電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

佐伯泰英『寒雷ノ坂~居眠り磐音江戸双紙(2)』を読む

2008年09月29日 06時42分52秒 | -佐伯泰英
双葉文庫で、佐伯泰英著『寒雷ノ坂~居眠り磐音江戸双紙(2)』を読みました。Wikipediaによれば、著者は当初スペインと闘牛を題材とした写真家・作家としてスタートし、国際的なミステリー等を発表しますがあまり売れず、編集者から事実上の廃業勧告に近い宣告を受けた(*1)のだとか。作家として生き残りを図るべく、藤沢周平に着想を得て時代小説家に転身したのだそうです。

なるほど、たしかに本編の幕開けは『用心棒日月抄』と同様に、長屋の貧乏暮らしから始まります。食う米がないため、仕方なく貧乏御家人の品川柳次郎とともに、内藤新宿の博奕打ちたちの喧嘩の助っ人やら、両国橋際の矢場の用心棒やらを勤めますが、矢場のおきねの死など、『用心棒日月抄』の夜鷹の死と重なります。ただし、大頭の南町奉行所与力の笹塚孫一というのは著者の創造でしょう。これはまた、すごいキャラクターです。今後もしばしば出てきそうな(作者にとっては大変に重宝そうな)「清濁併せ呑む」タイプ。

出会い茶屋の件は、魔性の女に魅入られてしまった老人の悲劇。今津屋の由蔵の用心棒を依頼され、威張りちらす高家旗本から貸金を回収する仕事なども請負いますが、こちらは危険手当てつき。富士見坂では幸吉を助けるために、金貸し兼やくざの権造一家に用心棒の腕を売り込み、幸吉を発見・救出します。そんな世話好きな磐音さんの活躍の最中にも、豊後関前藩の秘密が次第に明るみに出てきて、親友二人とその妻、および婚約者を失った悲劇が、実は仕組まれたものであったことがわかってきます。

なるほど、このスピーディな展開は、人気が出るわけですね。気は優しくて強いスーパー主人公と、彼を取り巻く美女二人の三角関係が、悲劇とハッピーエンドの間で揺れ動き、周囲の人間模様が彩りを添える物語、と見ました。なるほど、人気が出るはずです。
ただし、改行が多い文章は、特に対決場面になると、こんなところでもいちいち改行するのか、とびっくりします。
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