小説『舟を編む』で本屋大賞を受賞した著者の最新エッセイ集だ。一人暮しの中での発見。電車で聞いた会話。両親や祖母とのエピソード。本人の言う「ゆるーい日常」が独自の視点と軽妙な文体で綴られている。苦笑い必至の“しおんワールド”。
(2012.08.20発行)


清水良典 『あらゆる小説は模倣である。』 
幻冬舎新書

著者は『2週間で小説を書く!』の著書もある文芸評論家。本書は類を見ないほど過激な小説論である。何しろ「巧みな模倣」を伝授しようと言うのだから。

著者は小説における模倣を3つに分類する。①自分の独創だと思い込んだ無知な模倣。②他の作品をなぞったことを見破られる下手な模倣。③元の作品を土台に別個の作品を仕上げる巧みな模倣。

その上で、小説をオリジナリティの呪縛から解き放とうとするのだ。いわく、「あらゆる小説は、何ものかからの模倣あるいはパクリである」。果たして単なる逆説なのか。
(2012.08.20発行)



小林信彦 『四重奏 カルテット』 
幻戯書房 2100円

1950年代末から60年代の初頭、まだ推理小説が軽視されていた時代。江戸川乱歩は推理小説誌「宝石」の編集に自ら携わるだけでなく、さらに新雑誌まで生み出そうとしていた。それが「ヒッチコック・マガジン」であり、創刊編集長に抜擢されたのが当時まだ26歳の著者である。

本書は事実に基づいた4つの中編小説で構成されている。「半巨人の肖像」で描かれる作家・氷川鬼道のモデルは晩年の江戸川乱歩。著者と重なる主人公の今野が目にするのは、創作活動とは勝手の違う、出版というビジネスに悪戦苦闘する老大家の姿だ。

「男たちの輪」は、本書の中で最も私小説的色合いの濃い問題作である。居心地の悪さを自覚しながら、厳しい予算と人材で新雑誌を切り盛りする今野。仕事上のつながりを持つ編集者や翻訳家とのやりとりにも神経を使う日々だ。やがて今野への裏切りであり侮辱でもある事件が起きる。小説とはいえ、もちろんモデルは実在しており、読む者は思わず息をのむ。しかし、ここには自らも含めた人間の性(さが)や業を描こうとする著者の覚悟がある。

残りの2編を合わせたカルテットの響きは、江戸川乱歩という希有な才能とその時代へのレクイエムだ。
(2012.08.28発行)


天野祐吉:編 『クリエイターズ・トーク~13人のクリエイティブ講義』 
青幻舎 1575円

元「広告批評」編集長で現在はコラムニストの天野祐吉が聞く、クリエイティブ業界最前線。時代を映し、社会を動かす広告はいかに生み出されるのか。13人のトップランナーたちがその秘密を明かしている。

「前提を疑う」ことから始めると言うのはユニクロなどを手がける佐藤可士和だ。テレビや新聞といったマスコミ4媒体に限らず、環境を含めあらゆるものをメディアにしてしまう。常に相対的にものを見ており、絶対化しない。またタワーレコードの「NO MUSIC,NO LIFE」などで知られる箭内道彦は、CMと番組の垣根を揺さぶるだけでなく、CMの型そのものを壊そうと試みる。天野がそこに見るのはジャーナリズム精神だ。

中央酪農会議のキャンペーン「牛乳に相談だ。」は瀧本嘉光の代表作のひとつ。中高生の牛乳離れを懸念しての取り組みであり、クリエイターが企業のコンサルタント役であることを実証した1本だ。そこでは「企業語」を「生活語」へと翻訳する作業が行われている。

他にもコピーライターの大御所・大貫卓也(日清カップヌードル「マンモス」篇)や、ベテランCMディレクターの中島信也(サントリー「伊右衛門」)などが並ぶ。広告に学ぶ発想と方法の教科書である。
(2012.08.01発行)


片岡義男 『洋食屋から歩いて5分』 
東京書籍 1365円

この数年間に書かれたエッセイが33編。若い頃、原稿書きで長居した神保町の喫茶店。当時働いていた女性との再会はまるで掌編小説のようだ。かつて、「お前、小説を書けよ」と著者の背中を押してくれたコミさんこと田中小実昌も登場する。珈琲の香り漂う一冊だ。
(2012.08.01発行)


木村英昭 『検証福島原発事故 官邸の100時間』 
岩波書店 1890円

朝日新聞連載「プロメテウスの罠」の中で、特に衝撃的だった「官邸の5日間」。それに加筆し書き下ろしたのが本書である。密室内の出来事を可能な限り実名で描き出している。浮き彫りになるのは危機管理を担う人とシステムの脆弱さだ。原発再稼働の今こそ必読。
(2012.08.07発行)


森永博志 『自由でいるための仕事術』 
本の雑誌社 1680円

働き方とは生き方でもある。また就職と就社はイコールではない。本書に登場するのは看板制作、宮大工など12人の職人だ。組織や誰かに縛られることなく、自分の手足を使い、夢中になれる仕事をしている。彼らが語る言葉は自然で、どこか自由な風が吹いている。
(2012.08.25発行)


工藤美代子 『絢爛たる悪運 岸信介伝』 
幻冬舎 1785円

1960年、南平台の自邸に押しかけた「安保反対」のデモ隊を、道路から奥まった縁側で、5歳の孫を抱きながら眺めている首相。それが岸信介であり、孫はもちろん安倍晋三だ。本書は「妖怪」「巨魁」「国粋主義者」と呼ばれてきた稀代の政治家の軌跡と、その実像に迫る長編ノンフィクションである。

本書で描かれる岸の人生を追っていくと、昭和期前半という時代の流れと一人の官僚の歩みが、あまりに呼応していることに驚かされる。そこには的確な状況判断と、タイミングを計る天性の才が見える。

特に岸が取り組んだ「計画経済による満州経営」の内実は興味深い。いわゆる統制経済が、見方によって右翼にも左翼にもなることがわかるからだ。またこの両面性は岸自身にも通じている。右と左、柔と剛、繊細と豪胆など、相反する要素を併せ持つ政治家だった。岸においては「右翼的でタカ派の代表格」といったレッテルや、ステレオタイプな尺度など無意味だと著者は見る。

「場合によっては動機が悪くても結果がよければいいんだと思う。これが政治の本質じゃないかと思うんです」とは岸の言葉だ。彼が生み出した“結果”の延長上に、今もこの国はある。
(2012.09.10発行)



冲方 丁 『光圀伝』 
角川書店 1995円

『天地明察』の著者による時代小説第二弾。誰もが知る「水戸黄門」ではなく、知られざる水戸光圀の生涯を描いた力作長編である。

物語は光圀が家老・藤井紋太夫を殺害する場面から始まる。その理由が波乱に富んだ73年の軌跡をたどることで見えてくる仕掛けだ。水戸徳川家の三男として生まれながら、父・頼房によって世子(跡継ぎ)と決められる。「お試し」と呼ばれる苛烈な試練を課す父。本来は藩主となるはずの強くて聡明な兄。少年は2人の男の影響下で成長する。

青年となり、傾奇者として喧嘩や夜遊びなど奔放な生活を送る光圀。そんな中、晩年の宮本武蔵と運命的な出会いを果たす。詩歌や学問に目覚め、猛烈な勢いで知識を吸収しながらも、常に「なぜ自分が世子か」を問い続けた。

その後、親しい者たちに先立たれた光圀は歴史書の編纂に尽力する。「どれほどのものが失われ、奪われようとも、人がこの世にいたという事実は永劫不滅だ! それが、それこそが、史書の意義なのだ!」という叫びは、「この世は決して、無ではない」ことを知った喜びの声でもあった。自らの「不義」と格闘を続け、やがて「大義」に殉じようとする男の人生は、読む者にとっても発見である。
(2012.08.25発行)


スタンリー・バックサル、ベルナール・コマーン:編  井上篤夫:訳
『マリリン・モンロー 魂のかけら~残された自筆メモ・詩・手紙』
 
青幻舎 2310円  

「私にはちゃんと感情がある」。手帳に記された走り書きの文字は本人のものだ。女優としての自分と素顔の自分。その落差を埋めるかのような言葉には、他人を意識しない生々しさがある。演出家の元に保存されていた遺品の中から、没後50年にして初公開された心の声。
(2012.10.01発行)


長谷川晶一 『私がアイドルだった頃』 
草思社 1890円

元アイドルたちの「今だから言える」インタビュー集。語るのは少女隊の安原麗子、セイントフォーの濱田のり子、元祖チャイドルの吉野紗香など13人だ。不幸のデパートのような生い立ち。人格無視の現場。壮絶ないじめ。そんな体験も大切にする彼女たちが眩しい。
(2012.08.31発行)                                                                                                                               

石井光太:編 
『ノンフィクション新世紀~世界を変える、現実を書く。』
 
河出書房新社 1680円

ノンフィクションの現在を知る格好のガイドブックだ。森達也、高木徹らによる連続講座。柳田邦男や鎌田慧などが選ぶベスト30。さらに田原総一朗、猪瀬直樹へのインタビューも並ぶ。事実の奥に潜む真実をいかにして掘り起こすか。ペンの力、活字の力は侮れない。
(2012.08.30発行)


小熊英二 『社会を変えるには』 
講談社現代新書 1365円

今、この国はどこにいるのか。なぜそうなったのか。これからどうしていったらいいのか。本書はそんな切実な「問い」に対する「答え」ではない。それを考えたり討論するための「たたき台」だと著者は言う。であるなら、最良のテキストブックの一つである。

まず戦後の歩みを確認した上で、社会運動を歴史的・思想的に解説していく。さらに民主主義や自由主義の価値や限界を考え、「社会を変える」ことがいかにすれば可能かを探るのだ。運動を人間の表現行為、社会を作る行為として捉える視点が多くの示唆に富む。
(2012.08.20発行)




名古屋といえば、名月(?)

2012年12月27日 | 日々雑感


アップにしたら、こんなでした