電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

三崎亜記『となり町戦争』を読む

2008年09月25日 06時06分05秒 | 読書
集英社文庫で、三崎亜記著『となり町戦争』を読みました。となり町の日常的な親近感と、戦争という非日常性をむりやり接合したような題名のおもしろさに興味をひかれて手にした、というのが真相です。
舞坂町の広報誌のお知らせらんに小さく掲載されていた【となり町との戦争のお知らせ】という始まりの意外性は、想定外の事柄が日常性の装いで起こり始めるという意味で、実に違和感たっぷりです。

ありえないでしょ、という出来事が起こっちゃうのは、物語の常套手段ではありますが、ここでも実に効果的です。ところが、この「となり町との戦争」が、職場でも近所でも、全然話題にのぼらない様子なのです。思わず「嘘くさ~い!」。そりゃ、全編フィクションなのですから、嘘くさいのはもともとなのですが、それにしてもこのリアリティのなさ、あまりの都合のよさ。「成和23年」のこの町には、マスコミの取材も、ブログの発信も、携帯電話による掲示板への書き込みも、全くないようなのです。そういえば、香西さんから初めて来た電話も、壁の内線電話でしたし、偵察員記録表とやらは二枚連写の手書きです。2004年に発表された本書は、情報化社会の要素を注意深く排除して成り立っているようです。

いかにも行政組織っぽい細部の「らしさ」と、大きな目で見た「ありえなさ」。主人公ならずとも、現実感を持てと言う方が無理があります。ここは、架空の時代の架空の町の架空のお話の、ちょっと気持ちワルい、奇妙な浮遊感を楽しむべきなのでしょう。
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