電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

佐伯泰英『陽炎の辻~居眠り磐音江戸双紙』を読む

2008年09月22日 06時20分06秒 | -佐伯泰英
双葉文庫で、佐伯泰英著『陽炎の辻~居眠り磐音江戸双紙』を読みました。たぶん、双葉文庫というのは初めてです。
豊後関前藩に戻ったばかりの二十代後半の青年たちの間に起こった悲劇。江戸から戻ったばかりの夫に、いわれのない妻の不貞を告げ口した酒癖の悪い叔父。その言葉を信じ、怒りと嫉妬のあまり、夫を信じ帰りを待ちわびた妻を問答無用で切り捨てた夫の狂気。妹を惨殺した友を、怒りにまかせて一刀両断した妻の兄の激情。このあたり、藤沢周平『山桜』の中で、主人公に再嫁を懸念させた、剣客の乱暴な人間性そのものでしょう。さらに加えて、藩命によりその友を討ち果たさねばならなかった悲劇性。坂崎磐音の物語の始まりは、読者をぐっとつかんでしまう力があります。

田沼意次が始めた南鐐二朱銀による通貨統一の政策を背景とし、幕府内部の隠れた権力闘争と、両替商どうしの確執が描かれ、その中に坂崎磐音と周囲の町人たちの交流があります。磐音の許嫁は、討ち果たした友の妹でもありました。乱心者とされたその一家は、行方知れずとなっており、江戸三崎町の佐々木道場で目録を受けた腕前を持つ主人公は、豊後関前藩から脱藩し、今は浪人となっています。深川生まれで両替商に奉公する大家の娘おこんの思慕は、とうぶん実るあてもありません。このあたりの物語の想定は、やきもき、ハラハラという、まさに典型的時代劇の王道を行くものです。

藤沢周平の彫師伊之助シリーズの後に読むと、やや通俗に感じられる面もありますが、主人公は人柄は良いし強いしもてもてなのですから、きっと気楽に読んでよろしいというシリーズなのでしょう。ふだんテレビを見ない生活なので気づかずにいましたが、NHK-TVですでに何度か放送されているらしいです。流行に遅れているのは毎度のことですが、多くの人が「面白かった」と言っているものは、たぶん私も面白く読めるはず。次作を楽しみにしたいと思います。
コメント (4)