碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

『1Q84』(上・下)、読了。

2009年05月31日 | 本・新聞・雑誌・活字
今朝、村上春樹さんの新作『1Q84』(上・下)を読み終わった。

いやあ、久しぶりに小説で徹夜をした。

確かに、途中で止められなかった。

ずっと、どんな内容か不明なままだったが、読み始めたら一気だ。

中身を伏せていたのは、ご本人の希望だそうだが、読者の期待を煽るという意味では大成功だったし、とにかく読んでみなくちゃ分からないから購入することになる。

実際、あっという間の“増刷”。しかも4刷。合計68万部とのこと。ミリオンセラーもすぐそこだ。

とはいえ、「読むのはこれから」という人が多い現時点で、詳しいことを書くのは控えたほうがいいのかもしれない。

まあ、自分のための、小さなメモということで(笑)・・・


「1Q84」と「1984」。

同級生(私にとっても)。

コミューン。共同生活。農業。共有。

宗教。宗教組織。教団。教祖。信者。

自分という存在。

システム。

メイン・キャリア。ウイルスと抗体。

文学。小説。芥川賞。ベストセラー。作家。

「神の子どもたちはみな踊る」。「アンダーグラウンド」。


・・・と、これくらいにしておこう。


さてさて、上・下で68万部だから、この小説を、この内容を、いきなり34万人が読むことになる。

実は、そのこと自体が、「いいんですかあ?」というくらい(笑)凄いことだと思う。

1Q84(1)
村上春樹
新潮社

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1Q84(2)
村上春樹
新潮社

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予想以上に面白いぞ、映画『スター・トレック』

2009年05月30日 | 映画・ビデオ・映像
J・J・エイブラムス監督の新作『スター・トレック』を観た。

エイブラムス監督といえば、トム・クルーズ主演『M:i:Ⅲ(ミッション・インポッシブル3)』だ。

手持ちビデオカメラの映像でドキドキさせた『クローバーフィールド/HAKAISHA』では製作者だった。

それ以前は、ブルース・ウイルスたちが巨大隕石を爆破しに行く『アルマゲドン』の脚本家として記憶している。

そんな監督が『スター・トレック』を撮ったと聞けば、やはり、観たくなるよね。

私は、60年代後半に放送されたテレビ・シリーズ『宇宙大作戦(スター・トレック)』の熱心な視聴者ではなかったし、「トレッキー」と呼ばれるマニアでもない。

それでも『スター・トレック』の“世界”を劇場で体験できるのは楽しい。

今回の映画版は、ひと言でいうなら「カーク船長とミスター・スポックの若き日の物語」だ。

しかも、「彼らの若い頃って、こうだったんだろうなあ」と十分に思わせてくれる。

出会い。反発。友情。戦闘。葛藤。達成。そして未来・・・。

SF的な意味も含め、ストーリーがよく練られていて、予想以上に見ごたえがあった。

VFXも、相変わらずIMLが“いい仕事”を見せてくれるし、かなり満足。

長い長い宇宙の旅に出る前の、“真新しい”宇宙船USSエンタープライズ号が目の前に現れた瞬間は、思わず興奮した。

そうそう、映画のエンディングで、少しだけだが、往年のテーマ曲「Theme from Star Trek」が、スローテンポにアレンジされて流れたのも嬉しかった。

「そんな曲、知らないよ」という人も、かつての「アメリカ横断ウルトラクイズ」のメインテーマとして使われていた、といえば、「ああ、あれか」と思うはずだ。

メイナード・ファーガソンが作ったこの曲が流れると、私は、「今日は木曜日だあ」と思ってしまう。

毎年、「ウルQ」を放送していたのが、「もくスペ」こと日本テレビ「木曜スペシャル」の枠だったからだ。

まあ、それはともかく、この若いメンバーでの映画版の“続編”が作られることを熱望したい。


スター・トレック (角川文庫)
アラン・ディーン・フォスター
角川グループパブリッシング

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ドラマ「MR.BRAIN」の大量宣伝

2009年05月29日 | メディアでのコメント・論評

よかったねえ、TBS。

ドラマ「MR.BRAIN」の初回視聴率、24.8%也。

数字が明らかになった月曜の朝、局内はお祭り騒ぎだったんじゃないかな?

何てったってキムタク様のご出馬だし、あれだけの大宣伝を展開したわけだし、これで10%台だったら、誰かの首が飛んでたところだ。

中身に関しては、「それなりに楽しめました」というのが正直な感想。

ストーリーもまあまあだったし、まだまだキムタク様の“ぜいたく感”はあったし、共演・脇役まで豪華なメンバーをそろえたし、セットをはじめ美術にもお金をかけていたし・・・。

ただ、何でもかんでも「脳科学」で大丈夫? とは思った。

まあ、普通の連ドラの半分、全6回という“期間限定商品”なので、初回でバーンと脅かして、後は勢いで逃げ切る作戦と見た。

それにしても、ほんと、凄まじい“番宣攻勢”だったね。

TBSの、局を挙げての「大量宣伝、大量露出」に関して、さっそく『日刊ゲンダイ』(28日付)が特集記事を書いていた。

見出しは、<TBSのトチ狂ったような番組宣伝に視聴者が呆れている>。

まず、放送前日から当日にかけて、キムタクが画面に出まくっていた様子を報告。昨年の『華麗なる一族』の再放送も含めたPRの全貌を明らかにしていた。

しかも、今週は映画『ROOKIES』の宣伝番組が目白押しのTBS。


さて、取材を受けた私のコメントだが・・・

最初に「電波の私物化にもほどがあります」という言葉があり、以下のように続いている。

「テレビ放送は免許事業で、電波は国民のものです。それなのに、テレビ局は“自分のところの電波なんだから、宣伝に使ってもいいだろう”と考えている」

「一般企業は莫大なお金を払ってCMを流しているのに、テレビ局が自局の宣伝をタレ流しているのはおかしいし、視聴者も完全に無視されている」

「視聴者にとって有益な情報を流したり、良質な番組を提供することが置き去りにされています」

「テレビ局が視聴率を取るためになりふり構わない姿勢を見直さなければ、結果的にテレビ離れがますます進むでしょう」

・・・といったところだ。


昨日発売の『週刊新潮』(6月4日号)でも、特集が組まれていた。

<「SMAP」存続の危機 「キムタク」が異様な大宣伝で挑んだ「MR.BRAIN」の出来栄え>がそのタイトルだ。

番宣に関して、作家の麻生千晶さんが「あれだけ自分の番組ばかり宣伝して、テレビ局は免許事業と言えるのかしら」と苦言を呈している。

仰る通りです。

大宣伝の背景にある事情として、「(春の)番組編成に失敗したうえ、キムタクを担いでも駄目だったら、TBSが受けるダメージは計り知れませんから」と民放関係者。

さらに、ドラマの中身については、芸能ライターの上杉純也氏が「セットと出演者の豪華さで圧倒する。このハッタリで“辻褄は合っているの?”という疑問を忘れさえるのは、さすがです」。

うん、確かに。

さあ、“ご祝儀相場”の第1回は終わった。

“素”に近い数字が出るのは、今週末の第2回からだ。

確かに「映画が人生を教えてくれた」のかも・・・

2009年05月27日 | 映画・ビデオ・映像
大学からの帰途、『文藝春秋SPECIAL 映画が人生を教えてくれた』を入手。

表紙には「季刊夏号」とある。もう初夏だもんなあ。今日も暑かった。

巻頭エッセイに、小林信彦さんや内田樹さん、蓮実重彦さんの名前がある。

「初めて映画を観たのは四歳の時だった」で始まる小林さん。昭和も、ようやく二ケタになった頃だ。戦前・戦中の子どもの映画体験である。

内田さんは、映画館という「場所」をめぐる回想だ。

続いて、「私が衝撃を受けた作品」という同じテーマで、複数の映画監督の文章が並ぶ。

新藤兼人監督ががベルトリッチの『暗殺の森』。

篠田正浩監督が『第三の男』。

大島渚監督作品『太陽の墓場』を挙げたのは崔洋一監督だ。

それぞれ面白い選択ではないか。

この他、「ジャンル別ベストテン」や「私の人生を変えた映画」といった特集も読ませるが、単純に興味深いのが「心に残る映画スター・ベスト10」だ。

邦画編を白井佳男さんが、そして洋画編を品田雄吉さんが選んでいる。

その中の、日本の女優さんのベスト10は・・・

01 吉永小百合
02 原 節子
03 高峰秀子
04 夏目雅子
05 岸 恵子
06 岩下志麻
07 宮沢りえ
08 若尾文子
09 松 たか子
10 松坂慶子

・・・である。

白井さんが、それぞれを選んだ理由などは、ぜひ本誌でご覧いただくとして、私としては、「往年の・・」といった女優さんに混じって、ゴヒイキの松たか子サンが入っているのが嬉しい(笑)。

ドラマも何本か制作してきたが、フリーのプロデューサーとなった今でも、「松たか子さんでなら、1本作ってみたい」と思ったりする。

まあ、そんなこんなで、映画ファンには嬉しい1冊だ。


文藝春秋SPECIAL (スペシャル) 2009年 07月号 [雑誌]

文藝春秋

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新聞ジャーナリズムを活写する『消されたヘッドライン』

2009年05月26日 | 映画・ビデオ・映像

映画『消されたヘッドライン』を観た。

ラッセル・クロウ主演というだけで、映画館に行く気になる。

『クイック&デッド』95年
『L.A.コンンフィデンス』97年
『インサイダー』99年
『グラディエーター』00年
『ビューティフル・マインド』01年
『マスター・アンド・コマンダー』03年
『アメリカン・ギャングスター』07年
『ワールド・オブ・ライズ』08年

こうして並べると、まあ、我ながら律儀につき合ってきたものだが、それだけの魅力が、この人にはある。

今回は、新聞社の敏腕記者。

ほんと、何にでもなっちゃう俳優さんだなあ。

国土安全保障をめぐる、企業と政治の癒着(なんてもんじゃない堅固な結びつき)を追求していく。

「ヘッドライン」は新聞の見出しであり、記事を象徴している。

圧力などで、消されてはならない記事もあるのだ。

調査報道の権化みたいな、粘り強い取材。

相手との駆け引き。

危険との背中合わせ。

すべては“真実を伝える”ためだ。


単なる社会派映画ではなく、サスペンス性もたっぷりある。

全体のタッチがドキュメンタリーっぽいと思ったら、ケヴィン・マクドナルド監督はドキュメンタリー畑の出身だという。内容との相乗効果ってわけだ。

共演のベン・アフレック(連邦議会議員)は、相変わらず、あまり上手い演技じゃないね。

でも、『クイーン』のヘレン・ミレン(編集局長)や、『フォレスト・ガンプ』のアン・コリンズ(議員の妻)といった芸達者もいるから大丈夫(笑)。

十分、おススメできます。

“新型プリウス”に試乗した

2009年05月25日 | クルマ

この週末、トヨタの“新型プリウス”に試乗した。

以前乗ったことのある現行プリウス、そして先日試乗したホンダのインサイトなどと比較してみたかったのだ。

いきなり結論から言えば、「実によく出来たクルマ」でした。

排気量が増したせいか、低速でのパワーも十分。加速も、すみやかだった。

国産車でときどき感じるアクセルの軽さ、柔らかさ、というか“ヘナヘナ感”など微塵もない。しっかりしている。

ブレーキも、4つのタイヤでぎゅっと止まる感じだ。安心感あり。

つまり、走りに関して、「走る・曲がる・止まる」の3つは文句なし、なのだ。

これでカタログ燃費が38キロとかいうんだから、これまた文句は出ないわけで・・・。

週末のディーラーは、ふだんと違って、なかなかの盛況ぶり。

発売から1週間で8万台とか10万台とかのオーダーがあった、というニュースも分かる気がした。

営業マンの説明も心なしか自信に満ちている。

そこで、わざと聞いてみた。

「何かマイナス面はないんですか?」

営業マンは、にっこり笑って答えたね。

「ええ、我々も欠点が見つからないんですよ」

ふーん、そうなんだあ(笑)。

欠点とはいわないが、個人的に感じたネガティブ・ポイントを挙げてみると・・・

まず、家族全員が乗車しての移動用ではなく、基本的に私一人が乗る通勤用としては、やや大き過ぎる。

いや、何人乗るか、ということ以前に、ボディ全体が“うすらでかい”という印象なのだ。

サイズ的にはインサイトで十分。あれくらいのほうが気楽かも。

それでいて、新型プリウスに乗り込んでみると、自分の頭のすぐ近くまで天井がきていることに気づく。

たぶん、空力的というか、空気抵抗の少ないデザインとして、フロントがぐっと斜めに寝ているんだろう。

しかし、ドライバーとしては結構圧迫感がある。視界も絞られているように思う。

まあ、それも「あえて言えば」であって、大きな瑕疵とはいえないだろう。

最初に書いたように、「よく出来たクルマ」であり、これ1台あれば、確かに家庭円満かもしれない。

その意味で、トヨタって会社は、やはり凄いです。

ただ、もしも、これがハイブリッドでなく、驚異的な燃費を実現していなかったら、すっとこのクルマを選ぶだろうか。

それは分からない。

エコも大事だし、燃費も嬉しいし、値段も有難いのだが、クルマとしての総合的魅力で、ぐぐっと迫ってくるかといえば、うーん、そこまでじゃないんだなあ。

理屈では、このクルマのもつ魅力は分かる。

でも、頭で分かるとか、理解とかでなく、“感じるもの”、オーバーに言えば“官能”みたいなものが、あまり伝わってこなかったわけです。

「そういうクルマじゃないんだよ」と言われれば、「はい、そうですね」となるけれど・・・。

1台のクルマに、あれも、これもと求めるのは無理と知りつつ、つい、そんなことを思った新型プリウスの試乗でありました。

テレビ通販は、生活情報“番組”なのか!?

2009年05月24日 | メディアでのコメント・論評

先日『産経新聞』から取材を受けた通販番組に関する記事が、今日の朝刊(5月24日付)に出た。

見出しは「通販番組ルール強化」。

画面の中から、出演者が「数に限りがあります!」と購入をせかすテレビ通販は、何とクーリングオフ制度の対象外だ。

テレビ東京の番組で紹介された“ゲルマニウムが入っていないのに遠赤外線効果をうたった”枕や、テレビ朝日の乗馬型運動機器など、商品を紹介した放送局が、責任を問われることも多くなった。

今回、民放連(日本民間放送連盟)は、通販番組を「生活情報番組」と定義した。一応、“ルール強化”ということになる。


記事では「一方、テレビ通販が(CMではなく)番組とされたことに疑問を呈する見方もある」として、私のコメントを掲載している。

「番組とする以上、プラス面、マイナス面の両論が必要だが、テレビ通販はマイナス面は伝えない」

「作り手に都合のいい情報で、視聴者が誘導される恐れがある」

また、民放は放送基準で、地上波のコマーシャル総量を総放送時間の18%以内としているが、テレビ通販を番組としたことで、この枠外として扱われることになる。これについては・・・

「公共の電波を使い、視聴者から直接お金を取ろうとする行為は、放送局が、もうけ主義に走る象徴」ではないか、とした。


映像で商品を見せ、出演者が説明するテレビ通販の「商品を買わせる力」は、かなり強い。

CM不況の中で、放送局にとっては“ドル箱”でもある。

ただ、“視聴者=消費者(購入者)”というストレートな扱いの内容が、本当に「番組」といえるのかどうか。

民放連のいう「誤解招かぬ表現を」に、各局がどう対応するのか、注目したい。

“NHKと政治”に関して「日刊ゲンダイ」でコメント

2009年05月23日 | メディアでのコメント・論評

“NHKと政治”に関する特集記事が、『日刊ゲンダイ』(5月23日付)に載った。

タイトルは「会長、経営委員長が何を言ってもNHKが変わらないこれだけの澱み」。

01年に放送された従軍慰安婦問題を扱った番組「問われる戦時性暴力」は、放送前に、NHK幹部が番組内容を国会議員に説明していたことから、いわゆる「番組改変問題」として話題となった。

これに関して、先日、NHKのトップが「今後は個別番組の政治家への事前説明は一切しない」と明言したのだ。

記事は、一連の経緯を説明し、その上で「(政治家に事前説明はしないという)発言に期待したいけど」として、懸念を伝えている。

放送ジャーナリストの小田桐誠さんは、国会で予算・事業計画を承認してもらうNHKは、いわば「国に“急所”を握られている」のであり、そういう「根幹の部分が変わらない限り、同じことが繰り返されるでしょう」という。

確かに、NHKと政治の関係は、そう単純なものではない。


そして、私のコメントは、次のようにまとめられていた。

「福地会長の方針が実現するかどうかは疑問です」

「永田町との距離の置き方について、NHKのトップと現場サイドでは大きな乖離があるように思う」

「現場では“それでも政治家は押さえておかなきゃいけない。自分たちは自分たちのやり方でやる”と考えている人が多いのです」

「しかも、福地会長が公に“事前説明はしない”と発言したことで、現場は、“それなら、見えないところでコッソリやろう”というムードになり、逆に問題が埋もれてしまう恐れもある」

「NHKが“改変問題についての検証番組は作らない”と言っていることも、現場のホンネが表れている気がします」

私としては、この“改変問題についての検証番組は作らない”という方針への違和感が大きかった。

本来、テレビで起きた問題は、テレビ自身が、テレビを通じて明らかにすべきなのだ。


最近のNHKは、ずいぶん変わってきた。

番組も、大人が見たくなるものが多く、評価も高まってきている。

それだけに、番組を支える組織や構造もまた、本気で、変革していく必要があると思う。

東野圭吾さんの新刊『パラドックス13』の”力業”

2009年05月22日 | 本・新聞・雑誌・活字
東野圭吾さんの新刊『パラドックス13』を読んだ。

タイトルは“数学的矛盾”を軸としたミステリーを思わせる。

でも、違うんですねえ。

何と、著者初の“パニックサバイバル小説”なのだ。

突然、10数人だけが「想像を絶する世界」へと投げ込まれる。そこは東京のはずだが、本来の東京ではない。

強烈な連続地震と豪雨で建物は崩壊し、道路は陥没。

街全体が廃墟だった。

何よりの恐怖は「自分たちしかいない」という事実だ。救ってくれるはずの政府やシステムも存在しない。

“何か”が起きたことは確かだが、それを解明するより生き抜くことが先決となる。警察官だった兄弟を中心に生存者たちの戦いが続く。

荒れ狂う自然。電気や水道は使えず、食料の確保も困難だ。

それに、これがまた怖いのだが、“元の世界”では当然の価値観や倫理が全く通用しないのだ。

極限状態の中で、人間の本能や欲望が剥き出しになっていく・・・。

やがて彼らは“究極の選択”を迫られる。

だが、何をもってその判断を下すのか。読者もまた、「自分なら?」と問いかけずにはいられない。


こういう世界を、VFX映像とかではなく、言葉で、文章で構築するのは、やはり”力業”だと思う。

それにしても、東野さんは、なぜこうした小説を書いたんだろう。

日常を日常として意識もせず、当たり前のように暮らしている我々を、ぎりぎりの状態に置くことで、”人間の本性”を踏まえた上での、生きるとか、命といったものを、問いたかったのかもしれない。


パラドックス13
東野 圭吾
毎日新聞社

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「優良放送番組推進会議」は視聴率至上主義を崩せるか!?

2009年05月21日 | テレビ・ラジオ・メディア
ついにこんなものまで出来ちゃったのだ。

その名も「優良放送番組推進会議」。

劣悪番組、いや“優良じゃない”番組の横行に、スポンサーである大手企業が立ち上がったのだ。

目的は「視聴率至上主義に陥った番組制作に一石を投じる」ことだというから勇ましい。

で、一体何をするのか。

基本的にはアンケート調査だ。まず、会員企業の社員に番組リスト(ジャンル別)を提示。

「とても興味深く推薦したい」なら3点、「特に感想がない」と0点といった具合に点数をつけてもらう。

毎回、その結果をネットで公表するのだが、上位に入れば「優良番組」であり、下位はその逆ということになる。

4月に行われた初回のテーマは報道番組。回答者が430人。回答数は5296に達した。

そして平均点の第1位に輝いたのがテレビ東京「ワールドビジネスサテライト」である。2位はNHK「クローズアップ現代」、3位が意外やNHK「週刊こどもニュース」(見る眼あるなあ)である。

ちなみにTBS「総力報道!THE NEWS」は全37本中33位だった。なるほど。この調査、案外信頼できるかもしれない。

今月の課題はドキュメンタリー番組だが、テレビ業界は今のところ静観の構えだ。しかし、問題の多いバラエティ番組が俎上に乗ればそうもいかないだろう。

なぜなら推進会議の活動は、「私たちスポンサーは劣悪・俗悪番組で視聴率を稼げなんて言ってませんよ」という表明でもあるからだ。

それに、いくら業界が「単なる人気投票でしょ」と冷淡を装っても、さすがに無視はできない。

何しろ推進会議の参加26社には、トヨタ自動車や日立製作所など“上得意”が名を連ねているからだ。

お代官様の思わぬ”造反”に、どうする?越後屋。

「ウエブはバカと暇人のもの」なのか?

2009年05月20日 | 本・新聞・雑誌・活字
『ウエブはバカと暇人のもの』。

なかなか刺激的なタイトルではないか。

著者は、元博報堂の中川淳一郎さん。光文社新書の新刊だ。

タイトルだけでなく、本編でも過激な考察・分析が並んでいる。

「ネットのヘビーユーザーは、やっぱり暇人」

「ブログ、SNSの内容は一般人のどうでもいい日常」

「さんまやSMAPは、たぶんブログをやらない」

「ネットはあなたの人生をなにも変えない」

そして、結論として・・・

「人間が使っている以上、ネットはこれ以上進化しない。十分、我々は進化させた。もういいじゃないか。電話やFAXにそれ以上のものを求めず、便利な道具として今でも重宝しているのと同様に、ネットにもそれくらいの期待値で接していこうよ」


確かに、中川さんの言う通りかもしれない、と思うことはたくさんある。

その上で、この「道具・手段としてのネット」を、過度な期待ではなく、“原寸大”のものとして、どう使って、何をするか、なのだ。

個人的には、ネットを、テレビと同様の“希代の時間泥棒”にしないよう、気をつけたいと思う。

「つき合い方」を自分で決めること。

まずは、それなんじゃないかな。

ウェブはバカと暇人のもの (光文社新書)
中川淳一郎
光文社

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『向田邦子全集』刊行開始!

2009年05月19日 | 本・新聞・雑誌・活字
うーん、上手いなあ。

あらためて、その上手さに感心してしまう。

刊行が開始された『向田邦子全集』の第1回配本は、「小説1 思い出トランプ」である。

単行本が出たときに読んではいるが、こちらも少し年齢を重ね、まあ、わずかだが大人として成長したのか、感じ入る部分や、より深く突き刺さるが微妙に変化しているように思う。

たとえば、『だらだら坂』。

男が、関係を続けてきた女との別れの予感に、ふと襲われるシーン。

「言いわけを考えながら帰ることもあって、下の町を、夕焼けの町を見たことがなかった」

また、たとえば『酸っぱい家族』の中の何気ない一文。

「大体、五十を越えた男で、毎朝希望に満ちて目を開く人間がいるのだろうか」

しかも、続けて「もっとも、目を閉じたところで、若いときのような夢は滅多に見られなくなっている」とくるのだ。

参るじゃないですか。


この本のカバーには、猫がデザインされている。

そして、この猫の部分が少し凹んで、つまり微かに立体的になっているのだ。

猫は、向田さんが可愛がっていたマミオ君であろう。

私は決して猫好きというわけはないが、それでも、この猫の形に沿って、ゆっくり指を動かしたくなる。

そうしたくなるような装丁なのだ。

そして、指を動かしながら、会ったこともないマミオ君に話かけているような錯覚に陥る。

「向田さん、いなくなっちゃったけど、こうして作品は読み継がれていくんだねえ・・・」


向田邦子全集〈1〉小説1 思い出トランプ
向田 邦子
文藝春秋

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『任天堂~”驚き”を生む方程式』の出版を喜ぶ

2009年05月18日 | 本・新聞・雑誌・活字

嬉しい本が出た。

井上 理 『任天堂~”驚き”を生む方程式』(日本経済新聞出版社)。

著者の井上理(おさむ)君は、慶大SFC(湘南藤沢キャンパス)時代、「碓井ゼミ」の学生だったのだ。

現在は、日経BP社で「日経ビジネスオンライン」の記者として活躍しているが、こうして一冊になったものを読むのは、また格別。

その内容をひとことで言うなら・・・

任天堂の“強さ”の秘密に迫った!

・・・ということになる。

何しろ、あそこの情報管理は相当だし、内部のことがなかなか伝わってこない。

その意味で、岩田社長や宮本専務のみならず、伝説の“ミスター任天堂”山内さんにまでインタビューしているのは立派だ。

「ソフトが主、ハードは従」

「ソフト体質」

といった言葉が、山内さん、いや任天堂の強さを思わせる。

また、「運」というものを大事にしていることもそうだ。

任天堂という社名も、「人生一寸先は闇。運は天に任せ、与えられた仕事に全力で取り組む」から来ている。

山内さんの座右の銘が、「失意泰然、得意冷然」というのも凄い。


以前、テレビ東京で、任天堂の“一社提供番組”をプロデュースしていた。

「マリオスクール」と、「マジック王国」(日本初のマジックのレギュラー番組)だ。

京都の本社にも何度かうかがったが、この本に書かれているような“内側”には、そう簡単に触れられるものではない。

「よくぞ頑張った」の一冊だ。

ということで、教え子の出版を祝して、紹介させていただいた次第。


任天堂 “驚き”を生む方程式
井上 理
日本経済新聞出版社

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映画『天使と悪魔』は“ミステリー・ツアー”

2009年05月17日 | 映画・ビデオ・映像

サン・ピエトロ広場と大寺院、システィナ礼拝堂、パンテオン・・・

ヴァチカン&ローマの旅、しちゃいました。

それも日帰りで(笑)。


映画『天使と悪魔』である。

いやあ、楽しめた。

ラングドン教授(トム・ハンクス)に引率されての“ミステリー・ツアー”は、スピーディでいながら、中身の濃いものだった。

「コンクラーベ」という教皇選挙を背景に、次々と起こる殺人事件。

謎の秘密結社「イルミナティ」。

宗教象徴学の知識を生かして事件を解明していくラングドン。

さらに、時限爆弾の危機も迫る。

あの金田一耕助だって、殺人自体を防ぐことはなかなか難しいわけで、ラングドンも大変なのだ。

それにしても、西洋における宗教、というかキリスト教の存在の重さを感じる。

舞台が日本で、仏教を扱ったとしても、こんな物語は生まれないだろう。

その物語展開の中に、膨大な“薀蓄”を巧みに織り込んでいくロン・ハワード監督の手腕も、お見事。

シリーズ次回作はいつなのか。

まずは、オススメの一作であります。


メイキング・オブ・天使と悪魔

竹書房

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偉大なアメリカ映画ベスト100

2009年05月16日 | 映画・ビデオ・映像

『ニューズウィーク』の合併号が、嬉しい映画特集。

「映画ザ・ベスト100」ときた。

アメリカン・フィルム・インスティチュート(AFI)が発表した「偉大なアメリカ映画ベスト100」が話の軸になっている。

98年のベスト100と、07年のそれとを比較しながら、「不朽の名作にだまされるな」と刺激的だ。

「市民ケーン」が、10年前も今回も第1位。ふーん、そうなんだねえ。

2位は、前回の3位からアップした「ゴッドファーザー」。なるほど。

3位が「カサブランカ」で、これは前回の2位から一つ下がった。ま、いいか。

以上がトップ3だ。

記事では、「めまい」が以前の61位から9位へと急上昇したことを評価している。

「レイジング・ブル」も、24位から4位へと躍進だ。

かと思うと、13位の「スターウオーズ」について、「画期的な作品」だったが、「偉大な作品」に選ばれるべきものか、と厳しい。

ワタクシ個人としては、「スターウオーズ」の上位はまったく納得なんだけど。

まあ、あとは「シリアス=名作」は勘違いじゃないの? といった指摘も興味深い。


今回の特集で一番面白いのは、約40年間に掲載された「映画評」の傑作選だ。

67年の「卒業」から、07年の「シッコ」まで。

厳しいものあり、笑えるものあり、映画を観るポイントも学べる100本である。

共通するのは、愛だね、愛(笑)。

いずれの評にも映画への愛があるのだ。真剣なのだ。

読んでいるうちに、映画を観たくなった。映画館に行きたくなった。

ということで、『天使と悪魔』に行ってきます。


Newsweek (ニューズウィーク日本版) 2009年 5/13号 [雑誌]

阪急コミュニケーションズ

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