碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

「オロナミンC」新作CMの森七菜さんに注目!

2020年07月31日 | 「日経MJ」連載中のCMコラム

 

 

大塚製薬 オロナミンC

「元気はつよいぞ。放送室からのエール」篇

「スマイル」に元気もらう夏

 

放送室といえば、忘れられないのが映画「20世紀少年」で描かれたシーンだ。

中学校の放送室を占拠したケンヂが、T・レックスの「20センチュリー・ボーイ」を校内に流して大騒ぎとなる。しかも、この放送がある少年の運命を変えたことも後々わかってくるのだ。

オロナミンCの新作CMの舞台は高校の放送室。床掃除をしていた女子生徒(森七菜さん)がふと窓から外を眺める。そこには、炎天下にたった一人でグラウンド整備をする野球部員の姿があった。

今年は新型コロナウイルスの影響で高校野球の甲子園大会も中止だ。しかし、少年は黙々とマウンドでトンボ(地ならしの道具)を動かしている。

突然、マイクに向かって「♪いつでもスマイルし~ようね!」と歌い出す七菜さん。ホフディランが24年前にメジャーデビューした時の曲「スマイル」だ。少年も「あ、生徒会長」と顔を上げる。

元気をもらった歌声と共に、いつかきっと思い出す、一瞬の夏。

(日経MJ「CM裏表」2020.07.27)

 

念のためですが(笑)、ホフディランはボブ・ディランとは別物で、日本の音楽グループです。

 


最終回を迎える『BG~身辺警護人~』の深化

2020年07月30日 | 「現代ビジネス」掲載のコラム

 

 

キムタクの演技も大好評…!

最終回を迎える『BG~身辺警護人~』の深化

 

今夜、木村拓哉主演『BG~身辺警護人~』(テレビ朝日系)の最終回が放送される。第1シーズンから木村の演技もドラマの脚本も深みを増している。ラストも気になるところだが、そもそも「警護ドラマ」とは何か? メディア文化評論家の碓井広義氏が刑事・警備・警護ドラマの系譜を分析する。 

警備ドラマ」の原点となった『ザ・ガードマン』

刑事を主人公とした「刑事ドラマ」の歴史は古く、その数も膨大なものになる。しかし、刑事ならぬ警備員を主人公にした「警備ドラマ」ということになると、まず思い浮かぶのが『ザ・ガードマン』(TBS系)だ。  

昭和の東京オリンピックが開催された翌年、1965年の春に始まり、71年の冬まで続いた。7年近くで、全350話。当時、いかに人気を博していたかが分かる。  

物語の舞台は、民間警備会社の「東京パトロール」。日本初の警備会社で、実在の「日本警備保障」(現在のセコム)をモデルとしていた。  

高倉キャップを演じた宇津井健をはじめ、神山繁、中条静夫、稲葉義男、藤巻潤といった顔が懐かしい。警察以上の捜査力、いや「調査力」と「行動力」で犯人を追いつめていく様子にドキドキしたものだ。  

警備会社らしく、現金輸送車襲撃事件などは何度も作られたし、また夏場には怪奇・ホラー物と言うべき内容が放送された。  

今思えば、警備の仕事から大きく外れていたものも多かったが、そんなことは誰も気にしなかった。「警察以外の組織と人が悪に立ち向かう」という設定自体にインパクトがあったのだ。

人間ドラマとしての『男たちの旅路』

次に挙げるべき「警備ドラマ」は、山田太一脚本『男たちの旅路』シリーズ(1976~82年)だ。NHK「土曜ドラマ」史上というより、ドラマ史上の名作の一つと言っていい。  

警備会社のガードマンとして働く特攻隊の生き残り、司令補の吉岡晋太郎(鶴田浩二)の印象が今も消えない。部下である杉本陽平(水谷豊)、柴田竜夫(森田健作)、島津悦子(桃井かおり)たちとの世代間ギャップも、世代を超えた人間としてのぶつかり合いも、それまでのドラマにはなかった視点と緊張感に驚かされた。  

たとえば、77年放送の「シルバーシート」。杉本(水谷)と悦子(桃井)が担当していたのは「空港警備」だ。いつも構内で本を読んでいる本木老人(志村喬)を、他のガードマンたちは邪魔者扱いするが、2人は何かと気遣っていた。  

そんな本木がロビーで亡くなってしまう。彼が暮らしていた老人ホームを訪れ、本木の仲間たちと出会う杉本と悦子。だが数日後、その老人たち(笠智衆、殿山泰司、加藤嘉、藤原釜足)が都電を占拠し、立てこもる。  

彼らの言い分から浮かび上がる、「老いた人」を敬わない社会の理不尽と切なさ。警備ドラマというジャンルを超え、人間ドラマとしての深みに達したこの作品は、昭和52(1977)年度の芸術祭大賞を受賞した。

「身辺警護」という新たな現場『4号警備』

『男たちの旅路』から35年後の2017年春、同じNHK「土曜ドラマ」枠で放送されたのが『4号警備』だ。

民間の警備会社における区分で、1号警備とは「施設警備」のことを指す。2号は「雑踏警備」で、3号は「輸送警備」。そして、いわゆる「身辺警護」を行うのが4号警備だ。わかりやすく言えば「ボディーガード」である。  

主人公は警備会社「ガードキーパーズ」の警備員で、元警察官の朝比奈準人(窪田正孝)。そして年長者の石丸賢吾(北村一輝)だ。時に暴走してしまう朝比奈を、石丸が抑えたり、追いかけたりする形で物語が展開されていく。  

遺産相続がらみで盲目の男性を守ったり、ストーカーに狙われている女性を助けたり。またブラック企業といわれる不動産会社の社長(中山秀征)や選挙運動中の市長候補(伊藤蘭)が対象だったりと、2人は大忙しだった。  

いずれのケースでも、単なる身辺警護ではなく、警護すること自体が、相手が抱えている悩みや問題の解決につながっていく。しかもそれが、朝比奈自身や石丸自身が抱えている葛藤ともリンクしていた。

毎回読み切りで30分という短い時間だったが、窪田や北村の好演を支えた宇田学(『99.9-刑事専門弁護士-』など)の脚本は、テンポの良さと中身の濃さの両立を目指して善戦していた。  この『四号警備』によって、「警備ドラマ」から「警護ドラマ」への道筋が開かれたのだ。

警護ドラマの秀作『BG~身辺警護人~』第1章

木村拓哉主演『BG~身辺警護人~』(テレビ朝日系)が登場したのは2018年。井上由美子のオリジナル脚本だった。  

井上は『GOOD LUCK!! 』(TBS系)や『エンジン』(フジテレビ系)など、木村の主演ドラマを何本も手掛けてきたベテラン脚本家。当時、久しぶりのタッグの舞台がテレビ朝日という点も注目を集めた。  

2015年に木村が主演を務めたのが、テレ朝の『アイムホーム』だ。このとき木村は、「他者の顔が仮面に見えてしまう」という不安定な立場と複雑な心境に陥った男を見事に演じてみせた。  

これで「俳優・木村拓哉」が確立するかと思いきや、次に主演した『A LIFE~愛しき人~』(TBS系)が、脚本の凡庸さもあり、再び“キムタクドラマ”へと後退してしまったのだ。  

そして『BG』である。まず、刑事ドラマならぬ「警護ドラマ」としての骨格がしっかりしていた。  

同じボディーガードでも、警視庁のSPと違って民間警護人には捜査権がない。また銃などの武器も持てない。そのハンディをどう補い、いかにして対象者を守るのかが見所だった。  

木村は、かつての失敗をトラウマとして抱えながらも、体を張って(痛い目に遭いながら)警護の責任を果たす主人公、島崎章を抑制された演技で好演する。  

裏で支えていたのは井上脚本であり、『アイムホーム』も演出した七高剛監督である。さらに警視庁SPの江口洋介や警備会社上司の上川隆也なども、このドラマの成功に寄与していた。

深化した『BG~身辺警護人~』第2章

2年前の第1シーズンとの大きな違いは、主人公の島崎章(木村)が組織を離れたことだろう。警備会社を買収したIT系総合企業社長の劉光明(仲村トオル)が、利益のためなら社員の命さえ道具扱いする人物であることを知ったからだ。  

いわばフリーランスのBG(ボディーガード)となった島崎。最初の依頼人は業務上過失致死罪で服役していた、元大学講師の松野(青木崇高)だった。  

女性研究員が窒息死した事故の責任を問われた松野が、出所後は指導教授(神保悟志)に謝罪するために大学へ行こうとしており、警護を頼んできたのだ。  

しかも研究員の死には隠された事実があった。島崎は万全のガードを行いつつ、松野の言動にも注意を怠らない。チームによる警護から個人作業へ。そこから生じる島崎の緊張感を、木村が丁寧に表現していた。  

前シーズンでは警護する相手として政財界のVIPが多く、残念ながら物語がやや類型的になっていた。しかし、今回からは対象者の幅が広がっている。  

たとえば第2話、盲目のピアニスト(川栄李奈)の場合、彼女の身体だけでなく、彼女の折れかけていた「演奏する心」まで護(まも)っている。「警護」の意味が、より深まっているのだ。  

また第6話では、シャッター商店街でカレー食堂を営む女主人(名取裕子)を、立ち退きを要求する不良家主やその取り巻きからガードしていた。法的な問題もあり、最後には店を閉じることになるが、女主人から「私の大切な日常を護ってくれて、ありがとう」と感謝される。  

フリーになった島崎が開設した事務所に、前シーズンでは何かと対立してきた高梨雅也(斎藤工)を参加させたことも、テレ朝が得意な「バディ(相棒)物」に寄せた、巧みな仕掛けだ。設定の大胆な変更が「深化」として結実している。  

「刑事ドラマ」へのカウンターとして出発した「警備ドラマ」。それがさらに「警護ドラマ」へと発展し、現在の到達点として今回の『BG』がある。  

「相手が誰でも警護するのがプロ」と自負する島崎に対して、いわば宿敵である劉光明(仲村)自身が警護を依頼してきた。果たして島崎は、劉の何を護るのか。そしてドラマ全体の大団円をどう迎えるのか。最後まで目が離せない。

 


「MIU404」アンナチュラルの 最強トリオが放つ剛速変化球

2020年07月30日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「MIU404」

アンナチュラルの

“最強トリオ”が放つ剛速変化球

 

タイトルの「ミュウ・ヨンマルヨン」は、第4機動捜査隊に所属する伊吹藍(綾野剛)と志摩一未(星野源)のチームを指すコールサイン。事件発覚後、すぐに展開される「初動捜査」という短期決戦が彼らの任務だ。

野性のカンと体力の伊吹。理性と頭脳の志摩。対照的でありながら、内部に葛藤を抱えることでは共通している、魅力的なキャラクターだ。

扱われる事件はさまざまだが、このドラマのキモは、いわゆる謎解きやサスペンスだけではない。事件を通じて2人が遭遇する、一種の「社会病理」を描くことにある。

たとえば、警察への「イタズラ通報事件」。駆けつけた警察官を相手にリレー形式で競走していたのは、廃部になった陸上部の高校生たちだった。背後にあるのは若者の薬物問題と、ひたすら組織(ここでは学校)を守ろうとする隠蔽体質だ。

また外国人による「コンビニ強盗事件」では、外国人留学生や研修生を安価な労働力として使い捨てにする、この国の闇に迫っていた。「みんな、どうして平気なんだろう」と言う伊吹。「見ないほうが楽だからだ。見てしまったら、世界がわずかにズレる」と志摩。綾野と星野のマッチングが生きている。

脚本・野木亜紀子、プロデューサー・新井順子、そして演出が塚原あゆ子という「アンナチュラル」の最強トリオが放つ、剛速の変化球だ。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2020.07.28)


しんぶん赤旗に寄稿した「テレビの荒野を歩いた人たち」の書評

2020年07月28日 | 書評した本たち

 

「しんぶん赤旗」日曜版に、

「テレビの荒野を歩いた人たち」の書評を

寄稿しました。

 

草創期12人の体験回想記

「テレビの荒野を歩いた人たち」

ペリー荻野 著

新潮社・1760円

日本でテレビ放送が始まったのは1953年だ。しかし、それまではラジオしかなく、テレビ制作の専門家はいなかった。ラジオからの移籍組、映画や演劇、音楽界からの転身者も混在する、アメリカの西部開拓時代のような世界。まさに荒野だ。

あれから約70年。コラムニストで時代劇研究家でもある著者が、「テレビの開拓者たち」の体験談をまとめたのが本書である。

たとえば『渡る世間は鬼ばかり』などで知られるプロデューサーの石井ふく子(93歳)。TBSがテレビ放送を始めた時、嘱託として参加した。ドラマも生放送の時代で、しかも経験者は少ない。石井は手探りで新しいメディアと格闘する。

また惚れ込んだ小説をドラマ化したくて、原作者である山本周五郎の家に通いつめたりもした。時代が変わっても「私はやっぱり家族のドラマにこだわりたい。あたたかいドラマにしたいんです」と石井は言う。

青春ドラマという言葉もなかった1965年、その第1号となる『青春とはなんだ』を送り出したのが、日本テレビのプロデューサーだった岡田晋吉(85歳)だ。

「テレビは常に新しい人を好むと思っています」と語る岡田は、次の『これが青春だ』で新人の竜雷太を起用する。その後も『おれは男だ!』の森田健作、『われら青春!』の中村雅俊などがスポットを浴びていった。

本書には石井や岡田をはじめ、脚本家の橋田壽賀子(95歳)、作曲家の小林亜星(87歳)など12人が並ぶ。それぞれの回想が「草創期のテレビ」というジグソーパズルのピースとなり、テレビの「もう一つの自画像」を現出させていく。70年の間に、テレビは何を手に入れ、何を失ったのか。

(「しんぶん赤旗」日曜版 2020.07.26)


言葉の備忘録171 最良の・・・

2020年07月27日 | 言葉の備忘録

 

 

 

最良の

仕事の日より

最悪の

釣りの日のほうが

まだマシである。

 

 

やまさき十三・北見けんいち『釣りバカ日誌』#981

 

 


言葉の備忘録170 人間とか・・・

2020年07月26日 | 言葉の備忘録

 

 

 

人間とか人生とかの味わいというものは、

理屈では決められない中間色にあるんだ。

つまり白と黒の間の取りなしに。

 

 

池波正太郎 『男の作法』

 


NEWSポストセブンで、「新しいマンガ様式」について解説

2020年07月25日 | メディアでのコメント・論評

 

 

コロナ禍で読者も作家も変わった

「新しいマンガ様式」

 

新型コロナ感染者の急増で政府肝いりの「GoToキャンペーン」は迷走し、8月に入ってからも自粛ムードの“延長”が見込まれている。そうした自宅で消費するエンタメとして多くのファンを楽しませてきた「マンガ」の世界では、コロナ禍である変化が起きていた。

出版科学研究所の発表によると3月の書籍雑誌の推定販売金額は前年同月に比べ5.6%減となる中で、コミックスは約19%増加したという。『鬼滅の刃』(集英社)など人気作の台頭もあってかマンガの人気は衰え知らずだが、読み手の“様式”には変化があったようだ。

元上智大教授でメディア文化評論家の碓井広義氏はこのコロナ禍を機に、「“新しいマンガ様式”が浸透しつつある」と考察する。

「長らく出版不況と言われてきましたが、コロナ禍に入る前のマンガの世界は電子出版の売り上げが大幅に増えており、大きな“転換期”を迎えていました。今回の長い自粛期間はその動きを予想以上に加速させた。出版社が積極的に『無料配信』などを行ったことで、初めてデジタル書籍に触れた人も多く、日常の読書スタイルにも変化が起きたのです」

碓井氏の予測では、マンガのデジタル移行は「もう数年遅い」見込みだった。また、他のエンタメとは異なる独自のデジタル化が進んでいると指摘する。

大御所マンガ家の新連載にも“異変”

「コンテンツの世界で最初にデジタル化の波が訪れたのが音楽、その次が映画でした。それが今回のコロナで予想以上に早くマンガの世界にも普及してきた。ですが、マンガは映画とは少し違う流れになると思います。売り上げの数字を見てみると、直近は紙のコミックスの売れ行きも堅調です。つまり読者は『紙か、デジタルか』の二元論ではなく、柔軟な対応ができている。まさに『新しいマンガ様式』が急速に浸透していると言えるでしょう。

それはマンガは作品に連続性があり巻数が多いこと、表紙のデザイン性が高く“コレクション”としての商品価値が高いことが影響しています。今後も、紙の単行本を集めていく人とデジタルを購入する人が共存していく複層構造が続くのではないでしょうか」

そうした「新しいマンガ様式」と向き合っているのは、読者だけではない。作品を発信するマンガ家にも変化が起きている。

『好きです鈴木くん!!』などの人気作で知られる累計1800万部超の人気作家・池山田剛氏もその1人だ。これまで王道の学園モノを描いてきた池山田氏だが、7月20日発売の『Sho-Comi』(小学館)で発表した最新作『異世界魔王は腐女子を絶対逃がさない』では、これまでにない「ファンタジー恋愛」に挑んでいる。

池山田氏が始めて「王道ではない設定」を選んだのも新型コロナが影響していた。

「実は以前から、次の作品はファンタジーを描いてみませんか? というお話を編集部からいただいていました。ですが、これまで学園モノばかり描いてきた私がファンタジーを描けるのだろうか?と迷っていて……。そんな葛藤の中で新型コロナウイルスが猛威をふるい、全国の学校が休校、ニュースはコロナ一色になってしまいました。

私の母はとても真面目な人間で、暗い話題ばかりの生活に気が滅入っているようでした。どうしたらいいものか──と考えているうちに、昔、母が『冬のソナタ』にハマっていたのを思い出したんです。そこで今話題の韓国ドラマ『愛の不時着』を見てみたら?と伝えたところ、これが大当たり。すっかり目がキラキラと輝き出しました。その時に、『ああエンタメって大事だなぁ。夢のあるお話ってこんなに人を元気づけるんだ』と思ったんです。

そこで改めて“マンガ家として自分には何ができるのか?”と考えてみました。辛い現実が日々隣にある今こそ、私自身も“学園”という殻から飛び出して、夢のあるファンタジーの世界を描いてみようと決心することができたんです」

池山田氏だけではなく、大御所作家が新たなテーマへ挑戦する事例が目立つ。『BLACKCAT』『To LOVEる』などで『週刊少年ジャンプ』(集英社)の看板作家として活躍した矢吹健太朗もその1人だ。新連載『あやかしトライアングル』は第1話から主人公が男性から女性へと「性転換」するというかつてない展開を見せてネット上で大きな反響を受けた。

ネガティブな面ばかりに目がいく「新しい生活様式」だが、「新しいマンガ様式」は作り手も読み手も双方が新しいことに挑戦する良い転換期になっているのかもしれない。

(NEWSポストセブン 2020年07月23日)


上白石萌音の連ドラ初主演作『ホクサイと飯さえあれば』

2020年07月24日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

『ホクサイと飯さえあれば』は、

上白石萌音の「連ドラ初主演作」!

 

上白石萌音主演の連続ドラマ『ホクサイと飯さえあれば』(2017年、毎日放送制作)が、再放送されることになりました。

23日にスタートしたのは、関西ではMBS(毎日放送)。関東ではTBSじゃなくて、tvk(テレビ神奈川)です。

「女優・上白石萌音」の軌跡

上白石萌音さんといえば、今年の1~3月に放送された、ドラマ『恋はつづくよどこまでも』(TBS系)が思い浮かびます。

そんな萌音さんに、最初に注目したのは、いつだろう。多分、初主演の映画『舞妓はレディ』(14年、周防正行監督)だったと思います。地方出身の女の子が、京都に出てきて、「舞妓さん」になることを目指すというお話でした。

あか抜けない、田舎っぽい少女だった主人公の西郷春子が、だんだん洗練されていく。その姿が、往年の名作ミュージカル『マイ・フェア・レディ』でオードリー・ヘプバーンが演じたイライザと重なりました。そんな「地方出身娘」の春子に、上白石萌音(鹿児島出身)という女優がドハマリだったのです。

次が、映画『ちはやふる』(16年、小泉徳宏監督)。ここでは、広瀬すず演じるヒロイン、綾瀬千早の「かるた仲間」でした。都立瑞沢高校の「かるた部」の部員、大江奏の役です。

都立なので、もちろん奏は地方出身ではなのですが、和服好きで、おっとり屋さんで、古典おたくというキャラクターは、渋谷とか六本木とかを闊歩するタイプの「東京女子」とは、見事に一線を画していました。

そして、萌音さんの知名度を一気に上げたのが、同じ16年公開の劇場アニメ『君の名は。』(新海誠監督)です。2次元のヒロイン・宮水三葉(みやみずみつは)に、声優として命を吹き込んだのは、萌音さんの演技力のなせる業でした。

三葉は、豊かな自然に囲まれた、岐阜県糸守町に暮らす女子高生で、古くからある神社の巫女。本当は東京に憧れているのだが、ままならない環境。まさに「地方出身娘」そのものであり、そのやわらかい方言もどこか懐かしく、萌音さんと三葉は完全に一体化していました。

連続ドラマ初主演作『ホクサイと飯さえあれば』

『君の名は。』の翌年、「連ドラ初主演」となったのが、今回再放送される『ホクサイと飯さえあれば』(17年、毎日放送制作)なのです。

主人公は上京したばかりの超内向女子、ブンちゃんこと山田文子(あやこ)です。ホクサイという名の「ぬいぐるみ人形」と一緒に、北千住のアパートで暮しています。

無類の「ごはん好き」ですが、食事は断然「お家(うち)ごはん」のみ。自炊料理の食材を近所の商店街で手に入れ、自分で作るのが一番楽しいし、最も嬉しいという女子大生です。

しかも画面では、安くて、早くて、おいしい「ブンちゃん料理」を作るところは見せるのですが、食べているシーンは一切描かれないという、ちょっと変わった「DIYグルメドラマ」です。

このブンが、これまた、何ともいい味の「地方出身娘」で、一般的には「コミュ障」と言われそうな強い人見知りなのですが、自分の好きことには一生懸命で、一途で、健気でもあり、この後に登場することになるヒット作『恋はつづくよどこまでも』の七瀬につながっているのです。

というわけで、女優・上白石萌音の記念すべき「連ドラ初主演作」である『ホクサイと飯さえあれば』の再放送、大いに歓迎したいと思います。

 

 


「ディア・ペイシェント」はハートフルな医療サスペンス

2020年07月23日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

 

NHKドラマ10

貫地谷しほり主演「ディア・ペイシェント」は

ハートフルな医療サスペンス

 

ペイシェントとは患者や病人のこと。「ディア・ペイシェント~絆のカルテ~」の主人公・真野千晶(貫地谷しほり)は、半年前に大学病院から民間の佐々井記念病院に移ってきた内科医だ。「患者に向き合う医療」を目指していたが、現実は利益優先を掲げる元銀行マンの事務長(升毅)がリードする病院だった。

医師は「数をこなす」ことを求められ、患者1人当たりの診察時間は約3分。病院全体が常に満杯状態で、検査の予定もままならない。一方、医師は患者をS・M・Lに区分。Sは「スムーズ」。Mは「まだるっこしい」。そしてLは「低気圧」で、「台風」と化す可能性のある患者を指す。こうした細部の描写が医療現場のリアルを支えている。

このドラマ、決して派手な作品ではない。むしろ地味かもしれない。だが、第1話でがんの疑いのある妻(宮崎美子)への後ろめたさと不安から、居丈高になる夫(佐野史郎)が登場したように、患者側の事情や心理を丁寧に描いているところに好感が持てる。それに、千晶につきまとう謎の患者(田中哲司)の正体と今後の展開も気になる。

生真面目で仕事熱心な「医師」であると同時に、認知症の母親(朝加真由美)がいることで、「患者の家族」でもある千晶。その両面を繊細な演技で見せていく貫地谷が、やはりうまい。「ハートフル医療サスペンス」とでもいうべき一本だ。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2020.07.22)


今夜見たい番組 ハートネットTV「新型コロナと“貧困”」

2020年07月22日 | テレビ・ラジオ・メディア

 

<今夜見たい番組>

ハートネットTV「新型コロナと“貧困”」

2020年7月22日(水) 

午後8時00分 〜 午後8時30分(生放送) 

ETV

 

さまざまな背景を抱えて困窮した人たちを、必要な支援につなぐ自立支援窓口。そして子どもの貧困対策や地域とのつながりを生もうと取り組む子ども食堂。

新型コロナが経済や雇用に大きな影響をもたらす中、官民それぞれの支援現場に密着。すると制度のはざまで支援からこぼれ落ちたり、つながりを持てずに孤立した人たちが数多くいることもわかってきた。

既存の支援の現状と新たな教訓からコロナ後の支援のあり方を生放送で考える。

【出演】明治大学教授…岡部卓,ろう通訳…戸田康之,ろう通訳…寺澤英弥,【コメンテーター】荻上チキ,【キャスター】中野淳

(番組サイトより)


NEWSポストセブンで、タレント「事務所独立」について解説

2020年07月21日 | メディアでのコメント・論評

 

 

人気グラドル・園都(その みやこ)

コロナ禍に「事務所独立」した理由語る

 

2020年は有名芸能人の「退社」が相次いで報じられ、1つの“トレンド”になっている。ジャニーズ事務所のNEWS・手越祐也の退所が記憶に新しいが、今年は米倉涼子や中居正広といった大御所から岡田結実のような若手ホープまで実に多くの芸能人が事務所を離れる決断をした。

ひと昔前の芸能界は、大手事務所を離れてフリーになったタレントがなかなか活躍しづらい実情があった。しかし近年は、SNSの発達によってタレントとファンの距離が近づいたことでそうした状況も変わってきている。そんななかでまた1人、事務所から独立し「フリー」として活動していく決断をしたタレントがいる。

人気グラビアアイドルで、バラエティ番組等でも活躍する園都だ。

「新型コロナウイルスの影響で皆さんにちゃんとお話できていなかったのですが、5月末にお世話になった所属事務所を退社いたしました。事務所とはちゃんと話し合った上で、円満に送り出していただきました。最近はファンの方と触れ合うイベントなどができないのが心苦しいですが、新しい門出のことを考えて前向きに過ごしていました」

園は2016年にグラビア活動を開始し、“愛人キャラ”で人気を博して以降、2019年には映画に出演するなど着実にキャリアを積み上げてきた。そんな彼女が独立を決意した背景には、「28歳」という年齢と仕事へのある想いがあった。

「お陰様で色々な仕事をさせていただいて、本当に充実した芸能生活を送ってきました。その中で、私にとって最近本当に楽しい仕事が『サウナ』に絡んだお仕事だったんです。元々趣味で週に5回はサウナに行っていたので(笑)、大好きなサウナにお仕事で関わることができるのは本当にやり甲斐がありました。

今年11月で28歳になるのですが、いまメインでやらせていただいているグラビアのお仕事だけでなく将来に向けて自分の『軸』となる仕事を大事にしていきたいと思ったんです。それがサウナでした。どうしても事務所に所属していると自分の思う通りにはオファーは選べません。ある程度の年齢に差し掛かったことと今回のコロナ騒動で、これからは『自分で後悔のない選択をしよう』と決めたんです」フリーになった園が驚いたのは、退所を報告した仕事関係者たちの反応だった。

「直接お仕事でご一緒した方々には、少しずつフリーになったことをご報告させていただいているのですが、皆さんからは揃って『おめでとう、応援してるよ』『頑張ってね!』など温かい言葉を頂戴しました。驚いたのが誰からも『なんで辞めたの?』と聞かれなかったことです。最近、フリーになることを選ぶタレントさんが多いからかもしれませんが、私の選択をまずは応援しようと自然に受け入れてくださったことが何より嬉しかったです」

令和のタレントは“個性の時代”

こうしたタレントたちの事務所独立を後押ししているのが、急速なSNSの普及だ。園も自身のインスタグラムでは42万人ものフォローを抱えている。そして現在はマネージャーをつけずに、SNSを通じて仕事のオファーを受けているという。

「昔だったら事務所という連絡の窓口がなくなると、仕事を受けること自体が難しくなっていたと思いますが、今はツイッターもインスタグラムもあります。直接メッセージのやり取りもできるので、ありがたいことに今もお仕事をいただけています」

元上智大教授でメディア文化評論家の碓井広義氏は、相次ぐタレントの事務所独立は「令和に入ってからの特徴だ」と分析する。

「令和のタレントは“個性の時代”と言われていて、有名なドラマや映画に出演するというこれまでのヒットの“王道”に囚われなくてもよくなってきたのです。 SNSでバズることで、コアなジャンルのファンに熱狂的な人気を得ているタレントの登場が急増しました。園都さんはサウナという男性愛好者が多いジャンルで女性としては稀有な存在ですし、コスプレイヤーの方などはSNSで話題になってから雑誌のグラビアやテレビのオファーを受けるようになった。タレント個人の発信力が増したことが、事務所独立を後押ししているのでしょう」

趣味や嗜好が多様化する時代にあって、タレントの仕事もより個性を重視する流れが訪れたようだ。今後もSNSはより一層の普及が見込まれるだけに、この流れはさらに加速していくかもしれない。

(NEWSポストセブン 2020年7月21日)

 


言葉の備忘録169 それは・・・

2020年07月20日 | 言葉の備忘録

 

 

 

それは誰も知らぬうちに準備され、

突如としてあらわれ、

気がついた時は、

どうにもならなくなっていた。

 

 

小松左京『復活の日』

 

 

 


白土三平、赤塚不二夫・・・「名作マンガ」が熱い!

2020年07月19日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

白土三平、赤塚不二夫・・・

気がつけば、「名作マンガ」が熱い!

 

新型コロナウイルスの影響で、外出自粛やリモートワークが続いた4月から6月にかけて、世の中を元気づけるかのように出版が相次いだのが、「名作マンガ」でした。

白土三平、赤塚不二夫の「新刊」登場!

『忍者武芸帳 影丸伝』、『サスケ』、そして『カムイ伝』などで知られる漫画界のレジェンド、白土三平。

今年4月、書店の店頭に登場したのが、『白土三平自選短編集 忍者マンガの世界』(平凡社)です。

まず、白土三平の作品を「新刊」で読める、というのが何とも嬉しい。しかも、この本で重要なのは、「四貫目」をはじめとする傑作短編を選んだのが、白土自身であることです。

また、女忍姉妹の過酷な運命を描く「目無し」や、天女伝説を織り込んだ「羽衣」など女性を軸とした作品が読めることも大きいと思います。

現在88歳になる白土さんですが、サスケを中心にスケッチ帳へのペン画の日課を欠かしていないそうで、本書でもその一部を見ることができます。最終章「カムイ伝第三部」への期待も、俄然高まってくるというものです。

そして、もう一冊の「新刊」が、今年13回忌を迎える赤塚不二夫の『少女漫画家 赤塚不二夫』(ギャンビット)です。白土よりも3歳若かった赤塚が、72歳で亡くなってしまったのは残念でした。

この本が出版されたのは、白土の新刊と同じ4月。赤塚の「少女漫画家」としての軌跡をたどれることが、最大の魅力です。

よく知られた「ひみつのアッコちゃん」以外にも、赤塚は大量の少女漫画を生み出していました。「ジャジャ子ちゃん」、「まつげちゃん」、「へんな子ちゃん」など、タイトルを見るだけで笑ってしまいます。

加えて、この作品集では、最初期の「嵐をこえて」をはじめ、貸本時代からの貴重な作品が読めるのも有難い。

赤塚のデビュー当時の絵が手塚治虫によく似ていたり、石ノ森章太郎の影響が見られたりすることにも驚かされます。さらに、ヒット作「ひみつのアッコちゃん」の制作に、元妻である登茂子さんが大きく貢献していた話など、興味深い舞台裏のエピソードも豊富です。

文庫オリジナル『現代マンガ選集』全8巻の刊行!

刊行が始まっている『現代マンガ選集』(ちくま文庫)は、筑摩書房が創業80周年記念出版として取り組む、全8巻の文庫オリジナルです。手に取りやすい「文庫」での刊行というところも嬉しい。

5月に出た第1弾『表現の冒険』の編者で、総監修も務めているのは、学習院大の中条省平教授。今回の企画は、60年代以降における日本の「現代マンガ」の流れを、新たに「発見」する試みだと宣言しており、その心意気に拍手!です。

この本には、石ノ森章太郎「ジュン」、つげ義春「ねじ式」、赤塚不二夫「天才バカボン」、みなもと太郎「ホモホモ7」、真崎・守「はみだし野郎の伝説」、上村一夫「おんな昆虫記」、高野文子「病気になったトモコさん」など、マンガ表現の定型を打ち破り、未知の領域を切り開いた名作18編が収められています。

また、6月配本の第2弾『破壊せよ、と笑いは言った』では、「ギャグマンガ」が、巨大な「ジャンル」へと成長していく軌跡をたどることが出来ます。編者は、編集者・マンガ研究家・詩人の斎藤宣彦さん。

収録されているのは、つのだじろう「ブラック団」、東海林さだお「新漫画文学全集」、秋竜山「Oh☆ジャリーズ」、谷岡ヤスジ「ヤスジのメッタメタガキ道講座」、赤瀬川原平「櫻画報」、山上たつひこ「喜劇新思想体系」、いしいひさいち「バイトくん」といった具合で、こちらもかなり強力です。

この巻のタイトル「破壊せよ、と笑いは言った」は、中上健次『破壊せよ、とアイラ―は言った』(1979年)から来ていると思います。ジャズ・サックス奏者のアルバート・アイラ―、そして中上健次。「永遠の前衛」と呼びたくなる2人に対するリスペクトと、笑いを武器に奮戦する漫画家たちへのリスペクトが重なっているようで、感慨があります。

筑摩書房は、ほぼ半世紀前の1969年から71年にかけて、『現代漫画』というシリーズを出したことがありました。

編者は「鶴見俊輔・佐藤忠男・北杜夫」という布陣で、第1期と第2期、合わせて全27冊にもなる壮大なもの。文学全集と同じように漫画家一人に一冊をあてた、筑摩書房らしい堅牢な造りの本でした。果たして当時、採算が合ったのかどうか・・。

いずれにせよ、マンガを「文化」として大切にする風土を、50年以上も前から持っていたことが素晴らしい。

現在も「ちくま文庫」では、石ノ森章太郎『佐武と市捕物控』シリーズ、赤塚不二夫『おそ松くんベスト・セレクション』、水木しげる『劇画 ヒットラー』、滝田ゆう『滝田ゆう落語劇場』、そして杉浦日向子『百日紅(さるすべり)』など、数多くの名作マンガを読むことが出来ます。

読んだことがない人には「発見」が、以前読んだことのある人には「再発見」がある、そんな作品たちです。

今後も刊行が続く『現代マンガ選集』と並行して、これらの名作を読んでみるのも、「新しい生活様式」と呼ばれる難儀な日常を生きる、ひとつの支えとなるかもしれません。


『MIU404』 野木亜紀子「オリジナル脚本」の醍醐味

2020年07月18日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

綾野剛×星野源『MIU404』 

野木亜紀子「オリジナル脚本」の醍醐味

 

「走る刑事」の復活

走る。走る。ほんと、毎回よく走るなあ、この刑事。かつて警察小説の傑作の一つに『刑事マルティン・ベック 笑う警官』ってのがあったけど、こっちは「笑う警官」ならぬ、「走る刑事」だ。

「走る刑事」といえば、『太陽にほえろ!』(日本テレビ系)を思い出します。あの七曲署の若手刑事たち、ジーパン(松田優作)も、テキサス(勝野洋)も、よく走っていた。というか、走ってばかりいた。

新たな「走る刑事」の名は、伊吹藍(綾野剛)。綾野さん本人が、中学、高校と陸上部の有力選手だったことが存分に生かされています。

そして、コンビを組んでいる相手が志摩一未(星野源)。アイとカズミって、なぜかユニセックス風な名前ですが、2人は警視庁刑事部の「第4機動捜査隊」に所属するチームです。

そのコールサインが「MIU(機動捜査隊の略)404」で、それがそのまま、金曜ドラマ『MIU404(ミュウ ヨンマルヨン)』(TBS系、金曜よる10時)というミュウな、いや妙なタイトルになっている。

先週10日の第3話でも、伊吹は容疑者を追って走っていました。その相手は元気な高校生たち。しかも元・陸上部だから、まさに逃げ足も速い。伊吹もしっかりしたフォームで、自慢の健脚を見せてくれました。いえ、志摩は走りません。自転車です。

裏テーマは令和日本の「社会病理」

伊吹藍と志摩一未。この2人、キャラクターが全く異なります。野生のカンと体力の伊吹。理性と頭脳の志摩。刑事としてのキャリアも、捜査の手法も、信念といった面でも似た要素はない。いや、だからこそ、両者が出会ったことで、物語にも「化学反応」が起きているのです。

例えば第2話。殺人容疑の男(松下洸平)が通りかかった夫婦の車に乗り込み、逃走しました。その車を見つけた伊吹たちは追尾し、下車した男を確保しようとします。

しかし、夫婦に邪魔されて取り逃がしてしまう。男は本当に犯人なのか、違うのか。夫婦はなぜ彼を助けたのか。見る側は疑問を抱きます。やがて、それぞれが背負う重い過去と現在が少しずつ明らかになっていきました。

また前述の第3話では、仲間の女子生徒が警察に「黒い帽子の怪しい男に追われている」と公衆電話から110番通報。これ、いわばイタズラ通報で、警察官が駆けつけると、元陸上部の男子たちがリレースタイルで逃走する。逃げきれたら、自分たちの勝ち、というわけで、まあ、一種のゲームです。

なぜ彼らはそんなことを続けてきたのか。背景には陸上部の「廃部」があり、その廃部には先輩たちの「薬物問題」が関係していました。具体的には、「ドーナツEP」と呼ばれる、トローチ状の薬物です。

しかも学校側は、評判が落ちることを恐れて、この薬物問題を隠蔽し、また封印する意味で陸上部を潰(つぶ)しました。そういえば、警察が動いたことを知ると、校長は即、陸上部関係の文書を処分していたなあ。まるで、どこかのお役所みたいだ。

このドラマ、主眼を、いわゆる刑事ドラマ的な「謎解き」や「サスペンス性」に置いていません。描こうとしているのは、事件という亀裂から垣間見ることのできる、一種の「社会病理」です。

しかも、それは伊吹や志摩の内部にも巣食(すく)っている、いわば「魔物」かもしれない。正義もまた、さまざまな相貌(そうぼう)を持つのです。

志摩は「他人も自分も信じない」と言う。「オレは(人を)信じてあげたいんだよね」と伊吹。だが、そんな言葉も額面通りに受け取れないのが「野木ドラマ」です。

野木亜紀子の「オリジナル脚本」

脚本は、『アンナチュラル』(TBS系)などの野木亜紀子さんのオリジナル。

ドラマのシナリオは大きく2種類に分けられます。一つは、小説や漫画といった原作があるもの。そしてもう一つが、原作なしのオリジナルです。

前者は「脚色」と呼ばれ、本来は、ストーリーや登場人物のキャラクターをゼロから作り上げる「脚本」とは異なるものだ。米アカデミー賞などでは「脚色賞」と「脚本賞」はきちんと区分されます。しかし日本のドラマでは、どちらも「脚本」と表示されることが多い。

『半沢直樹』シリーズ(TBS系)がそうであるように、原作を持つドラマの面白さも十分認めた上で、オリジナルドラマならではの醍醐味(だいごみ)が存在する。それは「先が読めないこと」です。

中でも野木亜紀子さんが手掛けるオリジナルドラマは、物語の展開を「予測する楽しみ」と、いい意味で「裏切られる楽しみ」、その両方を堪能できる。

しかも演出は塚原あゆ子さん。プロデューサーは新井順子さん。つまり、野木さんも含め『アンナチュラル』と同じ制作チームだ。

『アンナチュラル』が「新感覚の医学サスペンス」だったように、『MIU404』もまた「新感覚の刑事ドラマ」かもしれません。オリジナル脚本の醍醐味がそこにあります。


言葉の備忘録168 みぎ【右】・・・

2020年07月17日 | 言葉の備忘録

 

 

みぎ【右】

 相対的な位置の一つ。

 東を向いた時、南のほう、

 また、

 この辞典を開いて読む時、

 偶数ページのある側を言う。

 

 

 

西尾実 他:編 『岩波国語辞典』