碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

FRIDAYデジタルに、『くるり~誰が私と恋をした?~』について寄稿

2024年05月31日 | メディアでのコメント・論評

 

 

「記憶喪失ヒロイン×イケメン3人」

王道ラブコメと思いきや…

ドラマ『くるり』がおじさんに刺さるワケ

 

火曜ドラマ『くるり~誰が私と恋をした?~』(TBS系)。記憶喪失のヒロインと彼女を知る3人の男が登場するドラマだ。

当初、美女とイケメンたちの物語は、よくあるラブコメの王道かと思われた。だが、それだではないものがこのドラマにはある。

また視聴率としては可もなく不可もない5%台の数字が続いているが、決して下落してはいない。この状態をキープするのに貢献しているのは、固定のファン層がついているからだと思われ、その中に少なからず「おじさん」の視聴者もいるらしい。彼らを惹きつけているのが、主演の「めるる」こと生見愛瑠(ぬくみ める)の存在だ。

本稿では、「ホップ・ステップ・ジャンプ」ともいえる生見の軌跡を振り返りながら、おじさんたちをも巻き込む彼女の魅力を探ってみたい。

◆ホップ:

「発見ドラマ」としての『日曜の夜ぐらいは…』

生見の快進撃は、2023年春のドラマ『日曜の夜ぐらいは…』(ABCテレビ・テレビ朝日系)から始まった。

この作品は、どこにでもいそうな3人の女性が織りなす、異色の友情物語だった。サチ(清野菜名)は、足の不自由な母(和久井映見)を支えながら働いている。翔子(岸井ゆきの)は1人暮らしのタクシー運転手だ。

そして地方在住の若葉(生見)は、祖母(宮本信子)と同じ工場に勤務している。共通するのは、それぞれが鬱屈を抱えながら日々を生きていたことだ。

会うはずのない3人が知り合ったのは、あるラジオ番組のリスナー限定バスツアーだった。初対面なのにどこか気が合い、互いに友だちを得たように感じる。

その一方で、「友情」に対して、「後悔」や「裏切り」といったネガティブな言葉が思い浮かぶ3人は、無理をしてまで互いに距離をとったりする。このあたりの微妙な感情を、脚本の岡田恵和が繊細にすくい上げていた。

バスツアーの最中、一緒に買った3枚の宝くじ。その中の1枚が3000万円当たったことで物語にドライブがかかる。再会して均等に分け合うが、その後は慣れない大金に戸惑い気味だ。結局、「共同出資でカフェを開こう」という話になる。

若葉の有り金を持ち去る母親(矢田亜希子)や、サチに金の無心をする父親(尾美としのり)といった“障害”を乗り越え、翔子の口癖である「つまんねえ人生」を変えることはできるのか。生きることに不器用で、幸福になることを恐れているような彼女たちが、何とも切なく愛おしかった。

中でも若葉は、自分の美しさや目立つことがコンプレックスという「ねじれ感」が痛々しい。何もしていなのに異性の関心を集めたり、そのことで周囲の同性から嫉妬されたり、いじめられたりしてきたからだ。

等身大の女性の喜怒哀楽をナチュラルな演技で表現した生見は、第33回「TV LIFE 年間ドラマ大賞」助演女優賞を受賞した。多くのおじさんたちが生見愛瑠を「発見」したのが、このドラマだ。

◆ステップ:

「成長ドラマ」としての『セクシー田中さん』

次に生見が挑んだのが、後に原作漫画家の死をめぐる騒動が起きてしまった、23年秋の『セクシー田中さん』(日本テレビ系)だ。

派遣OLの朱里(あかり、生見)は、同じ会社の経理部で働く「田中さん」こと田中京子(木南晴夏)の秘密を知る。仕事は完璧だが、見た目は地味で暗いアラフォーだ。ところが、彼女にはセクシーなベリーダンサーという「別の顔」があった。

子どもの頃から周囲とうまく交わることが出来ず、自分を封印しながら生きてきた、田中さんが言う。「ベリーダンスに正解はない。自分で考えて、自分で探すしかない」と。

一方の朱里は、誰からも好かれる「愛され系女子」だ。しかし、誰からも好かれるが、誰かから「本当に好かれた」という実感がなく、モヤモヤしていた。また、不安定な派遣の仕事を続ける中で、不幸にならないための「リスクヘッジ」ばかりを意識してきた。

他人にどう思われようと気にしない田中さんに対する「推し活」を通じて、朱里は徐々に変わっていく。自分の価値観に従って生きようとし始めるのだ。

その様子が、どこか生見自身の進化と重なって見えた朱里はもちろん、生見の「成長物語」としても秀逸だったこのドラマで、第118回「ザテレビジョンドラマアカデミー賞」助演女優賞を受賞する。

◆ジャンプ:

「主演ドラマ」としての『くるり~誰が私と恋をした?~』

現在放送中の『くるり~誰が私と恋をした?~』は、生見のゴールデン・プライム帯での連ドラ「単独初主演」となる作品だ。

まこと(生見)は階段からの転落事故で記憶を失ってしまう。名前はもちろん、自分に関する情報は皆無。唯一の手掛かりは、ラッピングされた男性用の指輪だった。

やがて、彼女を「知っている」という男たちが現れる。会社の同僚で「唯一の男友達」と称する朝日(神尾楓珠)。フラワーショップの店主で、「元カレ」だという公太郎(瀬戸康史)。さらに偶然出会った年下の青年・律(宮世琉弥)だ。

自分が何者で、何をしてきたのか。周囲の人たちにとっての自分は、一体どんな人間だったのか。それが分からないことが一種のサスペンス性を生む。まことは自分のことを知りたいが、同時に「少し怖い」とも思っている。記憶を失くした今の自分から見て、「好ましい自分」かどうか、分からないからだ。

その一方で、別の考え方があることも知った。記憶喪失は、「自分らしさ」という呪縛から自由になることであり、人生の「リセット」が出来るかもしれないのだ。

このドラマ、始まる前は単純な記憶喪失ドラマかと思われた。しかし、そうではなかった。注目すべきは、「過去の自分」探しと「未来の自分」作りが同時進行していく、物語の新しさだ。そこには「本当の自分とは?」という普遍的なテーマが潜んでいる。

しかも、そんなテーマを持ちながら、この作品は暗くもなく、重たくもない。生見が持つ生来の「明るさ」がドラマの基調トーンを支えているのだ。

生見の演技は、「私を見て」とか「私はここにいる」といった自己主張をしない。「自分をよく見せよう」とは思わない、無欲ともいえる究極の「自然体」。自分が演じる女性にひたすら共感することで役柄になり切るのが、生見愛瑠という俳優の魅力だ。見る側は、そんな生見と一体化したヒロインをつい応援したくなる。

ドラマは終盤へと差し掛かってきた。徐々に扉を開きはじめた記憶は、まことに何をもたらすのか。それは分からない。だが、どんな展開が待っていようと、まこと=生見が不幸にならないことだけを、おじさんたちはひたすら祈っている。

(FRIDAYデジタル 2024.05.28)


吉田鋼太郎「おいハンサム‼2」最後までハンサムだった

2024年05月30日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

最後までハンサムだった

吉田鋼太郎主演「おいハンサム‼2」

東海テレビ制作・フジテレビ系

 

吉田鋼太郎主演「おいハンサム‼2」(東海テレビ制作・フジテレビ系)は2年ぶりの続編だ。

舞台は前シーズン同様、源太郎(吉田)が妻の千鶴(MEGUMI)と暮らす伊藤家。3人の娘は独立しているが、何かあると実家に顔を出す。

独身の長女・由香(木南晴夏)は、いまだに元カレの大森(浜野謙太)と縁が切れないままだ。また夫の浮気で離婚した次女の里香(佐久間由衣)は、会社の屋上で出会った謎の男(藤原竜也)が気になって仕方ない。

そして三女の美香(武田玲奈)は、婚約者・ユウジ(須藤蓮)の浮気疑惑でモヤモヤが続いている。そんな家族の前で、ちょっとハンサムな顔をして人生訓を述べる源太郎も以前と変わらない。

軸となるのは、オムニバス形式のような同時並行で描かれていく娘たちの日常だ。何か事件や大きな出来事が起こるわけではないのに、目が離せない。

それは、ややトンチンカンな男選びも含め、彼女たちが「素の自分」で世間と向き合っているからだ。迷ったり悩んだりする姿がチャーミングかつユーモラスで、つい応援したくなる。

25日の最終回、源太郎の訓示は「選択」について。選ぶことは大切だが、正解を求め過ぎない。自分の選んだ道を正解にしていく。その上で、選択の責任は自分でとること。

そう語る源太郎は、やはり最後までハンサムだった。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.05.29)


NTTドコモCMの河合優実さん、変幻自在の演技力

2024年05月29日 | 「日経MJ」連載中のCMコラム

 

 

変幻自在の演技力

NTTドコモ  Google Pixel 8a

「かこって検索ってなに?」篇

喫茶ピクセル第1話

 

ドラマ「不適切にもほどがある!」(TBS系)は、令和の世界にタイムスリップしてきた「昭和のおじさん」が、コンプライアンス全能の社会に笑いながら疑問符を投げつける痛快作だった。

このドラマで、主人公の娘である「昭和の女子高生」を演じたのが河合優実さんだ。聖子ちゃんカットにロングスカート。令和を体験した不良少女は、猛勉強して第一志望の大学に合格を果たす。

主演の阿部サダヲさんに負けない注目を集めた優実さんが、NTTドコモのWEBムービー「喫茶ピクセル」に出演している。

舞台はグーグルピクセルを愛用する人たちがやってくる喫茶店だ。常連客の優実さんが、動画を見ながら「この赤ちゃんのほっぺ、ぷにっぷに~。触ってみたいなあ~」とつぶやく。

突然、自身の頬を指で押し始めるマスター(はんにゃ・金田哲さん)。「張り合わないでよ」という優実さんの一喝が笑いを誘う。

昭和の女子高生から令和の大人の女性まで。見る者の目を引きつけるのは変幻自在の演技力だ。

(日経MJ「CM裏表」2024.05.27)

 


【気まぐれ写真館】 五月の「サツキ」

2024年05月28日 | 気まぐれ写真館

世田谷・駒沢にて

 


再放送希望!「向田邦子賞」を受賞した、ドラマ『グレースの履歴』の魅力とは?

2024年05月27日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

再放送希望!

「向田邦子賞」を受賞した、

ドラマ『グレースの履歴』の魅力とは?

 

優れた脚本を手掛けた作家に贈られる、「向田邦子賞」。

主催は東京ニュース通信社などで、前年度に放送されたテレビドラマの脚本を対象に選考されています。

先日、第42回「向田邦子賞」が発表されました。受賞したのは、源孝志(みなもと たかし)さんです。

作品は、2023年3月19日~5月7日放送の『グレースの履歴』(NHK BSプレミアム、全8話)でした。

「大人のドラマ」の秀作

主人公は製薬会社の研究員、蓮見希久夫(滝藤賢一)です。

子どもの頃に両親が離婚し、唯一の肉親だった父も他界。家族はアンティーク家具のバイヤーである妻、美奈子(尾野真千子)だけでした。

仕事を辞めることを決意した美奈子は、区切りの欧州旅行に出かけます。ところが、旅先で不慮の事故に遭い、急死してしまう。

希久夫は現れた弁護士から、実は美奈子が命にかかわる病気の治療を続けていたことを告げられます。

呆然とする希久夫に遺されたのは、美奈子が「グレース」と呼んでいた愛車、ホンダS800でした。

希久夫がグレースのカーナビに触れると、履歴に複数の見知らぬ場所が表示されます。

日付によれば、美奈子が走ったのは欧州に旅立つ前の一週間。彼女は希久夫に出発日をずらして伝えていたことになります。

一体、誰に会いに行ったのか。疑ったのは、愛人なのか恋人なのか、男性の存在でした。

希久夫は、何かに突き動かされるように、履歴に記された街に向かってグレースを走らせます。

藤沢、松本、近江八幡、尾道、そして松山。待っていたのは希久夫自身の過去であり、美奈子の切実な思いでした。

このドラマ、今は亡き愛する人が仕掛けた謎を追う、いわば「ロードムービー」です。

古いクルマでの移動だからこそ味わえる、美しい日本の風景。

歴史のある街に暮らす、かけがえのない人たち。

画面の中には、ゆったりとした時間が流れています。

受賞記念の一挙再放送を!

また、このドラマ全体が「再生の旅」でもあります。

そこには人生の苦みや痛みもあるのですが、まさに再び生きるための旅であり、「出会いの旅」なのです。

しかも、主人公だけの「再生の物語」ではありませんでした。

それを深みのある映像と、絞り込んだセリフで構成することによって成立させています。

滝藤賢一さん、尾野真千子さんの静かな演技が印象に残ります。まさに、「大人のドラマ」でした。

誰かを大切に思うこと。誰かと共に生きること。その意味を深く考えさせてくれる1本でした。

原作・脚本・演出は、いずれも源孝志さん。

本作同様、脚本・演出を手掛けた作品に、新感覚チャンバラドラマ『スローな武士にしてくれ~京都 撮影所ラプソディー~』(NHK・BSプレミアム、2019年)などがあります。

極上のエンタメとしての〝源ドラマ〟は、それ自体が一つのジャンルと言っていいでしょう。

向田邦子賞の受賞記念として、『グレースの履歴』の一挙再放送を熱望しつつ、源さんの新作を待ちたいと思います。

 


【新刊書評2024】 『絶景本棚3』ほか

2024年05月26日 | 書評した本たち

 

 

「週刊新潮」に寄稿した書評です。

 

本の雑誌編集部:編『絶景本棚3』

本の雑誌社 2530円

本好きにとって他者の本棚は「見たいもの」の一つだ。本書は「絶景!」と呼びたい本棚を写真で紹介するシリーズの最新刊。書庫兼仕事場の壁二面に隙間なく本棚を造り付けたのは角田光代だ。漫画家・吉田戦車は驚くほど多くの料理本を集めている。津野海太郎の本棚には花田清輝や長谷川四郎の全集、花森安治、植草甚一などの関連本が並ぶ。ルーペ片手にゆっくりと書名を眺めるのが快感だ。

 

千木良悠子『はじめての橋本治論』

河出書房新社 3850円

没後5年となる橋本治。本書は「一人の人間によるまとまった評論集」として初の著作物だ。橋本は明治の文一致体を新たな視点で再定義し、自身の文体も巧みに変化させてきた。作家で劇作家の著者は、出世作『桃尻娘』シリーズにおける「語り」の意味を探り、後期の代表作『草薙の剣』に潜む複数の「謎」を解明していく。浮上してくるのは「日本の現代を切り拓いた作家」橋本治の実像だ。

 

木寺一孝『正義の行方』

講談社 1870円

1992年に福岡県飯塚市で2人の女児が拉致され、山中で遺体となって見つかった。「飯塚事件」である。犯人とされた男性は2008年に死刑執行。しかし、えん罪を主張する再審請求は現在も続けられている。著者が警察官、法医学者、新聞記者などを丹念に取材したドキュメンタリーは、文化庁芸術祭「大賞」を受賞した。その番組と、この4月に公開の映画版を併せて書籍化したのが本書だ。

 

近内悠太

『利他・ケア・傷の倫理学~「私」を生き直すための哲学』

晶文社 1980円

他者への善意が空転しがちな「多様性の時代」。周囲との関係をどう考えていけばいいのか。教育者で哲学研究者の著者が探っていく。ケアとは「その他者の大切にしているものを共に大切にする営為全体のこと」。そして、利他とは「自分の大切にしているものよりも、その他者の大切にしているものの方を優先すること」。相手を変えるのではなく、自分が変わることによって見えてくる風景がある。

(週刊新潮 2024.05.23号)

 


FRIDAY DIGITALで、7月期フジ月9『海のはじまり』について解説

2024年05月25日 | メディアでのコメント・論評

 

 

目黒蓮の主演作なのに…

〝恋愛封印〟に方向転換した7月期フジ月9

『海のはじまり』の勝算を占う

 

人気グループ『Snow Man』の目黒蓮(27)が7月スタートの『海のはじまり』でフジテレビ月9初出演にして主演することが発表された。同作品は親子の愛をテーマにしたオリジナル作品で、目黒は父親役に初挑戦。元恋人が他界した後、彼女がひそかに産んでいた6歳の娘と出会うという難役に挑むことになった。

「フジは春の改編で旧ジャニーズ事務所所属グループの冠番組4本を終了させるなど、同社の創業者・故ジャニー喜多川氏の性加害問題を受け、旧ジャニーズ勢の起用を自粛していました。

しかし、TVerの再生回数や、重視している13歳から49歳までのコア視聴率稼ぎのためか、何事もなかったかのように旧ジャニーズ勢の起用を再開。7月期の金9枠では『Hey! Say! JUMP』の山田涼介(31)が主演を務める学園ドラマ『ビリオン×スクール(仮題)』が放送されます」(放送担当記者)

『海のはじまり』の制作陣には、目黒が難聴を抱える青年役を好演し、社会現象を巻き起こした’22年10月期の同局系『silent』のスタッフが集結。脚本を生方美久氏、演出を風間太樹氏、プロデュースを同局の村瀬健氏が担う。

同局の看板枠である月9は、昨年の7月期では’16年7月期の『好きな人がいること』以来、7年ぶりの王道ラブストーリーである『真夏のシンデレラ』を放送。以後、今年1月期の『君が心をくれたから』や、現在放送中の『366日』はいずれも悲恋のラブストーリーだ。

しかし、今作では旧ジャニーズ所属で若い女性に大人気の目黒が主演にもかかわらず、目黒の相手役として天才子役として注目を集める泉谷星奈(いずたに・らな、6)を起用。ラブストーリーではなく〝親子もの〟にしたのだ。

やはり生方氏、村瀬氏ら『silent』のスタッフが集結した昨年10月期の木10『いちばん好きな花』は多部未華子(35)、松下洸平(37)、今田美桜(27)、神尾楓珠(25)が〝クアトロ主演〟。「男女の間に友情は成立するのか」をテーマに、違う人生を歩んできた4人の男女が紡ぎ出す「友情」と「恋愛」、そしてそこで生まれるそのどちらとも違う「感情」を描くという斬新なドラマだった。

同作品はネット上では放送回の度に好評だったが、平均世帯視聴率は全11話で5.1%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)とあまりふるわなかった。そして、今作は月9で旧ジャニーズ&子役という新たな方向にカジを切ったこととなるが、果たしてドラマの〝勝算〟はあるのか?

メディア文化評論家・碓井広義氏は、「これは目黒蓮のドラマというよりも、脚本の生方美久のドラマというふうに見ています」と指摘する。

「『silent』は広い意味では恋愛ドラマですが、いわゆるイメージとしてパッと浮かぶ男女の恋愛ドラマとはちょっとずれていました。ハンディキャップを抱えた青年の生きづらさを描いた〝恋愛〟ドラマだった点が多くの人の共感を呼んだのです。

今回は『家族』や『親子』がテーマのようですが、生方さんのドラマだから、ストレートなファミリードラマではない。多分に苦みも伴うような〝親子〟の物語、〝家族〟の物語になっていると思うんですよね。『家族』の形が多様化していっている現代に、家族というものをこれまでとは違った視点でテーマ化していく、ドラマ化していくっていうのは、十分にやる価値のあるトライです。

これまでのような恋愛系で中途半端に評判をとって支持を集めていたら、こうはならなかったかもしれないけども、やっぱり、フジテレビとしてもこういう試みをしていく必要が生まれてるんじゃないでしょうか」(碓井氏)

では『silent』放送時の〝再来〟のように社会現象的なヒット作となるのだろうか。

「視聴率的には決してドカンとくることはないと思っています。生方さんのドラマって、いい悪いは別にして地味なので(笑)。ただ、そこにじわじわと伝わる共感性というか、共振性とでもいうべき連ドラならではの味わいがあるので、見た目の視聴率よりも大きな反響を呼ぶ可能性はありますよね」(同前)

フジ月9は注目される枠であるがゆえに放送される作品は話題作となることが多いのだが、『海のはじまり』は久しぶりに〝いい意味での〟話題作となるだろうか。

(FRIDAY DIGITAL

 


【気まぐれ写真館】 「新宿駅西口」界隈

2024年05月24日 | 気まぐれ写真館

消えた「小田急百貨店」跡地

2024.05.23

 


言葉の備忘録369 人生という・・・

2024年05月23日 | 言葉の備忘録

花王の「バブ」

 

 

 

IN THE BOOK OF LIFE,

THE ANSWERS ARE NOT IN THE BACK!

Charlie Brown

 

 

人生という本には、

うしろのほうに答えが書いてあるわけじゃない

チャーリー・ブラウン

 

 

チャールズ・M・シュルツ 谷川俊太郎=訳

『スヌーピーたちの人生案内』より

 

 

 


「9(ナイン)ボーダー」悩めるボーダーたちへの応援歌

2024年05月22日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

川口春奈主演「9(ナイン)ボーダー」

悩めるボーダーたちへの柔らかな応援歌

 

うまいタイトルをつけたものだ。川口春奈主演「9(ナイン)ボーダー」(TBS系)である。ここでは20代や30代といった各年代の最終年やその状態を指している。

孔子は「三十にして立つ、四十にして惑わず、五十にして天命を知る」などと、節目の年齢における理想像を「論語」で示した。

だが、実際に29歳や39歳というボーダーに立った時、何となく焦りを感じたり、どこか落ち着かない気分になる人は少なくないはずだ。

銭湯を営む大庭家の長女・六月(木南晴夏)は39歳。会計事務所を経営しているが、別居中だった夫と離婚した。

次女で29歳の七苗(川口)は勤めていた会社を勢いで辞めてしまった。そして、やや引っ込み思案の三女・八海(畑芽育)は19歳の浪人生だ。

3人は、「私、これからどうしたいんだ?」という迷いの中にいることで共通している。

しかし、彼女たちは基本的に元気だ。七苗がつき合い始めた記憶喪失の青年・コウタロウ(松下洸平)や、六月を慕う部下の松嶋(井之脇海)など、心優しき男たちが近くにいる。何より三姉妹が互いに支え合う姿がほほ笑ましい。

脚本は「恋はつづくよどこまでも」(TBS系)などで知られる金子ありさだ。

やりたいことや夢には時間制限がないこと。年齢で線引きして諦めないこと。このドラマは、悩めるボーダーたちへの柔らかな応援歌だ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.05.21)

 

 


言葉の備忘録368 薔薇は・・・

2024年05月21日 | 言葉の備忘録

 

 

 

薔薇はなぜという理由なしに咲いている。

薔薇はただ咲くべく咲いている。

薔薇は自分自身を気にしない、

ひとが見ているかどうかも問題にしない。

 

 

アンゲルス・シレジウス(ドイツ・バロック時代の宗教詩人)

『シレジウス瞑想詩集』より

 


『らんまん』や『ブギウギ』とはひと味違う、『虎に翼』から「目が離せない」理由とは?

2024年05月20日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

『らんまん』や『ブギウギ』とはひと味違う、

『虎に翼』から「目が離せない」理由とは?

 

NHK連続テレビ小説(朝ドラ)の主人公には二つのタイプがあります。

一つは架空の人物。もう一つが実在の人物をモデルにしたものです。

最近は後者が続いていますね。『らんまん』は植物学者の牧野富太郎。『ブギウギ』は歌手の笠置シヅ子でした。

放送中の『虎に翼』は、三淵嘉子(みぶち よしこ)がモデルです。

大正3年生まれの嘉子は、昭和13年に現在の「司法試験」に合格。

日本初の女性弁護士・判事であり、司法界の「ガラスの天井」を次々と打ち破ってきた女性です。その軌跡は戦前・戦後を貫く、試練の「女性史」でもあります。

実は放送開始前、朝ドラのヒロインとしては「堅苦しくないか」と懸念していたのですが、それは杞憂でした。

第一の功績は、主人公・猪爪寅子(いのつめ ともこ)を演じる伊藤沙莉さんです。

世間の常識が、まだ「女性の幸せは結婚にあり」だった時代。自己主張する女性が疎(うと)まれていた時代。寅子は自然体で自分の道を切り拓いていきます。

納得がいかない事態や言動に接したときに、寅子が発する「はて?」という疑問の声は、彼女の生き方の象徴でしょう。

芯は強いのですが、どこか大らかな寅子のキャラクターを、伊藤さんが全身で表現しています。

「社会性」と「共感性」の朝ドラ

次に、この作品がヒロインだけを追う朝ドラではなく、同時代を生きる人たちも丁寧に描く「群像劇」になっていることです。

これまで、寅子と共に学ぶ女性たちの人物像をきちんと造形してきました。

華族の令嬢である桜川涼子(桜井ユキ)。弁護士の夫がいる大庭梅子(平岩紙)。

朝鮮半島からの留学生、崔香淑(ハ・ヨンス)。そして、いつも何かに怒っている勤労学生の山田よね(土居志央梨)。

単なる「周囲の人」ではない彼女たちの存在が、物語に広がりと奥行きを与えています。

しかし、最終的に弁護士の資格を得たのは寅子だけでした。

大学が主催した祝賀会。新聞記者たちの前で、寅子は抑えてきた思いを口にします。

「高等試験に合格しただけで、女性の中で一番だなんて口が裂けても言えません」

続けて・・・

「志(こころざし)半ばで諦めた友。そもそも学ぶことができなかった、その選択肢があることすら知らなかった、ご婦人方がいることを私は知っているからです」

さらに・・・

「生い立ちや信念や格好で切り捨てられたりしない、男か女かでふるいにかけられない社会になることを、私は心から願います……いや、みんなでしませんか? しましょうよ!」

寅子は、そう呼びかけました。

ユニークな主人公“個人”が際立っていた『らんまん』や『ブギウギ』とはひと味違う、見る側を引き込むような「社会性」と「共感性」がこのドラマにはあるのです。

物語は中盤に差し掛かってきました。「女性の弁護士」というものが奇異な目で見られていた時代に、一人の「弁護士」として歩み始めた寅子から、やはり目が離せません。

 


【新刊書評2024】 三田紀房『ボクは漫画家もどき』ほか

2024年05月19日 | 書評した本たち

 

 

「週刊新潮」に寄稿した書評です。

 

三田紀房『ボクは漫画家もどき~イケてない男の人生大逆転劇』

講談社ビーシー 1760円

著者は『ドラゴン桜』や『アルキメデスの大戦』などで知られる人気漫画家だ。しかし、本人は「漫画家もどき」を自称する。描き始めた動機が借金を抱えてのカネ欲しさだったからだ。この自伝的エッセイで語るのは人生の軌跡だけではない。物語は「コメディで始まり、センチメンタルで終わる」。「タイミングをずらしてフェイントをかけてから打ち込む」といった創作の秘密も明かされる。

 

重信房子『パレスチナ解放闘争史1916-2024』

作品社 3960円

イスラエルのガザ地区への攻撃が激しさを増している。パレスチナ解放の闘いに参加してきた著者によれば、これは「イスラエルとハマースの戦争」ではない。イスラエルによる「民族浄化」だという。では、なぜこのような事態に陥ったのか。パレスチナ国家の樹立とイスラエル国家との共存を目指した、1993年の「オスロ合意」。その破綻をはじめ、いくつもの転換点を指摘する闘争の通史だ。

 

田家秀樹『80年代音楽ノート』

集英社 1870円

1980年代とは「70年代に芽を出したさまざまな流れが連鎖反応のように一斉に開花していった10年間」。本書は音楽評論家である著者が現場で体感してきた、80年代音楽の同時代史だ。オフコース、松田聖子、YMOの80年にはじまり、大滝詠一、南佳孝、松山千春の81年、小泉今日子や中森明菜などアイドルラッシュの82年と続いていく。ライブの熱、アーティストの思い、時代背景も活写される。

(週刊新潮 2024.05.16号)


【新刊書評2024】 『「笑っていいとも!」とその時代』

2024年05月18日 | 書評した本たち

 

 

太田省一『「笑っていいとも!」とその時代』

集英社新書 1034円

 

「森田一義アワー 笑っていいとも!」(フジテレビ系)の開始は1982年秋。2014年3月の終了まで約32年間、全8054回が放送された。  

一本の番組を深掘りすることで時代と社会を読み解いていく。太田省一『「笑っていいとも!」とその時代』は、社会学者の著者による意欲的な試みだ。

この番組は戦後日本、特に「戦後民主主義が持つ可能性」を最も具現していたのではないか。本書はそんな仮説から出発している。  

著者はいくつかの注目ポイントを挙げる。まず、「仕切らない司会者」という特異な存在だったタモリだ。

番組を切り回すことはせず、その場の雰囲気を自身も楽しもうとする。仕切ることを避けながら、「楽しくなければ」と連呼する80年代のテレビや時代との距離を保っていたというのだ。  

次が、「テレフォンショッキング」のコーナーが象徴する「広場性」だ。ジャンルを超えたレギュラー出演者の組み合わせがテレビ的「つながり」を増幅し、様々な素人参加企画も番組の間口を広げていった。

さらに著者は、番組の拠点であるスタジオアルタがあった新宿という「場」に目を向ける。

60年代にカウンターカルチャーの聖地だった新宿。70年代半ば、歌舞伎町の飲み屋で生まれたのが「タモリ」だ。

演者と観客が渾然一体となった空間で、独自の密室芸を進化させる。そして80年代、不穏な黒メガネの男は、新宿に通勤する「仕切らない司会者」となった。

(週刊新潮 2024.05.16号)


言葉の備忘録367 何が・・・

2024年05月17日 | 言葉の備忘録

 

 

 

何があっても、

どんな困難があっても、

生きていかなくてはならないわけだ。

どうやって生きたかだ。

 

 

ドキュメンタリー

『福島モノローグ 2011―2024』

NHK