碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

ドラマ『監察医 朝顔』ならではの「味わい」

2020年11月30日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

『監察医 朝顔』にある、

このドラマならではの「味わい」とは!?

 

「女優・上野樹里」の新たな代表作とも言うべき『監察医 朝顔』(フジテレビ系)。第2シーズンとなる今期、このドラマが持つ独特の「味わい」が、より強化されています。

ドラマの出演者にとって、ヒット作は嬉しいものですが、罪な部分もあったりします。

たとえば米倉涼子さんといえば、やはり『ドクターX』の大門未知子が浮かんできます。代表作であり、役名で呼ばれることは演者にとって名誉でもあるのですが、反面、イメージの固定化を嫌う人も少なくありません。

一時期、上野樹里さんを見ていると、『のだめカンタービレ』の野田恵と重なってしまい、困ったことがありました。

例を挙げれば、NHK大河ドラマ『江(ごう)』でしょうか。怒る時も、悲しむ時もやけに大声で、「江姫(ごうひめ)」なのか、「のだめ」なのか、よく分からなくなったりしたものです。

もちろん最近はそんなことは起きません。特に昨年放送された『監察医 朝顔』は、新たな代表作と言っていいほど、上野さんの底力とポテンシャルを感じさせてくれました。

というわけで、今期が第2シーズンとなる『監察医 朝顔』です。

主人公の万木朝顔(上野樹里)は、興雲大学に所属する法医学者。警察が持ち込んでくる遺体を調べ、死因を究明するのが仕事です。

ただし、同じ法医学ドラマでも、死因を探ることが犯人の逮捕や事件の解決に直結していた『アンナチュラル』(TBS系)などとは、その趣(おもむ)きが少し異なっています。

ある朝、イベント会場の外で参加者がパニック状態となり、群衆雪崩で死傷者が出ました。警察は死亡した青年の痴漢行為が事故原因と考えて起訴しようとします。駆けつけた青年の母親は、息子の死を嘆くより先に、被害者の家族に土下座して詫びるしかありませんでした。

しかし朝顔たちは、青年の死因がエコノミークラス症候群だったことをつきとめ、彼の無実を証明するのです。

また、野球少年の変死体が見つかった際には、警察が金属バット殺人を疑う中、フェンスにはさまったボールを取ろうとして感電死したことを明らかにします。そのおかげで、事故の責任が自分にあると思って苦しんでいた、少年の弟が救われました。

朝顔たちの仕事は、死者たちの声なき声を聞き、彼らの「生きた証(あかし)」を取り戻すことです。

解剖を始める前、朝顔は遺体に向って「教えてください、お願いします」と静かに声をかけます。まるで生きている人に対するような振る舞いであり、彼女の人物像を象徴しているのですが、背景にあるのは辛い体験です。

原作漫画では、朝顔の母親は旅行先の神戸で、阪神・淡路大震災に巻き込まれて亡くなっていました。ドラマでは、それを実家に帰省中の東日本大震災に置き換えています。

しかも、母・里子(石田ひかり)の遺体は見つかっておらず、刑事である父の平(たいら 時任三郎)は、現在も休日に三陸まで出かけて探し続けているのです。最近は、父の代りに朝顔が北へ向かうようになりましたが。

そんな父、朝顔、夫の桑原真也(風間俊介)、娘のつぐみ(加藤柚凪)という四人家族の日常が、仕事場である法医学教室や警察と同じような比重で、とても丁寧に描かれているのが、このドラマの特色です。

「法医学ドラマ」であると同時に、「震災後」を生きる「家族のドラマ」でもあること。そこから物語や人物に奥行が生まれ、毎回、見終わるごとに、「何か」が見る側に残っていく。それが『監察医 朝顔』ならではの「味わい」であり、魅力ではないでしょうか。

家族とは元々、永遠のものではありません。いわば「期間限定」の存在です。親がだんだん老いていき、やがて別れの時が来たり、成長した子どもが巣立っていくのも自然なことです。

しかし、事件や事故による、家族の「理不尽な死」は違います。本人にとっても、残された者にとっても、納得のいかない悲劇です。辛い体験をした家族の思いを共有し、法医学者という立場だけでなく、一人の人間として寄り添っていく。朝顔はそんなヒロインです。


朝ドラ『エール』が描いた、怒涛の「ラスト2週間」

2020年11月29日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

朝ドラ『エール』が描いた、

怒涛の「ラスト2週間」の意味とは!?

 

NHKの連続テレビ小説『エール』が幕を閉じました。コロナ禍の中の制作・放送は大変だっと思いますが、しっかり完走したスタッフ・キャストに、まず拍手です。特に前週と最終週の「ラスト2週間」の展開は見事でした。

以前、ドキュメンタリーの取材で旅客機の機長さんに話を聞いたことがあります。飛行機の操縦は離陸と着陸が難しいが、特に着陸はベテランでも神経を使うと仰っていました。だから、機内で脱いだ靴も「降下が始まったら履いておいてください(笑)」と。

連続ドラマも離陸にあたるスタート時以上に、終盤からエンディングという着陸がとても大事です。なぜなら、そのドラマ全体の印象を見る側に刻むことになるからです。

最後の2週間、ドラマを盛り上げた最大の功労者は、古山裕一(窪田正孝)と音(二階堂ふみ)の一人娘、華(古川琴音)でした。成長し、看護婦(現在は看護師)になった華。彼女を軸に、短いながらも新たな青春物語を見せてくれたのです。

野球青年との恋に破れた時、華は彼から「君は重たいんだ」と言われたことがショックでした。音は見合いを勧めましたが、華は断ります。相手は自分で見つけるというのです。

その時の母と娘のやりとりが、かなりおかしい。

「働きづめで、出会いなんてないでしょう」
「自分を変えたいの! 私、重い女は卒業する。軽い女になる」

そう言って毅然として歩み去る華。見送りながら音がつぶやきます。

「その決意が、すでに重いのよ」

ほんとだ。思わず笑っちゃいました。しかも華の正面アップに、画面いっぱいの赤い筆文字「華、軽い女になる!」がドーンと重なります。朝ドラにしては大胆な演出(脚本も兼ねた吉田照幸チーフディレクター)。このユーモア感覚がうれしい。

その後、似合わない「軽い女」作戦は当然のように頓挫しますが、華はロカビリー歌手の霧島アキラ(宮沢氷魚)と結ばれました。最終週の結婚式は、このドラマの大きなテーマだった「音楽」が、裕一から次の世代へと継承されていくことの象徴でもあります。

それにしても、華を演じた古川琴音さんが光っていました。映画『アメリ』のヒロイン(オドレイ・トトウ)みたいな髪型。やさしい心根。自分が納得したことを貫く芯の強さ。今思えば、琴音さん以外考えられない絶妙のキャスティングです。

また最終週では、見る側も気になっていた小山田耕三(志村けん)との確執が、遺言ともいえる一通の手紙によって、やわらかく解消されていきました。

「どうか私を許してほしい。音楽を愛するがゆえの過ちだ。道は違えど、音楽を通して日本に勇気と希望を与えてきた同志として、今度は語り合いたい。私は先に行く。こちらに来たら声をかけてくれ」

そして物語の最終日。音が入っている保養所に、広松寛治という青年がやってきました。自分が作曲家を目指していることを語り、敬愛する裕一に、再び音楽の大作に挑戦してほしいと訴えます。それに対する、裕一の返答が秀逸でした。

「人は生まれてから、音楽はずっと人と共にある。音楽は人を癒し、励まし、勇気づけ、力になる。僕の役目は終わった。次は君たちが担ってくれ」

広松が帰った後、裕一は音に言います。

「彼らの世代が、また新しい音楽を紡いでくれるよ」

確かに音楽は、それぞれの時代の産物です。多くの曲が時代の移り変わりと共に消えていきますが、中には聴く者の大切な記憶として残っていくものもあります。そんな音楽の持つ一過性と普遍性の両方を古関裕而は、いえ古山裕一はよく分かっていたのではないでしょうか。

ラストの海辺のシーン。毎日、オープニングタイトルとして接してきた海と2人ですが、また格別な思いで見ることができました。裕一が音に伝えた「ありがとう」は、たくさんの視聴者の気持ちでもあります。

27日(金)に放送された、NHKホールを使っての「古関メロディ祭」には驚きましたが、「こういう朝ドラがあってもいいじゃないか」と思いながら楽しみました。

馬具職人・岩城(吉原光夫)の「イヨマンテの夜」も素晴らしかったのですが、藤堂先生(森山直太朗)と久志(山崎育三郎)の2人による「栄冠は君に輝く」が圧巻でした。

裕一を作曲の道へと導いてくれた藤堂が、生前は聴くことのできなかった、あの曲を歌っている。裕一の心の中にあった「夢」の実現です。こういう決着のつけ方もあったのかと、感慨深いものがありました。

このドラマの準備段階では予想していなかった、新型コロナウイルスの脅威、東京オリンピックの延期といった事態が起こり、「エール(励ます・応援する)」というタイトルの意味合いや対象も変わらざるを得ませんでした。

しかし、ドラマを通じての、より広い意味での「エール」の精神は、見る側にもしっかり届いたと思います。多くの人の記憶に残る朝ドラの1本となりました。


【書評した本】 佐藤秀明『三島由紀夫 悲劇への欲動』

2020年11月28日 | 書評した本たち

 

没後50年の節目に新たな視点の三島論

佐藤秀明『三島由紀夫 悲劇への欲動』

岩波新書 964円

三島由紀夫が自刃したのは1970年11月25日。没後50年にあたる今年は三島に関する書籍の刊行が例年以上に目立つ。

中でも佐藤秀明『三島由紀夫 悲劇への欲動』は、新書というサイズながら最も刺激的な一冊だ。著者が提示した「前意味論的欲動」という新たな視点が際立っている。

それは「言語化し意味として決定される以前」の体験や実感に表れた、「何ものかに執着する深い欲動」であり、「存在の深部から湧出する欲動」を指す。

著者は『太陽と鉄』と『仮面の告白』で酷似した語句を見つける。それが「身を挺する」「悲劇的なもの」であり、この言葉で表現される感覚を「前意味論的欲動」と呼ぶことにしたのだ。

本書では三島の作品と活動がこれまでとは違った相貌を帯びて浮上してくる。『仮面の告白』は自己嫌悪や苦痛に耐えながらの「荒療治」であり、『金閣寺』は自らの「美意識」と「実人生」の相剋を虚構化した作品だった。

そして『憂国』では、「身を挺する」「悲劇的なもの」という前意味論的欲動が表現としての全的解放に至るのだ。

そんな三島にとって、「英雄たること」への執着は癒えることのない病だったと著者は言う。60年代末の騒然たる社会を見つめながら、三島の前意味論的欲動は現実の「行動」へと傾斜していく。

『豊饒の海』の執筆と三島の内的葛藤の同時進行は、読んでいて胸に迫るものがある。「観察や直感で対象を掴もうとした」勇気ある試みの成果だ。

(週刊新潮 2020.11.26号)

 

 

 


J-CASTニュースで、WEB漫画原作ドラマについて解説

2020年11月27日 | メディアでのコメント・論評

 

 

「ホリミヤ」も!

「ウェブ発」漫画の実写ドラマ化が相次ぐ事情 

「極主夫道」「おじさまと猫」...

ネットならではの「同時代性」取り込む

 

人気漫画「ホリミヤ」を原作とした同名のテレビドラマがMBS・TBSで放送されることが、2020年11月24日に発表された。「ホリミヤ」はHEROさんが原作、萩原ダイスケさんが作画を務める人気漫画で、HEROさんが個人サイトに公開していた漫画が基となっている。

昨今は、このようなウェブ発の漫画を原作としたテレビドラマ化が相次いでいる。どうしてウェブ発の漫画を原作としたドラマ化が相次いでいるのだろうか、J-CASTニュースはメディア文化評論家の碓井広義さんに取材した。

もともとは個人サイトに掲載していた漫画

 「ホリミヤ」原作のHEROさんは2007年7月から、趣味で運営していた個人サイト「読解アヘン」上で、漫画「堀さんと宮村くん」の連載を開始した。これが人気を博し2008年10月、スクウェア・エニックスから単行本が発売された。これの構成をアレンジし、作画担当に萩原ダイスケさんを加えた漫画が「ホリミヤ」だ。こちらは11年11月より「月刊Gファンタジー」紙面上で連載され、シリーズ累計発行部数は570万部を超えたという。

ストーリーは、地味で根暗な宮村伊澄と、優等生で明るく人気者の堀京子を中心とした青春群像劇で、実写ドラマでは俳優の鈴鹿央士さんが宮村役、久保田紗友さんが堀役を務めるという。ドラマは21年2月16日よりMBSおよびTBSで放送される。ドラマと同時に映画も制作されており、21年2月5日に公開予定だ。

「ホリミヤ」はオリジナル版がウェブ連載で、作品自体は雑誌連載なので少し「特殊」なケースではあるが、現在、このようなウェブ発の漫画を原作としたテレビドラマ化が相次いでいる。

読売テレビ・日本テレビ系で現在放送されている「極主夫道」(「くらげバンチ」連載)や、21年1月からテレビ東京で放送予定の「おじさまと猫」(「ガンガンONLINE」連載)もインターネット上で連載が始まったものだった。

どうしてウェブ初出漫画のドラマ化が相次いでいるのだろうか、J-CASTニュースはメディア文化評論家の碓井広義さんに取材した。

碓井さんは、一昔前までは小説を原作としたドラマが多かったが、昨今は漫画を原作としたドラマが増えてきていると話す。その理由としては、小説自体が勢いを失ってきつつあることもあげられるが、大きなメリットはビジュアルがあることだという。

「漫画を原作にしやすい理由の一つにはビジュアルがあることがあげられます。物語をビジュアルで語るのがドラマであり、原作が漫画の場合、映像化を具体的にイメージできて、キャラクターもつかみやすいのです」

また売れているもの、読まれているものをデータ上で検討し、発行部数から視聴率を推測することも可能だという。ある程度のファン規模があればドラマ化に結びつくこと、また当たれば大きな反響が期待できるために、漫画を原作として採用することが増えてきているのではないかと考察する。

ウェブ発の最前線の面白さを取り入れたい

さらに碓井さんは、ウェブ発の漫画が注目されてきた理由として、新しさや手の届きやすさを挙げる。ウェブ漫画は、紙面と比べて掲載のハードルが低いために様々な挑戦が続けられている。万人に受けするものだけではなく尖った作品も多い。制作側はそうした「最前線」を取り入れたいという。

「ウェブ漫画とSNSはどちらもインターネット上のものですから、親和性が高い。それ故かなりマニアックなものであっても面白ければ、リアルタイムで『これ面白いよ』と拡散されていく。また今を感じさせる『同時代性』を持った作品が多数あります。新聞や雑誌などで取り上げられメジャーになる前に、いち早くSNSの評判をキャッチしてドラマ制作に踏み出せば、これまでにないものを展開できる場となる。そうした意味で現在、ウェブ漫画が主戦場になりつつあるのではないかなと思います」

 また多くのウェブ漫画は、無料である程度の話数を閲覧することができる。アマゾンのkindleのようなサブスクリプションサービスや、出版社や漫画配信社などのアプリを用いれば、人気ドラマの原作を無料でスマートフォン上から読むことも容易である。このような環境も、ウェブ漫画が注目される原因ではないかと推測した。

そして碓井さんはウェブ漫画原作のドラマに期待することとして、「大衆受けするものだけではなく、尖ったものや深いものがウェブ漫画にはある。ぜひドラマ化する際には、中途半端に視聴率を取ろうとするよりも、ウェブ漫画を応援する気持ちで、作品の個性を大切にしながら、その漫画の世界観を前面に打ち出してほしい」と語った。

(J-CASTニュース 2020年11月25日)


 問題作「35歳の少女」柴咲コウに拍手

2020年11月26日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

柴咲コウに拍手

 問題作「35歳の少女」で

“素の10歳”の表情も見せる

 

柴咲コウ主演「35歳の少女」は奇抜な設定のドラマだ。25年前、事故で昏睡状態に陥った10歳の少女が目を覚ました。外見は35歳で中身は10歳。この“異形の少女”望美(柴咲)が主人公だ。

眠っている間に家族はバラバラになっていた。しかも、妹(橋本愛)はひねくれた性格のキャリアウーマンに、優しかった母(鈴木保奈美)は無表情の冷たい人になり、そして父(田中哲司)は別の家庭を持っている。何とも厳しい現実だ。

望美は初恋の人だった結人(坂口健太郎)に支えられながら、「元の明るい家族」を復活させるべく努力する。だが、容易に実現するはずもなく、妹からは「あの時、死んでくれたらよかったのに!」とまで言われてしまう。望美もつらい。

脚本の遊川和彦は「家政婦のミタ」などで見る側を驚かせてきた。異色の設定だからこそ描ける真実があるからだ。今回、伝えようとしているのは、人生が再び元の状態には戻れない、不可逆的なものであること。そして、変えられるのは「失われた時間」ではなく、「これからの時間」であることではないか。

それにしても難役に挑む柴咲に拍手だ。動き、表情、言葉の中に、「素の10歳の少女」と「35歳の女性として生きようとする10歳の少女」の混在が感じられる。誰もが手放しで楽しめるわけではないが、今期一番の問題作であることは確かだ。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2020.11.25)

 


【気まぐれ写真館】「1970年11月25日」から50年、合掌

2020年11月25日 | 気まぐれ写真館

2020.11.25 曇り


言葉の備忘録203 おばあさんの・・・

2020年11月24日 | 言葉の備忘録

 

 

 

おばあさんの手紙のしめくくりは、

かならずこうだ。

「わたしは元気です。みんなも元気でね」

 

 

ケストナー『エーミールと探偵たち』

 

 

 

 

 


『共演NG』は、業界ドラマを超えた「大人のラブコメ」

2020年11月23日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

『共演NG』は、

業界ドラマを超えた「大人のラブコメ」

 

中井貴一さんと鈴木京香さんが「共演」している、ドラマ『共演NG』。テレビ東京ならぬテレビ東洋(テレ東)という弱小テレビ局を舞台に、業界タブーにも軽くタッチしながら描かれる、堂々の「大人のラブコメ」です。

これまでにも、たくさんの「業界ドラマ」がありました。一番わかりやすいのは1987年にフジテレビが「月9」の枠で放送した、いわゆる「業界ドラマシリーズ」でしょう。

テレビに出る人、作る人が、ドラマの登場人物となり、当時のことですから「ブラウン管の裏側」を垣間見せるという内容がウケていました。なんてったって、バブル期ですから。

中でも大胆だったのが『アナウンサーぷっつん物語』です。

ドラマの舞台は、まんま「フジテレビ」。岸本加代子さんや神田正輝さんたちが演じる役柄も、単なるアナウンサーではなく、あくまでも「フジテレビのアナウンサー」でした。思えば、すごい(笑)。

そうそう、この時、「おニャン子クラブ」のメンバーだったアイドル、高井麻巳子さん(会員ナンバー16)もアナウンサー役で出演していたはず。現在の秋元康夫人です。

バブル期とはほど遠い世の中ということもあり、最近は「業界ドラマ」もあまり作られなかったのですが、今期いきなりの登場で、ちょっとびっくりしました。テレビ東京の『共演NG』(月曜夜10時)です。企画・原作は、秋元康さん。相変らず、いろいろ仕掛けてきますね。

メインを張るのは、大物俳優の遠山英二(中井貴一)と売れっ子女優の大園瞳(鈴木京香)。かつては恋人同士だったのですが、「すったもんだ」がありまして(分かる人は分かる)、別れてしまったという設定です。

以来、25年間も没交渉のままだった2人が、なんと「不倫ドラマ」で共演することになりました。「さあ、どうなるんだ?」というのが、この『共演NG』です。

ところで、いわゆる「共演NG」って、ホントにあるのか? 

はい、あります。20年間、テレビプロデューサーをやっていたので断言します。とはいえ、何かでぶつかり合ったのが原因で仲が悪いとか、ライバル的な位置にあるため「両雄並び立たず」だったりとか、事情は様々ですが、珍しくはないです。

プロデューサーというのは、そんな裏事情をよく知っているので、普通は、わざわざ「共演NG」の組み合わせでキャスティングしたりしません。トラブルは面倒ですから。

このドラマの舞台は「テレビ東京」、じゃなくて「テレビ東洋」という局です。略して「テレ東」。予算も人員も他局に劣ることをスタッフがこぼしたり、「深夜ドラマが評判よくても利益につながらない」といったリアルなセリフで笑わせてくれます。

実際、今では想像できないかもしれませんが、かつて本物のほうのテレ東は、「中井貴一ランク」の俳優さんや、「鈴木京香クラス」の女優さんに、なかなかドラマの主演を引き受けてもらえませんでした。

そんなテレ東の歴史も踏まえると、テレビ局内部とドラマ制作現場の「業界あるある」が一層面白く見えてきます。

そして、この「業界内幕ラブコメディー」最大の見どころは、中井さんと鈴木さんが披露する、振り切った演技にあります。

相手を「くそ女」「うんこ野郎」とののしり、自分が上位にいることを見せつけようと必死で、その独特のプライドや見栄の張り方も含め、俳優にまつわる「業界あるある」的なおかしさが満載です。

しかも、出演者の中に、共演NGが複数存在するという設定がいい。

たとえば時代劇の大御所俳優(里見浩太朗)と、その元付き人でアメリカ帰りの俳優(堀部圭亮)。いきなりの「つばぜり合い」が起きますが、遠山と瞳は見えないところで彼らをフォローし、その対立を緩和していきます。元恋人たちの、私怨は一時脇に置いて、「いい作品にしよう」という一流俳優としての共通の意思がほほえましい。

また、果敢に「業界タブー」に踏み込んでいく場面も多く、見逃せません。

第3話では、脇役として出演している男女が「不倫カップル」としてスクープされました。その「謝罪会見」に、遠山(中井)と瞳(鈴木)も同席することになります。

記者たちによる容赦ない質問攻めの中、見かねた遠山が前に出て諭(さと)します。「いつまで、こんなこと、繰り返すんですか! ただの面白半分で追いつめて」と。

「いや、世間が納得しない」と反論する記者に、遠山は「納得しないのは、あなたたちだろ」と言い返したりして、騒然となります。

この後、見かねた時代劇の大御所(里見)が登壇。記者たちに向って「男女の色恋沙汰、あんたたちだって経験あるだろ? 赤の他人が土足で踏み込むことないよ」と助け船を出しました。

さらに「(役の上の)孫が世間を騒がせて、すみませんでした」と土下座しちゃいます。しかも他の出演者たちも出て来て、皆で一緒に頭を下げる。「これにて、一件落着!」と里美さんのいい声が響きました。

結局、物語の中で制作・放送中のドラマは、この謝罪会見のおかげで話題となり、第1話の配信も急伸。怪我の功名といった具合ですが、スキャンダルであっても、視聴率につながるなら大歓迎というのは、業界的に結構リアルです。

第4話でも、遠山の妻、雪菜(山口紗弥加)が楽屋にやってきて、しっかり瞳をけん制したり、その瞳の元カレで医師の間宮(青木崇高)がドラマの共演者として参加してきたりで、「NG」な関係はますます交錯していきそうです。

演出・脚本は、『モテキ』や『まほろ駅前番外地』の大根仁監督。制約の多いテレビドラマで、常に「掟破り」に挑んできた監督が、今回はどこまで「やんちゃ」ぶりを発揮するのか。目が離せません。

それにしても、中井さん、鈴木さんは、やはり上手い。遠山も瞳も、別れてからの時間と経験、現在の地位や立場があるとはいえ、いまだに相手を憎からず思っている風情であり、その微妙なニュアンスをユーモアも交えて自然に、そして的確に演じています。

遠山と瞳が「W主演」を務めている、劇中ドラマ『殺したいほど愛してる』も、2人のシーンなどかなりいい雰囲気で、その全編を見たくなってきた今日このごろです。


【書評した本】 石井光太『夢幻の街』

2020年11月22日 | 書評した本たち

 

 

ホストクラブの総本山「歌舞伎町」の謎と実像

 

石井光太

『夢幻の街 歌舞伎町ホストクラブの50年』

 角川書店 1760円

 

今年、新型コロナウイルスの影響で最も圧迫された業界、それがホストクラブではないか。かつてバラエティ番組に人気ホストが登場するなど、一過性ながら「ホストブーム」があった。久しぶりに注目された今回は完全に「悪の巣窟」扱いだ。

新宿歌舞伎町はホストクラブの総本山だが、これまでも様々な危機があった。バブル崩壊、石原都政時代の浄化作戦、リーマンショック、そして東日本大震災などだ。しかし、それでも現在まで歌舞伎町のホストクラブは生き抜いてきた。半世紀におよぶ歴史を掘り起こしながら、その謎と実像に迫るのが本書だ。

1973年、愛田武が開いた「愛本店」。それを中心に店が増えたことで歌舞伎町の一角がホスト街となった。どんなジャンルでも、革命家のような人物の出現で状況が一変することがある。愛田はそんな男だ。20代で会社を興すが、失敗して多額の借金を背負う。選んだ道がホストだった。得意の話術で頭角を現して独立。画期的な「最低保証制度」でホストが安心して働ける環境を整えた。90年代には歌舞伎町のホスト業界に王者として君臨することになる。

やがて、この愛田を源流とするカリスマホストと彼らの店が続々と登場して覇を競う。それは戦国時代か三国志の世界のようだ。展開されるのは役職制度の導入や広告戦略、ホストに対する社会人教育だったりする。生き残っていく店を眺めると、オーナーの人間性と店としての個性が鍵だと分かる。まるで企業経営のビジネス本を読むようだ。

一方、客の側も風俗嬢や「援助交際」の少女、さらに昼間の仕事をする女性たちと多様化する。中には売掛の借金が原因で失踪する者もいた。著者はこうしたホストクラブの暗部として、暴力団との関係についても明らかにしていく。その上で、ホストクラブは今、「新しい時代に向かいはじめている」と言うのだ。そこに待つのはどんな夢と現実なのか。

(週刊新潮 2020.11.19号)

 

 

 

 


言葉の備忘録202  もしフィクションを・・・

2020年11月21日 | 言葉の備忘録

 

 

 

もしフィクションを

書きたいと思ったら、

女性はお金と、

自分だけの部屋を

持たなくてはならない

 

 

・・・バージニア・ウルフの言葉

ジョン・グリシャム、村上春樹:訳

『「グレート・ギャツビー」を追え』

 

 

 

 

 


【気まぐれ写真館】 秋の朝やけ

2020年11月20日 | 気まぐれ写真館

2020.11.20


「危険なビーナス」吉高由里子は何者?

2020年11月19日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「危険なビーナス」

吉高由里子は何者?  誰もが怪しく見える

 

日曜劇場「危険なビーナス」が早くも中盤に差し掛かった。獣医の手島伯朗(妻夫木聡)の前に楓(吉高由里子)と名乗る女性が現れる。音信不通だった異父弟、矢神明人(染谷将太)の妻だ。しかも明人は行方不明。矢神家の「遺産争い」が原因だという楓の言葉に従い、伯朗はその渦中に飛び込んでいく。

感心するのは第6話まで進んだ現在も、見る側を「よくわからない」状態に留め置いていることだ。登場人物は基本的に矢神家の関係者ばかりだが、全員が何かを隠し、誰もが怪しく見える。

そして、このドラマ最大の謎が「楓とは何者なのか」だ。本当に明人の妻なのか。楓の狙いは何なのか。背後で矢神家の誰とつながりがあるのか。楓の正体が判明した時、展望は一気に開けるはずだ。それまでは制作陣が仕掛ける「ミスリード」を楽しむしかない。

ビーナスとはギリシャ神話の「美と恋の女神」。そんな人間離れした存在かどうかはともかく、吉高はやけに軽いかと思うと、時折、思慮深いところも見せる、何とも「捉えどころのない」ヒロインを奔放に演じている。

場面によって、「東京タラレバ娘」の倫子や「わたし、定時で帰ります。」の衣が顔をのぞかせるのは、伯朗をはじめとする周囲の人たちだけでなく、見る側をも撹乱するためかもしれない。

それにしても楓、君は一体誰なんだ?

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2020.11.18)


白石麻衣の「乃木坂46」卒業後初CM

2020年11月18日 | 「日経MJ」連載中のCMコラム

 

 

外為どっとコム 「白石、しらないし」編

はじめやすい投資 イメージ広げる

 

10月末、白石麻衣さんの「乃木坂46」卒業ライブを見た。元々は5月に開催する予定だったが、新型コロナウイルスの影響で延期。最終的に無観客の配信ライブとなったのだ。

それでも白石さんと乃木坂メンバーが互いを「大切な存在」と思う気持ちが十分に伝わってきて、ちょっと感動してしまった。

そんな白石さんの卒業後初CMが「外為どっとコム」だ。

為替差益を生かすのがFX投資だが、お姫様のような雰囲気の白石さんは「資産形成とか知らないし」といたってマイペース。そのクールビューティーぶりと共に「はじめやすい投資」のイメージが広がる仕掛けだ。

今後、白石さんはどんな活動を展開するのだろう。乃木坂46にはすでに生駒里奈さん、深川麻衣さん、西野七瀬さんなどの卒業生がいて、それぞれに活躍している。

白石さんもまた組織人からフリーランスへと「働き方」が変るわけだが、「元乃木坂46」の肩書きが取れた時こそ本当の卒業なのかもしれない。

(日経MJ「CM裏表」2020.11.16)

 


言葉の備忘録201  知ることが・・・

2020年11月17日 | 言葉の備忘録

 

 

 

 

知ることが増えれば、

知らないことはさらに増える。

知るためには、

知らないことを知らないと

はっきりいうところからはじまる。

 

 

宮城谷昌光 『孔丘』

 

 

 

 

 


北海道新聞で「地方発ドキュメンタリー」について解説

2020年11月16日 | メディアでのコメント・論評

 

 

「普遍的課題」道内から迫る

民放2局 ドキュメンタリーで高評価

道内民放局制作のドキュメンタリー番組が本年度、放送各賞で高い評価を受けた。道警ヤジ排除問題を扱った「ヤジと民主主義~小さな自由が排除された先に~」(HBC)はギャラクシー賞報道活動部門、ディレクターが体験を通じて乳がん治療の課題や患者の心情に迫った「おっぱい2つとってみた~46歳両側乳がん~」(HTB)は日本民間放送連盟賞テレビ報道番組部門で、それぞれ優秀賞を獲得。いずれも道内勢の受賞は4年ぶりで、前者は日本ジャーナリスト会議のJCJ賞にも輝いた。制作のこだわりを聞いた。(原田隆幸)

HBC「ヤジと民主主義」 メディアのあり方も自問

今年2月に30分番組としてTBS系で旧題で放送。訴訟の動きなど新たな要素を加え、1時間番組として4月下旬にも放送した。

昨年夏の参院選で、前首相が札幌で街頭演説した際の道警の対応がテーマ。「安倍やめろ」とヤジを飛ばした男性、増税反対を叫んだ女性が排除され、年金に関するプラカードを掲げようとした女性も遠ざけられた。当日の自社映像に加え、当事者に現場で振り返ってもらう場面も印象的だ。

山崎裕侍・報道部編集長は「出遅れた負い目もあった」と明かす。同局の当日のニュースは首相演説をメインにし、一部聴衆に混乱があったと伝えた程度。しかし、休刊日明けの全国紙が大きく「ヤジ排除」問題を報道した。出張から戻った山崎さんは自局でも追及すべきだと主張。若手記者と2人で関係者や弁護士などへ取材を重ね、現場にいた人から映像を集めた。

番組では、首相の演説を聞きたかったという人の声も紹介した。「違う意見も取り上げて、それでもなお『ここは許せない』という論理構造にしたかった」

多くの報道陣がいる中で問題は起きた。「あなたたち(メディア)は無視されたんですよ」という元道警釧路方面本部長、原田宏二氏の耳に痛い言葉もそのまま放送した。山崎さんは言う。「安全地帯から道警をやり玉に挙げているのではない。われわれメディアのありようも問われている」

HTB「おっぱい2つとってみた」 告知、手術…体験を記録

ディレクターは、HTBネットデジタル事業部副部長の阿久津友紀さん。長年、報道や情報番組の部署で乳がんを巡る問題を伝えてきたが、昨年夏、自身も両側の乳がんが判明した。

健康診断で異常を指摘され、独断で検査の様子や医師との対話などをカメラに収め始めた。告知された時はショックと同時に「自分は得がたい立場にある、と思ってしまった」と言う。多くの取材経験があり、母親も乳がん経験者。何より「告知の瞬間」の貴重な映像も撮ってあるからだ。

局の了解を得て、摘出手術の様子も撮影。「誰に助けを求めるか、何を医者に問うべきか、困っている人もいると思う。私の姿が不安を弱められるかも」と自身を赤裸々に映した。

同時に、かつて取材した患者、新たに出会った患者との交流から、治療への思いや希望など本音を引き出した。「取材活動で感謝されることはなかなかない。今回、取材されてよかったと言われ、荷が下りた気がした」と振り返る。

自らを素材とするにあたり「客観性って何だろう」と自問を重ねた。思いを語るのにナレーションは使わず、他者との会話で自然に出た言葉を映像で伝えた。「心の動きや悩み、周囲の支えでなんとか前に向き始めていることを、リアルに感じてほしかった」。患者仲間の食事会で涙を流す自身の姿もそのまま報じた。

地方局「自前」の時代(評論家 碓井広義さん)

地方発ドキュメンタリーの意義はどこにあるのか。民放連賞の選考経験もあるメディア文化評論家の碓井広義さんは「足もとの視点から、普遍的で奥深い課題を描けている」と言う。

受賞した2局とも、ドキュメンタリー専門の社員はいない。日々のニュースや情報番組の特集用に取材を重ね、素材が集まってようやく、まとまった番組をつくるめどがつく。キー局が設けたドキュメンタリー枠が地方局の一つの目標だ。

ネットの普及でテレビの地位が相対的に後退し、景気低迷でCM売り上げも伸び悩む。「キー局の番組を流せば商売になった時代から、自前でつくって届ける時代になった」と碓井さん。「ドラマに比べ、地方民放の力を発揮できるドキュメンタリーがクローズアップされてきた」とみる。

受賞作は、HBCは動画投稿サイト「ユーチューブ」の公式チャンネル、HTBは自社配信サイト「北海道onデマンド」で無料配信中だ。地方局もネットを通じて世界に発信できる時代。碓井さんは「各局の制作力が一層問われている」と話す。

(北海道新聞 2020.11.14)