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カール・セーガンは30年前に異星人探しの実験をしていた! 木星探査機“ガリレオ”の観測データを用いた地球上の生命発見

2024年05月10日 | 地球外生命っているの? 第2の地球は?
1989年10月のこと、NASAの木星探査機“ガリレオ”が打ち上げられました。
“ガリレオ”は木星に到達するのに十分な速度を得るため、まず太陽系内を何度か周回し、地球や金星をフライバイ(※1)して加速する必要がありました。
※1.探査機が、惑星の近傍を通過するとき、その惑星の重力や公転運動量などを利用して、速度や方向を変える飛行方式。燃料を消費せずに軌道変更と加速や減速が行える。積極的に軌道や速度を変更する場合をスイングバイ、観測に重点が置かれる場合をフライバイと言い、使い分けている。
図1.NASAの木星探査機“ガリレオ”が600万キロ離れた場所から見た地球と月。(Credit: NASA)
図1.NASAの木星探査機“ガリレオ”が600万キロ離れた場所から見た地球と月。(Credit: NASA)

フライバイを行ったとき、ガリレオは本来の目的である木星探査に先立って地球を観測しています。

その観測でカール・セーガン(※2)率いる科学者グループは、“ガリレオ”に搭載された観測機器から得られたデータを用いて、地球上に“生命”を発見。
今からおよそ30年前のことでした。
※2.カール・セーガン(Carl Sagan, 1934-1996)はアメリカの天文学者。バイキングやボイジャー、ガリレオなどの惑星探査計画に携わり、“コスモス”やSF小説“コンタクト”などの著作でも有名。


生命の痕跡を見逃す可能性

私たちは、人類を含む生命が地球上に存在することを知っています。
でも、異星人の立場になって、“ガリレオ”と同様の観測機器を搭載した宇宙船を太陽系の第3惑星(地球)に接近させ、観測したと仮定してみてください。
図2.NASAの木星探査機“ガリレオ”から見た地球。(Credit: NASA)
図2.NASAの木星探査機“ガリレオ”から見た地球。(Credit: NASA)
“ガリレオ”には、木星とその衛星の大気や宇宙環境を研究するために設計された、撮像カメラ、分光器、電波実験装置を含む様々な機器が装備されています。
ただ、これらの装置は生命探査を目的としたものではありませんでした。

もし、私たちがその惑星について他に何も知らなかったとしたら、生命を見つけるために設計されたわけではない機器だけを用いて、明確に生命を発見することができるのでしょうか。

2000年代半ばに、微生物の存在が知られているチリのアタカマ砂漠にある火星のような環境から土のサンプルを採取し、1970年代に行われたNASAのバイキング計画(※3)と同様の実験(微生物の検出)が試みられました。
※3.バイキングは、NASAが1975年に打ち上げた2機の探査機による火星探査計画。火星土壌中の微生物の検出が主な目的だったが、結果的に生命存在の証拠は得られなかった。
ところが、そのサンプルから生命の存在は確認できなかったんですねー
この実験結果は、たとえ生命の存在が知られていたとしても、生命の痕跡を見逃す可能性があることを示唆していました。


液体の水と大気中の酸とメタンを検出

“ガリレオ”による地球観測で重要なのは、セーガンが率いた研究者たちが、地球上に生命が存在するという前提に立つことなく、データだけから結論を導き出そうとしたことです。

“ガリレオ”に搭載された近赤外線マッピング分光計“NIMS”は、地球大気全体に分布するガス状の水、極地の氷、海洋規模の液体の水を検出していました。
さらに、-30℃~+18度までの温度も記録しています。
ただ、液体の水は生命が存在するための必要条件ではあっても、十分条件ではありません。

また、“NIMS”は地球の大気中に酸素とメタンを検出。
これらは、他の既知の惑星と比較して高濃度なものでした。

酸素とメタンは、いずれも反応性の高いガスで、他の化学物質と急速に反応し、短時間で消滅してしまいます。
それにもかかわらず、高濃度が維持されているということは、何らかの手段で継続的に補充されている必要があります。
ただ、これらのガスも生命の存在を示唆するものですが、証明するものではありません。

一方、他の機器が検出していたのは、太陽からの有害な紫外線から地表を保護するオゾン層の存在でした。
もし、地表に生命が存在していれば、オゾン層によって紫外線から保護されている可能性があります。


撮像カメラがとらえた画像

撮像カメラによる画像には、海、砂漠、雲、氷、そして南アメリカの暗い色合いの地域が写っていました。

もし、予備知識があれば、その地域に熱帯雨林が広がっていると分かるはずです。

でも、より多くの分光測定と組み合わせることで、その領域での赤色光の明確な吸収が判明。
セーガンたちは、光合成植物によって吸収された光を強く示唆していると結論付けました。

もっとも解像度の高い画像は、オーストラリア中央部の砂漠と南極大陸の氷床で、都市や農業の明確な証拠は含まれていません。
また、“ガリレオ”は太陽光が地表を照らす日中に最接近したので、夜間の街の明かりも見えませんでした。


文明が放射する周波数が固定された狭い帯域の電波

興味深かったのは、“ガリレオ”のプラズマ波電波実験でした。

宇宙空間は自然由来の電波放射で満ちていますが、そのほとんどは多くの周波数にわたって発生する広帯域の電波です。
対照的に、人工的な電波源は狭い帯域で発生します。

YouTubeのSpace Audioチャンネルで公開されている動画では、土星探査機“カッシーニ”がとらえた土星大気から発生する自然由来の電波を、音で聞くことができます。
この電波は、ラジオ放送とは異なり、周波数が急激に変化しています。
カッシーニ電波・プラズマ波科学装置(RPWS)がとらえた土星の不気味な電波音
“ガリレオ”が検出していたのは、地球から届く周波数が固定された狭い帯域の電波放射でした。
これは、技術を持つ文明から生じたものであり、19世紀以降でなければ検出できなかったはずだと結論付けられています。

もし、異星人の宇宙船が地球誕生から数十億年のどこかの時点で地球を通過していたとしても、地球上に文明があったという決定的な証拠は見つけられなかったはずです。

ただ、地球外生命が存在するという証拠がまだ見つかっていないことは、おそらく驚くべきことではありません。
それは、上空数千キロ以内を飛行する宇宙船でさえ、地球上の人類が築いた文明からの証拠を検出できる保証がないからです。

セーガンは、「科学とは単なる知識の集まりではなく、考え方である」と語ったことで有名です。
言い換えれば、人間が新しい知識を発見する方法は、知識そのものと同じくらい重要ということです。

この意味で、セーガンたちが行った研究は一種の“対照実験”で、ある研究や分析方法が、私たちが既に知っていることの証拠を見つけられるかどうかを問うことと言えます。

現在、5000個を超える太陽系外惑星が発見されていて、いくつかの惑星の大気中には水の存在さえ検出されています。

でも、セーガンの実験は、これだけでは十分ではないことを示しています。

地球外の生命や文明の存在を明確に証拠づけるには、光合成のようなプロセスによる光の吸収、狭い帯域の電波放射、適度な気温と気候、自然現象では説明が難しい大気中の化学物質の挙動などを、相互に裏付けて組み合わせる必要性が高いと言えます。

ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡のような観測装置の時代に入っても、30年前と同じように、セーガンの実験は今でも有益と言えます。
本記事は、2023年10月20日付で“The Conversation”に掲載されたガレス・ドリアン(Gareth Dorrian)さん執筆の記事“Carl Sagan detected life on Earth 30 years ago – here’s how his experiment is helping us search for alien species today(カール・セーガンは30年前に地球上に生命を発見した - 彼の実験が今日の異星人探索にどのように役立っているのか)”を元に再構成したものを参考としています。


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