電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

藤沢周平『霧の果て・神谷玄次郎捕物控』を読む

2005年12月07日 19時35分36秒 | -藤沢周平
北町奉行所の定町廻り同心である神谷玄次郎は、探索の腕は抜群だがどこか世をすねたところがある。小料理屋「よし野」の女主人お津世のところに入り浸っている。
第1話「針の光」、狂った男の畳針が、若い女の命を奪っていく。お手先の銀蔵がいい味を出している。
第2話「虚ろな家」、子どもをさらって金をゆする。それも計画的な犯行だった。結果から見ると「やっぱり」な犯人だったが、そう思わせないところがうまい。
第3話「春の闇」、娘に惚れた男が、もっと前から同じ娘と好きあっていた男を憎むようになる。よくある話ですが、あきらめるしかないのですね、本当は。相手を陥れて殺そうなどと考えてはいけません。
第4話「酔いどれ死体」、神谷玄次郎の過去が語られながら、浮浪人の甚七殺しを探る。不義は死罪と定められた時代に、人目を忍んで20年間会い続けた女との関係が明らかになってしまうだろう。疫病神のような男の底なしの酒に恐怖を覚えた事情がよく理解できる。
第5話「青い卵」、二階の戸袋で見つかった大きな巣と青い卵。不気味さを表す小道具はどことなく洋風のサスペンス・タッチだ。小金をためていた老婆殺しで、犯人は小判を盗んでいったが、小銭は盗まなかった。では、犯行後に小銭を盗み使っていたのは誰なのか。なんとも後味が悪い話だが、現実にはすべての子どもがみな同じように善良だとは限らないのです。
第6話「日照雨」、米屋の次男坊のワルのどら息子が殺された。それも、恨みのめった刺しだ。犯人は挙げるが、立ち直ろうとする娘と支えようとする若者には罪を及ぼすまいとする玄次郎と銀蔵のコンビが、人情を感じさせる。玄次郎が取り組む過去の謎解きにも一歩近づく資料が出てくる。
第7話「出合茶屋」、女ざかりの内儀が出来心で同行した出合茶屋で、見てはならない人の顔を見てしまった。そこで災難が降りかかる。単行本では、どうやらこれが表題作だったらしい。地味だがテンポのよい、いい作品だ。
第8話は文庫版の表題作「霧の果て」である。井筒屋善右衛門が歓喜院という坊主にいかがわしい加持祈祷をさせた女たちの中に、御側御用取次就任を目前にした水野播磨守の愛妾がいた。事件の真相は判明したが、老衰した権力者の姿は、復讐するにも値しないものだった。

欧米の推理小説作品の熱心なファンだった藤沢周平の、ややハードボイルド風な作品。短編を読み、事件を一つ一つ解決していくうちに、いつのまにか亡父が探りあてた秘密のために斬殺された母と妹の事件の片鱗が目の前に現れてくる。霧の果てに見たものは、等しく訪れる老いと死の無残であったろうか。
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