碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

今週、見たい「クロ現+」 “デジタル介護”最前線

2022年01月31日 | テレビ・ラジオ・メディア

 

2022年2月1日(火)よる10時

総合テレビ 

「クローズアップ現代+」

最新技術で老後は安心!?
“デジタル介護”最前線

 

AI搭載のロボットが夜の介護施設を巡回し、高齢者の睡眠の深さやトイレのタイミングをセンサーが自動で検知して職員に知らせる。

高齢化で介護現場の人手不足が深刻化する中、業務の効率化などを目的に国も推進する「デジタル介護」。

先進的に取り組む施設では、睡眠の質が向上するなど介護を受ける人の生活改善につながることも明らかになりつつある。

しかし、デジタル機器への抵抗感や制度的な課題からなかなか普及が進まないという現実も。

利用者本位のデジタル化を模索する最前線からの報告。

 

出演者

宮本 隆史さん(社会福祉法人 善光会 理事)

和氣 美枝さん(一般社団法人 介護離職防止対策促進機構 代表理事/80代の母親を介護)

井上 裕貴アナウンサー、保里 小百合アナウンサー

(番組サイトより)


北海道新聞で、「北の国から」について解説

2022年01月30日 | メディアでのコメント・論評

 

 

「北の国から」放送開始40年 

問いかける「その生き方でいいのか」

 

 富良野を舞台にしたテレビドラマ「北の国から」シリーズ。昨年は放送開始40年、今年は最終作から20年と節目が続く。美しい大自然、家族愛といった文脈で語られがちだが、果たしてそれだけか。同作に詳しい作り手と評論家、脚本の倉本聰さんに、今もドラマを古びさせない「苦い本質」を聞いた。(原田隆幸)

■子どもを故郷に連れ帰った場面が「ドラマの象徴」 評論家・碓井さん

幕開けとなった連続ドラマの放送は1981~82年。バブル景気へと向かう一方、北炭夕張新炭鉱ガス突出事故と閉山など、繁栄する都会と衰退する地方の対比が浮き彫りにもなった。

メディア文化評論家の碓井広義さんが「ドラマの象徴」として挙げるのが、第1話。主人公・五郎(田中邦衛)が子どもたちを故郷に連れ帰った場面だ。廃屋のような家を見て、都会生まれの長男・純(吉岡秀隆)が驚き五郎に訴える。

純「電気がなかったら暮らせませんよッ」
五郎「そんなことないですよ(作業しつつ)」
純「夜になったらどうするの!」
五郎「夜になったら眠るンです」

蛇口をひねれば水が出て、スイッチを押すと明かりが付く。人間が本来やるべきことを、お金を払えば他人や機械がやってくれる時代に「『ちょっと待て、その生き方でいいのか、日本人』という問い掛けをした」と碓井さんは指摘する。

五郎と倉本さんは同じ35年(昭和10年)生まれ。五郎は帰郷、倉本さんは移住という違いはあれど、ともに40代で東京から北海道に移った。五郎一家が遭遇する大自然の猛威と美しさ。都会と地方の意識のずれ。文明と人間。作品で描かれるこうした対比は「倉本先生自身が富良野で経験したこと」と碓井さん。「『北の国から』は『ロビンソン・クルーソー』のように現代社会を合わせ鏡に映す、現代の寓話(ぐうわ)と言える」

脚本家・放送作家の小山薫堂さんはどう見るか。

倉本さんは連続ドラマの放送中、北海道新聞にこんな寄稿をしている。

人類が営々と貯えて来た生きるための知恵、創る能力は知らず知らずに退化している。それが果たして文明なのだろうか。『北の国から』はここから発想した。(82年1月5日付夕刊)

■人間の「どうしようもなさ」を描く 脚本家・小山さん

これを踏まえ、小山さんは「北の国から」について「都会と田舎の対比を通し、人間の生き方の本質を描いている」と表現する。

象徴として挙げるのは「北の国から’95秘密」の一場面。恋人シュウのアダルトビデオ出演という過去にこだわる純に、五郎が告げる。

五郎「ゴミの車に乗るようになってから、お前年じゅう手を洗うようになったな」
純「――」
五郎「お前の汚れは石鹸(せっけん)で落ちる。けど石鹸で落ちない汚れってもンもある」
純「――」
五郎「人間少し長くやってりゃ、そういう汚れはどうしたってついてくる」
純「――」
五郎「お前にだってある」
純「――」
五郎「父さんなンか汚れだらけだ。そういう汚れはどうしたらいいンだ。え?」

 純。

 間。

五郎「行ってあげなさい。行ってもいちど、全部さらけ出して」

家族や故郷を大切にする五郎も、嫉妬したりメンツにこだわったり、ときに軽薄だったり弱音を吐いたり。純粋に生きる純や妹の螢(ほたる)(中島朋子)も、うそをついたり裏切ったり、不倫をしたり―。小山さんは「他人との対比ではなく、一人の人間の中の『美しさ・強さ』と『醜さ・弱さ』の共存、そのどうしようもなさが描かれる」と分析する。

作品の印象的なせりふを集めた「『北の国から』黒板五郎の言葉」を編んだ碓井さんは言う。「人は白黒付けられるものじゃなく、グレーの部分にこそ人間の真実がある。このドラマは、あるときは暗くて重くてつらい。だからこそ、生きてて良かった、人間ってすてきだと思える。そこに倉本先生の巧みさがある」(せりふは理論社刊のシナリオ集から引用)

■原点から物事見れば考え方広がる 倉本聰さん

「北の国から」について「“苦い薬”を糖衣錠にした」と語る倉本聰さんに、その意味を語ってもらった。

――ドラマの根底にあるものは何でしょう。

「例えば最初の廃屋を修繕する場面。五郎にとって家は雨露をしのげればいい。だけど都会的なものの考え方は違う。別れた妻の令子なら修繕屋にお金を払ってやってもらうだろう。五郎にはそんな考えは全然なく、全部自分でやってしまう。そうした違いがこの話のもとにある」

――自身の体験もある?

「こっちに移ってすぐの頃、道に畳大の岩が出ていて、重機もないし退(ど)かせない。農家の青年に聞いたら、やらねばならないならやるよ、と。どうするのかと思っていたら、スコップで岩の周りを掘って、丸太でテコの原理で少しずつ動かしていく。1日3センチ、10日で1メートル、確かに動いた。脱帽した。都会の感覚では動かないと決めつけてしまう。それができるかできないかという違い、そこが五郎と純の違いでもある」

――現代人が忘れかけている感覚ですね。

「(令子が亡くなり)五郎が上京する場面もそう。試写を見て、ディレクターに怒った。ワイシャツが真新しい。えりにアイロンがかかって、びしっとして。こんなワイシャツを持っているわけがない。しかも、汽車で2日もかけて来たのなら、くしゃくしゃになっているはずなんです。最初の連続ドラマの頃は、スタッフに(そうした感覚が)なかなか伝わらないから、毎日のようにロケ現場に行っていた。でも24回の放送が終わるころにはだんだん分かってくれましたね」

――ラーメン店で純の食べかけの器を早々と片づけようとする店員に、五郎が怒る場面も有名です。

「実はその場面の前で、五郎がしわくちゃの千円札を出しているんです。五郎たちのお金は日銭、時給いくらでもらうお金。ああいう状態のお金を渡されますよ。サラリーマンのようなきれいなものではない」

「つくる側は(五郎の暮らしの実感を)しっかりもっていないと、そういう(文明を問い返すような)作品はつくれないんです」

――現代の“当たり前”を捨ててみる考え方が、今も共感を呼んでいます。

「富士山に例えると、現代人は車で行ける5合目の視点でしか物事を見ていない。だけど、4合目、3合目と下がっていけば裾野は広がり、視野も選択肢も広がっていく。全然別の(登山)ルートも考えられるかもしれない。原点から物事を見れば考え方は広がるのに、それをしなくなったからおかしくなった。人間の暮らしとはどういうものか、海抜ゼロまで下がって考えたのが『北の国から』なんですよ」

ケーブルテレビ「J:COM」は、昨年10月に富良野市内で行われた放送開始40周年記念トークショーを無料チャンネル「J:テレ」で繰り返し放送中。直近では2月11日(金)(祝)に第1部、18日(金)に第2部を、いずれも午後8時から放送する。

(北海道新聞 2022.01.29)

 


初日に観た、映画『ノイズ』

2022年01月29日 | 映画・ビデオ・映像

 

『ノイズ』

監督:廣木隆一

原作:筒井哲也

脚本:片岡 翔

 

藤原竜也

松山ケンイチ

神木隆之介

黒木 華

 

 

28日(金)の初日に観ました。

 

エンタメ感を予想していたら、

もしくは

直木賞的味わいかと思っていたら、

かなり芥川賞的世界でありながら

ヘンに芸術風ではなく、

泥くさく

人間くさい語り口が

なかなか見事で。

 

かなり面白かったです。

 


言葉の備忘録259 好きな・・・

2022年01月28日 | 言葉の備忘録

 

 

 

「好きなことが、才能」

 

 

   瀬戸内寂聴『その日まで』

 

 


進化した“小さな大女優”毎田暖乃が「妻、小学生になる。」の特異な設定を成立させている

2022年01月27日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

進化した“小さな大女優”毎田暖乃が

「妻、小学生になる。」の

特異な設定を成立させている

 

これは、「設定」を楽しむドラマだ。堤真一主演「妻、小学生になる。」(TBS系)である。

10年前、新島圭介(堤)は、妻の貴恵(石田ゆり子)を事故で失った。それからは娘の麻衣(蒔田彩珠)と2人暮らしだ。ある日、見知らぬ小学生、白石万理華(毎田暖乃)が現れる。しかも、自分は「新島貴恵」だと主張するのだ。

ただし、昨年の日曜劇場「天国と地獄」とは異なる。誰かと「魂」が入れ替わったわけではない。小学生が語る推測によれば、事故で死んだ自分は他の夫婦に宿った命となった。彼らの娘として人生をやり直していたが、つい最近、前世の記憶が戻ったというのだ。

何だか、すごいなあ。三島由紀夫が「豊饒の海」で挑んだ、「輪廻転生(りんねてんしょう)」の物語ではないか。その上、本人に「転生」の自覚があることにも驚く。

この特異な設定を成立させているのが、“小さな大女優”毎田だ。朝ドラ「おちょやん」で披露した達者な演技が、さらに進化している。初回の終盤では毎田の中に石田が入っているかのようだった。って、イタコか!

原作は村田椰融(むらた やゆう)の漫画だが、脚本の大島里美が巧みなアレンジを施している。朝ドラ「おかえりモネ」でヒロインの妹役だった蒔田に、「おかえりママ」のセリフを言わせる遊び心もいい。妻であり母である小学生が、どう家族を再生していくのか、注目だ。

(日刊ゲンダイ 2022.01.26)


言葉の備忘録258 イヤなこと・・・

2022年01月26日 | 言葉の備忘録

 

 

 

 イヤなことはぜんぶ背負い投げ~

 

 

  by IKKO

「買取大吉」TVCM

 

 


言葉の備忘録257 わからない・・・

2022年01月25日 | 言葉の備忘録

 

 

 

「わからない」ならもう考えない。

  理解できないなら“放置”する。

 

  桝野俊明『放っておく力』

 

 

 


デイリー新潮に、「深津絵里」の魅力と歩みについて寄稿

2022年01月24日 | メディアでのコメント・論評

 

カムカム「深津絵里」の魅力 

多くの人が抱く

「見守ってくれる、すみれ」というイメージ

 

NHKの朝ドラ『カムカムエヴリバディ』の2人目のヒロインとして登場した深津絵里(49)が注目されている。18歳の「雉真(きじま)るい」を演じて、何の違和感も沸かないのだ。さらに1月16日からは33年ぶりにJR東海のCMにも出演して、当時からのファンを懐かしがらせている。彼女の魅力、そして歩みを、メディア文化評論家の碓井広義氏に語ってもらった。

スタートは1988年

女優・深津絵里を初めて見たのは、1988年3月公開の映画『1999年の夏休み』だ。デビュー作だったが、その頃はまだ水原里絵という名前で出ていた。

後に『平成版ガメラ』シリーズを手掛ける、同世代の金子修介監督作品だったこと。そして萩尾望都の漫画『トーマの心臓』を翻案した作品と聞いて興味をもったのだ。登場する少年たちを演じたのが大寶智子など若手女優で、深津もその一人。ショートカットがよく似合う、硬質な感じの少女だった。

次に強く印象に残ったのは、同じ年の冬にオンエアされた、JR東海「クリスマス・エクスプレス」のCMだ。山下達郎が歌う「クリスマスイブ」をバックに、短髪の美少女が新幹線のホームに立っていた。

列車は到着したのに、待ちわびた彼氏はなかなか現れない。怒ったような、ムッとした表情がいじらしい。客を降ろした列車が去っていく。ホームに残っているのは駅員と自分だけだ。背中を向けて帰ろうとした瞬間、赤いパッケージのプレゼントを持った彼氏が、ムーンウオークをしながら登場。少女は、フン!と顔をそらし、声に出さずに「バカ!」とつぶやく。

ひたすら謝る彼氏。怒っている少女。この恋の主導権を握っているのは彼女だ。画面に「会うのが、いちばん。」の文字が浮かび上がってくる。やがてこの季節の風物詩となる傑作CMだった。何より、少女が笑顔で甘えたりしないのがいい。深津絵里、15歳の冬だ。

レインボーブリッジの向こうで

90年代に入り、深津は何本ものドラマや映画に出演していく。すぐ思い浮かぶだけでも、ドラマ『愛という名のもとに』(92年)や『若者のすべて』(94年)、そして森田芳光監督の映画『(ハル)』(96年)などがある。

しかし、その知名度を高め、世代を超える支持を得たのは、97年放送の連続ドラマ版『踊る大捜査線』であり、98年から始まる映画シリーズだろう。主人公である湾岸警察署の刑事・青島俊作(織田裕二)の同僚、恩田すみれ役だ。

常に「青島君!」と叱咤激励してくれた、すみれ。厳しい姉のような、温かい母のような存在だった、すみれ。深津に対して、多くの人が抱いているイメージの、かなりの部分を占めているのが、この「見守ってくれる、すみれ」ではないだろうか。

しかも、すみれにはどこか影がある。かつて逮捕した犯人が逆恨みしてストーカーと化し、すみれの体と心を傷つけた過去があったからだ。そして青島がどんなに甘えても、自分は甘えたりしなかった。荒っぽい現場でも際立つ、その凛とした佇まいと気品は、深津だからこそ表現できたキャラクターだと言える。

97年のドラマから、2012年の映画『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』までの15年間、深津は「国民的すみれさん」であり続けたのだ。この『踊る大捜査線』シリーズは間違いなく深津の代表作だが、もう一つ、忘れてはならないシリーズがある。

理想のパートナーとして

大和ハウスのシリーズCM「ここで、一緒に」の第1弾が、テレビから流れ始めたのは2011年1月のことだった。リリー・フランキーが夫、深津が妻という、1組の夫婦が主人公だ。夫は新聞記者ふぁが、妻は翻訳家なので主に家で仕事をしている。一戸建てで暮らすが、子どもはいない。

このCM、音声のほとんどが夫婦の会話だ。ただし、向き合って語り合うわけではない。別の場所にいながら、心の声が奏でるセッションといった感じ。映像は、それぞれの日常を映し出していく。

夫「またどうでもいいことで喧嘩した」

妻「どうでもいいと思ってるところがすでにダメ」

夫「あれ?俺が悪いの?」

妻「あやまれば許してあげてもいいいけど」

夫「俺は簡単に頭を下げる男じゃない」

妻「都合のいい時だけ男になるね」

夫「やっぱ謝っちゃおうかな」

妻「出た!その場しのぎ」

夫「じゃあどうすりゃいいんじゃ」

妻「考えなさい」

夫「頭良くないんだよ」

妻「若い頃はもっと」

夫「なに?」

妻「若い頃から、たいしたことないね」

夫「後半に伸びるタイプなんだよ」

妻「歳とっても大事にしてあげない」

夫「いいさ」

妻「蹴っ飛ばしちゃうかもよ」

夫「いいさ、その代わり俺より長生きしろよ」

深津の声が何とも心地いい。強すぎず、高すぎず、主張もしない。淡々としていながら、聞く者の耳と心にしみてくる。

つい虚勢を張ったり、ふと弱音を吐いたりする夫には、憎めない子どもっぽさと愛嬌がある。それに対して妻は、夫を手のひらの上で遊ばせている、大人だ。この精神的に自立した女性が深津によく似合っており、シリーズは昨年まで10年も続いた。

たとえば、「2020」篇。夫は記者としてオリンピックやパラリンピックの競技を体験取材し、妻もプールで泳ぎはじめた。それでいて、「がんばれニッポン!」「私たちも応援してます!」みたいな力の入れ方をしないのが、この夫婦の素敵なところだ。

2人が静かに語るのは、「祭りのあとの寂しさ」であり、「終りから始まる何か」である。世の中の動きを知りながらも、流行に踊らされたり、狂騒に巻き込まれたりはしない。大切なのは、「その後」も続いていく日常なのだ。

もちろん、このCMの放送当時、オリンピックはまだ始まってもいない。しかし間もなく、この国はワンチームならぬ、ワンカラ―に染まっていくことになっていた。そう思う時、一見ソフトな内容に込められた、上質な批評性がじわりと効いてくる。

また昨年の「新しい生活」篇。夫は取材で地方に出かけ、翻訳家の妻は都心に来ている。離れているが、心の回線は常時接続だ。ゆったりした言葉のキャッチボールが聞こえてくる。ひなびた風景を前に、「ここで新しい生活を始めるってあるかな、と言ってみる」と夫。どこまで本気か、わからない。賛成して欲しいのか、それとも反対されたいのか。

でも妻はお見通しだ。さらりと「いいんじゃない?」と答える。夫は驚き、見る側はニヤリとする。そして「いい夫婦だなあ」と思うのだ。

新型コロナウイルスの影響もあり、住む場所も働き方も多様であることが当り前になってきた。自由は不安も伴うが、自分の生き方は自分で決める時代として、前向きに捉えてみるのも悪くない。そう思わせてくれる15秒だった。

男装の少女は、レインボーブリッジの向こうでの戦いを経て、見事な大人の女性に、そして理想のパートナーへと成長していたのだ。

2022年『カムカムエヴリバディ』

今年1月、深津は49歳になった。そして、放送中の連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(NHK)では19歳の「雉真(きじま)るい」を演じている。

このドラマの二代目ヒロインとして登場した瞬間は、「大人っぽい娘だなあ」と感じたものだ。しかし、すぐ見慣れてしまった。思えば89歳の森光子は、『放浪記』の舞台で19歳のヒロイン・ふみ子を演じていた。力のある女優は、30歳下の乙女になることも可能なのだ。

しかも、るいという女性は一筋縄ではいかない。額の傷や母(上白石萌音)への屈折した思いなどが彼女を縛っているからだ。自分が好意を持つ、ジャズ・トランぺッターのジョーこと大月錠一郎(オダギリジョー)に求愛されても、素直に受け入れることが出来なかったりする。

そもそも、るいは何を望んでいるのか。それは本人にも分かっていないのではないか。何も望んでいない主人公というのも、朝ドラでは極めて珍しい。歴代ヒロインの多くは常に何かを望み、何かを目指していた。切磋琢磨、試行錯誤の連続であり、そこに本人の葛藤があった。

しかし、るいが内面に抱える「葛藤」は、これまでのヒロインたちと質が違うとしか思えない。いわば、自らの「存在」そのもの、「生きること」自体への懐疑なのだ。こんな難しいヒロイン、深津の他に誰が演じられるだろう。

このドラマの脚本を書ているのは、藤本有紀。その特色は、見る側を決して「安心」させないことである。第1ヒロインの安子(上白石萌音)を突然、アメリカへと送ってしまう展開など、その最たるものだ。貫地谷しほり主演の朝ドラ『ちりとてちん』もそうだったが、必ず予想を裏切ってくる。

るいもまた、今後どうなっていくのか分からない。だが分からないのは、「オリジナル脚本」の魅力でもある。もしかしたら、3月末にドラマが終わる頃、年齢を重ねたるいが再登場するのではないだろうか。るいが生まれたのは終戦の一年前、1944年だった。2022年の今年は78歳になっているはずだ。元気でいて、おかしくない。

30歳下のヒロインを自然に演じている深津が、30歳上の「現在のヒロイン」を演じるシーンを、ぜひ見てみたい。そんなことを期待させるのも、深津絵里という女優のなせるワザだと思うのだ。

(デイリー新潮 2022.01.22)


【書評した本】 松本 創『地方メディアの逆襲』

2022年01月23日 | 書評した本たち

 

メディアをオワコンにするのは

読者や視聴者ではない

松本 創『地方メディアの逆襲』

ちくま新書 946円

 

近年、新聞やテレビは「オールドメディア」などと呼ばれたりする。それどころか、「オワコン(終わったコンテンツ)」のレッテルを貼られることも多い。だが、本当にそうなのか。松本創『地方メディアの逆襲』は一つの答えである。  

本書には地方の新聞3紙とテレビ3局が登場する。ミサイルシステム「イージス・アショア」計画に迫る秋田魁新報。京都アニメーション放火殺人事件で「被害者報道」のあり方を再考した京都新聞。「福祉利権」や「裁判所神話」に挑む瀬戸内海放送。そして、テレビ自体をドキュメンタリーで問う東海テレビなどだ。

こうした活動は地方メディアだから出来るのか。それとも地方メディアにしか出来ないのか。仮に全国紙や東京キー局の人間が本書を読んで、内心忸怩たるものがあるなら、そこに救いや希望があるはずだ。  

著者はマスメディア不信を招いた原因として、市民感覚からの乖離を挙げる。特に事象に対する「違和感」が重要だ。秋田魁新報も瀬戸内海放送も、取材者たちを突き動かしているのは「なぜなんだ」「これって、おかしくないか」という真っ当な疑問だった。  

業界や社内だけで通用する「常識」に流されない人材がいること。また彼らを支える組織であることが、信頼されるメディアの条件となる。新聞やテレビをオワコンにするのは読者や視聴者ではない。メディアが、自分たちに何が可能かを徹底的に考え、実践することを放棄した時なのだ。

(週刊新潮 2022.01.22号)

 


日刊ゲンダイで、三谷幸喜「Nキャス」司会起用について解説

2022年01月22日 | メディアでのコメント・論評

 

 

「Nキャス」“サプライズ就任”

三谷幸喜に期待と不安

ビートたけしのマンネリからは脱却

 

脚本家の三谷幸喜氏(60)が、4月から「新・情報7days ニュースキャスター」(TBS系)の総合司会に就任するとスポニチが報じた。同局の安住紳一郎アナウンサー(48)の出演は継続すると言う。

あふれるコメディーセンスが玉にキズ?


【気まぐれ写真館】 「似てる」って言われた(笑)

2022年01月21日 | 気まぐれ写真館

 


新・直木賞作家、米澤穂信さん原作のミステリードラマ『満願』が、すごい!

2022年01月21日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

新・直木賞作家、

米澤穂信さん原作の

ミステリードラマ『満願』が、すごい!

 
 
19日に発表された、第166回の「芥川賞」と「直木賞」。
 
作家の米澤穂信(よねざわ ほのぶ)さんが、長編小説『黒牢城(こくろうじょう)』で直木賞を受賞しました。
 
おめでとうございます!
 
米澤作品の映像化
 
米澤さん原作の「映像作品」で、多くの人が思い浮かべるのが、2001年のデビュー作『氷菓(ひょうか)』ではないでしょうか。
 
高校の「古典部」という、部活の設定がユニークでした。
 
この「<古典部>シリーズ」が、『氷菓』としてTVアニメ化されたのが2012年です。制作は、京都アニメーション!
 
17年には、山崎賢人さんや広瀬アリスさんの出演で、映画化もされました。
 
また、ドラマは2本あって、というか、これまで2本しか、ドラマ化されていません。どちらもNHKです。
 
11年に、『探偵Xからの挑戦状!』の中の1本としてドラマ化されたのが、米澤さんの「怪盗Xからの挑戦状」でした。キャストは竹中直人さんや長澤まさみさん。
 
そしてもう1本、秀逸なドラマだったのが、『満願(まんがん)』です。
 
14年刊行の短編小説集『満願』は、この年の「このミステリーがすごい!」(宝島社)、「週刊文春ミステリーベスト10」(文藝春秋)、そして「ミステリが読みたい!」(早川書房)で、いずれも国内部門の第1位。
 
つまり「ミステリーランキング3冠」に輝いた、史上初の作品でした。
 
ちなみに、直木賞を受けた『黒牢城』も、堂々の「3冠」です。
 
ミステリースペシャル『満願』
 
ミステリースペシャル『満願』が放送されたのは、2018年8月14日からの3夜連続。
 
本に収められた6編の中から、3編を選んでドラマ化しています。
 
第1夜「万灯」の主人公は、商社マンの伊丹(西島秀俊)。
 
単身赴任先は東南アジアの某国で、天然ガス開発が使命だったのですが、頓挫していました。打開策は、村を牛耳る人物の殺害です。
 
伊丹はライバル企業の社員と共に犯行に及ぶのですが、その後、思わぬ事態が待っていました。
 
仕事のためなら何でもする男を、あくまでも淡々と演じた西島さん。観る側が感じる怖さが倍化しました。
 
また、交番勤務の警官・柳岡(安田顕)が、部下である川藤(馬場徹)の“名誉の殉職”に疑問を抱くのが、第2夜の「夜警」です。
 
刃傷沙汰の夫婦ゲンカを止めようとした柳岡たちですが、突然、川藤が夫に向かって発砲します。
 
川藤は倒れる寸前の夫に首を切りつけられ、絶命しました。
 
柳岡は、葬儀で会った川藤の兄から「あいつは警官になるような男ではなかった」という話を聞き、川藤が死ぬ直前「うまくいったのに」という言葉を残したことを思い出します。
 
安田さんが見せた「鬱屈を抱えた警官」はまさに絶品で、3作中で最も強い印象を残しました。
 
そして最終夜の「満願」は、弁護士の藤井(高良健吾)が手がける殺人事件を軸に、過去と現在が交差する物語でした。
 
藤井が学生時代に下宿していた畳屋のおかみさんが、被告の妙子(市川実日子)です。
 
夫がつくった借金の取り立てにやって来た、金貸しの男を刺殺したのです。
 
一本気な藤井と、奥底の見えない妙子。2人の絶妙な距離感がドラマに陰影を与えていました。
 
3本の連打で、「人間」というものの怖さと面白さが、じわじわと浸透してくるミステリードラマでした。
 
受賞記念の再放送を!
 
制作は、NHKと日テレアックスオン。
 
萩生田宏治(第1夜)、榊英雄(第2夜)、熊切和嘉(最終夜)といった演出陣がそれぞれに力量を発揮し、オムニバス映画3本分の見応えがありました。
 
このドラマ、現在もNHKオンデマンドで視聴可能です。
 
とはいえ、いいものはたくさんの人に観てもらいたいので、NHKには、直木賞受賞記念として再放送することを提案したいと思います。

「ミステリと言う勿れ」 主人公と並んで 賛辞を受けるべきは原作者

2022年01月20日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

「ミステリと言う勿(なか)れ」

主人公と並んで

賛辞を受けるべきは原作者



面白い青年が登場したものだ。「ミステリと言う勿れ」(フジテレビ系)の主人公、久能整(菅田将暉)である。事件を解決へと導く、ミステリードラマの主人公だが、刑事でも探偵でもない。天然パーマが特徴的な、フツーの大学生なのだ。

しかし独自の鋭い分析と、それを「語る力」が半端じゃない。第1話では、同じ大学の学生が殺害された事件で警察の取り調べを受けた。目撃証言や犯行に使われたナイフなどの証拠を突き付けられ、完全に犯人扱い。だが整は動じない。刑事たちがそれぞれに抱えた葛藤を見抜いて驚かせる。

さらに彼らの論理や主張の矛盾を指摘し、「真実は一つなんかじゃない。人の数だけあるんですよ。でも、事実は一つです」と持論を展開。淡々と相手を切り崩していく菅田が何ともカッコイイ。

まるで会話劇や舞台劇のような言葉の連打が見事だが、そのセリフのほとんどは田村由美の同名原作漫画そのままなのだ。このドラマに関して、菅田と並んで賛辞を受けるべきは原作者だろう。

アメリカのアカデミー賞の場合、「脚本賞」に選ばれるのは原作を持たないオリジナル脚本だ。小説など原作をベースに書かれた脚本は「脚色賞」の対象となる。第1話は“原作の再現性”の高さが功を奏した。脚本を手掛ける相沢友子の“脚色力”が発揮されるのはこれからだ。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2022.01.19)


【気まぐれ写真館】 「ウルフムーン」を撮ってみた

2022年01月19日 | 気まぐれ写真館

 

「今年最初の満月」を撮りました。

アメリカでは、

1月の満月を

「ウルフムーン」と呼ぶそうです。

月に吠える!

 

 

 


サンデー毎日に、「ドラマと脚本家」について寄稿

2022年01月18日 | メディアでのコメント・論評

発売中の「サンデー毎日」2022.01.30号