碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

週刊新潮で、木村拓哉主演「A LIFE」についてコメント

2017年01月31日 | メディアでのコメント・論評


「キムタク」ドラマの楽屋で盛り上がる、
出演陣の子育て談義

確かに、数字はそこそこ獲れている。脇を固める俳優陣は豪華だし、ストーリーも決して悪くはない。

とはいえ、15日スタートの連ドラ「A LIFE」(TBS系)が木村拓哉(44)の新たな代表作になるかと問われれば、首を傾げざるを得ないのだ。さて、そんな正念場のキムタクが唯一、盛り上がるのは楽屋での子育て談義だとか――。

SMAP解散後の初仕事となるこのドラマ。キムタクが並々ならぬ決意で臨んでいるのは間違いない。制作スタッフが明かすには、

「役どころが凄腕の心臓外科医なので、医療用語が頻出する長セリフも多いんです。ただ、木村さんは相当準備をしてきたようで、初回の収録では一度もNGを出しませんでした」

だが、注目を集めた「初回」の視聴率は14・2%。もちろん、このご時世に2ケタの数字を叩き出すのは容易ではないものの、TBS関係者の表情は冴えない。

「竹内結子に松山ケンイチ、浅野忠信と、主演級のキャストを揃えた以上、最低でも18%はほしかった。04年にキムタクと竹内が共演した『プライド』の初回は28%だったから、数字が半減したことになる」

ドラマの出来自体は酷いとは言えないが、

「全体的に中途半端な印象を受けました。その結果が視聴率にも表れています」

上智大学の碓井広義教授(メディア論)は手厳しい。

「初回を観る限り、凄腕ドクターの仕事ぶりが売りなのか、ドロドロとした愛憎劇を描きたいのかハッキリしない。医療用語をテロップにして本格派を気取るのは結構ですが、肝心の手術シーンは緊張感もスピード感もなかった。米倉涼子の『ドクターX』と比べると明らかに見せ場不足です」


■「発音が違うよね」

そんな評価を知ってか知らずか、収録現場でもキムタクは孤軍奮闘中だという。先の制作スタッフが続ける。

「正直、ドラマのロケ現場はいつもシーンと静まり返っています。木村さんは雰囲気を和ませようと率先して他のキャストに声を掛けるんですが、必死な様子が却って痛々しくて……」

大晦日のSMAP解散式に1人だけ「ハブ」られ、ここでも「ソロ」の辛さを痛感しているのだ。一方で、

「竹内さんと松山君とは、共通の話題があるので打ち解けています」(同)

その「話題」というのが子育て談義である。ご承知の通り、キムタクと工藤静香には2人の娘がおり、竹内も中村獅童との間に儲けた息子を育てるシングルマザーと、いずれもセレブ婚経験者。

ちなみに、小雪と結婚した松ケンもいまや2男1女の父親で、

「小雪が末の子の世話に掛かり切りの頃は、松ケンが上の子2人を連れて自宅近くの区立のスポーツセンターや、公園に通っていた。小児科への通院にも付き添うイクメンぶり」(芸能デスク)

ロケ現場ではパパとしても「先輩」のキムタクの話に聞き入っており、

「木村さんが“インターナショナルスクールに通わせると英語の発音が違うよね”と言えば、子供を認定こども園に通わせる松山君が“そうなんですか!”と相槌を打つ。竹内さんも“こないだ行った、もんじゃ焼き屋は良かったよ”と子連れOKの店を紹介していました」(先のスタッフ)

これまで頑なに秘してきた子供の話題で盛り上がる、かつての「抱かれたい男ナンバー1」。俳優がダメならパパタレで返り咲く手も。

(週刊新潮 2017年1月26日号)

【気まぐれ写真館】 冬の俯瞰 2017.01.28

2017年01月29日 | 気まぐれ写真館

今年も、北海道千歳市「柳ばし」で 2017.01.28

2017年01月29日 | 日々雑感

冬ならではの、鱈(たら)フライ&白子汁







【気まぐれ写真館】 札幌 朝から雪 2017.01.28

2017年01月29日 | 気まぐれ写真館

HTB「イチオシ!モーニング」 2017.01.28

2017年01月29日 | テレビ・ラジオ・メディア










【気まぐれ写真館】 札幌 気温マイナス3度  2017.01.27

2017年01月28日 | 気まぐれ写真館

HTB北海道テレビ「イチオシ!」 2017.01.27

2017年01月28日 | テレビ・ラジオ・メディア











【気まぐれ写真館】 札幌 気温3度  2017.01.27

2017年01月28日 | 気まぐれ写真館

書評した本: 野坂昭如 『俺の遺言』ほか

2017年01月27日 | 書評した本たち



「週刊新潮」に、以下の書評を寄稿しました。

野坂昭如 坪内祐三:編 
『俺の遺言~幻の「週刊文春」世紀末コラム』 

文春文庫 864円

一昨年12月に亡くなった著者が、「週刊文春」に連載していた時評コラムだ。1995年からの約3年半分から、坪内祐三氏が厳選した55本が並ぶ。戦争、憲法九条、原発、都政、北朝鮮。古びないどころか、今現在を射抜く力に驚かされる。価値ある文庫オリジナルだ。


小中陽太郎 
『上海物語 あるいはゾルゲ少年探偵団』

未知谷 2700円

著者が幼年期を過ごした戦時中の上海を舞台に、ゾルゲのいた時代を描いた最新長編だ。主人公の須磨雄が著者自身の投影であるだけでなく、「太陽の帝国」のJ・G・バラードから四方田犬彦までが実名で登場。情報戦をめぐる、虚実皮膜の自伝的実録小説でもある。


山田宏一 『ヒッチコック映画読本』
平凡社 2,160円

名著『映画術 ヒッチコック/トリュフォー』の翻訳で知られる著者。卓越したサスペンスの手法、女優とヒロインなど、40年におよぶヒッチコック研究の集大成。『めまい』のキム・ノヴァクへのインタビュー、『海外特派員』をめぐる蓮實重彥との対談も著者ならでは。

(週刊新潮 2017.01.26号)

強引な設定がうまい ジャンル崩しの異色ドラマ「カルテット」

2017年01月26日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評



日刊ゲンダイに連載しているコラム「TV見るべきものは!!」。

今回は、ドラマ「カルテット」を取り上げました。


TBS系「カルテット」
強引な設定がうまい ジャンル崩しの異色作

「カルテット」(TBS系)の脚本は坂元裕二だ。出演が松たか子、満島ひかり、高橋一生、松田龍平。そして演出は「重版出来!」「逃げるは恥だが役に立つ」の土井裕泰。これだけのメンバーが、何を見せてくれるのか。

4人のアマチュア演奏家がカラオケボックスで出会う。バイオリンの真紀(松)、チェロのすずめ(満島)、ビオラの家森(高橋)、バイオリンの別府(松田)だ。弦楽四重奏のカルテットを組むことになり、別府の祖父が持つ軽井沢の別荘で合宿生活に入った。この強引な設定がうまい。

彼らはそれぞれに鬱屈や葛藤を抱えている。共通しているのは音楽との関係だ。プロへの夢を追い続けるのか、趣味として音楽を続けるのか、二者択一を迫られている。また、夫が謎の失踪を遂げた真紀。その夫の母親から真紀に近づくことを依頼されたすずめ。さらに家森や別府の本心や狙いも不明のままである。

このドラマはサスペンス、恋愛、ヒューマンといった枠を超えた、いわば“ジャンル崩しの異色作”だ。ここには「重版」の心や、「逃げ恥」のみくりのような、つい応援したくなる“愛すべきキャラクター”はいない。だが4人ともどこか憎めない、気になる連中だ。独特の暗さもあり、万人ウケしないかもしれない。しかし続きが見たくなる、クセになるドラマとしては今期ピカイチだ。

(日刊ゲンダイ 2017.01.25)



今期「新ドラマ」で健闘している、あの主演「男優」たち

2017年01月25日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム


今期、木村拓哉の『A LIFE~愛しき人~』、草なぎ剛の『嘘の戦争』など、主演は「男の俳優=男優」という新ドラマが目立ちます。

そこでは、ジャニーズ系の面々とはちょっと異なる、ひと味違うタイプの男優たちも健闘中です。


●『就活家族~きっと、うまくいく~』の三浦友和

それなりに安定していたはずの家庭が、ふとしたきっかけで危機に陥っていく。

『就活家族~きっと、うまくいく~』(テレビ朝日系)の舞台は、家族4人の富川家だ。夫の洋輔(三浦友和)は大手企業の人事部長。妻の水希(黒木瞳)は中学教師。娘の栞(前田敦子)はOL。そして弟の光(工藤阿須加)は就活中の大学生である。

まず、役員への就任が目前だった洋輔に、いきなりトラブルが発生した。新人採用の際に叱りつけたモンスター就活生が、実は取引先である銀行の頭取の息子だったのだ。慌てて取り入ろうとするが、見事にはね返されてしまった。

また、リストラの通告を受けた女性社員(木村多江、怪演)が逆恨みして、洋輔のセクハラ疑惑(でっち上げだが)を会社に訴えた。背後には、社内の出世争いがあったのだが、結局、洋輔は子会社への出向を拒否。不本意な退職という憂き目に遭う。

しかも今後は洋輔だけでなく、怪しげな就活塾に入った光の就職問題、水希の雇用延長問題、さらに枕営業まで示唆される栞のパワハラ問題など、まさに問題山積の展開が予想される。

作りは堂々の社会派ホームドラマだ。リストラも就活もリアルなエピソードで、見ていて息苦しいほどだ。願わくば、もう少しユーモアがあるとありがたい。

とはいえ、この年代の男の強さともろさの両面を見せる、三浦友和の演技と存在感が抜群だ。これだけで一見の価値がある。そうそう、昨年のTBS系『毒島ゆり子のせきらら日記』の演技で開眼した(はずの)前田敦子にも期待したい。


●『増山超能力師事務所』の田中直樹(ココリコ)

今期ドラマの中でも、いち早くスタートした『増山超能力師事務所』(日本テレビ系)。舞台は近未来で、読心や透視や物体念動などの超能力が、社会的に認知され始めたという設定だ。「日本超能力師協会」なるものが出来たり、超能力師に「1級」「2級」といった認定資格が与えられたりしている。

主人公の増山圭太郎(ココリコ・田中直樹)は1級の超能力師だ。勤務していた会社を辞めて、探偵事務所を開く。所員として集めたのは篤志(浅香航大)、悦子(中村ゆり)、健(柄本時生)などの若手超能力師たちだった。

このドラマが過去の超能力物とひと味違うのは、超能力の持ち主たちが、自らの能力を「面倒くさいもの」「はた迷惑なもの」として持て余し気味であることだ。侵入してくる他人の声に悩まされたり、イジメの対象になったりと、ちっともヒーローっぽくない。この出発点がドラマのキモだ。

浮気調査、家出少女の捜索など、依頼される案件は普通の探偵事務所と変わらないが、テレパシーなどの超能力が生かされているような、そうでもないような、ゆる~い仕事ぶりが、じわじわと笑える。

注目は3年ぶりの連ドラ主演となるココリコ田中である。NHK『LIFE!~人生に捧げるコント~』の仲間・星野源がブレークしたが、俳優業では田中も負けてはいない。昨年は『砂の塔〜知りすぎた隣人』(TBS系)や『家政夫のミタゾノ』(テレビ朝日系)などで好演。今回の“座長”も堂々たるものだ。「めんどくさいなあ」が口癖という、最も超能力者らしくない超能力者を、飄々と魅力的に演じている。

『逃げ恥』強し! コンフィデンスアワード・ドラマ賞、ほぼ独占

2017年01月23日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム


オリコンの専門誌「コンフィデンス」が主催する、「コンフィデンスアワード・ドラマ賞」。

対象が16年10月クール(10月~12月)の放送分となる、第6回の審査結果が発表されました。(http://confidence-award.jp/)

作品賞   『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)
主演男優賞 松岡昌宏 (『家政夫のミタゾノ』テレビ朝日系)
主演女優賞 新垣結衣 (『逃げるは恥だが役に立つ』)
助演男優賞 星野 源 (『逃げるは恥だが役に立つ』)
助演女優賞 石田ゆり子(『逃げるは恥だが役に立つ』)
脚本賞   野木亜紀子(『逃げるは恥だが役に立つ』)
新人賞   大谷亮平 (『逃げるは恥だが役に立つ』)

7部門中の6部門が『逃げるは恥だが役に立つ』という、ほぼ独占状態。

そんな中で、主演男優賞(女優賞に非ず)の松岡昌宏さん、大健闘です。拍手!

審査員の一人として参加させていただいたのですが、何時間にもおよぶ議論を経て、やはり今回は『逃げ恥』強し!でした。

この結果を伝える、共同通信の記事では・・・

栄えある作品賞に輝いたのは“恋ダンス”などで社会現象を起こした「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS系)。審査員からは「“毎週ドラマを見る”という、懐かしくもある“楽しみ”を久々に味わわせてくれた」といった声もあがり、同じく候補に上がった「地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子」を押さえ、満場一致に近い決定となった。(共同通信エンタメOVO 2017.01.20)

・・・記事の中に、<審査員からは「“毎週ドラマを見る”という、懐かしくもある“楽しみ”を久々に味わわせてくれた」といった声もあがり>とありますが、その声をあげた審査員は私です(笑)。まさに実感でした。

『逃げ恥』が始まったばかりの昨年11月はじめ、この欄に以下の文章を寄稿しました。


●新垣結衣の「低欲望系高学歴女子」

今期ドラマのナンバー1として挙げたいのが、「逃げるは恥だが役に立つ」である。津崎(星野源)とみくり(ガッキーこと新垣結衣)は、ごく普通の新婚夫婦に見えるが、実は「契約結婚(事実婚)」だ。しかも夫が雇用主で、妻は従業員の関係。「仕事としての結婚」という設定が、このドラマのキモであり、核になっている。

みくりは、学部と大学院、2度の就職活動に失敗した。派遣社員となるが契約を切られてしまう。家事代行のバイトで津崎と出会い、契約結婚する。戸籍はそのままだが、住民票の提出によって健康保険や扶養手当も可能となる。業務・給料・休暇などを取り決め、家賃・食費・光熱費は折半。もちろん性的関係は契約外だ。

「こんなの、あり得ない」と言う人も、「あるかもしれない」と思う人も、気づけば、ガッキーと星野の奇妙な同居生活から目が離せなくなっている。2人が見せてくれる「誰かと暮らすこと」の面倒臭さと楽しさに、笑えるリアリティーとドキドキ感があるからだ。

何より、このドラマのガッキーが反則技的に可愛い(笑)。そして、ヒロインのみくりが魅力的だ。自分が美人であることの自覚がなく、様々な社会的欲望にも恬淡(てんたん)としている。また高学歴女子の知性も嫌みにならず、性格の良さと相まって天然風ユーモアへと昇華している。加えて、津崎を演じる星野が、これ以上の適役はないと思えるほどのハマリぶりだ。星野あっての「逃げ恥」である。

みくりも津崎もちょっと変わったインテリで、ガッキーと星野が真面目に演じれば演じるほど、見ていて可笑しい。いわばマイルドなラブコメだが、初めてのものを見たような”出現感”のある、“新商品”的ドラマになっているのだ。

今後の見どころは、みくりと津崎の“距離感”だろう。相手に対する気持ちや意識が変われば、快適だった契約結婚生活も危うくなってくる。成り行きから目が離せない。 (Yahoo!ニュース個人「碓井広義のわからないことだらけ」2016.11.05)


・・・「情熱大陸」から「サザエさん」まで、テレビ番組のパロディーや、登場人物たちのひねくれたやり取りにも苦笑い。

よく練られたせりふや展開、そして自在な演出が、ヒロインの魅力を下支えしていました。

新垣さんと星野さん、この2人でなければ成立しなかった異色のラブコメディーであり、新鮮な感動と幸福感が味わえたドラマでした。

受賞者・関係者の皆さん、おめでとうございます!

マジシャンが書いた、傑作マジック小説

2017年01月22日 | 本・新聞・雑誌・活字


本のサイト「シミルボン」に、以下のレビューを寄稿しました。
https://shimirubon.jp/reviews/1676442


マジシャンが書いた、傑作マジック小説


「小石至誠」という名前を見て、すぐに分からない人も多いと思う。またの名をパルト小石さん。というか、マジックの大御所「ナポレオンズ」のお二人のうち、小さいほうの人(失礼!)、もしくはメガネで大柄の人(ボナ植木さん)じゃないほう、という説明で納得してもらえるかもしれない。ちなみに、至誠は本名で、まんま「しせい」と読む。

2002年に北海道の大学に赴任する直前まで、プロデューサーとして制作していたのが『マジック王国』(テレビ東京)という番組だ。当時、ほとんど忘れられていたマジックというジャンルで、しかもレギュラー番組を作るというのは冒険だったが、その後、「マジックブームへの道を拓いた」ということで、マジシャンの協会から表彰されたりしてしまった。

嬉しかったのは、マジックという自分の好きなものを番組化できたこと。そして、クロースアップ・マジックの前田知洋さんも、コミカルな藤井あきらさんも、イケメン系のセロさんも、かわいい山上兄弟も、たくさんのマジシャンの方々が、みんなこの番組で多くの人に知られるようになったことだ。

この”日本初のマジックのレギュラー番組”『マジック王国』が成功だったとしたら、それは番組の司会と監修を務めてくださった、ナポレオンズのお二人のおかげなのだ。

そんな小石さんが書いた小説が、『神様の愛したマジシャン』(徳間書店)だ。ご本人の弁によれば「おそらく世界初の、プロのマジシャンが書いたマジシャン誕生の物語」である。

ひとりの少年が、プロのマジシャンを目指して歩んでいく物語。五木寛之さんの小説『青年は荒野をめざす』の主人公ジュンはジャズのミュージシャンを目指して世界を放浪するが、こちらの主人公・誠の場合はマジシャンだ。

そもそも、誠のお父さんがプロのマジシャンで、その名を北岡宇宙という。ちょっと特殊な環境で育ったことになるが、子どもの頃から自然にマジックに親しんできた誠は、大学でもマジック・サークルに入る。そこでの4年間が物語の軸だ。

世界のマジックと日本のマジック。プロのマジシャンとマジックのアマチュア。マジックを見せることと見ること。いや、そもそもマジックとは何なのか・・・。

小石さんが持っている、マジックに関する知識や技術、さらに哲学や美学といったものが、この小説には散りばめられている。ある時は父であるマジシャン・北岡宇宙の口を借りて。またある時は誠自身の言葉となって。

この作品は稀有なマジック小説であると同時に、少年の成長物語であり、父子物語であり、爽やかな青春物語でもある。どんなに難しいマジックも、まるで軽々とやっているように見せるのが小石さんの技と美学だが、この小説も、そんな小石さんのスタイルが貫かれていて見事だ。

そうそう、小石さんの相棒である、「ナポレオンズ」の植木さん(背の高いほう)も小説を書いている。ボナ植木『魔術師たちと蠱惑のテーブル』(ランダムハウスジャパン)だ。

植木さんが舞台の上で見せるのは、確かな技術に裏打ちされたユーモアマジックだ。この小説は手品の種明かしではなく、マジックをテーマにした短編小説集。鮮やかな手さばきと後味の良さは本業と同じで、観客(読者)を上機嫌にしてくれる。

祝!直木賞受賞 恩田陸さんの"小説のみが生み出せる世界”

2017年01月22日 | 本・新聞・雑誌・活字



本のサイト「シミルボン」に、以下のレビューを寄稿しました。
https://shimirubon.jp/reviews/1677786


祝!直木賞受賞 
恩田陸さんの"小説のみが生み出せる世界”

平成28年度下半期の芥川賞と直木賞の発表がありました。芥川龍之介賞は山下澄人さんの『しんせかい』(新潮7月号)、直木三十五賞が恩田陸さんの『蜜蜂と遠雷』(幻冬舎)でした。

お二人とも、おめでとうございます!

恩田さんの受賞作『蜜蜂と遠雷』については、これから山ほどの紹介や論評が出るかと思います。そこで、ほかの名作を通じて、恩田さんの小説の魅力を探ってみました。


『いのちのパレード』と『きのうの世界』

以前、恩田さんの『いのちのパレード』(実業之日本社)を読んだときの、迷宮に入り込んだような、不思議な感覚が忘れられない。

恐らく、恩田さんが目指したのは「無国籍で不思議な」短編集だったはずだ。

生物の進化を一気に体感する表題作をはじめ、ファンタジーやSFからホラーまで多彩なジャンルの物語が並んでいた。いかに奇妙で想像力あふれる作品を生み出すかという実験であり、読む側もまた試されているような気がした。

そして、もう一冊、恩田ワールド全開と言える長編が、『きのうの世界』(講談社)である。

これがまた、尋常ではない。小説の多様な要素、というか、恩田さんの多様な小説世界を一冊に凝縮したような野心作であり、問題作なのだ。

物語は、「もしもあなたが水無月橋を見に行きたいと思うのならば、M駅を出てすぐ、いったんそこで立ち止まることをお薦めする」という書き出しで始まる。

この二人称の「あなた」とは一体誰なのか? もちろん簡単には明かされない。しかし、読む者は、いつの間にか、この「あなた」に同化し、物語の中に入り込んでしまう。実に巧みだ。

一人の男が突然失踪する。誰もが、すぐに顔を思い出せないような、目立たない、ごく普通の会社員だった男。そして1年後、都会から遠く離れた<塔と水路の町>で、そこにある「水無月橋」という名の橋で、彼は他殺体となって発見される。なぜ、誰に殺されたのか?

舞台となる<塔と水路の町>が変わっている。いや、どこか秘密めいているのだ。男の失踪、殺害と、この町の関係は?

さらに、もう一人、この町を訪れ、男と事件のことを探ろうとする女性が登場する。彼女は誰であり、その目的は何なのか?

いくつもの謎を抱えたまま、町の住人にからんだ、いくつものエピソードが展開される。しかし、読み進めても、なかなか真相は見えてこない。

それにしても、ここで描かれる<塔と水路の町>が魅力的だ。町の中を縦横に走る水路。そびえ立つ奇妙な2本の塔。今は崩壊している1本の塔。町全体が、閉じられた空間、一種の密室であり、物語に陰影や湿り気を与えている。まるで、もう一人の主人公である。

この作品は、ミステリーであり、ファンタジーであり、伝奇小説とも読める。いや、ジャンルでくくろうとするのは意味がない。深い謎と妖しい美しさと静けさに満ちた、小説のみが生み出せる世界が、ここにあるだけだ。


テレビ界のバイブル『お前はただの現在にすぎない』の半世紀

2017年01月22日 | 本・新聞・雑誌・活字



本のサイト「シミルボン」に、以下のコラムを寄稿しました。
https://shimirubon.jp/columns/1677755


テレビ界のバイブル
『お前はただの現在にすぎない』の半世紀


●テレビよ、お前はただの現在にすぎない

「いま一番欲しいものは何ですか?」
「総理大臣になったら何をしますか?」
「天皇陛下はお好きですか?」

若い女性の声が矢継ぎ早に質問を繰り出す。画面に映っているのは通勤途中のサラリーマンであり、魚河岸で働く仲買人であり、小学生の男の子だ。彼らは質問の意味を深く考える余裕も与えられないまま、即興で答えていく。

この後も質問は続き、「ベトナム戦争にあなたも責任がありますか?」「では、その解決のためにあなたは何かしていますか?」「祖国のために闘うことが出来ますか?」と畳み掛けていく。そして、「最後に聞きますが、あなたはいったい誰ですか?」で終わった。

829人の人々に、同じ「問いかけ」を敢行したこの番組は、それまで誰も見たこともない斬新なテレビ・ドキュメンタリーとなる。正直な言葉、取り繕った言葉、そして戸惑った表情や佇まいも含め、カメラが活写したのは1966(昭和41)年の“現在”を生きる、日本人の“自画像”そのものだった。

今も放送史に残る傑作ドキュメンタリー『あなたは・・』とはそんな番組であり、この年の芸術祭奨励賞を受賞した。制作したのは、TBSのテレビ報道部に在籍していた36歳の萩元晴彦。構成が寺山修司、音楽は武満徹である。

早稲田の露文科を卒業した萩元が、ラジオ東京(現TBSテレビ)に入社したのは1953(昭和28)年。奇しくも、日本でテレビ放送が開始された年だ。はじめラジオ報道部に配属され、録音構成『心臓外科手術の記録』で民放祭賞を受賞。

後にテレビ報道部に転じてからも、『現代の主役・小澤征爾「第九」を揮(ふ)る』がやはり民放祭賞を受けるなど、番組制作者として評価は高まっていった。

そんな萩元に大きな転機が訪れるのは1968(昭和43)年である。前年に制作した『現代の主役・日の丸』に対して、視聴者から抗議、非難、脅迫風の電話が殺到した。同様の投書も多数舞い込んだ。さらに、当時の郵政大臣が閣議で「偏向番組」だと指摘し、電波監理局の調査が行われる騒ぎとなった。

これに対し、会社側は萩元のニュース編集部への配転を決定。組合はこれを不当として立ち上がり、いわゆる「TBS闘争」へと発展していく。

1969(昭和44)年、萩元はTBSにおける後輩であり仲間でもある村木良彦、今野勉と共に一冊の本を出版する。当時の状況の克明な記録であり、「テレビとは何か」を徹底的に考察したこの本のタイトルは、『お前はただの現在にすぎない~テレビになにが可能か』(田畑書店⇒朝日文庫)

通称「ただ現」は、後に、テレビ界を目指す青年たちのバイブルとなった。なぜなら、この本は、制作者自身がテレビの<本質>に迫った、画期的なドキュメントだったからだ。

ここには様々な言葉が集録されている。議事録、声明文、ビラ、発言、証言などだ。その間を縫うように3人の<問い>が続いていく。テレビとは何なのか。テレビに何ができるのか。テレビの表現とはいかなるものか。それらの問いかけは「おまえはいま、どう生きているのか」という問いと同義だった。

3人の制作者は探り、自問自答していく。

テレビは時間である。
テレビは現在である。
テレビはドキュメンタリーである。
テレビは対面である。
テレビは参加である。
テレビは非芸術・反権力である。

そして、さらに書く。

テレビが堕落するのは、安定、公平などを自ら求めるときだ、と。


●テレビマンユニオンの誕生

時は60年代末だ。国内に学園紛争、国外にベトナム戦争と騒然たる時代である。

『TBSニュースコープ』で日本初のニュース・キャスターとなった田英夫が、北爆の状況を現地からリポートした『ハノイ・田英夫の証言』も自民党が問題視して話題となった。この番組を作った村木良彦もまた、萩元と同様に“非現場”へと追いやられることになる。

村木良彦も今野勉も、萩元に負けず劣らず個性的で優れた制作者だ。しかし、国の許認可事業としての放送局を経営する側から見れば、彼らは会社の言いなりにならない“危険分子”である。ひと癖もふた癖もあるこの男たちが自由に番組を作ることを許すわけにはいかなかった。

やがてTBS闘争が沈静化し終息に向かうころ、彼らは「ものをつくるための組織」「テレビ制作者を狭い職能的テリトリーから解放する組織」、つまり「テレビマンの組織」をつくることになる。実現へ向けて、水面下で難しい地ならしを行ったのは、村木や今野と同期入社の吉川正澄(きっかわ・まさずみ)だった。

1970(昭和45)年2月25日、萩元、村木、今野、吉川たちTBS退職者に、契約・アルバイトのスタッフも加えた総勢25名が、わが国初の番組制作会社を興す。「テレビマンユニオン」の誕生である。それは、番組をつくること、流すこと、その両方を放送局が独占的に行ってきた日本のテレビ界にとって一種の革命だった。

萩元は、皆に推される形で初代社長となる。この時、連日の話し合いの中で決めた組織の”基本三原則”は「合議・対等・役割分担」。それはテレビマンユニオンの創立から47年が過ぎた現在も生きている。

三原則の意味について、萩元はこう語っていた。「経験年齢とは一切関係なく全員が“対等”で、その運営は“合議”でなければならず、社長は選挙によって選ばれた者が“役割分担”する。全員が“やりたいことをやる”ために」。


●半世紀の時を超える『お前はただの現在にすぎない』

私がテレビマンユニオンに参加したのは1981年だ。創立から10年が過ぎていた。現在は、制作会社として大手の一つだが、当時はまだ規模も小さく、いわゆるベンチャーみたいなものだった。

採用試験は2年に1度。年齢・学歴・職歴・性別・国籍等、一切不問。この年の試験に挑んだ者、1600名。合格者は4名だった。

当時、村木が二代目社長を務めていた。新人4名が初めて揃った初日、私たちに向かって、村木は2つのことを言った。

「明日ツブれるかもしれませんが、それでもいいですか?」

4名のうち2名は新卒。私ともう一人(女性)は社会人経験があった。私自身は、高校教師の職を辞して参加していた。「ツブれるかも」と言われても、すでに帰る場所はない。

もう一つ、村木が言ったのは・・・

「組織に使われるのではなく、組織を使って仕事をしてください」

これに、シビれた。「明日ツブれてもいいや」と思った。以来、『お前はただの現在にすぎない』一冊と、この言葉を拠りどころに、20年にわたってテレビの仕事をすることになる。

2017年、すでに萩元も、村木も、吉川も故人となった。今野だけは元気だ。80歳となる今も、現役の演出家である。そしてテレビもまた、“問い”を続けており、“現在”であり続けている。

「最後に聞きますが、あなたはいったい誰ですか?」