碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

村上春樹さんの「領土問題」論

2012年09月30日 | 本・新聞・雑誌・活字

中国、韓国との一連の領土問題。

先日、これについて、村上春樹さんが、朝日新聞に文章を寄せた。

<領土問題が実務課題であることを超えて、「国民感情」の領域に踏み込んでくると、それは往々にして出口のない、危険な状況を出現させることになる>という言葉が印象的だ。


参考資料として転載しておきます。


村上春樹さん寄稿 
領土巡る熱狂「安酒の酔いに似てる」

作家の村上春樹さん(63)が、東アジアの領土をめぐる問題について、文化交流に影響を及ぼすことを憂慮するエッセーを朝日新聞に寄せた。村上さんは「国境を越えて魂が行き来する道筋」を塞いではならないと書いている。

 日本政府の尖閣諸島国有化で日中の対立が深刻化する中、北京市出版当局は今月17日、日本人作家の作品など日本関係書籍の出版について口頭で規制を指示。北京市内の大手書店で、日本関係書籍が売り場から姿を消す事態になっていた。

 エッセーはまず、この報道に触れ、ショックを感じていると明かす。この20年ほどで、東アジアの文化交流は豊かになっている。そうした文化圏の成熟が、尖閣や竹島をめぐる日中韓のあつれきで破壊されてしまうことを恐れている。

 村上作品の人気は中国、韓国、台湾でも高く、東アジア文化圏の地道な交流を担ってきた当事者の一人。中国と台湾で作品はほぼ全てが訳されており、簡体字と繁体字、両方の版が出ている。特に「ノルウェイの森」の人気が高く、中国では「絶対村上(ばっちりムラカミ)」、台湾では「非常村上(すっごくムラカミ)」という流行語が生まれたほどだ。韓国でもほぼ全作品が翻訳され、大学生を中心に人気が高い。東アジア圏内の若手作家に、広く影響を与えている。(村上さんの寄稿エッセー全文は以下)

     ◇

 尖閣諸島を巡る紛争が過熱化する中、中国の多くの書店から日本人の著者の書籍が姿を消したという報道に接して、一人の日本人著者としてもちろん少なからぬショックを感じている。それが政府主導による組織的排斥なのか、あるいは書店サイドでの自主的な引き揚げなのか、詳細はまだわからない。だからその是非について意見を述べることは、今の段階では差し控えたいと思う。

 この二十年ばかりの、東アジア地域における最も喜ばしい達成のひとつは、そこに固有の「文化圏」が形成されてきたことだ。そのような状況がもたらされた大きな原因として、中国や韓国や台湾のめざましい経済的発展があげられるだろう。各国の経済システムがより強く確立されることにより、文化の等価的交換が可能になり、多くの文化的成果(知的財産)が国境を越えて行き来するようになった。共通のルールが定められ、かつてこの地域で猛威をふるった海賊版も徐々に姿を消し(あるいは数を大幅に減じ)、アドバンス(前渡し金)や印税も多くの場合、正当に支払われるようになった。

 僕自身の経験に基づいて言わせていただければ、「ここに来るまでの道のりは長かったなあ」ということになる。以前の状況はそれほど劣悪だった。どれくらいひどかったか、ここでは具体的事実には触れないが(これ以上問題を紛糾させたくないから)、最近では環境は著しく改善され、この「東アジア文化圏」は豊かな、安定したマーケットとして着実に成熟を遂げつつある。まだいくつかの個別の問題は残されているものの、そのマーケット内では今では、音楽や文学や映画やテレビ番組が、基本的には自由に等価に交換され、多くの数の人々の手に取られ、楽しまれている。これはまことに素晴らしい成果というべきだ。

 たとえば韓国のテレビドラマがヒットしたことで、日本人は韓国の文化に対して以前よりずっと親しみを抱くようになったし、韓国語を学習する人の数も急激に増えた。それと交換的にというか、たとえば僕がアメリカの大学にいるときには、多くの韓国人・中国人留学生がオフィスを訪れてくれたものだ。彼らは驚くほど熱心に僕の本を読んでくれて、我々の間には多くの語り合うべきことがあった。

 このような好ましい状況を出現させるために、長い歳月にわたり多くの人々が心血を注いできた。僕も一人の当事者として、微力ではあるがそれなりに努力を続けてきたし、このような安定した交流が持続すれば、我々と東アジア近隣諸国との間に存在するいくつかの懸案も、時間はかかるかもしれないが、徐々に解決に向かって行くに違いないと期待を抱いていた。文化の交換は「我々はたとえ話す言葉が違っても、基本的には感情や感動を共有しあえる人間同士なのだ」という認識をもたらすことをひとつの重要な目的にしている。それはいわば、国境を越えて魂が行き来する道筋なのだ。

 今回の尖閣諸島問題や、あるいは竹島問題が、そのような地道な達成を大きく破壊してしまうことを、一人のアジアの作家として、また一人の日本人として、僕は恐れる。

 国境線というものが存在する以上、残念ながら(というべきだろう)領土問題は避けて通れないイシューである。しかしそれは実務的に解決可能な案件であるはずだし、また実務的に解決可能な案件でなくてはならないと考えている。領土問題が実務課題であることを超えて、「国民感情」の領域に踏み込んでくると、それは往々にして出口のない、危険な状況を出現させることになる。それは安酒の酔いに似ている。安酒はほんの数杯で人を酔っ払わせ、頭に血を上らせる。人々の声は大きくなり、その行動は粗暴になる。論理は単純化され、自己反復的になる。しかし賑(にぎ)やかに騒いだあと、夜が明けてみれば、あとに残るのはいやな頭痛だけだ。

 そのような安酒を気前よく振る舞い、騒ぎを煽(あお)るタイプの政治家や論客に対して、我々は注意深くならなくてはならない。一九三〇年代にアドルフ・ヒトラーが政権の基礎を固めたのも、第一次大戦によって失われた領土の回復を一貫してその政策の根幹に置いたからだった。それがどのような結果をもたらしたか、我々は知っている。今回の尖閣諸島問題においても、状況がこのように深刻な段階まで推し進められた要因は、両方の側で後日冷静に検証されなくてはならないだろう。政治家や論客は威勢のよい言葉を並べて人々を煽るだけですむが、実際に傷つくのは現場に立たされた個々の人間なのだ。

 僕は『ねじまき鳥クロニクル』という小説の中で、一九三九年に満州国とモンゴルとの間で起こった「ノモンハン戦争」を取り上げたことがある。それは国境線の紛争がもたらした、短いけれど熾烈(しれつ)な戦争だった。日本軍とモンゴル=ソビエト軍との間に激しい戦闘が行われ、双方あわせて二万に近い数の兵士が命を失った。僕は小説を書いたあとでその地を訪れ、薬莢(やっきょう)や遺品がいまだに散らばる茫漠(ぼうばく)たる荒野の真ん中に立ち、「どうしてこんな何もない不毛な一片の土地を巡って、人々が意味もなく殺し合わなくてはならなかったのか?」と、激しい無力感に襲われたものだった。

 最初にも述べたように、中国の書店で日本人著者の書物が引き揚げられたことについて、僕は意見を述べる立場にはない。それはあくまで中国国内の問題である。一人の著者としてきわめて残念には思うが、それについてはどうすることもできない。僕に今ここではっきり言えるのは、そのような中国側の行動に対して、どうか報復的行動をとらないでいただきたいということだけだ。もしそんなことをすれば、それは我々の問題となって、我々自身に跳ね返ってくるだろう。逆に「我々は他国の文化に対し、たとえどのような事情があろうとしかるべき敬意を失うことはない」という静かな姿勢を示すことができれば、それは我々にとって大事な達成となるはずだ。それはまさに安酒の酔いの対極に位置するものとなるだろう。

 安酒の酔いはいつか覚める。しかし魂が行き来する道筋を塞いでしまってはならない。その道筋を作るために、多くの人々が長い歳月をかけ、血の滲(にじ)むような努力を重ねてきたのだ。そしてそれはこれからも、何があろうと維持し続けなくてはならない大事な道筋なのだ。

     ◇

 むらかみ・はるき 1949年生まれ。早稲田大卒。著書に「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」「ノルウェイの森」「アンダーグラウンド」「1Q84」など。レイモンド・チャンドラー「リトル・シスター」など翻訳書も多数。読売文学賞、フランツ・カフカ賞、朝日賞、エルサレム賞など国内外の賞を受賞。

(朝日新聞 2012.09..28)

29日(土)の「イチオシ!モーニング」

2012年09月30日 | テレビ・ラジオ・メディア

野球解説の岩本勉さん、MCの木村愛里さん、依田英将アナといった、いつもの方々と「イチオシ!モーニング」。

前日、日ハムにマジック4が点いたことで、岩本さんを中心に、この話題で大いに盛り上がりました。

私は、国政政党として正式に発足した「日本維新の会」などについてコメント。

中でも、この新党に関しては、「首長と党首」「権限の集中」「首相候補」などの課題を挙げ、イメージだけでなく実体を見極めていく必要があることを話しました。

そうそう、芸能コーナーで、女優の持田真樹さんの結婚を伝えていたなあ。

持田さんといえば、ドラマ「高校教師」だ。

懐かしい。

当時18歳だった美少女も、キレイな37歳になっておりました(笑)。


それから、日ハムは昨日も西武に勝ったので、マジック2。

優勝まで、あと少しだ。

日ハムが元気だと、北海道全体も実際に元気になるので、もうひと頑張りしてほしいです。

Nスペ「草間彌生」の刺激

2012年09月29日 | テレビ・ラジオ・メディア

NHKスペシャル「水玉の女王 草間彌生の全力疾走」を見た。

ひたすら描く、描く、描く。






それにしても、とんでもない83歳だなあ。

見ていて、ピリピリというか、チクチクというか、何かが画面からこちら側に飛んできて、アタマの中に直接当たるような刺激があった。

いやあ、とてつもないぞ、草間彌生。

水玉が夢に出そうだ(笑)。




今日の「イチオシ!」、明日(土)の「イチオシ!モーニング」

2012年09月28日 | テレビ・ラジオ・メディア

札幌市南平岸のHTB北海道テレビ。

ロビーに入って、びっくり。



床に、特大の「オンちゃん」カーペットが(笑)。


受付のお二人に、ごあいさつ。




先月もブログに登場してもらった女性スタッフさん。




本番前のスタジオの雰囲気が好きだ。

それはテレビ業界に入った30年前から変わらない。




準備をするヒロさん、佐藤アナ、森アナ。





今日(金)の「イチオシ!」では、野田首相の国連演説のニュースで、尖閣問題についてコメントしました。

生中継は、道内各地の高校生たちが、地元の食材を生かして創作したオリジナルスイーツのフェスティバル。

どれもアイデアと工夫があって、食べてみたくなりました。





明日(土)朝7時から、HTB「イチオシ!モーニング」に生出演します。

日ハムが西武に勝って、マジック4が点灯。

スタジオでの、野球解説の岩本さんの笑顔とコメントが楽しみです。


今日(金)、名古屋のラジオと札幌のテレビに出演

2012年09月28日 | テレビ・ラジオ・メディア

今日28日(金)、朝7時半から名古屋の東海ラジオ「源石和輝モルゲン!」に生出演します。

そして、午後3時45分からは、札幌の北海道テレビ「イチオシ!」に、やはり生出演です。

名古屋と札幌の遠距離出演!?。

テレビ塔があることでは共通している(笑)。

両エリアの皆さん、よろしくお願いします!


1年生のための「初年次研修」

2012年09月28日 | 大学

文学部の1年生を対象とする「初年次研修」が行われた。

入学から半年が過ぎ、大学にもかなり慣れたこの時期に、毎年開かれる。

いくつかの教室に分かれるのだが、新聞学科は哲学科と合同。




私は「大学での学びのヒント」と題して、「自分のナビを探そう」「知的マップを作ろう」、といった話をした。

時間が経つのは本当に早いので、卒業までに自らをどんなふうにデザインしていくのか、これを機会に考えてほしいと思ったのだ。

みんな集中して聞いてくれていたのが、ちゃんと伝わってきた。

あとは、一人ひとりが自分なりに、何かしら取り入れていってくれたら嬉しい。

まずは、おつかれさまでした!




週刊ダイヤモンド「大学総合ランキング」をめぐって

2012年09月27日 | 大学

発売中の「週刊ダイヤモンド」最新号は、大学特集。

「大学 全比較」と題して、なんと全国560校をランク付けしているのだ。

ごくろうさまです(笑)。

そのランキングの尺度として、以下の3つを挙げている。

「教育力」、「就職力」、「学生獲得力」。

「教育力」の中身は、①教員一人当たりの学生数、②教育研究費充実率、③教育研究力(教員一人当たりの研究費)。

「就職力」は、①正味の就職率、②公務員就職率、③上場企業役員数。

そして「学生獲得力」は、①志願倍率、②志願者数の増加率。

これらで“総合的な大学の強さ”を測ったそうだが、果たして、本当にわかるのか(笑)。

まとめると、“強い大学”のイメージとしては、こうなる。

教員がたくさんいて、みんな研究費がたくさん使えて、学生の就職率(特に公務員)が高くて、上場企業にOBの役員が多くて、受験倍率が高くて、志願者も増えている大学。

どれも悪いことじゃないけど(笑)、どうにも「かくありたい大学」という感じが希薄なのは、なぜだろう。

1位は東大。2位は京大。以下、20位までには全国の医科大学がずらりと並んでいる。

まあ、そうなるかも。

ちなみに本学は、なんと、209位でした(笑)。





そうそう、この記事の中に、「業界別 就職ランキング」ってのもあった。

わが新聞学科が大きく関係する「マスコミ」分野では、早大、慶大、東大、京大に次ぐ、堂々の5位となっている。

大学の規模というか、学生数から考えたら、なかなかの健闘ではありませんか。

と、自画自賛。

209位で結構です(笑)。


現役「早大生」女優、三根梓のドラマデビュー

2012年09月26日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

日刊ゲンダイに連載中の番組時評「TV見るべきものは!!」。

今週は、テレビ朝日のドラマスペシャル「死と彼女とぼく」について
書きました。


本格女優の道開いた
吉永小百合の“後輩”

21日深夜、ドラマスペシャル「死と彼女とぼく」(テレビ朝日)が放送された。

主人公は死者の姿を見たり声を聞いたり出来る女子高生(三根梓)。ビルの屋上から転落死した女性建築士(櫻井淳子)と出会う。警察は自殺と断定したが、実際は設計プランを奪った同僚(袴田吉彦)に突き落とされたのだ。三根は、恨みに満ちた櫻井が無事に旅立てるよう奔走する。

脚本は「世にも奇妙な物語」などの演出家でもある落合正幸が手掛けた。川口まどかの原作漫画をベースに、死者たちと向き合うことで、逆に“生きること”を大切にしようとするヒロインを巧みに造形していた。

しかし、このドラマで注目すべきは、特殊な設定にも関わらずハツラツと演じた三根梓である。女性誌のモデルとして知られる三根だが、今回がドラマ初出演にして初主演。大きなプレッシャーの中での挑戦だったはずだ。

現在20歳の三根は、なんと早大政経学部在学中の現役学生。彼女にとってこのドラマは、大学生が就職活動の一環で夏休みに体験する、企業での「インターンシップ」に当たるのだ。しかも、うまくいけば本格的女優業への道が開ける。そりゃ頑張るしかなかったろう。

まずは及第点という結果だが、遠く吉永小百合を望む“早稲田女優”に名を連ねることができるかどうかは、今後の精進にかかっている。

(日刊ゲンダイ 2012.09.26)


週刊プレイボーイで、NHK「受信料問題」についてコメント

2012年09月25日 | メディアでのコメント・論評

「週刊プレイボーイ」が、NHKの「受信料問題」に関する記事を掲載。

この中で、コメントしています。



一般世帯への“強制執行通告”乱発に続き
ビジネスホテル「東横イン」に
約半年分の受信料として
5億5千万円を賠償請求!


NHKは
“受信料原理主義”を
撤回せよ!!


60年以上も前にできた、時代錯誤な「放送法」を錦の御旗のごとく掲げ、一般世帯や事業者の受信料未納者に対し、法に則った支払いを声高に求め続けるNHK。10月からの「最大120円値下げ」などどこ吹く風とばかりに“原理主義”を振りかざす、その姿勢にモノ申す!! (取材・文/コバタカヒト)


2011年度は過去最高の受信料収入!

7月末にNHKが、ホテルを経営する会社3社を相手取り受信料の支払いを求める訴訟を東京地裁に起こした。請求額は、実に約7億3600万円。ちなみに受信料の月額は地上契約のみで1345円、衛星契約を含んでも2290円だ。そのうち5億5210万円の支払いを求められたのが、ビジネスホテルチェーン大手の東横イン。

NHKは部屋にテレビが設置されているにもかかわらず未契約となっている約3万3700件分の受信料を請求しているが、東横イン側は今月10日の第1回口頭弁論で、「客室の稼働率」や「テレビを利用しない宿泊客も多い」ことを理由に「NHKの請求は妥当ではない」と述べるなど、真っ向から争う姿勢を示している。

東横イン側の弁護を担当する黒澤基弘弁護士はこういう。
「昨年末まで、NHKさん側の請求通り全室の25%分まで支払ってきました。しかし、今年1月から7月までの、全国の宿泊施設の未契約分を全額支払えということで提訴されたのです。我々としては、NHKさん側が25%分の請求書を送ってきているのだから契約は25%で成立しているものだと思っていたのですが、NHKさんはそんな契約自体なかった、という考えのようです」

つまり、「今までどおり25%分なら払うが、それ以上はおかしい。見ていない部屋のものまで払うのも納得いかない」というのが東横イン側の言い分。それに対し、NHK側は「粘り強くできる限りの対応をしてきたが、要請に応じてもらえず、やむなく提訴に至った」としている。要約すれば、「25%でいいわけないだろ! 今まで散々、お願いしても全額払わないのだから、いよいよ訴えさせてもらう」というわけだ。

そもそもの話、放送法ではテレビ(NHKの放送を受信できる受信設備)を設置すれば、受信契約を結ばなければならない(第64条)。また、ホテルの受信契約はテレビのある客室単位で計算しており、その“原理原則”から言うと、東横インは全客室分の契約を結ぶ必要がある。

しかし、受信料問題に詳しい弁護士の梓沢和幸氏はこう言う。
「放送法にある『契約強制』は、もともと双方の意思と意思の合致によって成立するもの。国家が強制して民事上の意思の合致を成立させることは、かなり無理のある理論をこしらえないと成り立たない。ですから未契約分にまで支払いをさせるのは、法的には厳しいと私は思います。ただ、今までの受信料裁判を見る限り、裁判所はNHKの訴えを認める可能性が高いのが実情です」

2010年から一般世帯への強制執行の申し立てを頻繁に行なうなど、受信料徴収に全力を挙げている最近のNHK。2011年度決算では過去最高を更新する6725億円もの受信料収入を得て、4年ぶりに増収増益としている。これなら10月から予定されている最大120円といういたって小幅な値下げなど痛くもかゆくもないだろうし、法的な後ろ盾があるとはいえ、ここまで巨額の訴訟を起こす必要があるかも疑わしい。



この点について、メディア論が専門である上智大学新聞学科の碓井広義教授はこう見る。

「この問題は難しくて、NHKだってなにも訴えたくて訴えているわけではないんです。NHKは国民の皆さまの『善意』で成り立っている組織。強制しているわけではないという立場なので、裁判沙汰にはしたくない。一方で、受信料の収入が落ちると、国会で叩かれる。ですから、個人であろうが事業者であろうが、こういうケースは放っておけないわけです」


さかのぼること6年前、NHKと東横インの受信料契約が部屋数のたった5%分のみを支払う内容だったことが、会計検査院の調べで判明したことがあった。その際、検査院は「85%支払っているホテルもある。他の事業者と比べて不公平」として契約率を上げるようNHKに改善を求め、報道でその事実を知った一般市民は「大口契約者には甘くて、一般からは厳しく取り立てるのか」と批判の矢を浴びせた。しかし今回、東横インに対して100%の受信料を請求したNHKには「やりすぎではないか」という声が上がっているのだ。

「払わせていないと叩かれ、払わせても叩かれる(苦笑)。もはやNHKからすれば、この問題に関しては完全に手詰まり状態とも言えます」(前出・碓井教授)

受信料問題に関して、八方ふさがりのNHK。ただ、「受信設備を設置した段階で受信契約が成立する」というNHKの原理原則は、現在の状況に恐ろしいほどマッチしていないのも事実だ。

とにかく「受信設備」の定義が広すぎるため、現状では仮にテレビは所有していなくても、ワンセグ機能が搭載されている携帯電話やカーナビ、ニンテンドーDSなどテレビを視聴可能な受信機を所有しているだけで、受信契約を結ばなければならない。こんな時代にそぐわない放送法に依って“原理主義”を振りかざし、法に則って受信料を払えと言われても、素直に同意できないのが普通の感覚ではないだろうか。

公共放送とは何かを議論すべき

ところで、NHKの現在の契約率は約75%。イギリスの公共放送であるBBCの契約率98%と比べると、明らかに低い数値にとどまっている。イギリスの場合、受信許可料(受信料)の支払いを拒否した場合は罰則規定が設けられているなど“強制力”に違いはあるが、両者の差はそのせいだけではないだろう。

「そもそもNHKの本来の使命は公共的な空間を国民に与えること。少数派にも意見の場を提供し、国からの情報公開について徹底したり……。一方、国民にはそういった公共空間を支えるため、受信料支払いの義務が課せられている。NHKにおいて放送の公共性が保たれている限りは契約強制の理屈も成り立つと思いますが、現在、NHKはそれを担保できているでしょうか? 甚だ疑問に感じています」(前出・梓沢弁護士)

規模が大きくなりすぎた等の批判はあるものの、イギリスでBBCは多くの国民から公共放送として認められている。果たして、NHKはどうだろうか。

「受信料を支払わない人には一部の情報のみ提供し、支払った人だけにすべての放送が見えるようにする『スクランブル化』も、選択肢のひとつとして考えるべきときに来ています。ただ、仮に今すぐ実行したら、NHKの経営は立ち行かなくなるでしょう。だったら見ないよ、という人が多いはずですから……。もちろん、それで淘汰されるような公共放送など存在意義がないとも言えますが、ただ現時点で我々が公共放送を失うと、本当に損をするのは誰なのかも考えるべきだとは思います」(前出・碓井教授)

公共放送とは何か。公共放送は必要なのか、そうではないのか。そろそろこの問題について、国民的議論が必要なのかもしれない。

(週刊プレイボーイ 2012.10.08号)




今週の表紙、誰かと思えば、さっしーでした(笑)

大学院「9月入試」

2012年09月25日 | 大学

大学院の9月入試が行われました。

学内外、いや国内外からの受験者。

筆記と面接。

採点、そして判定。

人によっては、今後の人生の展開にも関わるわけで、選ぶ側も真剣。

入試のあった日は、倒れ込みそうになります(笑)。



今週の「読んで、書評を書いた本」 2012.09.24

2012年09月24日 | 書評した本たち

文藝別冊・KAWADE夢ムックの「北 杜夫 追悼総特集 どくとるマンボウ文学館」が出た。

北杜夫さんの作品の中で一番親しんできたのは、旧制松本高校から東北大学時代のことが書かれた「どくとるマンボウ青春記」だ。

特に旧制松高での、数々の抱腹絶倒エピソードは忘れられない。

そういえば、同じ寮に、辻邦生さんもいたんだもんなあ・・・





今週の「読んで、書評を書いた本」は、以下の通りです。

孫崎 享 
『戦後史の正体 1945-2012』 創元社

永瀬隼介 
『カミカゼ』 幻冬舎

布施鋼治
『東京12チャンネル運動部の情熱』 集英社

三浦しをん 
『お友だちからお願いします』 大和書房

鈴木 耕 
『原発から見えたこの国のかたち』 リベルタ出版


* 上記の本の書評は、
  発売中の『週刊新潮』(9月27日菊咲増大号)
  ブックス欄に掲載されています。


UHB水野悠希アナウンサーのウエディング・パーティ

2012年09月23日 | テレビ・ラジオ・メディア

UHB北海道文化放送の看板女性アナ、水野悠希さんのウエディング・パーティが、都内某所で開かれた。

現在、水野さんは昨年から始まった「U型テレビ」に出演している。

その前はずっと「のりゆきのトークDE北海道」のMCを、佐藤のりゆきさんと一緒に務めていた。

15年続いた「トークDE北海道」に、私はコメンテーターとして6年間出演させていただいたが、水野さんには本当にお世話になったのだ。

アナウンサーとしてのチカラはもちろん、聡明で明るくて、親しみのもてるキャラクターで、まさに番組の看板娘だった。

そんな水野さんが結婚。しかもお相手は放送作家だという。

そりゃ一目見なくてはならない。そして、「水野さんをよろしく頼みます」と直接お願いせねばならない。

いや、そんなにリキむ必要もないけど(笑)、とにかく参上した。

で、目の前で見た水野さんのウエディング姿の、まあ、美しいこと。

パチパチ(拍手)。




新郎の<はしもとこうじ>さんは、「やりすぎコージー」「鬼のワラ塾」などで知られており、お笑いの世界に精通した作家さんだ。

実物にお会いしてみて、ベースは真面目な好人物と見た(笑)。

水野さんとの2ショットも自然で、「うん、これなら大丈夫かも」と、ようやく安心。

「よろしく頼みます」も伝えたし、これで気が済んだ。


会場では、水野さんのお友達であるNHKの永井伸一アナ(「スタジオパークからこんにちは」 MC)、札幌から駆けつけてくれた浅川かがりさん(気象キャスター)、佐藤亜砂美さん(ファイナンシャル・プランナー)と、ご一緒しました。





水野さん、よかったね。

本当に、おめでとうございます!

「民放連賞」の発表

2012年09月22日 | テレビ・ラジオ・メディア

2012年の「日本民間放送連盟賞」が発表されました。

私が審査員を務めているのは、この中の「放送と公共性」という部門
です。

今年の入選・事績は、次の通りでした。

おめでとうございます。



民放連賞「放送と公共性 」

最優秀 
<テレビ信州> 武道必修化による柔道事故について


武道必修化で柔道が中学校の授業に採用されるなか、テレビ信州は、柔道教室での事故の取材をきっかけに、柔道による子供たちの重大事故が他のスポーツに比べて突出して多く、その事実がほとんど知られていないことを明らかにした。2010年からニュースで報道を続け、さらに全国放送を含む3つの番組を制作、フランスの取材も交えながら柔道事故の実態と安全対策の必要性を訴え続けた。武道必修化の問題は全国的に認知されるようになり、文部科学省は必修化直前に安全管理徹底の通達を出した。自ら問題を発掘し多角的な視点から地道な取材を続けてきたこと、また、長野県だけでなく全国に発信し、社会を動かす成果を残したことが高く評価された。


優 秀 
<エフエム仙台> Date fm Hope for MIYAGI


エフエム仙台は、震災直後から1年続けてきた「Pray for MIYAGI」という復興支援キャンペーンを一歩踏み出すための震災復興応援プロジェクト「Date fm Hope for MIYAGI」として本年3月に改めてスタートした。ラジオカーが県内に13局あるすべてのコミュニティFM・臨時災害FMをまわり、放送関係者の活動や被災地の今を伝えた。同社は、現在もコミュニティFMなどと取材等で交流を続けている。県域のFM局がコミュニティーFMと日常的に連携するという取り組みが、これからのラジオ局のひとつのあり方を示すものと評価された。


優 秀 
<静岡第一テレビ> SDTビデオリポータークラブ設立30周年


県内のアマチュアビデオカメラマンで作る組織「SDTビデオリポータークラブ」は、昨年設立30周年を迎えた。静岡第一テレビは、「地域の情報はその地元の人の手で発信を」との趣旨から、会員の投稿作品を放送しており、放送された作品に編集担当スタッフがアドバイスを添付して返却するなど、映像文化の向上にも一役買っている。また、地元の話題の放送は、各自治体から「街おこし、村おこし」の一助になると感謝されている。多くの局が同じような活動を試みる中、静岡第一テレビが地道な活動を長年継続しているのは、会社をあげて取り組んできた結果と評価された。


優 秀 
<朝日放送> 「古文書が語る巨大津波」シリーズと一連の報道
活動


先人が遺した貴重な教訓である古文書の記述と地質学を融合することで、過去の地震の実像をあぶり出す。朝日放送で東日本大震災直後のニュース企画からスタートした一連の番組は、「地質考古学」という新しい学問分野に光を当て、日本の歴史が大災害とともにあることを訴えた。地元大阪の歴史博物館での特別展示に番組提供した。制作者の視点が明快で、あまり知られていない事例をアニメやCGでわかりやすく伝えており、人々に訴える力をもつキャンペーンと評価された。あいまいな点を正直に視聴者に開陳していることも高評価につながった。


優 秀 
<福岡放送> STOP!!飲酒運転キャンペーン


繰り返される飲酒運転に対し、福岡放送では、飲酒運転関連の報道に継続的に取り組んできた。ニュースでの放送回数は500回を超え、それらをまとめたドキュメンタリー番組を3本制作。これらのキャンペーンの結果、遺族などによる飲酒運転撲滅の活動は広がりをみせ、福岡県では全国初の罰則を盛り込んだ条例が成立、事故件数が減少した。また、同社の番組は高校の授業の教材としても活用されている。制作者が放送の力を信じて追及している姿、毎日続けるという継続の力、それが成果を生んでいることが評価された。


日刊ゲンダイで、フジテレビ「リメーク企画」についてコメント

2012年09月21日 | メディアでのコメント・論評

日刊ゲンダイに、フジテレビの10月改編に関する記事が掲載され、その中でコメントしています。

タイトルは、「挑戦忘れたフジテレビ 打ち切りラッシュも目新しさなし アイデアまで焼き直し」


記事の内容としては、この10月のフジテレビには、「料理の鉄人」の
リメークである「アイアンシェフ」をはじめ、以前放送していたものに似た「焼き直し番組」や、「ちょっとだけ名前を変えた番組」が並ぶ、という
ものです。

私のコメントは、以下のようにまとめてありました・・・・


上智大教授の碓井広義氏(メディア論)がこう言う。

「視聴者からネタ不足で後ろ向きだと思われても仕方がありません。
テレビ界は以前放送した番組をネットで提供するオンデマンドが普及し、過去の遺産を有効活用するのに慣れてきたところ。

番組そのものだけではなく企画もリサイクルという発想が生まれてくるのも理解できます。実際、他局でも往年の人気番組を復活させる動きがある。

ただ、フジはヨソに先駆けて新しいものを生み出してきたはず。挑戦を原動力にしてきただけに、残念のひと言。現場の作り手たちに『本当にその番組が作りたいのか』と聞いてみたいです」

(日刊ゲンダイ 2012.09.20)



・・・・まあ、そういうことです(笑)。


「ゼミ合宿2012」 その6

2012年09月21日 | 大学


全員集合で、恒例の「記念写真」撮影。

みんなが着ているのは、特製「USUI LAB」Tシャツです(笑)。



2年生



3年生




全員集合



これで今年の「ゼミ合宿」は無事終了です。

みんな、おつかれさま!