電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

山響第217回定期演奏会でマーラー編「死と乙女」と「少年の魔法の角笛」を聴く

2011年12月18日 20時06分40秒 | -オーケストラ
12月17日(土)午後4時15分から、山形テルサホールにて、飯森範親指揮山形交響楽団の第217回定期演奏会を聴きました。グスタフ・マーラーの没後100年「思索と抒情の果てに」と題し、曲目はシューベルトの弦楽四重奏曲第14番「死と乙女」をマーラーが弦楽合奏に編曲したものと、歌曲集「少年の魔法の角笛」から7曲を、バリトンの萩原潤さんが歌う、というものです。

当日は、ホールの駐車場がかなり混雑しており、ようやく到着したときには、すでに飯森さんのプレトークが始まっておりました。今回、当方の座席は一階の後方でしたが、いつもは空いてしまうことが多い最前列にも若干のお客さんが座っており、満席に近い状態だったのではと思います。このプログラムでこの混雑ですので、山形市周辺のクラシック音楽愛好者の層も、かなりまとまった数になってきているようです。

さて、ステージ上には、弦楽合奏のためのメンバーが並びます。第1ヴァイオリン(10)と第2ヴァイオリン(8)が対向配置、その奥にチェロ(6)、ヴィオラ(6)、さらにその奥にコントラバス(4)です。コンサートマスターは高木和弘さん。

シューベルトの「死と乙女」が始まります。
第1楽章:アレグロ。オリジナルな弦楽四重奏とは違い、編成が大きくなった分だけ、響きに迫力があります。親密さは後退しますが、低音の力強さが印象的です。その分、重く感じられるかなと予想したのですが、ピリオド奏法の美質がプラスに作用したようで、懸念は杞憂に終わりました。第2楽章:アンダンテ・コン・モート。繊細で、実に美しい音楽です。聴衆もじっと音楽へ集中する様子が感じられ、文字通り音楽にひたりました。第3楽章:スケルツォ、アレグロ・モルト。この楽章でも、規模の拡大が、迫力というのか圧力というべきか、マーラー流に訴える力を増しています。第4楽章:プレスト。楽員の皆さんの真剣な表情が印象的です。本来はカルテットの曲を、10-8-6-6-4 という編成の弦楽合奏で、しかも「死と乙女」の疾走するフィナーレです。たぶん、才人マーラーが精力を注ぎ込んだ労作なのでしょう。山形交響楽団の弦楽合奏の能力の高さを、今更ながらに感じることができました。

ここで、15分の休憩です。

後半は、マーラーの歌曲集「少年の魔法の角笛」から、バリトンの萩原潤さんが、もともと何曲もある中から7曲を選んで歌います。もともとはソプラノとバリトンで歌われるものですが、1人で二役を演じる(歌う)のだとか。なるほど、それでチラシには萩原さんの名前だけが載っていたわけですね。飯森さんは、一人で何役も演じる落語のようなものです、と説明しましたが、なるほどです。
始まりは第2曲:「むだな努力」から。萩原さん、女声のところでは両手の指を組んで、男声の箇所では斜めに向いてつれなさを表しながら、です。
続いて第4曲:「この歌をつくったのは誰?」は、ユーモラスな歌です。
第6曲:「魚に説教するパドヴァの聖アントニウス」。ファゴットがおもしろい。トライアングルも。クラリネットが剽軽な音を出します。声との対比、バランスも、山形テルサホールのような800席規模のホールにはちょうどよいくらいです。歌詞が脚韻を踏んでいます。
第7曲:「ラインの伝説」。トランペットのロングトーンとふんわりした弦の音にのって、かわいらしい音楽。
第8曲:「塔の中の囚人」。政治犯か思想犯でしょうか。女性は空想の中で生まれたものという解釈のようです。弦楽のきゅーっという音は子供たちの叫び声を表し、ミュートを付けた金管とともに、屈折した男の心情を表すのでしょう。
第9曲:「美しいラッパが鳴り響くところ」。弱音器を付けた金管と鄙びた音の木管にヴィオラが寄り添う中に悲しげに歌い出されます。素晴らしいバリトンは、ごく自然で、よく響きます。
第13曲「死んだ鼓手」。出だしの響きとリズムが、勇ましい連打ではない、少年鼓手の断続的な小太鼓を導きます。中部ヨーロッパの戦争や疫病等の恐怖が、歌に圧迫を加えるのでしょうか。コル・レーニョが骸骨か死神の動きを表し、ゴーストの世界です。ああ、この音は、こうやって出しているのかと、実演ならではの発見です。

今回のパンフレットを読んで、「少年の魔法の角笛」の曲順は固定したものではないことを知りました。いつも聴いているCD(*2)では、「死んだ鼓手」から始まり、「美しいラッパが鳴り響くところ」で終わります。このあたりも、様々な解釈や工夫があり得る、音楽表現の多様性といえましょう。

(*1):シューベルトの弦楽四重奏曲第14番「死と乙女」を聴く~「電網郊外散歩道」2007年4月
(*2):マーラー「子供の魔法の角笛」を聴く~「電網郊外散歩道」2008年4月

終演後は、ファン交流会には参加せず、職場の有志の忘年会に参加すべく某温泉ホテルに直行しましたが、すでに宴会は佳境に入っておりました。宴のあと、降る雪を眺めながら露天風呂を堪能し、あとはひたすら爆睡しました。そんなわけで、恒例の早朝更新はできずに、夜の更新とあいなった次第です。外せない酒席はあと一回、なんとか無事に乗り切りたいものです(^o^)/

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