碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

書評した本: 大沢在昌 『帰去来』ほか

2019年03月31日 | 書評した本たち
 
 
 
週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。
 
 
大沢在昌 
 『帰去来』
朝日新聞出版 1944円
 
志麻由子は警視庁捜査一課の刑事だ。連続殺人犯を追っていたが、首を絞められ気絶する。気がつくとそこは異次元の東京で、自分はエリート警視になっていた。パラレルワールドと知りつつ、任務を果たそうとする由子。タイムトリップの驚くべき“理由”とは?
 
 
中尾則幸 
 『海わたる聲』
柏艪舎 1404円
 
昭和20年8月22日、樺太からの引揚げ船「泰東丸」はソ連潜水艦の攻撃を受ける。約670名の犠牲者のほとんどが女性と子供だった。本書は札幌のテレビマンだった著者が、かつての取材経験を生かしながら、忘れてはならない悲劇を小説の形で伝えようとしたものだ
 
 
片山杜秀 
 『鬼子の歌~偏愛音楽的日本近現代史』
講談社 3456円
 
近現代日本のクラシック音楽作曲家たちの仕事は、西洋流の文学や美術と違い、「鬼子」扱いだったと著者は言う。山田耕筰のオペラ「黒船」、伊福部昭の「ゴジラ」、黛敏郎のオペラ「金閣寺」など、彼らの軌跡と作品にスポットを当て、再評価していく試みだ。
 
(2019年3月14日号)
 
 
阿川佐和子
 『いい女、ふだんブッ散らかしており』
中央公論新社 1296円
 
縦横無尽に話題が飛び出す最新エッセイ集だ。部屋の散らかり具合と「いい女の条件」。かまやつひろし、長友啓典など友人との別れ。「呼び名問題」にかこつけての結婚報告。かと思うと「へんな男にコマされるなよ」に始まる、「男の捨て台詞」ベスト3も秀逸だ。
 
(2019年3月7日号)
 
 
 
 
 
 
 
 

脚本家・倉本聰が語った「俳優・萩原健一」、そして遺作・・・

2019年03月30日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム


脚本家・倉本聰が語った「俳優・萩原健一」、
そして遺作・・・

萩原健一さんが、お亡くなりになりました。詳しい経緯がわからないので、突然の訃報という感じです。若いころから活躍されていたこともあり、68歳と知って、自分との意外な近さに少し驚いたのも事実です。

萩原さんは、いわば“同時代のスター”でした。グループサウンズ「ザ・テンプターズ」のヒット曲『神様お願い!』(1968年)や『エメラルドの伝説』(同)を聴いていたのは中学時代。ちょっと不良っぽく、とんでもなくカッコよかった。

『太陽にほえろ!』(72年、日本テレビ系)のマカロニ刑事。同じ72年、岸恵子さんとの映画『約束』が高校時代。互いに傷を負った者同士の切ない物語でした。兄貴みたいに思っていた萩原さんですが、「ショーケンは“俳優・萩原健一”になったんだなあ」と実感したものです。

続いての映画『青春の蹉跌』(74年)、そしてNHK大河ドラマ『勝海舟』(74年)、『傷だらけの天使」(74~75年、日本テレビ系)、『前略おふくろ様』(75年、同)などを見たのは大学時代です。

当時は、まさか後年、脚本家の倉本聰さんに、萩原さんのことをうかがう機会がやってくるなどとは、思ってもいませんでした。


脚本家・倉本聰が語った、俳優・萩原健一


まず、大河ドラマ『勝海舟』のときの話です・・・

「やっぱり興味深いのは坂本龍馬とか岡田以蔵ですよね。ああいうアウトローなやつらがいい。だから岡田以蔵を坂本龍馬に惚れてるオカマにしちゃったんだけど(笑い)」

岡田以蔵役は萩原健一。萩原は“このドラマで化けた”と評されることがある。

「ショーケン(※萩原の愛称)も面白く演じてましたね。すごい芝居するなこいつ、と思いましたよ」(倉本聰・碓井広義『ドラマへの遺言』新潮新書)


そして翌年には、あの『前略おふくろ様』が登場するのです・・・

「これは日テレからじゃなくて、ショーケン(萩原健一)からの依頼なんです。当時、テレビ局が直接、脚本家をつかまえようってことはそうはない。ないっていう言い方も変だけど、「おまえ、使ってやる」になる。

ところが、タレントに「お願いします」とオファーしに行くと、今度はタレントが、この作家が書いてくれるならって、局側に条件を出す。そういうことが多かったです」

日本テレビが萩原にオファーしたところ、「やってもいいけど倉本聰に書いて欲しい」という流れだったというのだ。

「実は日テレから話が来る前にショーケンが会いに来て、なにか2人でできないかって話してたんですよ。ショーケンはそれまで『傷だらけの天使』とか、いわゆるアウトローが多かった。

アウトローって上に立つ人がいないんですよ。自分が一番強い。僕はそれって良くないなと思ったんですね。高倉健さんの映画は必ず上に人がいることで成立している。頭が上がらない親分がいて、その人のために命を張るっていうのが東映の図式なんです。

たとえば鶴田浩二さんとか、嵐寛寿郎とかね。だから健さんが光る。つまり尊敬できる人間を持ってる人間が光るんです。尊敬される人間は別に光らない。自分がお山の大将になっていても限度があるから。ある時期から(※石原)裕ちゃんはそういう状態にあったんです。

で、ショーケンに今あなたのやってることはみんなお山の大将で良くないと。例えば板前の話をやるんだったら、あなたが頭の上がらないやつをいっぱいつけようじゃないかって話しました。おかげでショーケンは光ったんですね」(倉本聰・碓井広義『ドラマへの遺言』新潮新書)

・・・確かに、萩原さん演じるサブの上には、梅宮辰夫さん、八千草薫さん、北林谷栄さんなど「頭の上がらない存在」がいました。だからこそ、『前略』の萩原さんは光っていたわけですね。このとき、“お山の大将”とは違う魅力を生み出せたことは、その後の役者人生にとって大きかったと思います。


遺作となったドラマ『不惑のスクラム』

萩原健一さんが出演した、NHK土曜ドラマ『不惑のスクラム』が放送されたのは、昨年秋のことでした。

主人公は、かつて傷害致死事件を起こした丸川良平(高橋克典)。5年間服役して出所したが、仕事も家庭も失った自分に絶望していました。

河川敷で死のうとした際に出会ったのが、宇多津(萩原健一)という初老の男です。高校時代にラグビー部だった丸川は、宇多津が率いる草ラグビーチーム「大坂淀川ヤンチャーズ」に引っ張り込まれます。

このドラマの特色は、丸川だけでなくチームに所属する男たちにもしっかりスポットを当てていることでしょう。

たとえば陣野(渡辺いっけい)は、会社では窓際部署に送られ、自己主張ばかりの若手社員に閉口しています。13年前に妻が男と蒸発した家庭では、高校生の娘がろくに口をきいてくれません。

また宇多津の元部下である緒方(徳井優)は、ヤンチャーズの雑用を一手に引き受けていますが、家では妻と介護を要する母親が待っています。

そんな彼らにとって、週末のラグビーは日常を支える、心のオアシスのような存在なのです。いや、そういう存在をもつ男たちの幸福を描くドラマだと言っていい。

一度は丸川の過去が明らかになったことでチームの和が乱れましたが、再びスクラムを組むようになります。ところが、「誰ひとり、不要な人などいない」と言っていた宇多津(萩原)が病没してしまいます。

精神的支柱を失った男たちの揺れる心を、再び一つにしていったのは、やはり亡くなった宇多津という存在でした。

まさか遺作になるとは思いませんでしたが、このドラマの萩原さんは、自分自身のことよりも、自分を慕ってくれる後輩たちを思いやる初老の男の”静かな力強さ”を、やわらかく丁寧に演じて見事でした。


俳優・萩原健一、享年68。

合掌。

週刊朝日で、「NGT騒動」について解説

2019年03月29日 | メディアでのコメント・論評


NGT騒動収束せず
「アイドルビジネスの終わりの始まり」 
報告書を徹底分析

新潟県のアイドルの身にふりかかった暴行事件が、混乱と不信を生み出している。NGT48メンバーの山口真帆さんが顔をつかむなどの暴行を受けたとされる事件は、3月22日に新潟市内で行われたNGT、AKB48などを運営する会社・AKSによる記者会見でさらなる泥沼化へ。

NGTが出演中の地元ラジオ局の番組やメンバーのトークショーなどのイベントが休止や中止に追い込まれた。ここまで問題が大きくなると、簡単には収まりそうにない。(本誌/上田耕司)


上智大学文学部新聞学科の碓井広義教授(メディア文化論)はこう話した。

「この事件は、秋元康さんが生み出してきたアイドルビジネスの終わりの始まりだと思うんですよ。秋元さんは沈黙していますが、AKBグループをプロデュースする総帥としての見解を示すべきではないか。そうしないと、多分、ファンの人も含め、誰も納得しないのではないでしょうか

これまでも、AKBグループの握手会などでトラブルは起きていた。

「会いに行けるアイドルだとかファンの人たちとの距離が近いことを売りにしてやってきた中で、傷害事件にまで発展したこととか、表面化しなかったものも含めると、諸々あったんです。その頃は、秋元さんが発言して、カバーするということをきちんとやっていたと思うんです」(碓井教授)

会見には、AKSの運営側の松村匠取締役ら3人が出席。 会見と同時進行で山口さんがツイッターで生反撃し、AKSの松村匠取締役は答えを訂正する場面もあった。

「会見に支配人や取締役が出てきても、誰も納得しない状況ですよね。運営側はあくまでも、NGTのダメージを最小限に抑えて、早めにこの騒動を収束させたいのでしょう。そのための第三者委員会の報告発表だった印象です。被害者である山口さんをケアしていくというよりも、ビジネスを優先させているという判断を感じさせました。それに対して、山口さんがたった1人で戦っているという図式だと思います」(同)

山口さんは「なんで嘘ばっかりつくのでしょうか」とツイッターした。

「まさにSNS時代を目の当たりにした思いでした」(同)

AKB48は秋元康氏のプロデュースにより、14年前に創ったのが始まり。その後、名古屋のSKE48、大阪のNMB48、福岡のHKT48、新潟のNGT48などが次々と創られていった。

「これだけ戦線を拡大する中で、新潟という手薄になっているところで事件が起きたという気がします。それで、アイドルビジネスが壊れ始めた。アイドルたちの中には、親元を離れて暮らしている人もたくさんいると思います。運営はもっときちんとケアし、配慮しながら進めていくべきだったところが、抜け落ちていた部分がたくさんあったんだろうと思います。それが露呈した事件でした」(同)

AKBビジネスとして考えた場合はどうか。碓井教授はこういう。

「AKBグループとは違うチャンネルとして、乃木坂46系がある。AKBグループはビジネスとして下り坂に入っているんですよ」

乃木坂46は人気を集め、昨年は「シンクロニシティ」で日本レコード大賞を受賞した。

「乃木坂は今がピーク。そんな中でAKBグループの扱いがぞんざいになっていたのではないか。状況が良くなっていく要素があまり見えない。ビジネスの仕組み、運営のやり方の弱い部分とかの欠陥が目立つようになった」(同)

AKBの総選挙も中止が発表された。

「もし、総選挙が行われていら、山口さんが上位になるでしょう。新潟の運営に対するブーイングも含めた票になるから。そういう意味でも、開催できないのではないでしょうか」

第三者委員会の報告書によると、「多くのメンバーが、メンバー内にファンと私的領域での接触を行っていた者がいると認識していたのも事実です」「本事件後に、数名のメンバーがファンとの『つながり』があったとして自ら申告していること」「36名のメンバーから、他のメンバーとファンとの『つながり』に関する供述があった。その際、12名のメンバーの名前が具体的に上がった」とある。

芸能ジャーナリストの佐々木博之氏はこう考える。

「今は、ファンがアイドルに電話やLINEの連絡先を割と簡単に渡すことができて、アイドル側がその気になればいつでもつながれる、接触できるという状態になってしまいました。そのファンと仲良くなれば、CDやグッズを沢山購入してもらうことができるかもしれません。総選挙になれば、投票券付きのCDを大量購入してもらい、グループ内でのポジションだって上がります。場合によっては、センターだって取れるかもしれません。そういうファンは彼女たちにとっていわゆる“太客”です。キャバクラの女の子たちが売り上げを伸ばそうとするのと同じ発想で、“太客”が離れないように、好きでなくてもいい顔して、要求をのんでしまうこともあるのでは。運営側がグループ内の競争を煽り、人気争いが激化すれば、お金を使ってくれるそういうファンを多くつかまえたいという心理になっても不思議じゃないです。“AKB商法”と“AKBシステム”自体がほころび始めているんじゃないでしょうか」

今後についてはこういう。

「第三者委員会でも何でもいいんですけど、徹底的に調べて、ファンと私的交流を持っていたメンバーは解雇すればいいんですよ。アイドルとしての自覚も徹底させなければいけないと思います。そうすれば示しもつく。それをやらないのは、何かあるのかなと勘ぐってしまいます。犯人が釈放されたのも不思議ですし。深い闇を感じますね。これで、山口さんが脱退しなくちゃいけなくなるとしたら、理不尽極まりない。AKSの松村取締役と彼女と秋元さんの3人で記者会見を開いて納得できる説明をしてもらいたい。そうすればファンの理解を得られるのではないでしょうか」(佐々木氏)

山口さんとNGTの前途について、碓井教授はこう見る。

「NGTは解散することだってあり得る。やっていけなくなる可能性もあります。山口さんは、いつ辞めると言い出すのか、ファンも心配してると思うけど、メンバーたちの中に疑惑の人たちもいるのに、復帰して今まで通り、ステージに立てるものなのか。会見中にツイッターで反撃したのは、納得できていないからなわけで、彼女自身の中でのある種の納得がなければ進むことも引くこともできないでしょう。何を信じていいかわからない状況だから。彼女だって、辞めるなら納得して辞めたいでしょうしね」(碓井教授)

山口さんは“卒業”という名目で、脱退させられるのか。復帰への道があるのか。類似のアイドルグループも増えた。事件の解決が与える影響は大きい。

(週刊朝日オンライン 2019.03.27)

週刊新潮に、林操さんによる『ドラマへの遺言』書評

2019年03月28日 | 本・新聞・雑誌・活字



倉本聰・碓井広義『ドラマへの遺言』

ヤクザ、経営者、政治家の大物が続々登場!
倉本聰と振り返る昭和・平成

題名が『ドラマへの遺言』で夕刊紙の連載がベースのインタビューもの。そう聞くと「ああ、狭いTV本か、軽い芸能本か」と思うでしょ? ところが、確かにTV本、芸能本ではあるものの、語られる世界は広く、テーマは重い。

まずは役者に歌手にタレント、TV屋に映画屋が実名でぞろぞろ出てきて、語り手の見聞きした彼らの言動が明かされるあたりは、もちろん読みどころ。でも、さらに加えてヤクザや経営者や政治家の大物までがあれこれ登場、意外な素顔を晒すからこの新書、文化だけじゃなく社会や経済、政治までカバーした現代史の書でもある。

ま、考えてみりゃ語り手はあの倉本聰、聞き手はTVドキュメンタリーの作り手でもあった碓井広義だもの、テキトーな本になるはずもない。“西武グループの帝王”堤義明にも“芸能界のドン”周防郁雄にも臆さず触れるわ、ニッポンという国の棄民の実態もTVの劣化・ドラマの変節も厳しく批判するわという広さと深さは、たとえば昭和史・平成史をテーマとする後世の研究者にとって一級史料になるだろうと思えるレベルなんです。

いや、読んでほしい人は未来の歴史家以外にもたくさんいる。倉本作品をロクに観たことがないというアナタにも、いや、そういうアナタこそ、手に取ってください。落ちるところまで落ちた後、上るところまで上って、今また落ちてるこの国の姿が、よぉく見えてくるから。

レビュアー:林操(コラムニスト)


(週刊新潮 2019年3月21日号)




ドラマへの遺言 (新潮新書)
倉本聰、碓井広義
新潮社




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トークイベント

碓井広義「倉本聰のドラマ世界」を語る。

2019年4月13日 土曜日
18時開演(17時半開場)
表参道「本の場所」


完全予約制です。
申込みは、以下の「本の場所」へ。


本の場所





北海道テレビ×Netflix「チャンネルはそのまま!」の注目度

2019年03月27日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評



北海道テレビ×Netflix
「チャンネルはそのまま!」の注目度

先週、北海道テレビが制作したドラマ「チャンネルはそのまま!」全5話が放送された。全国ネットではないので、ネットフリックスで見た。

ヒロインの雪丸花子(芳根京子)は「北海道★(ホシ)テレビ」の新人記者。異種としてのバカ(「おバカ」ではない)を採用する、「バカ枠」入社だ。

主演の芳根はコメディエンヌとしての才能をフル稼働させている。ドジだけど一生懸命。とことん他者の気持ちに寄り添う。迷惑をかけるが、何かのきっかけを生み出す。

基本的には花子の奮闘記だが、カリスマ農業技術者にして農業NPO代表の蒲原(大泉洋、快演)が、横領事件の容疑者になるあたりから物語は一気に加速。エンタメドラマの佳作となった。

またこのドラマではキー局との関係も含め、ローカル局の現状を垣間見ることができる。キー局から送り込まれた編成局長が部下たちに言い放つ。

「いいか! キー局では視聴率が全ての基準。数字が全てだ!」

さらに視聴率でリードするライバル局「ひぐまテレビ」には、ホシテレビを目の敵にする剛腕情報部長(安田顕)がいる。ローカルにはローカルの熾烈な戦いがあることを、安田が凄味のある怪演で伝えていた。

ちなみにネットフリックスはこのドラマに共同出資している。ローカル局が、キー局ではなくアメリカの動画配信会社と組んだことにも注目だ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」 2019.03.27)

福島県PR動画「もっと知ってふくしま!」 1本6秒の快感

2019年03月26日 | 「日経MJ」連載中のCMコラム



福島県「もっと知ってふくしま!」
1本6秒でPR 心地よい感覚に

知人のアナウンサーから聞いた話だ。生放送でニュースを読んでいるとき、ある瞬間、時間がゆっくりと流れだすことがあるという。

1秒が10倍ほどに延び、原稿の文字は大きく立ち上がり、複数のスタッフの動きも同時に認識できるそうだ。それはまるで自分の意思で時間を操っているような心地よい感覚だと。

福島県のアニメーションPR動画「もっと知ってふくしま!」の長さは1本6秒。「面積、全国3位」「民謡、会津磐梯山」「赤べこ」など県の名物や特産品をそれぞれ6秒間で紹介していく。

全部で25本あり、まとめて見ても2分半だ。かわいいアニメとテンポのいいナレーションに乗せられて、「福島、行ってみようかな」なんて思っている自分に驚く。

この時間の魔術師の如き仕業は、クリエイティブディレクターの箭内道彦さん(福島県郡山市出身)によるものだ。たかが6秒、されど6秒。まさに命短し、恋せよ乙女である。ん? 違うか。

(日経MJ「CM裏表」 2019.03.25)




ドラマ「3年A組」が描いた、匿名という名の凶器

2019年03月25日 | 「しんぶん赤旗」連載中のテレビ評




「3年A組―今から皆さんは、人質です―」
匿名という名の凶器

幕を閉じた今期のドラマの中で、最も強い印象を残したのが、菅田将暉主演「3年A組―今から皆さんは、人質です―」(日本テレビ系)だ。 

男が突然、高校に立てこもる。武器は爆弾。人質は3年A組の生徒全員。しかも犯人は担任教師の柊一颯(ひいらぎ いぶき、菅田)だ。

事件の背後には水泳の五輪代表候補だった女子生徒、景山澪奈(上白石萌歌)の自殺があった。彼女はドーピング疑惑で騒がれ、周囲から陰湿ないじめを受けていたのだ。

柊は茅野さくら(永野芽郁)など生徒たちに、「なぜ澪奈は死んでしまったのか、明らかにしろ」と迫る。

やがて澪奈の水着を切り刻んだり、自宅に投石したりしたのが宇佐美香帆(川栄李奈)であることが判明。有名人の澪奈を友人にしたかった香帆は、澪奈がさくらと仲良くなったことを恨んだのだ。

この時、柊は香帆に言う。「自分が同じことをされたらどんな気持ちになるか、想像してみろ」と。

実は「想像力」こそ、このドラマのキーワードだ。物語の中では、これでもかというほどネットやSNSの“負の威力”が描かれていた。

澪奈を追いこんだのも特定の個人ではなく、匿名による執拗なネット上の中傷とフェイク動画だった。他者の心の痛みを想像できるか。それが分かれ道だ。

A組の生徒たちもスマホ無しではパニックになるほど、もはやこの道具は日常化している。

確かに便利で使い始めたらやめられない。しかし、この手のひらの中のパソコンは、使い方によっては自身の思考を停止させてしまう。また同時に他者の人生を破壊することさえ可能だ。このドラマはこの凶器の危うさを徹底的に暴いてみせた。

もう一つ、物語を支えていたのが柊の言葉だ。「自分の頭で考えてみろ!」、さらに「感情にまかせたあやまちが許される年齢じゃない。言葉、行動に責任持てよ!」。病魔に侵された柊が、命がけで繰り出す言葉の数々がこのドラマの核だ。

単なる立てこもり事件と思わせておいて、徐々にドラマの意図を明かしていった脚本は、「怪盗山猫」(日本テレビ系)や「仮面ライダービルド」(テレビ朝日系)などの武藤将吾。迫真の演技の菅田と共に、このドラマを成功へと導いた。


(しんぶん赤旗「波動」 2019.03.25)

 

週刊現代で、「1970年代のドラマ」について解説

2019年03月24日 | メディアでのコメント・論評


1970年代テレビドラマ
「いまじゃ考えられない」驚きのシーン

日本のおふくろ、本物の刑事がいた

家族も友人もみんなが見ていた。学校や会社の休憩時間には、前夜のテレビドラマの話で大盛り上がり。'70年代はドラマが共通の話題であり、人生の教科書だった。あの名作たちをプレイバックする。

京塚昌子の割烹着姿

'70年代、テレビは最大の娯楽であり、ドラマ黄金期だった。カラーテレビが普及し、夜はお茶の間に家族が集合して、ドラマを楽しんでいた。

特に'70年代前半はホームドラマの全盛期。そこには「理想のおふくろ」が生き生きと描かれていた。その代表格が、『肝っ玉かあさん』である。

「おふくろの味、蕎麦の味~」

このフレーズが耳に残っている人は多いだろう。

戦後すぐに夫に先立たれ、女手一つで東京・原宿の蕎麦屋「大正庵」を切り盛りする五三子を演じたのは、京塚昌子である。ふくよかな身体に愛嬌のある笑顔。日本一、白い割烹着が似合った。

「京塚昌子さんは、いまでいうマツコ・デラックスのように恰幅よく存在感大。昭和の母親を見事に演じていました」(TVライター・桧山珠美氏)

ドラマ開始時、京塚は38歳で、息子役の山口崇は32歳。しかも実際の彼女は未婚だった。だが、堂々たる演技力で、2人の子どもを育てあげた母親役に違和感はまったくなかった。

親子のやりとりが、ドラマの見どころ。京塚が思春期の娘(沢田雅美)に、こう諭すシーンがある。

「若い人とね、歳取った人の考え方や気持ちが違うっていうのは当たり前なのよ。だけど、そのために言葉があんのよ。話し合いがあるのよ。思いやりの心があるんですよ」

京塚のセリフはじんわりと心に沁みた。

『肝っ玉かあさん』のプロデューサー・石井ふく子氏が同時期に手がけたのが、水前寺清子主演の『ありがとう』

「水前寺が歌手だからか、劇中の公園のシーンなどで、いきなりミュージカルのように歌い出すような場面があり、不思議でした。今思えば斬新な演出ですね」(桧山氏)

このドラマで水前寺の母親役を演じたのは、山岡久乃。優しさと厳しさを併せ持つ名女優だが、彼女も生涯独身である。その演技は圧巻だ。

「山岡と水前寺の親子喧嘩のシーンがよくありました。夕食のときに喧嘩になって、母親がせっかく作った料理がのったお膳を水前寺がひっくり返してしまい、後悔して、仲直りしようとするパターンが繰り返されます。

その流れが自然で、二人は本当の親子なのではと思わされるほど。シリーズの後半は水前寺が石坂浩二演じる男性と結婚して、山岡が娘を送り出す。この展開に視聴者はしんみりとした気持ちになるんです」(テレビドラマ研究家・古崎康成氏)

浅田美代子が歌う

元テレビプロデューサーで上智大学文学部教授の碓井広義氏は、'70年代のホームドラマの名作として、東京の下町にある銭湯を舞台にした『時間ですよ』を挙げる。

「当時、銭湯はある種、共同体として地域の中心となっていた場所でした。だから、銭湯に集まる人間模様を見ていると楽しいんですよ。

このドラマでは女将さんである森光子さんが中心にいて、堺正章さんや樹木希林さん(当時の芸名は悠木千帆)が従業員として銭湯で働いている。

さらに、常連さんも集まり、さながら大きな家族なんです。その人間の温かさがテレビを通じて、こちらに伝わってきました。

当時、私は高校生でしたが、コントのコーナーのギャグで大笑いしましたね。ほかに印象的だったのは女湯のヌードシーン(笑)。それが目当てで見ていた少年たちもいたでしょう。とはいっても、まったくいやらしく描かれていません」


『90年代テレビドラマ講義』などの著者である文学者で立教大名誉教授の藤井淑禎氏もこう語る。

「銭湯のヌードシーンは衝撃的でしたが、それを堺正章さんの飄々とした演技や、森光子さんのどっしりとした女将さんぶりで和ませていた。お色気シーンだけを押すのではなく、それを覆うような名演技があったんです。

このドラマでは歌も良かった。堺さんの『街の灯り』、浅田美代子さんの『赤い風船』が挿入歌でした。銭湯の2階から繋がる物干し台で歌うシーンが作品を身近なものにしてくれました」

佐分利信しかできない演技

日本の家族をテーマにしたドラマで忘れてはいけないのが、向田邦子作品。なかでも『阿修羅のごとく』は傑作だった。

厳格に見えて、こっそり浮気をしている父親役の佐分利信の存在感がバツグン。佐分利が演じる父親は、妻(大路三千緒)が浮気に感づいていないと思い込んで、愛人が生んだ隠し子にプレゼントする予定のオモチャのミニカーを、自宅の居間に置いたままにする。

「でんでんむしむしかたつむり」

そう歌っていた妻は、そのミニカーを見て阿修羅の表情に豹変。ミニカーを襖に投げつけ、見事に突き刺さる。

「その後も襖の傷跡が随所に映し出される。ですが、それ以上には語られない。表面は穏やかな家族だが、内側では地殻変動が慎ましやかな男女にも起こっている。強烈なメッセージが放たれた名シーンでした」(前出・藤井氏)

父親は最初から最後まで変わらず堂々としているが、愛人に振られ、妻に先立たれる。

「ラストはどこか哀れを誘う。この演じ分けが絶妙で、佐分利信以外にこんな役はできないでしょうね」(前出・古崎氏)

作中で佐分利が何度もつぶやくセリフがある。

「……10年たったら、笑い話だ」

このフレーズに重みを持たせる演技は見事だ。

ドラマファンの間で評価が高いのが、『岸辺のアルバム』。平均視聴率は15%ほどだったが、衝撃的な内容はいまも色褪せない。

「セックスは月に何回くらいですか?」

国民意識調査を名乗るイタズラ電話をきっかけに、八千草薫が演じる貞淑な妻が、年下の青年(竹脇無我)とラブホテルに行くことになる。

夫(杉浦直樹)は、商社マンだが、会社は倒産寸前。長女(中田喜子)は、交際していたアメリカ人の友人に乱暴されたあげくに妊娠中絶。

東京・狛江市の建売住宅に住む平凡な家庭が徐々に壊れていく。最終回では、大雨による洪水で自宅が危険にさらされ、夫はこう叫ぶ。

「どんな思いでこの家を買ったと思っているんだ」

家が濁流に飲み込まれる寸前、長男(国広富之)は家族のアルバムだけをなんとか持ち出し、最後はわずかに再出発の希望の光が見える。

コラムニストの泉麻人氏はこう振り返る。

「台風の洪水によって自宅が流されるという実際に起こった出来事に、家族の静かな崩壊が重ね合わされています。

冒頭のタイトルバックの映像は、小田急線の和泉多摩川の鉄橋の空撮から始まっています。そこに、ジャニス・イアンの『ウィル・ユー・ダンス』という洒落た洋楽が重なる。映画的なオープニングが印象的でした。

山田太一作品の特徴は地理的なディテールがしっかりしているところ。八千草薫がラブホテルに入るシーンを当時の住宅地図で照らし合わせると、実際に渋谷の桜丘にあったホテルがそのままの名前で使われていました。モーレツ世代の杉浦直樹のセリフにも実にリアリティがありました」

裕次郎が「最後の名演」

'70年代は刑事ドラマが大ブームとなった時代でもある。なかでも『太陽にほえろ!』は斬新だった。同ドラマを担当した元日本テレビプロデューサー・岡田晋吉氏が語る。

「それまでの刑事ドラマは、なぜ犯人が犯罪を起こしたかに焦点を当てた作品が多かった。ですが、この作品は若い刑事が成長していく物語。まったく新しい考え方でした」

『太陽にほえろ!』と言えば、殉職シーンが名物。

「かあちゃん、あついなあ……」マカロニこと萩原健一が立ちション中にチンピラに刺されるシーンや、

「なんじゃこりゃあ!」とジーパンこと松田優作が落命するシーンの名セリフは完全なアドリブだからこそ、心に残った。

前出の岡田氏が名場面として挙げるのは、もはや伝説となっている、最終回の裕次郎の芝居。容疑者の妹から兄の居場所を聞き出すために自ら取り調べを行い、ボスは7分前後も独り語りする。

「裕次郎さんから『このシーンは自由にやりたい』という要望があったんです。僕らは裕次郎さんががんを患っていて、先が長くないことを知っていました。若い刑事が犯人に監禁されており、『部下の命は俺の命』『命ってのは、ほんとに尊いもんだよね』と、ボスは容疑者の妹に語りかけます。

でもどこか、自分自身がもっと生きたいと叫んでいるような言葉だった。役柄と現実の運命が重なる、本当に凄いセリフでした」

'70年代の刑事ドラマの名作は数知れず。個性的な刑事が次々と誕生した。ドラマに詳しいライターの田中稲氏が語る。

『Gメン'75』のボスを演じた丹波哲郎はセリフが棒読みに聞こえるのですが、それがかえってニヒルに感じられましたね。

この人は生まれながらに格が違う、と思わせるのが丹波さんの魅力で、彼がいるからこそ独特の世界観ができあがったと思います。

最終回の丹波さんのセリフ、『誤認逮捕であれば潔く責任を取ろうじゃないか』は当たり前なのですが、彼が言うと名言に聞こえました。

『非情のライセンス』の天知茂は、ちょっと鼻にかかった低い声が本当に素晴らしく、予告編の語りを聴くだけでゾクゾクしました。眉間の皺、そしてパリッとしたスーツ、ぴっちり整えられた髪。劇画から飛び出したようなスタイルでしたね。

その一方、作中では戦争の傷の深さを感じさせるエピソードが多く、決して絵空事ではない現実感がありました。

『特捜最前線』で、特命課の神代課長を演じるのが、ダンディな二谷英明。『俺たちが相手にしているのは人間なんだ。汚いことも許されないことも、人間だからできるんだ』と新米刑事を諭す一方で、部下に頻繁に言い返されたりする親しみやすさもあった。

それが、石原裕次郎や丹波哲郎と違うところで、刑事同士の人間模様がドラマの生々しさにつながっていました」

当時の若者たちがファッションをこぞって真似していたドラマが、『傷だらけの天使』だ。主演の萩原健一は探偵事務所の調査員。オープニングの場面が印象的だ。

「ショーケンが新聞紙でエプロンを作って、ノザキのコンビーフを丸ごとかじりつくタイトルバックは多くの方が覚えているでしょう。

作中では、ショーケンや水谷豊が『BIGI』の服を着ていてオシャレだった。高校生の僕には高価で手が出なかったけれど、ボタンダウンのボタンをわざわざ外して『BIGI』っぽくエリを広げて着たりしていました。

井上堯之バンドの曲もかっこよくて、『太陽にほえろ!』とカップリングになったサントラ盤を買いましたよ」(前出・泉氏)

同作の脚本を担当していた柏原寛司氏が語る。

「名セリフを強いて挙げれば、舎弟の亨を演じた水谷豊さんが、萩原さんにくっついていくときに叫ぶ『兄貴ぃ~!』。『兄貴のブギ』というレコードが出るほど、流行りました。

名場面はそして、なんと言っても最終回。ペントハウスの前の屋上テラスに、ドラム缶の風呂があり、そこにショーケンが病気で死んだ亨を週刊誌の裸のグラビアと一緒に入れて弔う。

そして、そのまま大八車に積んで夢の島に捨てに行く。医者を呼ぶわけでも葬式をあげるわけでもなく捨てて逃げる。そんな社会を斜に構えて見ているところが最高でした」

岸田森が涙を誘う

このドラマでは、探偵事務所の長、岸田今日子やナンバー2の岸田森も忘れがたい。二人は邪悪な大人たちの見本を見事に演じた。

「作中でショーケンは偉そうなことを言っていても、岸田今日子の前になると何も言えなくなってしまう。彼女はそうさせる威厳をうまく表現していました」(前出・岡田氏)

「岸田森のインパクトは絶大でした。最後には、服従し慕っていた岸田今日子に捨てられる。涙を誘うシーンだったのを覚えています」(ドラマの歴史に詳しいライター・長月猛夫氏)

'70年代に学生時代を過ごした人なら、誰もが青春ドラマの洗礼を受けた。前出の泉氏が言う。

「なんとなく大学に行ってはいたけれど、ときには雀荘に行って時間を潰す。学生運動が衰退した'70年代中頃のノンポリ学生ムードが、『俺たちの旅』には上手く描かれていました。

主な登場人物は中村雅俊、秋野太作、田中健の3人組と女子学生役だった金沢碧。この頃は『モラトリアム』という言葉が流行していた時期。

中村雅俊が演じるカースケは就職も恋愛もなかなか答えを出せない。やさしいモラトリアム世代の若者を巧みに演じていました」

『前略おふくろ様』も若者たちにとってバイブルとも言える作品だった。

ショーケンが演じる主人公・三郎は、山形から集団就職で上京し、深川の料亭で働く。彼を中心に描かれる青春ドラマだ。

「上京する若者が増えていた時代、自分と重ね合わせていた視聴者が多かった。見ていて印象的だったのは、三郎の師匠である梅宮辰夫さんとの関係ですね。男が師匠を持つことの幸せが伝わってくるんですよ。

三郎が女将さんから口止めされていても、師匠に伝えたいことがあって、ポロッと言ってしまう。そうしたら、梅宮さんが『女将さんから言うなと言われて、お前は「はい」と答えたんだよな。

男が一度言わないと約束したら、たとえ相手が俺であっても、お前はそれを言っちゃいけない』って怒る。そのときのショーケンの顔が、いい。男としての生き方を教えてくれたドラマです」(前出・碓井氏)


前出の藤井氏も同作についてこう語る。

「海ちゃん役の桃井かおりさんが方言でコーヒーを注文するシーンがあり、『コーシー』と言うんですね。山形弁を使った『語り』のシーンも圧倒的だった。

やはり方言でないと、上京してきた人の人間性を表現できない。そういう考えが根底にあったのだと思います」

最終回、三郎は恋心をいだいていた同じ店で働く仲居・かすみ(坂口良子)と結ばれず、「前略おふくろ様。やっぱり俺は一緒にはなれません」と独白する。これに視聴者は涙した。

美しい松坂慶子のバニー姿

最後に'70年代のドラマヒロインを一気に振り返ろう。まずは、岡崎友紀。『おくさまは18歳』は最高視聴率が30%を超えた大ヒット作だ。

幼妻は岡崎演じる女子高生、夫は妻が通う高校の教師(石立鉄男)。だが、二人は夫婦であることを周囲には秘密にしている。

「ようし、人から後ろ指をさされないような、いい奥さんになってやるんだから」

そう腕まくりする岡崎が可愛らしかった。

『花は花よめ』は隠れた名作。とにかく主演の吉永小百合が可憐なのだ。

「売れっ子芸者から生花屋に嫁いでいきなり3児の母になる。当時まだ20代半ばの吉永小百合がフレッシュなんです。児玉清とのカップルがなんとも洒落ていました」(映画評論家・樋口尚文氏)

『俺たちは天使だ!』のヒロイン、多岐川裕美に中高生は夢中になった。

「探偵事務所を舞台に、主演の沖雅也を中心にした男たちの群れに、日本人離れした美貌と気品を持つ多岐川がマッチしていました。男どもを手玉に取るクールな態度に、当時の若者は憧れましたね」(前出・長月氏)

五木寛之氏原作ドラマ『水中花』では、松坂慶子が世の男性を魅了した。

「昼は速記者、夜はコーラスガール。黒網タイツのバニーガール姿の松坂は知性と色気を兼ね備えていました。その姿で『愛の水中花』を歌うシーンは最高に美しかった」(前出・桧山氏)

昭和の名ヒロイン、山口百恵を忘れるわけにはいかない。代表作「赤いシリーズ」の計10作品のなかでも、『赤い疑惑』が出世作である。

山口百恵演じる17歳の幸子は白血病を患うが、医学生・光夫(三浦友和)に励まされ、愛し合う。ところが、光夫は異母兄だった。死を悟った幸子は、光夫とともにヨットに乗り、沖へ出る。そして幸子は光夫に抱かれながら、落命する。

「私、何に生まれ変わるかな?花だったら何がいいかしら。そうだ、光夫さんの好きなわすれな草ね」

泣くなというほうが無理だ。ページ末のリストを見返すだけで、'70年代の思い出が蘇える。

(現代ビジネス 2019.03.24)




HTB「イチオシ!モーニング」、卒業!

2019年03月23日 | テレビ・ラジオ・メディア

 

 

 

 


読売新聞で、「2時間ドラマ枠の消滅」について解説

2019年03月23日 | メディアでのコメント・論評

 

長時間視聴減り 話題性低く 

民放 2時間ドラマ枠消滅

 

 「月曜名作劇場」は1989年に「月曜ドラマスペシャル」としてスタートし、枠名を変更しながら30年続いた。「十津川警部」「金田一耕助」などの人気シリーズがある。

2時間ドラマ枠の歴史は、テレビ朝日が77年に作った「土曜ワイド劇場」に始まる。84年には市原悦子主演の「家政婦は見た!」が視聴率30・9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録。各局も相次いで2時間ドラマ枠を作った。多くはミステリー作品で、長い放送時間は謎に一層の奥行きを与えた。また、舞台を温泉地などの観光地にし、その旅情でも人気を集めた。

 ◆動画配信の普及

それが変わったのは、「視聴者の生活で優先順位が変化し、じっくりテレビを見ることが少なくなった」からだと、上智大の碓井広義教授(メディア文化論)は指摘する。

かつてテレビは家族がお茶の間で囲むものだった。しかしスマートフォンの登場や、2010年代に広がった動画配信サービスなどで多種多様な動画がいつどこでも楽しめるようになると、テレビを長時間見続ける習慣がなくなっていった。碓井教授は「2時間ドラマ1本撮影するのに約4000万~5000万円かかる。CMスポンサーの確保には視聴率が重要で、2時間ドラマは費用対効果が悪くなった」と説明する。

 ◆広告収入の減少

動画配信サービスの普及に加え、テレビ局を取り巻く環境の変化を挙げるのは、NHK出身のメディアアナリスト鈴木祐司氏だ。近年、テレビ局の広告収入は大きく減っている。「有料オンデマンド事業や見逃し配信サービスでどれだけ稼ぐかが重要となったが、2時間ドラマは、連続ドラマと比べて話題になりにくい」と言う。連続ドラマは徐々に話題になり、それが見逃し配信の利用につながることがあるが、2時間ドラマにはない。

視聴者の中心が中高年であることの影響もあるようだ。現在は多くのテレビCMが、若い世代をメインターゲットにする。「経営が厳しくなる中、広告収入を上げるというテレビ局にとっての重要課題が根底にあるのではないか」と鈴木氏。

2時間ドラマの制作は制作会社が中心だ。長年にわたって様々な作品を手がけてきた制作会社のプロデューサーは、「制作費が全盛期と比べ数十%落ちた。質を落とさないよう歯を食いしばってきたが、いかに安く制作するかという発想にもなっていた」と明かす。脚本に書かれた場所とは別の近場でロケを済ませることもあったという。「作品がやせ、視聴者が離れるという悪循環になっていた」

とはいえ、2時間ドラマは多くの人々から愛されてきた。テレビ局が、今後どのような切り口で幅広い世代が楽しめるドラマを作るのか、注視していきたい。

(読売新聞 2019.03.22夕刊)


24日(日)のTBSレビューで、「下町ロケット」について話します

2019年03月23日 | メディアでのコメント・論評

秋沢淳子アナウンサー、田中里沙さんと


TBSレビュー

2019年3月24日(日) 
あさ5時40分〜6時00分


テーマ:
特集「下町ロケット〜エンターテインメント・ドラマの考察」


今回のTBSレビューは、昨年の10月〜12月にかけて、
さらいお正月に特別編として放送された
「下町ロケット」を取り上げます。

このドラマは
特に中高年男性の視聴者から指示されました。
「下町ロケット」が評価された理由を探り、
エンターテインメントドラマのあり方について考えます。


<出演>

宣伝会議 取締役編集局長 田中里沙さん
上智大学教授 碓井広義さん

キャスター:
秋沢淳子 (アナウンスセンター)


(番組サイトより)





HTB北海道テレビ「イチオシ!」、卒業!

2019年03月22日 | テレビ・ラジオ・メディア

 

 

 

 

 

 


週刊女性で、「平成中期」のドラマについて解説

2019年03月22日 | メディアでのコメント・論評


平成ドラマで増えた、
空気を読まない“強いヒロイン”と
“イケてない男”の背景にあるもの

恋愛ドラマにかわって、平成中期に頭角を現し始めたのは、女性のお仕事ドラマ。メディアに詳しい上智大学の碓井広義教授が、そのハシリとして挙げたのはフジテレビの『ショムニ』('98年〜'13年)。

強い女性ヒロインの台頭

「会社は、どうしても男社会。そんな中で、女性たちが言いたいけど言えなかった本音を、ズバッと言ってくれた爽快感。かつ、主人公はキラキラとした特別な人ではなく、日常の中に冒険やドラマがあることも見せてくれた作品です」

さらに『ナースのお仕事』('96年〜'14年)、『ごくせん』('02年〜'09年)、『anego』('05年)、『ハケンの品格』('07年)などで新たな流れが生まれていった。

「ちょっと荒唐無稽で空気を読まないけど、強い。そんなヒロインがウケ始めました。ひとつの理想像とされ“強い女の人っていいよね”という空気ができたのが、平成中期じゃないでしょうか?」(テレビ批評家でライターの吉田潮さん)

背景には女性の社会進出がある。

「女性が四六時中、恋愛のことを考えているわけではないのに、そういうドラマが多かったのは、制作現場が男社会だったからでしょう」(碓井教授)

「働く女性が圧倒的に増え、ドラマの作り手にも女性が増えました。彼女たちによって、ワーキングウーマンに喜ばれるお仕事ドラマがエンターテイメントとして根づいていきました」(同志社女子大学メディア創造学科の影山貴彦教授)

'97年以降は共働き世帯が専業主婦世帯数を逆転。

「昼間にドラマを見る人がいなくなり、'09年にTBSの『愛の劇場』が終了しました。ドラマはコストがかかるので、見合わなくなったんですね。時代劇も同様です」(テレビドラマに詳しいライターの田幸和歌子さん)

長引く不況の影響に、'08年のリーマン・ショックが追い打ちをかけて、制作費はダウン。作り手も攻められず、小説やマンガ原作のドラマが急増していく。

「企画会議での“原作は何百万部売れているから”は、説得力と安心感があるんですよね。原作はヒットしているわけだから、大コケはしない確率が高い。オリジナルドラマをゼロから作ることに比べれば労力も少なくてすむ。でも、テレビドラマの醍醐味はオリジナル脚本だと思うので、残念な風潮です」(碓井教授)

個性的なクリエイターらが活躍

ドラマの男性像も様変わり。イケてない主人公が増えていく。

「『電車男』('05年)は、ネット社会もうまく取り入れてヒットしましたね」(影山教授)

「『結婚できない男』('06年)は“結婚する・しない”が、男のほうにも問題があるという描き方がおもしろかった」(吉田さん、以下同)

さらに、平成中期の特徴として、ひときわ個性を放つクリエイターの活躍があった。

「やはり宮藤官九郎さんですね。『池袋ウエストゲートパーク』('00年)や『木更津キャッツアイ』('02年)とか。さらに『ケイゾク』('99年)や『TRICK』('00年〜'14年)などの堤幸彦監督も。ちょっとコミカルで、トリッキーで。『古畑任三郎』('94年〜'06年)などの三谷幸喜さんの存在はあったものの、平成中期にそんな新風が吹いた。つらい時代だから、みんな笑いたがっていた気がします」


《PRIFILE》
碓井広義教授 ◎上智大学文学部新聞学科教授。専門はメディア文化論。テレビマンユニオンに20年以上在籍。近著に倉本聰との共著『ドラマへの遺言』(新潮新書)

吉田潮さん ◎ライター、イラストレーター、テレビ批評家。主要番組はほぼ網羅している。『週刊女性PRIME』で『オンナアラート』を連載中

影山貴彦教授 ◎同志社女子大学メディア創造学科教授。毎日放送のプロデューサーを経て、現職。専門はメディアエンターテインメント論

田幸和歌子さん ◎テレビドラマに詳しいフリーライター。特にNHKの朝ドラへの造詣が深い。月刊誌、週刊誌、夕刊紙などで幅広く執筆している


(週刊女性PRIME 2019.03.22)




読売新聞で、「ピエール瀧容疑者と作品」についてコメント

2019年03月22日 | メディアでのコメント・論評

 

 

[解説スペシャル]

ピエール瀧容疑者逮捕 

作品にも「罪」問うべきか

 

◆配信・公開 割れる判断

俳優でミュージシャンのピエール瀧容疑者が、コカインを使用したとして麻薬取締法違反(使用)容疑で逮捕されたのを受け、出演作の撮り直しや配信停止などの措置が相次いでいる。犯罪をはじめ、出演者の不祥事により作品が影響を受ける事態に、制作者や識者から疑問の声も上がっている。

 ■「反社会的」

バイプレーヤーとして引っ張りだこだっただけに今回の逮捕後、テレビ各局、映画会社は、瀧容疑者の出演場面のカットや撮り直し、番組の差し替えなど対応に追われた。

瀧容疑者がレギュラー出演していたNHK大河ドラマ「いだてん」では、代役として三宅弘城さんを起用したが、波紋は過去の作品にまで及んでいる。放送後の番組をネット配信する有料動画サービス「NHKオンデマンド」は、同作の瀧容疑者出演回の配信(販売)を停止したほか、連続テレビ小説「あまちゃん」「とと姉ちゃん」など複数のドラマでも同様の対応を取ったのだ。

木田幸紀放送総局長は20日の定例記者会見で、「NHKは受信料で成り立っており、反社会的な行為を容認できない」と強調。容疑者段階での措置については「本人の認否、視聴者に与える影響などを総合的に判断した」と説明した。配信停止の解除は状況を見て、今後判断するという。

この点について、数多くのテレビ番組を手がけた元プロデューサーの碓井広義・上智大教授(メディア文化論)は「脇役の一人の行為によって作品を全部封印するのはどうかと思う」と疑問を投げかける。配信停止の根拠として木田総局長が「受信料」を持ち出した点には、逆に「受信料で制作した番組が見られないのは、それを払った多くの視聴者に大きな不利益を与える。視聴者への思いが欠けている」と批判する。

一方、瀧容疑者はテクノバンド「電気グルーヴ」の一員としても活動。同バンドのCDや、DVDなどの映像作品は出荷停止、店頭から回収され、配信も止められた。CDなどを発売するソニー・ミュージックレーベルズは「青少年などを対象としたビジネスを行っている企業の社会的責任を重視した」と説明する。

これに対し、音楽家の坂本龍一さんはツイッターで「ドラッグを使用した人間の作った音楽は聴きたくないという人は、ただ聴かなければいいだけなんだから。音楽に罪はない」と憂慮する。

■東映が一石

こうした声に呼応するかのように東映は20日、記者会見を開き、瀧容疑者の出演映画「麻雀放浪記2020」を予定通り4月5日に、出演場面もカットせずに公開すると発表した。

多田憲之社長は「(映画は)有料で、鑑賞の意思のあるお客が来場するので、テレビやCMとは違う」などと理由を説明。公開中止などの措置について「行き過ぎだなという印象を持っていた」とし、「マニュアル的にやることがいいか疑問」と問題提起した。

会見に同席した白石和彌監督も「作品そのものに罪はないのではないか。議論せずに、流れの中で決まっているかのように蓋をするのはおかしい」と述べた。

エンターテインメントの本場、米国では薬物のほか、最近はセクハラ行為への批判が厳しい。だが、ロサンゼルス在住の映画ジャーナリスト・吉川優子さんは「例えば、映画プロデューサーのハーベイ・ワインスタイン被告は、数十人の女性にセクハラを告発され、2人に対する性的暴行などの罪で起訴されたが、彼が手がけた作品が配信停止となることは原則なかった」と話す。

事実、米国資本の動画配信サービス「ネットフリックス」や「Amazonプライム・ビデオ」は、瀧容疑者が出演した映画「凶悪」や「怒り」などの作品の配信をこれまで通り続けている。ネットフリックスは「配信を続けることが、アーティストやクリエイターを守ることにつながる。クリエイターファーストの精神でグローバルに同様の対応を取っている」とコメントしている。

◆安易な自粛 疑問

強制性交罪で起訴された俳優の新井浩文被告が2月に同容疑で逮捕された際にも、主演映画「善悪の屑(くず)」は公開中止となり、NHKオンデマンドでは、出演した大河ドラマ「真田丸」などの配信が見合わされた。

瀧容疑者の逮捕について、映画監督でもあるタレントの松本人志さんは、17日のフジテレビ系の情報バラエティー番組「ワイドナショー」で、主役級の俳優が「薬物という作用を使ってあの素晴らしい演技はやっていたのかもしれないと思ったら、それはある種『ドーピング』。ドーピング作品になってしまうので、監督としては公開してほしくない」と発言。場合によっては、作品にも「罪」があるとした。

また、関西大の亀井克之教授(リスクマネジメント論)によると、こうした自粛は「企業イメージ上の危機管理。理にかなっており当然の措置」とする。企業側の論理としてやむをえない一面もあるというのだ。とはいえ、過去の作品の流通停止などは「過剰ではないか」とも話す。

自粛の流れは、娯楽産業に限らず、広く現代的な現象とみる専門家もいる。

佐藤卓己京都大教授(メディア史)は「あらかじめ不快なものを除き、面倒なことを避けようとする傾向」を指摘。「本来ならこうした事態に対応する内規を設けるのが適切だが、そうした議論が起こる機会も排除している。議論がないところに文化の成熟はない。複雑な判断を避けようとするのは、人間の思考を機械化するものだ」と警鐘を鳴らす。

作品に関わった一人の無責任な行為により、観客や利用者が作品全体に嫌悪感を催すのは理解できる。それに対して制作者らが配信停止など社会的責任を負うのは当然だ。とりわけ家庭に浸透した放送では、出演部分のカットなどは納得できる措置だ。

ただ、その上で、作品を楽しむ権利とどうバランスを取っていくか。業界全体で議論し、何らかの基準を作る必要もあるのではないか。◇文化部 大木隆士

(読売新聞 2019.03.22朝刊)


書評した本: みうらじゅん 『マイ遺品コレクション』

2019年03月22日 | 書評した本たち


週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。


情熱と愛情で築きあげた
半端ではないコレクションの数々

みうらじゅん 『マイ遺品コレクション』

文藝春秋 1404円

昨年の1月末から約2ヶ月間、川崎市市民ミュージアムで開催されたのが『みうらじゅんフェス!マイブームの全貌展』だ。本人の生誕60周年(還暦)記念も兼ねたこの催しは、それまでの軌跡を振り返ることのできる“生者の回顧展”だった。

特に目を引いたのは、やはりコレクションだ。他人は無関心でも自分が面白くて仕方ないモノを収集して楽しむ。みうらが「マイブーム」と呼ぶ、愛すべき珍品たちが美しくディスプレイされて並ぶ光景は壮観だった。

本書では、これまで集めてきた奇異なるコレクション群を、新たに「マイ遺品」と命名している。まさに「僕本人が僕のキュレーター」となって作成した遺品目録であり、本全体が「マイ遺品博物館」なのである。

たとえば「怪獣スクラップブック」の開始は小学1年生の時。映画『三大怪獣 地球最大の決戦』(1964年)に感動した少年は、怪獣写真が載った雑誌や新聞を集めまくる。しかし、そのまま残すにはあまりにかさ張るため、思いついたのがスクラップだ。ひたすら切り抜き、再編集し、スクラップ帳に貼り、4年生までに4巻を完成させた。この“見つけ次第、切って貼る”日常は、半世紀を過ぎた現在も変わらない。

他には、みうらが名づけた「ゆるキャラ」の非売品ぬいぐるみ。かつて子どもたちが女子を驚かせていた「ゴムヘビ」。全国各地の道路脇にひっそりと置かれた「飛び出し坊や」など、遺品は56種にも及ぶ。

注目すべきは、その過剰な情熱と愛情だ。“収集癖と発表癖”の為せるわざとは言え、費やす時間とエネルギーと(保管を含む)費用が半端ではない。単なるコレクターではなく、一旦好きになったものに帰依する修行僧のようなストイックさ、清々しさがそこにある。

マイ遺品は自分だけの極楽であり、三昧境(さんまいきょう)かもしれない。ならば本書はその悦楽への悪魔の誘い、いや、人生の遊び方を示す福音の書だ。

(週刊新潮 2019年3月14日号)





マイ遺品セレクション
みうらじゅん
文藝春秋