碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

映画の“世界観”と、つながったCM

2015年06月30日 | 「日経MJ」連載中のCMコラム



日経MJ(流通新聞)に連載しているコラム「CM裏表」。

今回の掲載分では、住友林業の「ずっと住みたくなる住まい」篇を取り上げました。

映画『海街diary』との、タイアップCMです。


住友林業 
家のコンセプト 映画とつながる

是枝裕和監督の新作映画『海街diary』は、鎌倉の古い家で暮らす姉妹の物語だ。しっかり者の長女(綾瀬はるか)、自由奔放な次女(長澤まさみ)、のんびりした三女(夏帆)、そこに腹違いの四女(広瀬すず)が加わる。

とはいえ、スクリーンには驚愕(きょうがく)の事件も、泣かせる難病も、気恥ずかしい大恋愛も登場しない。自分たちの居場所で積み重ねていく日常の豊かさを、静かなドラマとして描き切った秀作だ。終了後、「もっと見ていたい」と思わせる、心地よい物語的時間が流れている。

映画とのタイアップCMは珍しくないが、両者が自然につながったものは多くない。小津安二郎監督に通じる味わいを持つこの映画では、長い年月を経た家が、不在の父や母の代わりに娘たちを見守っている。帰る場所、ずっと居ていい場所としての家。それは商品のコンセプトと見事に重なるのだ。四姉妹が住む海街を、いつか訪ねてみたくなる。

(日経MJ 2015.06.29)

「元少年A」手記の出版に、大義名分はあるか?

2015年06月30日 | メディアでのコメント・論評



産経新聞に、神戸児童殺傷「元少年A」手記の出版に関する、特集記事が掲載されました。

この記事の中で、解説しています。



神戸児童殺傷「元少年A」手記
「息子は2度殺された」
土師淳君の父「遺族人権を侵害」

平成9年に起きた神戸市須磨区の連続児童殺傷事件の加害男性(32)が「元少年A」の作者名で出した手記 「絶歌」。

被害者の土師淳君=当時(11)=の父、守さん(59)が産経新聞の取材に応じ、 「今、改めて事件の内容を多くの人に伝える必要がどこにあるのか。 私たち遺族の心も傷つき、『息子は2度殺された』という思いだ」などと心情を話した。

加害男性からは、事件後毎年手紙が送られてきており、事件から18年となる今年5月にも、手紙が届いたばかりだった。

「手紙を読むことはつらい。それでも、私たちは子供に対する義務だと思い、手紙を読み、『事件のときのことをもっと知りたい』と声をあげてきた」

しかし守さんの思いは裏切られた。加害男性からも、出版社からも、何の連絡もないまま、突然手記が出版された。

「事件の詳しい状況や加害者の心境は遺族だけに伝えればいいこと。本を読むことで、事件を知らなかった多くの人が、 私の子供が残酷な殺され方をした事件のことを知る。私たちの心は傷つき、二次被害、三次被害を受ける」

「絶歌」を出版した太田出版(東京)は、発売後の17日にホームページ上で見解を発表、「少年犯罪を考える上で大きな 社会的意味があると考えた」と主張するが、守さんは「これほど特異な事件の内容を社会に知らせても、 普遍的な意味はない。売ることだけを考えている」と反論。抗議書を出し、回収を求めている。

事件後、守さんは「全国犯罪被害者の会(あすの会)」の活動などを通じて、少年犯罪の情報開示などを求めてきた。 しかし今回、加害男性が「元少年A」の作者名で本を出したことに、「32歳の責任ある成人男性が、 少年法の陰に隠れて匿名で本を出し、遺族を傷つける。卑怯(ひきょう)だ」とも憤る。

加害男性は医療少年院に約6年あまり入所し、その後更生したとして退院した。弁護士らのサポートチームが 支援を続けてきた-とされていたが、「絶歌」では、17年に支援から離れて暮らすようになった-との内容が 書かれている。こうした情報は手紙にはなかったという。守さんの不信感は募るばかりだ。「事件直後の心境に戻った。 本当に更生しているのなら、こういう本を書けるはずがない。更生にかかわった人たちの認識も甘い」と話す。

加害男性側は、関係者を通じて「絶歌」の出版後に改めて手紙と本を守さんに渡そうとしたが、 守さんは受け取らなかった。もとより「本を読む気はまったくない」という。

出版の自由、表現の自由との間での、取り扱いの難しさを問う声もあるが、守さんは「自由といっても、何をしてもいいということではないはず。被害者や遺族の人権は侵害されている。加害者の出版の権利を守るのではなく、被害者の人権を守ってほしい」と訴えている。

今回、地元の兵庫県の公立図書館が本を購入しなかったり、書店が取り扱いをしなかったりと、遺族へ配慮する動きも出始めている。兵庫県明石市の泉房穂市長は、市内の書店に配慮を求めた。こうした動きを守さんは「ありがたい」と評価しており、「一刻も早く回収してほしい。また犯罪の加害者が、自分の犯した犯罪のことを手記にして出版する、という行動も規制してほしい」と話している。

書店・図書館 対応分かれる

「絶歌」の取り扱いをめぐり、書店や公共図書館の対応が割れている。

関東を中心に展開する啓文堂書店(東京)は、当初から販売を自粛し、注文も受け付けていない。同店には100件を超すメールや電話が寄せられたが、対応を支持する声が圧倒的多数だったという。

大手書店チェーンの丸善ジュンク堂書店(東京)は一部店舗を除き販売を続けている。「本社で自主規制はしない。買うか買わないかはお客さんが判断すること」。ネット書店アマゾンでは「絶歌」は書籍総合の売れ筋ランキング1位(28日現在)。だが感想欄には「更生しているというのなら実名で自費出版すべきだ」といった非難も寄せられている。

一方、香川県まんのう町立図書館では現段階で購入を見合わせている。同館では「残酷な描写があることや被害者遺族の精神的苦痛などを考え合わせると、限られた予算の中での優先順位は限りなく低い」と説明する。

10館ある東京都新宿区立図書館では全体で1冊を購入予定。同区立中央図書館の藤牧功太郎館長は「ご遺族の心情に十分配慮しなければならないが、利用者の知る権利を妨げるわけにはいかない」と話す。通常の書籍と同様、開架に置いて貸し出しも行う。日本図書館協会の山本宏義副理事長は「図書館には市民への情報提供という基本的使命がある。その中で遺族の心情などを勘案し対応している」と理解を求めた。

「利益優先の印象強い」
碓井広義・上智大教授(メディア論)の話

「出版や表現の自由は何人にも保障されており、守られなければならない。ただ内容に関して倫理観や道徳心に照らしての判断は別個の問題だ。太田出版は『社会的意味がある』と大義名分を掲げているが、『完全自殺マニュアル』などこれまでの出版傾向を見ると、利益優先の印象が強い。出版は公共性のある事業であり、その良心が問われている」


「彼は厚生していない」
ノンフィクション作家の門田隆将氏の話

「一言で言えば無残な本。自身の心理の核心を全く書いていない。怒りを覚えたのは『この本を書く以外に、もう自分の生を掴み取る手段がありませんでした』という部分。快楽を求めて他人の命を絶ち切った人間が言うせりふではなく、究極の自己愛、自己中心主義だ。他者への憐憫の情が感じられず彼は反省も更生もしていないのだろう」

(産経新聞 2015.6.29)



自民党議員「マスコミを懲らしめる」発言と新聞

2015年06月29日 | テレビ・ラジオ・メディア
6月27日(土)の朝刊


「そういえば・・・」という感じで思い返すことって、ありますよね。

そういえば、先週27日(土)の朝、新聞各紙をパッと見た時のことです。

25日に、自民党の若手勉強会なる場所で、出席者たちから、報道機関に圧力をかけるような発言がありました。

「マスコミを懲らしめるには広告収入がなくなるのが一番。経団連に働きかけてほしい」とか。

これが国会議員の発言ですからね、何とも情けない。

安倍政権のメディア・コントロールへの執念は相当なものですが、今回は、それをあからさまに反映させた事例というか、馬脚を現した出来事というか。

とにかく、翌26日に、この件が明らかになりました。

で、そんなこんながあっての、27日の朝刊です。

朝日、毎日は、この件が一面トップでした。

「マスコミを懲らしめる」って話ですから、いわば当事者でもあり、当然といえば当然です。

ところが、読売新聞の一面には、どこを探しても、これに関する記事がありません。

一応、社説では取り上げていましたが、関連の記事が、ない。

これは、「そこまでするか」なのか、「そこまでしない(書かない)のか」なのかは分かりませんが、ちょっとビックリでした。

極端なことを言えば、読売新聞だけを読んでいる人にとっては、この“異論封じ”の如き発言も、無かったことになってしまう。

同時に、「マスコミを懲らしめる」や経団連ウンヌンは、テレビ、特に民放が随分ナメられているわけですが、“書かない”新聞もまた同様ではないかと思いました。

つい3紙を並べて、写真を撮ってみた次第です。

“平成の小津映画”と呼びたい秀作『海街diary』

2015年06月28日 | ビジネスジャーナル連載のメディア時評


ビジネスジャーナルに連載している、碓井広義「ひとことでは言えない」。

今回は、映画『海街diary』について書きました。


綾瀬はるかと広瀬すず、歴史に残る“美しさ”
映画『海街diary』にあふれる幸福感

テレビドキュメンタリーの優れた作り手だった是枝裕和が、『幻の光』で映画監督デビューしたのは1995年のことだ。あれから20年。そのキャリアには、『ワンダフルライフ』や『誰も知らない』など評価の高い作品が並ぶが、公開中の新作『海街diary』もまた是枝監督の代表作の一つになるだろう。

見終わって最初の感想は、「ずっと見続けていたい」だった。何より、この姉妹たちの日常をもっと見ていたかった。物語としての1年という時間経過と共に、彼女たちの中で何かが変わっていく。その繊細な移り変わりに立ち会う幸福感が、終了後も尾を引いていたのだ。

三姉妹が鎌倉にある古い家で暮している。しっかり者の長女・幸(綾瀬はるか)、縛られない性格の次女・佳乃(長澤まさみ)、のんびりした三女・千佳(夏帆)だ。父は15年前に家を出ていたし、母は再婚している。育ててくれた祖母もまた亡くなってしまった。

突然、父の訃報が届く。葬儀が行われた山形の小さな町で、3人は腹違いの妹・すず(広瀬すず)と出会う。病気になった父の世話をしてくれた、中学生のすず。実母は亡くなり、継母との関係はしっくりいっていない。三姉妹を「父が好きだった場所」に案内し、4人で風景を眺めるシーンが印象的だ。

駅での別れ際、幸が突然、「すずちゃん、鎌倉に来ない? 一緒に暮らさない? 4人で」と声をかける。このひと言で、物語が大きく動き出すのだ。是枝監督は、あるインタビューで「これは捨て子が捨て子を引き取る話だなと思った」と語っている。

捨て子とは強烈な言葉だが、実際、姉妹たちは父にも母にも捨てられたことになる。鎌倉の古くて大きな家で暮らすのは、欠けた人のいる家族、不在者のいる家族だったのだ。長女の幸は、年齢的なこともあり、不在の父や母へのわだかまりが強い。だが、それもまた、すずを受け容れることで変わっていくのだ。

思えば、小津安二郎監督の映画でも、何度か“不在の人”が描かれる。『父ありき』や『晩春』は母親が、『秋日和』では父親が不在だった。不在、つまり失われていることが、そのまま不幸ではないと感じさせるという意味で、小津作品と本作は重なるのかもしれない。

加えて、この映画における綾瀬はるかの佇まいが、小津作品で原節子が演じてきた女性たちを思わせる。凛とした美しさ。強さと優しさ。さらに、どこか自分を無理に律している切なさも似ている。本作に関してだけでも、是枝監督が平成の小津安二郎なら、綾瀬は平成の原節子である。

そしてもう一人、特筆すべきは広瀬すずだ。名前と役名が同じであることも偶然ではないと思わせる。それくらい作中のすずは瑞々しい。だが、成長していく少女ほど儚いものはない。だからこそ、今という時間にしか映しこめない輝きがここにあるのだ。桜並木のトンネルを自転車で走り抜けていくシーンなど、長く記憶に残る名場面と言うしかない。

すでにドラマやCMでたくさんのスポットを浴びている広瀬だが、この映画への起用はそれ以前に決まったことだ。是枝監督の慧眼、恐るべし。彼女を発見したことで、この作品の制作を決めたのではないかと想像したくなるほど、その存在感は際立っている。

この映画には驚愕の事件も、泣かせる難病も、気恥ずかしくなるような大恋愛もない。しかし、不在者をも包み込みながら、自分たちの居場所で積み重ねていく日常の豊かさを、静かなるドラマとして描き切った秀作である。是枝監督と四姉妹に拍手を送りたい。

(ビジネスジャーナル 2015.06.26)

【気まぐれ写真館】 車窓の夕景  2015.06.27

2015年06月28日 | 気まぐれ写真館

【気まぐれ写真館】 いつもの千歳市「柳ばし」で  2015.06.27

2015年06月28日 | 気まぐれ写真館
今回は「特製 トマトの煮込みハンバーグ定食」

【気まぐれ写真館】 札幌「北海道庁旧本庁舎」前  2015.06.27

2015年06月28日 | 気まぐれ写真館

【気まぐれ写真館】 HTB「イチオシ!モーニング」 2015.06.27

2015年06月28日 | 気まぐれ写真館
「イチオシ!モーニング」の面々


MCの愛里さんと依田アナ



野球解説の岩本さん



ファイターズガールの安念さん



岩本さんと五十幡アナ



今週の「木村愛里さん」

【気まぐれ写真館】 HTB北海道テレビ「イチオシ!」 2015.06.26

2015年06月27日 | 気まぐれ写真館
「イチオシ!祭り」のハッピを試着



MCの国井アナ、ヒロさん



ゲストは野球解説者の建山義紀さん



オクラホマ藤尾さん



今週の「国井美佐アナウンサー」

TBS「ドラマ枠」削減の行方

2015年06月26日 | メディアでのコメント・論評



日刊ゲンダイで、TBSの「ドラマ枠」削減について解説しました。

つぶすのは簡単かもしれませんが、復活させるのは至難の業となってしまうのがドラマです。


記事タイトル:
ついに伝統の「木21時」枠も店じまい
ドラマのTBS 瓦解寸前


・TBSは、この秋、「木曜21時」枠を、ドラマからバラエティーに変更するという。

・「水戸黄門」などを流していた「月曜20時」枠に続いく、ドラマ撤退だ。

・消滅の決め手は、直近3作となる「ヤメゴク」「美しき罠」「夫のカノジョ」の連続的低視聴率。


・・・・以下、私の解説部分です。

〝木9〟は71年10月以降、良質な作品を量産してきた。

上智大教授(メディア論)の碓井広義氏が「ドラマのTBSを支えた伝統的な枠のひとつ」と話すように、代表格は「3年B組金八先生」「渡る世間は鬼ばかり」「HOTEL」など。

いずれも長年にわたってお茶の間の笑いと涙を誘い、学園もの、家族ものに金字塔を打ち立ててきた枠にもかかわらず、放棄するとは一体、TBSはどうしたのか。

「直近3作品を見る限り、企画そのものの失敗といわざるを得ない。いずれも共感できる登場人物がひとりもおらず、流行りの事象や話題を取り上げただけ、目先の受け狙いに終始した印象で、ターゲットとする視聴者像が見えてきませんでした。基本的に、ヒットするドラマは物語自体が文句なしに面白く、世代や性別を問わず支持されます。同枠の制作陣は果たして、自分たちが本当に作りたい、面白いと思う作品を手がけていたのか。たしかにドラマ冬の時代と久しくいわれ、厳しい状況ではありますが、視聴率低迷=ドラマ全体が衰退していると捉えるのは早計。視聴者の目が肥え、駄作が淘汰されるようになったのです。今後、制作のチャンスが減ることでTBSのドラマ制作の力が痩せ細らないことを願うばかりです」(前出=碓井氏)

深夜帯にドラマ枠を新設するというが、夜更けとプライムは別物だ。「ドラマのTBS」という看板はなかなか元に戻らない。

(日刊ゲンダイ 2015.06.25)

「天皇の料理番」と「Dr.倫太郎」の差異とは!?

2015年06月25日 | メディアでのコメント・論評


発売中の「週刊現代」最新号に、今期ドラマ2本に関する記事が掲載されました。

この中で、コメントしています。


記事タイトル:
ドラマ視聴率に異変あり
「天皇の料理番」がウケて、「Dr.倫太郎」がコケた訳


2本のドラマについて、私のコメント部分は、以下の通りです。

記事全体は、本誌をご覧ください。


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『Dr.倫太郎』は『ドクターX』のような一話完結のわかりやすさがなかったと指摘する声が多い。

上智大学教授でメディア論を専門とする碓井広義氏が言う。

「『ドクターX』の主人公・大門未知子(米倉涼子)は外科医でした。だから毎回、難手術を成功させることによって、見せ場も作りやすかった。一方で、今回堺さんが演じた精神科医の治療は長丁場で、結果がすぐには出ないもの。患者さんの話をじっくり聞き続けるシーンが多くなり、ドラマチックな展開にするのが難しく、カタルシスもなかった」


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どうすれば数字が取れるのか、テレビの作り手たちは正解を見失っている。そんな中で今クール唯一、高評価を得たドラマがある。佐藤健主演の『天皇の料理番』(TBS系)だ。直近の視聴率は15・3%と後半に入ってどんどん数字を伸ばしている。前評判はそれほど高くなかったドラマが、実際に放送を見て、評価を上げることがある。

なぜ、このドラマはウケたのだろうか。『Dr.倫太郎』と比べて「題材が圧倒的に面白い」という声が多数、挙がった。

「主演の佐藤健さんが演じる篤蔵は、天皇陛下の料理番なので、立派で畏れ多い人物なのかと思いきや、破天荒なキャラクター。決して品行方正ではない。でもそれがかえって身近に感じます。伸び伸びとした佐藤さんの演技は、観ていて気持ちがいい」(前出の碓井氏)

脇を固める俳優陣も篤蔵の妻を演じた黒木華を筆頭に、小林薫や武田鉄也、杉本哲太、美保純など、渋い役者がうまく噛み合っている。

(週刊現代 2015.07.04号)


【気まぐれ写真館】 梅雨の青空 2015.06.24

2015年06月25日 | 気まぐれ写真館

見応えあり、桂米朝師匠のドキュメンタリー

2015年06月24日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評



日刊ゲンダイに連載している「TV見るべきものは!!」。

今回は、桂米朝師匠のドキュメンタリーを取り上げました。


ETV特集
「洒落(しゃれ)が生命(いのち)
~桂米朝 「上方落語」復活の軌跡~」

「落語は現世肯定の芸であります」
の言葉が印象に残った

今年3月、桂米朝が亡くなった。上方落語だけでなく、落語という文化そのものを支え、発展させてきた功労者だ。この番組は、師匠の歩みを辿る人物ドキュメントであると同時に、上方落語への案内状でもある。

神主の息子に生まれがら、子供の頃からの落語好き。昭和20年に19歳で召集されるが、病気で入院。傷病兵たちの前で語った一席で、「笑いだけでなく、生きる力を与える」落語の凄さを再認識する。戦後、桂米團治に弟子入りしてからの活躍は言うまでもない。

また、師匠が続けてきた地道な取り組みに驚く。先輩の落語家たちを訪ね、古い埋もれた噺を掘り起こしていったのだ。

たとえば「天狗さし」。天狗を捕まえ、すき焼きならぬ「天狗すき」を作ろうという話だ。その中に登場する、「念仏ざし」という言葉の意味を探し続けるエピソードに、その人柄がよく表れていた。

番組で師匠について語る人たちも、大西信行、矢野誠一、筒井康隆、山折哲雄など錚々たる顔ぶれだ。

中でも矢野の“東京進出”の回想は貴重。大ネタ「地獄八景亡者戯(じごくばっけいもうじゃのたわむれ)」に度肝を抜かれた、41歳の立川談志の姿が浮かんでくる。

噺の発掘だけでなく、新しい話芸を作ること、後進を育てることにも努めた桂米朝。「落語は現世肯定の芸であります」の言葉が印象に残った。

(日刊ゲンダイ 2015.06.23)


碓井広義ブログ「550万アクセス」に感謝です!

2015年06月23日 | テレビ・ラジオ・メディア

8月の公開が楽しみな、映画『テッド2』


おかげさまで、昨日、このブログの「総アクセス数」が、550万を超えました。

日々、たくさんの皆さんに見ていただいていることに、あらためて感謝いたします。

本当に、ありがとうございます!

これからも、テレビを中心としたメディアについて、本や活字について、また映画や映像についてなど、あれやこれやと書いていきますので、どうぞよろしくお願いいたします!

第52回ギャラクシー賞「CM部門」受賞作を解説

2015年06月22日 | ビジネスジャーナル連載のメディア時評



ビジネスジャーナルに連載しているメディア時評、碓井広義「ひとことでは言えない」。

今回は、選奨委員を務めているギャラクシー賞「CM部門」の受賞作について書きました。


何が綾野剛を“励ました”のか!?

放送批評懇談会が主催する「ギャラクシー賞」。毎年4月1日から翌年3月31日を審査対象期間として、年間の賞を選び出している。今月2日に第52回ギャラクシー賞の贈賞式が行われ、テレビ、ラジオ、CM、報道活動の各部門の大賞、優秀賞などが発表された。

筆者はそのCM部門の選奨委員を務めている。毎月、CM委員会が開催され、委員たちが注目するCMを挙げ、全員で意見交換を行う。これを1年間続け、最終的に「今年の1本」を決めていく。全体として膨大な量のCMの中から受賞作を選ぶことは、大変で面白く、また難しくて楽しい作業だ。

今年もまた、時代や社会の実相を映し出しながら、コマーシャルとしての役割もしっかり果たした秀作にスポットが当たった。


<大賞>

●東海テレビ放送 公共キャンペーン・スポット「震災から3年~伝えつづける~」

東日本大震災を伝え続けているのは地元局だけではない。被災地のメディアではないからこそ、何を、いかに伝えるかに悩みつつ、でも決して手を止めていない。

2011年3月11日に起きた大災害。だが、時間の経過と共に、被災地以外に住む人たちの関心や記憶が薄れてきている。その一方で、「忘れてはいけない」という思いから、今も被災者への取材を続ける記者たちがいる。もちろん、それ自体はジャーナリズムの使命として、当たり前に見えるかもしれない。

しかし、実は記者たちも、被災者に対する微妙な取材に、迷ったり悩んだりしている。そんな葛藤する姿を伝えることで、地に足のついた、リアルな公共キャンペーンとなったのが本作だ。「記者は、忘れかけていた。取材される側の気持ちを」というコピーは、視聴者の気持ちも揺り動かした。


<優秀賞>

●インテリジェンス DODA シリーズ「チャップリン×綾野剛篇」「キング牧師×綾野剛篇」

その演説は映画「独裁者」の終盤に置かれている。約3分半のワンカットだ。 ファシズムの国の独裁者と間違われた床屋(チャップリン)が、兵士たちに向かって呼びかける。「君たちは機械ではない。家畜でもない。人間なんだ!」と。

CMには現在の仕事と将来に迷いを抱えた青年(綾野剛)が登場する。鏡に映る自分を見つめた時、チャップリンの声が彼を励ます。 「君たちには力がある。人生を自由で美しく、素晴らしい冒険に変える力が!」。

「キング牧師」編も、「友よ。今こそ、夢を見よう」で始まるメッセージが強烈なインパクトで迫ってくる。姿こそ見えないが、肉声の背後にある彼らの思想と行動、つまり生き方を想起するからだ。


●TOTO NEOREST ネオレスト「菌の親子篇」

悩める人々に福音をもたらした世紀の発明品、温水洗浄トイレ。1982年の登場以来、ひたすら進化を続け、新製品では見えない汚れや菌を分解・除菌し、その発生さえ抑制するという。

その性能を伝えるために、トイレに生息する「菌の親子」、ビッグベンとリトルベンを登場させた設定が秀逸だ。画面の基調となる白に、2人の黒いコスチュームが美しいコントラストを見せる。

また何より、除菌水の威力を嘆く息子菌(寺田心)がカワイイ。リトルベンの「悲しくなるほど清潔だね」のせりふに、つい微笑んでしまう。美しさと愛らしさ、そしてユーモアの勝利である。


●日清食品ホールディングス カップヌードル シリーズ「現代のサムライ篇」「壁ドン篇」

このシリーズ、ダチョウ倶楽部が出演した「本音と建前編」もそうだったが、外国人の目で見たニッポンが新鮮で面白い。

マンガやアイドルに入れ込む日本の若者たちの姿を見せることで、日本人の創造性やオリジナリティを再認識させてくれる。特に、サムライやフジヤマといった、日本のイメージのステレオタイプを逆手にとった発想と表現が見事だ。

「この国の若者は、アイドルとヌードルが好きです」のナレーションも、エネルギッシュな音楽も、ピタリと決まっている。


<選奨>

●NTTドコモ スマートライフ「親子のキャッチボール篇」

●住友生命保険 企業「dear my family2015」

●東京ガス 企業「家族の絆 母とは」

●トヨタマーケティングジャパン TOYOTA NEXT ONE シリーズ「THE WORLD IS ONE.」

●パナソニック エボルタ「エボルタ廃線1日復活チャレンジ」

●フルスロットルズ ドレスマックス「奥さまは花嫁」

●三井不動産リアルティ 三井のリハウス「みんなの声鉛筆」シリーズ「もう一度都心へ」「同居?or近居?」「友達と住まい」

●ユニフルーティージャパン チキータバナナ「BANANART ANIMATION」

●琉球放送 歩くーぽん シリーズ「フォアボール篇」「外野フライ篇」「1塁にて篇」


(ビジネスジャーナル 2015.06.22)