碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

【気まぐれ写真館】 「戸越銀座」散歩

2023年03月31日 | 気まぐれ写真館

歩けば長~い「戸越銀座商店街」

商店街のマスコットキャラクター

「戸越銀次郎(通称ぎんちゃん)」

東急電鉄池上線「戸越銀座駅」


「ペルソナの密告」圧巻の演技だった竹内涼真

2023年03月30日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

竹内涼真が

「ペルソナの密告」で圧巻の演技

3つの人格を口調や目つきの変化で表現

 

先週の24日夜、ドラマスペシャル「ペルソナの密告3つの顔をもつ容疑者」(テレビ東京系)が放送された。

元刑事の獅子舞亘(沢村一樹)は、派遣の仕事をしながら一人娘と暮らしていた。

ところが近所で連続誘拐事件が発生。被疑者の元村周太(竹内涼真)から呼び出される形で捜査に協力することになる。

しかも元村は複数の人格を持つ解離性同一性障害(DID)だった。かつては「多重人格」と呼ばれていた症例だ。

7年前、獅子舞の妻(矢田亜希子)は何者かに殺害されており、それをきっかけに退職した。元村もまた幼少時から不幸の連続だった。

そんな元刑事と容疑者が一緒に事件を追うという設定が異色で飽きさせない。

沢村はひょうひょうとしていながら肝のすわった元刑事が似合っていたが、演技賞モノだったのは竹内だ。

元村の中には周太本人、数字の天才・カブト、そして凶暴なバクと3つの人格がいる。

言うこともやることもバラバラで、突然誰が表に出てくるのか分からない。その都度、口調も動作も目つきも一変させていく竹内の演技が圧巻だった。

タイトルの「ペルソナ」とは仮面であり、心理学でいう「人間の外的側面」だ。ある時、獅子舞が言う。「人は誰だって、いくつもの顔を使って生きている」と。

そうしなければ生きられない人間の業(ごう)に迫る、見事な展開の一本だった。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2023.03.29)


【気まぐれ写真館】 こぶしの花、満開。

2023年03月29日 | 気まぐれ写真館

 


auのCM「新人さんのあまのじゃ子」篇は、未知との遭遇

2023年03月28日 | 「日経MJ」連載中のCMコラム

 

 

未知との遭遇、自由人もタジタジ

KDDI au応援割

「新人さんのあまのじゃ子」篇

 

KDDIのau三太郎シリーズ「新人さんのあまのじゃ子」篇で、強烈なキャラクターが登場した。

舞台は竜宮城。桃太郎(松田翔太さん)と浦島太郎(桐谷健太さん)に、乙姫(菜々緒さん)が新人のあまのじゃ子(あのさん)を引き合わせる。

2人は「俺たちは英雄の…」と自己紹介するが、あまのじゃ子は「英雄ってそんなに偉いんですか?」と軽くいなし、「生きてるだけで偉くないですか?」と突っ込んできた。

慌てた乙姫が「2人に会えるの楽しみにしてたのよ~」とフォローするも、「してないです」とニベもない。

「若いね~」と苦笑いの2人に、「若いでまとめないでください!」と追い打ちをかける。

いやはや、これは只者ではない。桃太郎も浦島太郎も常識に縛られない自由人だ。そんな彼らをタジタジとさせる新世代の出現。

理解不能な相手を、つい「年齢」でくくろうとした桃太郎たちの困惑が伝わってくる。

しかし、未知との遭遇は新たな世界観や価値観との出会いだ。揺さぶられる自分を楽しみながら向き合ってみたい。

(日経MJ「CM裏表」2023.03.27)

 


言葉の備忘録327 人生は・・・

2023年03月27日 | 言葉の備忘録

チロルチョコ「しろくまちゃんのほっとけーき」

 

 

 

人生は心一つの置きどころ。

 

 

中村天風『運命を拓く』

 

 

 


佳作ドラマ「リバーサルオーケストラ」音楽と音楽家への敬意ふんだん

2023年03月26日 | 「毎日新聞」連載中のテレビ評

 

 

<週刊テレビ評>

佳作ドラマ「リバーサルオーケストラ」 

音楽と音楽家への敬意ふんだん

 

桜が咲き、冬ドラマにも幕が下りた。印象に残った作品を振り返ってみたい。

まず、「ブラッシュアップライフ」(日本テレビ系)というドラマ史に残りそうな傑作が生まれたことに拍手だ。何度も生き直すヒロイン(安藤サクラ)を通じ、「一度きりの人生」のいとおしさを伝えたバカリズムの脚本が見事だった。

今期は「星降る夜に」(テレビ朝日系)の大石静、「夕暮れに、手をつなぐ」(TBS系)の北川悦吏子といったベテラン脚本家が登板した。だが両作とも強い吸引力があったとはいえない。

「星降る」の産婦人科医(吉高由里子)と聴覚を持たない遺品整理士(北村匠海)。「夕暮れ」でファッションデザイナーとなるヒロイン(広瀬すず)と音楽家の青年(永瀬廉)。

彼らは物語の中での実体化が不十分で、恋愛も仕事も脚本家の「都合」だけで動かされているように見えたのが残念だ。

一方、意外な佳作もあった。久しぶりに登場した音楽ドラマ「リバーサルオーケストラ」(日本テレビ系)だ。リハーサルならぬ「リバーサル」とは逆転や反転を意味する。

元天才バイオリニスト・谷岡初音(門脇麦)が、優秀だが毒舌家の指揮者・常葉朝陽(田中圭)と共に地方の崖っぷちオーケストラを再生する物語だった。

脚本はNHK朝ドラ「エール」や吉高主演「最愛」(TBS系)などを手掛けた清水友佳子だ。

初音には、自分の演奏活動が家族に犠牲を強いていると思い込み、表舞台から消えた過去がある。欧州で活躍していた朝陽は、市長の父(生瀬勝久)から強引に地元オーケストラの再建を任される。

門脇と田中が、硬軟自在の演技でそんな訳アリの2人を造形していた。

しかも、ヒロインがバイオリニストとして復活することだけでなく、地方オーケストラという集団とメンバーたちの“生きる道”を探るストーリーになっている点が秀逸だった。

さらに注目したいのは、このドラマがクラシック音楽を大切に扱っていることだ。

音楽担当としてNHKEテレ「クラシックTV」などに出演のピアニスト、清塚信也が参加しており、クラシックファン以外の視聴者も親しめる作りになっていた。

またドラマの中の児玉交響楽団の演奏は、神奈川フィルハーモニー管弦楽団によるものだ。

初音が初めて楽団と一緒に演奏したロッシーニ「ウィリアム・テル」序曲から、最終回でのチャイコフスキー「交響曲第5番」まで、十分な聴き応えがあった。

全体として作り手側の「音楽と音楽家への敬意」が感じられたことを高く評価したい。

(毎日新聞 2023.03.25夕刊)


【旧書回想】  2021年6月後期の書評から 

2023年03月25日 | 書評した本たち

 

 

【旧書回想】 

「週刊新潮」に寄稿した

20216月後期の書評から

 

 

山折哲雄『生老病死』

KADOKAWA 1540円

宗教研究の泰斗である著者は、この5月に卒寿(90歳)を迎えた。本書は2018年から昨年まで新聞に連載したエッセイ集だ。日本人の「死生観」を軸に生老病死を考えている。こころ、美、先祖などのテーマで語っているが、強く印象に残るのが「涅槃願望」だ。ある状況を迎えたら世俗的な絆を断ち切り、自分の人生に幕を引く往生への希求を指す。著者自身が望む「断食による最期」も実に興味深い。(2021.05.19発行)

 

水口素子『酒と作家と銀座~老舗文壇バーのママが見てきた』

大和書房 1870円

OLだった著者が、銀座の文壇バー「眉」でデビューしたのは1978年。5年後に独立して開いたのが「ザボン」だ。命名は丸谷才一。新田次郎や星新一などの作家だけでなく、出版社の編集長や財界人にも愛される店となった。本書で語られる自身と店の43年は、そのまま「銀座という文化」の歴史だ。丸谷はもちろん、著者が親しんだ野坂昭如、半藤一利、西部邁といった人々の素顔が微笑ましい。(2021.05.25発行)

 

片岡義男『いつも来る女の人』

左右社 1980円

不思議な味わいの小説集である。並んだ8篇に共通する主題が、「小説を書く」なのだ。翻訳家の女性がある日、小説を書こうと決意する「イツモクルオンナノヒト」。ライターの女性が、編集者との会話から生まれた物語の断片をノートに記していく「ただそれだけ」。まだ書かれていないはずの小説を読んでいるような戸惑いと、確かに小説世界が構築されていく快感がある。これも片岡マジックだ。(2021.05.28発行)

 

佐久間文子『ツボちゃんの話~夫・坪内祐三』

新潮社 1870円

坪内祐三が亡くなって1年半。再会したような思いがする回想記だ。ここには著者だけが知る坪内がいる。「みだりに悲観せず、楽観もせず」という広津和郎の言葉を好んだ坪内。妻とのけんかでは「がまんして。もうすぐ死ぬから」。そして時折「神様はいる」と口にした。元妻との不思議な関係も、著者がどう感じていたのかも明かされる。一緒にいて「退屈することがなかった」は最高の賛辞だ。(2021.05.25発行)

 

猿渡由紀『ウディ・アレン追放』

文藝春秋 1760円

世界的巨匠であるウディ・アレン。30年前、恋人ミア・ファローの養女に対する性的虐待容疑で捜査を受けた。無罪となったその出来事が、近年の「#Me Too」運動の影響で再浮上。監督生命の危機に陥ってしまう。しかも弓を引いたのはウディとミアの実子だった。本書は在米30年の映画ジャーナリストが、関係者の証言や記録を丹念に検証し、闘争劇の歴史と愛憎劇の深層に迫る力作ノンフィクションだ。(2021.06.⒑発行)

 

塩見三省『歌うように伝えたい~人生を中断した私の再生と希望』

角川春樹事務所 1870円

著者は北野武監督『アウトレイジ』シリーズなどで知られる名バイプレーヤーだ。66歳だった7年前、突然の脳出血に襲われる。入院は5ヶ月に及び、退院後も後遺症と戦うことになるが、2016年にドラマで復帰を果たした。本書は書き下ろしの闘病エッセイ集だ。強烈な絶望感。回復への意志。厳しいリハビリ。そして再び現場に立てた喜び。率直に綴られた心の軌跡は、多くの人への励ましとなる。(2021.06.18発行)


【旧書回想】  2021年6月前期の書評から 

2023年03月24日 | 書評した本たち

 

 

【旧書回想】

「週刊新潮」に寄稿した

20216月前期の書評から

 

 

尾脇秀和『氏名の誕生~江戸時代の名前はなぜ消えたのか』

ちくま新書 1034円

大人しい書名に騙されてはいけない。「氏名」の形と在り方を探ることで、江戸から明治にかけての歴史が思わぬ相貌を見せてくれる。たとえば江戸時代の「名字」は、現代の「氏名」の「氏」ではない。そもそも名前に関する「常識」が全く異なるのだ。「文化」の違いと言ってもいい。それを変えたのが維新であり、明治の新政府だ。国民管理のツールとしての「氏名」は現代にまで繋がっている。(2021.04.10発行)

                                                      

風間賢二『スティーヴン・キング論集成~アメリカの悪夢と超現実的光景』

青土社 3740円

「ホラーの帝王」にして世界的ベストセラー作家、スティーヴン・キング。その作品を40年にわたって読み継ぎ、論評してきたのが著者だ。経歴と主要作品の軌跡を追い、作品世界を徹底考察。キングの強みは巧みなストーリー展開、リアルなキャラクター、そして陰影に富む人間ドラマだと指摘する。しかも常に「今日的な恐怖」を創造してきた。長編デビュー作『キャリー』から再読したくなる。(2021.05.20発行)

 

花岡敬太郎『ウルトラマンの「正義」とは何か』

青弓社 2640円

放送から半世紀以上が過ぎても色あせないヒーロー。気鋭の研究者による最新の「ウルトラマン論」だ。著者は怪獣や宇宙人を「非日常からの来訪者」と捉え、物語の多彩さに注目する。来訪者たちの性格によって、為される「正義」の描き方も変化していると言うのだ。関係者への聞き取りや、合わせ鏡としての「仮面ライダー論」も駆使しながら、「テレビで物語を紡ぐこと」の意味に迫っていく。(2021.05.26発行)

 

志川節子『博覧男爵』

祥伝社 1980円

若き日の渋沢栄一も使節団の一員として赴いた、1867年のパリ万国博覧会。この時、幕府が出品した昆虫標本の製作を行い、パリに出張したのが田中芳男だ。その後、明治政府の殖産興業政策と深く関わり、日本初の近代的博物館となる東京国立博物館や上野動物園の創設に尽力する。武力ではなく、文化の力による文明国を目指した「博物館の父」の奮闘を描く、ノンフィクションノベルだ。(2021.05.20発行)

 

武田砂鉄『偉い人ほどすぐ逃げる』

文藝春秋 1760円

雑誌『文学界』に連載中のコラム「時事殺し」。過去5年分から選んだ文章を、時系列ではなくテーマ別に構成したのが本書だ。一読すると、確かに「偉い人」たちは常に逃げ続けていることが分かる。また「偉い人を守ると偉くなれる」現実や、自分たちが「まだ偉いと思っている」メディアの無責任ぶりも見えてくる。忘却は人間の特技だが、忘れてはならない悪事や持続すべき怒りがあると知る。(2021.05.25発行)

 

善本喜一郎『東京タイムスリップ 1984⇔2021』

河出書房新社 2603円

新宿や渋谷など東京の街角を撮った写真が並ぶ。見開きの左ページが1980年代、右が2020年以降。「同位置・同角度」からの写真は、一種の定点観測だ。そこに「あった風景」が消えて、「なかった風景」が今、そこにある。一方、「変わらない風景」が残っていることで、逆に時の流れを感じたりもする不思議なタイムスリップだ。桑原甲子雄、森山大道、荒木経惟などに連なる〝東京写真〟である。(2021.05.30発行)

 


【気まぐれ写真館】「さくら散歩」神楽坂から九段下

2023年03月23日 | 気まぐれ写真館

神楽坂界隈

千鳥ヶ淵

靖国神社

2023.03.23

 

 


【書評した本】 『どんがら トヨタエンジニアの反骨』

2023年03月23日 | 書評した本たち

 

 

「組織を使って仕事をする」

 大企業のサムライたちの背中

 

 清武英利

『どんがら トヨタエンジニアの反骨』

 講談社 1980円

 

スポーツカーの魅力とは何か。様々な意見があるだろうが、運動性能とデザイン性は外せない。低重心や絶妙な重量バランスが生み出す軽快な動き。セダンやワゴンとは一線を画す独特の美しさ。走る楽しみを追求したのがスポーツカーだ。

本書はスポーツカーの開発に挑んだエンジニアたちを描くノンフィションである。舞台は世界屈指の自動車メーカー、トヨタ。2012年4月に発売された「トヨタ86(ハチロク)」の誕生秘話だ。書名の「どんがら」とはエンジンも座席もない、がらんどうの試作車を指す。

主人公はチーフエンジニアの多田哲哉だ。大のスポーツカー好きで、間もなく50歳になろうとしていた多田が、上司から「スポーツカーを作れ」と言われたのは07年1月。かつて「カローラレビン」などを手掛けていたトヨタだが、8年前の「MR-S」を最後に新しいスポーツカーを世に送り出していなかった。

ここから多田の人集めが始まる。その過程は黒澤明監督の映画『七人の侍』を思わせる。エンジンがわかる者、ボディの設計ができる者、サスペンションに詳しい者、さらに全体のカネと日程を管理する者などが必要だ。しかし、多くの部署が人材を供出することを渋った。

スポーツカーの開発は一千億円も投資する大事業だ。それでいて一般車のように大量に売れるものではない。どんなエンジンを使って、どんな車を作るのかが鍵となる。多田は最終的に富士重工(スバル)の水平対向エンジンを使ったFR車を選ぶ。FRとはフロントエンジン・リアドライブ。後輪駆動車はスポーツカーの代名詞だ。他社との協働も画期的なことであり、やがて完成した「86」は好調な売れ行きをみせた。

出世のために仕事をしない。はっきりとモノを言い、自説を通す。組織に使われるのではなく、組織を使って仕事をする。そんな男たちの背中に拍手を送りたくなってくる。

(週刊新潮 2023.03.16号)


【気まぐれ写真館】 さくら、サクラ、桜

2023年03月23日 | 気まぐれ写真館

2023.03.22

 


WBC、優勝!

2023年03月22日 | 日々雑感

 

 

WBC、優勝!

本当に優勝しちゃいました。

 

昨日の準決勝もすごかったけど、

今日も驚きの展開で。

 

大谷選手はじめ

全メンバーに

ありがとう!

 

おめでとう!

 

 


フライデーで、奈緒さんと新作ドラマについて解説

2023年03月22日 | メディアでのコメント・論評

 

 

奈緒

フジ春ドラマで

夫婦のタブーに切り込む 

 

早朝、下町の庶民的なスーパーマーケット。会計後の品物を、持参したエコバッグへ入れていくカップルの姿が。俳優の奈緒(28)と永山瑛太(40)である。ウォーキング中の高齢者、登校に急ぐ学生らも思わず足を止め、興味深そうに覗(のぞ)き込んでいる。

「フジテレビで4月からスタートするドラマ『あなたがしてくれなくても』のロケでしょう。はるの晴氏原作のコミックはセックスレスの問題に切り込み30~40代女性に圧倒的に支持されています。奈緒と瑛太はセックスレスに悩む夫婦を演じます」(制作会社関係者)

奈緒は昨年秋の『ファーストペンギン』(日本テレビ系)で GP 帯連ドラ初主演。荒くれ漁師たちを束ねるシングルマザー起業家を好演して評判となった。フジテレビの連ドラでは今回が初主演となる。

「奈緒さんは喜怒哀楽をストレートに表現する裏表のない役柄が似合う。しかし今回は、人に言えない悩みを抱える人妻の役。清純派の印象がある彼女の今までにない表情が見られるのでは」(メディア文化評論家・碓井広義氏)

撮影の合間には、笑顔を絶やさずスタッフらと談笑する奈緒。主演として現場を盛り上げ、ドラマも大ヒットとなるか!?

(フライデー 2023.03.31/04.07号)

 


【気まぐれ写真館】 さくら、ますます咲く。

2023年03月21日 | 気まぐれ写真館

 


【新刊書評】2022年11月後期の書評から

2023年03月20日 | 書評した本たち

 

 

【新刊書評2022】

週刊新潮に寄稿した

2022年11月後期の書評から

 

リタ・グリムズリー・ジョンスン:著、越智道雄:訳

『スヌーピーと生きる~チャールズ・M・シュルツ伝』

朝日新聞出版 2750円

スヌーピーやチャーリー・ブラウンの日常を描いた人気コミック『ピーナッツ』。作者であるシュルツの生誕100年を記念して、その評伝が新装版として蘇った。生涯の軌跡はもちろん、モデルを含めたキャラクター誕生の秘密も明かされる。また彼の創作力の源泉は何か。ジャーナリストの著者によれば、それは悲しみだという。抱え続ける寂寥感こそが、作品のユーモアやペーソスを生んでいるのだ。(2022.10.30発行)

 

有吉佐和子『有吉佐和子の本棚』

河出書房新社 2090円

向田邦子や開高健などに続く本棚シリーズの最新刊だ。高三の夏休みに百冊近い本を乱読した少女は、やがてベストセラー作家となる。女性の生き方、社会問題からミステリーまで多彩な作品世界を築いた。1984(昭和59)年に53歳で亡くなった有吉。本書には愛読した書籍だけでなく、発掘エッセイ、単行本未収録の日記や小説「六十六歳の初舞台」、さらにミュージカルの脚本も収められている。(2022.10.30発行)

 

矢羽々崇『日本の「第九」~合唱が社会を変える』

白水社 3080円

日本では毎年5万人以上が歌うという、ベートーヴェンの『交響曲第九番』。この通称「第九」は、どのようにして日本人に浸透し、現在のような市民参加型の合唱として広まったのか。戦前戦中から行われていた、私立学校での合唱教育。戦後は勤労者音楽協議会(労音)の活動の功績もある。本書は獨協大学ドイツ語学科教授の著者が、年末の風物詩のような音楽シーンのルーツを探った労作だ。(2022.11.05発行)

 

大岡 玲『一冊に名著一〇〇冊がギュッと詰まった凄い本』

日刊現代 1320円

本書の元になったのは、夕刊紙の連載「熟読乱読世相斬り」。一冊の本を通じてリアルタイムの世相を考える、読書クロニクルだ。「男というジェンダー」を検証する、山極寿一『ゴリラに学ぶ男らしさ』。「悪魔的イメージ」が一新される、池内紀『となりのカフカ』。「旅人」の視線を感じる、中島敦『山月記・李陵』。古今東西の名著を対象にした書評であり、時事批評でもある。確かに凄い本だ。(2022.10.21発行)

 

松本清張『任務~松本清張未刊行短篇集』

中央公論新社 2200円

これまで全集や単著に収められていない10作を選んだ短篇集だ。表題作の主人公は34歳で召集された衛生兵。兵隊の命より診療効率を重視する軍医が登場する。中隊付きの衛生兵として医務室勤務についた、清張自身の経歴が投影された作品だ。さらに現実の〈永仁の壺〉贋作事件をモデルにした「秘壺」。速記法創始者の伝記小説「電筆」など、清張の発想と技を堪能できる多彩な短篇が並んでいる。(2022.11.10発行)

 

大下英治『最後の無頼派作家 梶山季之』

さくら舎 2200円

『黒の試走車』『赤いダイヤ』などで知られる作家、梶山季之。1975年に45歳の若さで没している。本書は梶山を直接知る著者による書き下ろし評伝だ。梶山部隊と呼ばれた週刊誌の「トップ屋」時代。ホテルの一室を仕事場にした流行作家の怒濤の日々。やがて健康の不安を抱えながらも、韓国、原爆、日系移民という3つのテーマを投入した未完のライフワーク『積乱雲』へと向かっていく。(2022.11.13発行)