電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

平岩弓枝『御宿かわせみ29・初春弁才船』を読む

2005年12月13日 21時46分11秒 | -平岩弓技
青い海を行く和船の上をウミネコが飛び交う。文庫版の表紙は、明るく初春らしく見事です。カバー・デザインは蓬田やすひろ氏となっています。
第1話「宮戸川の夕景」、いや、すさまじいものですね、死体のオンパレード。
第2話「初春弁才船」、上方から物資を運ぶ弁才船が、遠州灘で遭難したという。祖父も父も船乗りだったという若者が、どうしてもと願って東吾に西洋式の操船技術を習う。和船は本質的な欠陥があり、舵をもがれてしまえば坊主船になってしまう。荒れる外海を航海するには向かない。しかし、遭難した父が生きていたことを知り、船で再び大坂に向かう。やがて、新酒を積んだ一番船が品川に着いた。生きのびた父は象限儀を、そして息子は磁石と海図を持っていた。「かわせみ」に届けられた一番酒の角樽、いい話です。
第3話「辰巳屋おしゅん」、子が親の敵を討つのは良いが、親が子の敵を討つのは御法度。そのへんが封建時代のけじめなんでしょう。しかし、それではワル餓鬼に子どもを殺された親はたまらない、というお話。
第4話「丑の刻参り」。丑の刻参りといえば、ザンバラ髪の婆さんが藁人形に五寸釘を打つ、あれですか。ははあ。他人に見られると、効き目がなくなるとか。呪いって意外に弱いのですね。化学実験に使うと言えば子どもに酢酸タリウムを売ってくれる時代の方がよっぽどこわいです。
第5話「桃の花咲く寺」、住職らを殺害しお寺に寄進された金を奪った盗人一味。生き残りの芝居を見抜く東吾の活躍。
第6話「メキシコ銀貨」、外国から洋銀を持ち込んで一分銀に変え、それを小判にして持ち出す。どこかできいた話だなあ。貨幣価値は三倍に上がったが、庶民の暮らしは二倍にも上がっていない。残りはアメリカ国債にでも化けたかな。
第7話「猫一匹」、トラ猫が孔雀小屋に忍び込み、逆に半死半生の目にあわされた事件が、えらく大事に発展しまして。笑っていいのか。

この巻では、東吾もるいも、源三郎もお千絵も、宗太郎も七重も、もちろん子どもたちも、目だって変化はありません。おてんば花世が仕舞を披露するくらいかな。表題作「初春弁才船」がなんといってもハイライトでしょう。写真は12月初旬、雪化粧の月山です。
コメント