碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

書評した本: 『池波正太郎を“江戸地図”で歩く』ほか

2016年05月31日 | 書評した本たち



「週刊新潮」の書評欄に書いたのは、以下の本です。

壬生 篤 『池波正太郎を“江戸地図”で歩く』
誠文堂新光社 1,620円

「聖地巡礼」をご存知だろうか。いや、仏教の源流を訪ねてとか、サウジアラビアのメッカを目指すという話ではない。近年、映画やドラマ、漫画やアニメなどの舞台となった場所を訪れ、作品の世界にひたることを楽しむファンが増えた。それが、「聖地巡礼」と呼ばれている。

特にアニメには有名な聖地がいくつもある。『けいおん!』の主人公たちが通う女子高の建物のモデル、滋賀県の豊郷小学校。また、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』の舞台である埼玉県秩父市では、秩父神社などのスポットに若い巡礼者が絶えない。

池波正太郎の三大時代小説といえば、『鬼平犯科帳』『剣客商売』『仕掛人』を指す。本書は、古地図(切絵図)と現在の地図とを見比べながら、三作品に描かれた江戸の街を旅しようというものだ。いわば“大人の聖地巡礼”である。

たとえば、『鬼平』といえば本所だ。ここには軍鶏なべ屋「五鉄」がある。食べて飲むだけでなく、チーム鬼平の作戦会議を開いたりもする店だ。二階には鬼平を支える密偵の一人、相模の彦十も起居している。「竪川に架かる二ツ目橋の北詰」がその所在地だが、二ツ目橋は「二之橋」の名称で現在も存在している。

橋から少し南が弥勒寺で、その門前にあるのが茶店「笹や」だ。立ち寄った長谷川平蔵に憎まれ口をたたく、お熊婆さんの姿が目に浮かぶ。そうそう、本所には『剣客商売』の秋山小兵衛の囲碁仲間にして町医者の小川宗哲も住んでいるはずだ。

本書を読んでいくと、一つの場所で四つの風景が重なって見えてくる。作品に描かれた江戸、池波が少年時代に見た戦前、執筆していた戦後、そして現在の東京の風景だ。フィクションである小説だからこそ、よりリアルを求め、実際の街歩きを通じて体感した「場」の空気をも伝えようとした池波正太郎。江戸の街は、重要な脇役の一人だったのだ。


倉本聰 『見る前に跳んだ : 私の履歴書』
日本経済新聞出版社 1,728円

国民的ドラマ『北の国から』の放送開始から35年。草創期からテレビに関わった著者は、多くの名作を生み出し、81歳の現在も創作活動を続けている。幼少時代の思い出、怒涛のドラマ黄金時代、富良野塾、演劇、そして自然と環境までを縦横に語る自伝エッセイだ。


石原慎太郎 『男の粋な生き方』
幻冬舎 1,728円

酒、旅、発想、賭けなど、28のテーマで語り下ろした人生論。「贅沢とは所詮自己満足」といった明快さが特色だ。また長年の文学生活が生んだエピソードも興味深い。伊藤整と寄付。三島由紀夫とスポーツ。小林秀雄と鮨屋。粋というより意気軒昂な83歳だ。


松田賢弥 『政治家秘書 裏工作の証言』
さくら舎 1,620円

「政治とカネ」の問題が起きるたび、秘書の存在がクローズアップされる。一方の議員先生は秘書に責任を押しつけ、逃げるばかりだ。その構造は、数十年前から最近の甘利明・前TPP大臣まで変わらない。裏金工作、金脈一族、野望と裏切りの実像に迫る労作だ。

(週刊新潮 2016年5月26日号)

【気まぐれ写真館】 五月雨  2016.05.30

2016年05月31日 | 気まぐれ写真館

今週末の「講演」について

2016年05月30日 | テレビ・ラジオ・メディア



お知らせを1件。

今週末の6月5日(日)、私の故郷である長野県塩尻市の映画館「東座(あずまざ)」で、講演をさせていただきます。


<講演タイトルと概要>

「今、報道番組で何が起きているのか!?」

今年3月、NHKクローズアップ現代」の国谷裕子さん、 TBS「NEWS23」の岸井成格さん、 テレビ朝日「報道ステーション」の古館伊知郎さんと、3人の報道番組のキャスターが相次いで降板しました。それぞれ、政治的なテーマについても言うべきことは言う、そんな気概を持った人たちでした。何か圧力があって“辞めさせられたわけでない”と報じられてはいますが、“3人同時降板”というのは普通のこととは思えません。今、報道番組で何が起きているのか。“ジャーナリズムとしてのテレビ”について、皆さんと一緒に考えてみたいと思っています。



これは、映画「スポットライト 世紀のスクープ」の上映に合わせ、映画館主の合木こずえさんによって企画されたものです。

関心のある皆さんのご参加、どうぞよろしくお願いします。


6月5日(日) 13時30分~14時40分

講演自体は無料。
ただし午前11時、もしくは午後2時45分からの上映回のチケットが必要。(参加費は通常の入場料に含まれます)

<要予約> 0263-52-0515 東座




(信濃毎日新聞より)

今期“ジャニーズ系ドラマ”の楽しみ方

2016年05月30日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム



ドラマを見るのは好きだけど、「ジャニーズ系の人たちが主演」と聞くと、急に引いてしまう大人の男性視聴者がいます。でも、それって、ちょっとモッタイナイ。今期のドラマにも、大人のオトコが楽しめる“ジャニーズ系ドラマ”があるのです。

ポイントの第1は、主役が、演技においても実績のある「嵐」のメンバーたちであること。第2に、秀逸な脇役たちの存在。そして、ドラマを支える巧みなストーリー・テリングです。


大野智の『世界で一番難しい恋』(日本テレビ系)

嵐の大野智(35)といえば、すぐ思い浮かぶのが「怪物くん」。まさかの実写化でした。あの怪物くん(1960年代後半、「少年画報」で読んでいました)を、一体誰が演じられるのかと思っていたら、なんと大野がピタリとはまってしまった。びっくりだ。

あれから6年。その可愛げのある“とっちゃん坊や”ぶりを、いかんなく発揮しているのが「世界一難しい恋」である。大野は、チェーンホテルの御曹司にして社長というポジション。仕事の上では冷酷な判断も平気なヤリ手だが、恋愛に関しては、短気で、わがままで、ジコチューな、いわば子供っぽい性格が災いして、成就したことがなかった。

そんな若社長が新入社員の波瑠(24)に恋をした。ホテルの仕事に夢と意欲を持つ彼女。実は大野が最も好きな「正義感の塊で世話好きな学級委員みたいなタイプ」だった。波瑠も、はじめは大野の気持ちに戸惑うが、その素顔に少しずつひかれていく。

このドラマのスパイスとなっているのが、大野に対する”恋愛指南”だ。指南役の一人は社長秘書(小池栄子 35)であり、もう一人がライバルホテルの社長(北村一輝 46)である。特に、ある時は慈母のごとく慰め、またある時は姉のように励ます小池のキャラが立っている。「モテ男は優しさを求めません。与え続けるのです!」といった名言が並ぶのだ。

指南役たちのアドバイスにやや翻弄されながら、すねたり、ふてくされたりする大野がおかしい。波瑠との距離感や関係の微妙な変化も丁寧に描かれており、日本テレビの“お家芸”の一つ、良質のラブコメディーになっている。


松本潤の『99.9―刑事専門弁護士―』(TBS系)

香川照之(50)が出ている「日曜劇場」にはハズレがない。「半沢直樹」「ルーズヴェルト・ゲーム」「流星ワゴン」、そして今回の「99.9―刑事専門弁護士―」然りだ。

主役は嵐の松本潤(32)。飄々としていながら、とことん事件を追究する弁護士、深山大翔(みやま ひろと)を好演している。どんなに逆転するのが難しそうな案件であっても、「事実が知りたいんです」と言って、まったくひるまない。同僚弁護士の榮倉奈々(お得な役柄です)、パラリーガルのマギー(出てくるだけで和む)や片桐仁(毎回の怪演に拍手!)などの力を借りつつ、その真相に迫っていく。

香川が演じる佐田は、深山が所属する刑事専門ルームの室長だが、本来は企業弁護のエキスパートだ。元検事で、かなりの野心家。超マイペースで暴走気味の深山にブレーキをかけたり、時には手柄を横取りしたりする。ハラに一物も二物もあるこの男を、香川は緩急自在の芝居で造形していく。

しかもここ数週で、18年前の事件の再審請求にからんで、佐田の過去が浮かび上がってきた。宇田学のオリジナル脚本は、しっかりした伏線とその回収が毎回見事だが、ドラマの後半戦に入ってますます冴えている。松本潤と香川照之の本格的な演技勝負もこれからだ。

そうそう、佐田が唯一言いなりになってしまう、というか尻に敷かれ気味の年下妻役、映美くらら(元・宝塚月組トップ娘役)がいい味を出している。もしかしたら、ズバリ!“ポスト檀れい”の出現、かもしれません。

(Yahoo!ニュース個人 2016.05.29)


Yahoo!ニュース個人
「碓井広義のわからないことだらけ」
http://bylines.news.yahoo.co.jp/usuihiroyoshi/


【気まぐれ写真館】 いつもの千歳市「柳ばし」で・・・ 2016.05.28

2016年05月29日 | 気まぐれ写真館

生姜焼き&おとーさんの釣果・ヒラメのフライ

HTB「イチオシ!モーニング」どようび 2016.05.28

2016年05月29日 | テレビ・ラジオ・メディア















今週の「木村愛里さん」

【気まぐれ写真館】 札幌 本日も晴天  2016.05.28

2016年05月29日 | 気まぐれ写真館


【気まぐれ写真館】 HTB 西野 志海(もとみ)アナウンサーと

2016年05月28日 | 気まぐれ写真館
HTBの1階にある、通称「on(オン)ちゃんカフェ」で



HTB北海道テレビ「イチオシ!」 2016.05.27

2016年05月28日 | テレビ・ラジオ・メディア






今週の「国井美佐アナウンサー」

【気まぐれ写真館】 札幌は快晴  2016.05.27

2016年05月27日 | 気まぐれ写真館









【気まぐれ写真館】 羽田空港は雨  2016.05.27

2016年05月27日 | 気まぐれ写真館

週刊新潮で、「日本初のネット限定制作発表」についてコメント

2016年05月27日 | メディアでのコメント・論評



大看板「月9」の制作発表を
ネット配信した「フジテレビ」大迷走

かつて無敵の黄金時代を誇ったフジテレビだが、今年の黄金週間は煌(きら)びやかというわけにはいかなかった……。視聴率低迷の苦境から抜け出せない同局は5月1日、7月から始まる「月9」ドラマの制作発表をネット限定で生配信する「奇策」に打って出た。しかし、その評判は黄金のように輝くどころか、くすんだものとなってしまったのだ。

 ***

通常、新しいドラマの制作発表は、放送開始数日前にホテルの宴会場などを借りて記者会見の形で行われる。ところが今回、フジは5月1日の未明に突如、同日の午後7時からネットのみで月9『好きな人がいること』の制作発表を行うと告知したのである。

「日本初との触れ込みのネット限定制作発表を注目して観たんですが……」

と振り返るのは、スポーツ紙の芸能記者だ。

「主演の桐谷美玲ら4人のキャストが、自分たちが若い男女の『四角関係』を演じるといったごく簡単なストーリーを説明した程度で、内容が煮詰まっていない印象が際立ち拍子抜けでした。なにしろ台本もまだ完成していないそうですから」

こうした「拙策」の背景を記者氏が続ける。

「現在放送されている福山雅治主演の月9『ラヴソング』の第4話までの平均視聴率は、これまでの月9平均視聴率の最低記録である9・7%を下回る9・4%の体たらく。全日視聴率でテレビ東京に抜かれることもあるフジの低迷ぶりを象徴しています。これを受けて亀山千広社長が、『今までにやったことのないことをやってくれ』と檄を飛ばした結果、今回のネット制作発表になったそうです」

■「時代を逆走」

『フジテレビはなぜ凋落したのか』(新潮新書)の著者で、同局元プロデューサーの吉野嘉高氏はこんな評価を下す。

「おそらく、このドラマは10代、20代をメインターゲットにしていて、それゆえに若者に向けてネット限定制作発表を行ったのでしょう。でもこの世代は最もテレビを観ていません。そんな狭いターゲットに絞ってボールを投げても視聴率は上がりにくいはずです。自分たちでストライクゾーンを小さくしておいて、そこにコントロールが利いていないボールを投げているようなものです」

なぜ、このようなことが起きてしまうのか。

「若々しいイメージで成功した80年代、90年代の黄金期のフジに戻りたいのでしょうか。しかし、これは時代を逆走しているように思えます。社会状況を細かく観察してみればキラキラしていた“あの時代”に戻れないのは明らかです。この分だと、しばらく『迷走フジテレビ』が続くのではないでしょうか」(同)

上智大学の碓井広義教授(メディア論)も手厳しい。

「数字を捨ててやりたいことをやろうといった考え方もあるかもしれませんが、今一番、視聴率を大事に考えなければいけないはずなのがフジです。自分たちが置かれている状況を客観視できていない。これこそフジがここまでダメになった一番の原因だと思います」


フジの企業広報部は、7月からの月9について、「放送をご覧になって判断して頂きたいと思います」と強気だが、

「果たしてどれだけの人に月9を『観る』という入口に立ってもらえるか。そもそも、フジそのものがあまり観られていないのが現状ですからね」(碓井氏)

もはやフジの低視聴率は不治の病か。

(週刊新潮 2016年5月19日菖蒲月増大号)


「日曜劇場」香川照之、緩急自在の芝居にハズレなし!

2016年05月26日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評



日刊ゲンダイに連載しているコラム「TV見るべきものは!!」。

今週は、TBS日曜劇場「99.9―刑事専門弁護士―」について書きました。


TBS系 日曜劇場「99.9―刑事専門弁護士―」
緩急自在の芝居にハズレなし!

香川照之が出ている「日曜劇場」にはハズレがない。「半沢直樹」「ルーズヴェルト・ゲーム」「流星ワゴン」、そして今回の「99.9―刑事専門弁護士―」だ。

主役は嵐の松本潤。飄々としていながら、「事実が知りたいんです」と言って、とことん事件を追究する弁護士、深山大翔を好演している。どんなに逆転するのが難しそうな案件であっても、同僚弁護士の榮倉奈々やパラリーガルのマギーや片桐仁(怪演に拍手!)の力を借りつつ、その真相に迫っていくのだ。

香川が演じる佐田は、深山が所属する刑事専門ルームの室長だが、本来は企業弁護のエキスパートだ。元検事で野心家。超マイペースで暴走気味の深山にブレーキをかけたり、時には手柄を横取りしたりする。ハラに一物も二物もあるこの男を、香川は緩急自在の芝居で造形していく。

しかもここ数週ほど、18年前の事件の再審請求にからんで、佐田の過去が浮かび上がってきた。宇田学のオリジナル脚本は、しっかりした伏線とその回収が毎回見事だが、ドラマの後半戦に入ってますます冴えている。松本潤と香川照之の本格勝負もこれからだ。

そうそう、佐田が唯一言いなりになってしまう年下妻役の映美くらら(元・宝塚月組トップ娘役)がいい味を出している。“ポスト檀れい”の出現かもしれない。

(日刊ゲンダイ 2016.05.25)

週刊現代で、ベッキー「涙の謝罪」放送についてコメント

2016年05月25日 | メディアでのコメント・論評



発売中の週刊現代で、ベッキー「涙の謝罪」放送についてコメントしました。

以下は抜粋です。

詳しい内容は本誌をご覧ください。


ベッキー「涙の謝罪」
公共の電波を使ってまでやることですか?  

記事では、

 ・TBS「金スマ」で放送された、中居正広との「対話」の内容
 ・結果的に高視聴率獲得
 ・局内が浮かれムードだったこと

などが述べられた後・・・

しかし、ちょっと待ってほしい。常識ある人ならば、「彼らはどこかズレている」と思うのではないだろうか。

上智大学・碓井広義教授が言う。

「考えてみれば、当事者であるベッキー、川谷さん、離婚した彼の元奥さんの3人で話し合えば済む問題。わざわざテレビを使って見せ物にする必要はありませんよね。

結局、関係者は『ベッキーの商品価値が落ちる前に出したい』というビジネス上の都合しか考えていない。そこに『川谷さんの元妻がどう思うか』といった配慮や見識はまったくないわけです」


川谷の元妻は放送後、「ベッキーは、私に謝罪する前に『金スマ』の収録を終え、しかもそのことを謝罪時点で隠していた」という旨を明らかにしている。

確かに、この経緯が事実であれば、「筋が違う」と糾弾されても仕方がないだろう。

さらに、こうした「筋論」以上に強調しておきたいのは、「そもそもこれが、ゴールデンタイムの枠を使って全国民に喧伝すべき映像だったのか」ということである。

ひとりの女性タレントが涙を流す姿を、曲がりなりにも「公共の電波」にのせて大げさに放送することに、いったいどのような社会的意義があったというのか。

「本当にベッキーは『国民的タレント』なのでしょうか。大女優でもなければ、名司会者でもない。厳しい言い方をすれば、『ベッキーをどうしても見たい』という視聴者がどれほどいるのか疑問です」(前出・碓井氏)

――中略――

視聴率を稼ぐのが、テレビ局にとって最大の使命であることは分かる。だが大人の視聴者もいるのだから、モノには限度があるだろう。

(週刊現代 2016.06.04号)



主演女優が光る、今期ドラマ3本

2016年05月24日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム



今期ドラマが中盤に入ってきている。ドラマというと、いつも視聴率が話題になるが、録画やオンデマンド配信などドラマの見方の多様化で、視聴率だけでは語れない時代に変わっているのも事実。数字が低い=つまらないとは言い切れないのだ。たとえば今期、主演女優が光るドラマ3本を見逃す手はない。


黒木華の『重版出来!』(TBS系)

タイトルの『重版出来!』は、「じゅうはんしゅったい」と読む。本など出版物の増刷がかかることだ。重版となれば、いわばお札(さつ)を印刷するようなもので、出版社が儲けるのはそこからだとも言われている。また重版出来は多くの読者を獲得した証しであり、著者や版元にとって達成感も大きい。

主人公は、コミック誌「週刊バイブス」の新米編集者・黒沢心(黒木華)だ。勤務している大手出版社・興都館(こうとかん)は小学館を思わせる。ならば、「バイブス」は「週刊スピリッツ」で、編集長(松重豊)が最大のライバルだと言う「エンペラー」は「週刊ヤングジャンプ」か、などと想像しながら見るのも楽しい。本物の漫画家たちがドラマのために描く、架空の漫画作品も見どころだ。

心はバリバリの体育会系女子で、ケガをするまでは柔道の日本代表候補だった。その頑健さ、元気、明るさ、さらに相手との絶妙な間合いのとり方や勝負勘も武器になっている。

これまで黒木が映画「小さいおうち」や大河ドラマ「真田丸」などで演じてきた、“和風でおっとり”したキャラクターとは大きく異なるヒロインだが、このドラマではコメディエンヌとしての才能も発揮しながら生き生きと演じているのだ。

また脇を固める編集部の面々がクセ者ぞろいだ。前述の松重のほかに、指導係の先輩がオダギリジョー、編集部員として安田顕や荒川良々、そして社長の高田純次もいる。

彼らが繰り出す芝居の波状攻撃を、黒木は一人で受けて立ち、きっちりと技を返していく。とても連ドラ初主演とは思えない。

漫画家の世界やコミック誌の現場を垣間見せてくれる“お仕事ドラマ”として、また20代女性の“成長物語”として、見てソンのない1本になっている。


前田敦子の『毒島ゆり子のせきらら日記』(TBS系)

あっちゃんが頑張っている。『毒島(ぶすじま)ゆり子のせきらら日記』の前田敦子だ。AKB48を卒業後、何本もの映画やドラマに出演してきたが、今回が“女優・前田敦子”史上最高の出来かもしれない。

ゆり子(前田)は新聞社の政治部記者。仕事は未熟だが、恋愛には積極的だ。ただし父親の不倫で家庭崩壊を経験しており、「男は必ず女を裏切るから、自分が傷つかないよう、先に男を裏切る」が信条となっている。2人の彼氏がいて“二股”にもかかわらず、既婚者であるライバル紙の敏腕記者(新井浩文)にも魅かれて、つまり“三股”になったりする。

普通ならヒンシュクを買いそうなヒロインだが、予想以上に大胆な濡れ場も含め前田が大健闘していて、憎めない。ネタを取るため必死で政治家を追いかける姿は健気だし、男たちの前で見せる、恋する女の湿度の高い表情も悪くない。うーん、あっちゃんもオトナの女性になったもんだ。

仕事とプライベートの両面をテンポよく描くオリジナル脚本(矢島弘一)の牽引力とも相まって、「深夜の昼ドラ」のうたい文句に偽りはない。ゆり子が最後にどうなるのか、見届けたくなる。


石田ゆり子の『コントレール~罪と恋~』(NHK)

今期ドラマは中盤戦の真っ最中だが、見逃してはならない1本がある。石田ゆり子主演『コントレール~罪と恋~』だ。

通り魔事件に巻き込まれて亡くなった夫。残された妻(石田)は夫に愛人がいたことを知る。事件現場に居合わせた弁護士(井浦新)は犯人と揉み合い、結果的に石田の夫を殺してしまう。井浦はショックで声が出なくなり、弁護士を辞めてトラック運転手となった。

6年後、街道沿いで食堂を営む石田。出会った井浦に魅かれるが、はじめのうちは、その素性を知らない。また井浦は自分が殺めた男の妻だと分かるが、石田へと傾斜していく。しかも、かつて事件を担当した刑事(原田泰造)も石田に思いを寄せていた。さて、3人の運命は・・・というドラマである。

石田が演じる45歳の未亡人が何ともセクシーだ。幼い息子の母親としての自分と、一人の女性としての自分。その葛藤に揺れながらも、あふれ出す情念を抑えきれない。鏡の前で、久しぶりにルージュを手にする石田の表情など絶品だ。

井浦にとっても、会ってはならない女性との危うい恋だ。失声症だった井浦が、ベッドの上で石田の名を呼べた時の戸惑いと喜び。その心情の複雑さも、脚本の大石静がきっちり描いている。

大人の女性のココロとカラダが、今後どう動くのか。鮮やな軌跡を見せ、やがて消えていくコントレール(ひこうき雲)から目が離せない。

(Yahoo!ニュース個人 2016.05.21)