(© HARBOR BUSINESS Online 提供 誠品書店の店内(ニュースリリースより) )

① ""あの「蔦屋書店」が参考にした、台湾の大人気店「誠品」が日本初出店へ! 果たしてどういう店舗になる? ""
2018/10/20 09:07
来秋、東京・日本橋に日本初出店するある店舗が話題を呼んでいる。
その名は「誠品生活」。台湾では広く知られ、日本人にもファンが多いこの店舗。一体どういった内容の店舗となるのであろうか。
◆台湾を代表する「観光地」となった「誠品」
「誠品生活」とは、台北の大手書店「誠品書店」が運営する大型の複合書店だ。
誠品書店は1989年に台北市大安区で創業。1995年には台北市大安区敦南に旗艦店となる大型書店を開設。さらに、1999年には一部店舗での24時間を開始した。
現在、誠品は台湾を始め香港、そして中国・蘇州に合わせて46店舗を展開。とくに美術書、歴史書などといった専門書に強い書店として知られ、MIT雑貨(Made in Taiwan)や文具の販売も実施しているほか、大型店の館内で開かれるワークショップや体験型イベントは毎年述べ2億人を動員しており、高い人気を誇っている。大型書店以外にも、そごうなど百貨店への出店や、日本統治時代の建物をリノベーションした歴史的建造物に出店している店舗も少なくない。
2004年には雑誌「TIME」アジア版により「アジアで最も優れた書店」にも選ばれるなど、今や台湾を代表する「観光地」の1つになっており、店内では外国人観光客の姿を見かけることもある。
ところで、誠品書店の店舗内装(写真参照)を見て「蔦屋書店にそっくりだ」と思った人も多いであろう。
それもそのはず、TSUTAYAを運営するCCCは、代官山などの蔦屋書店を開業させる際に誠品書店を参考の1つとしている。
◆「日本橋出店」は三井側のラブコールによるものだった!
2012年に香港、2015年に中国に初出店を果たすなど、順調に台湾外への展開も進めていた誠品書店。同社は以前より日本市場への進出を目指しているとしていたが、日本への具体的な出店計画が明らかになったのは初めてのことだ。
日本1号店となるのは、日本橋三越本店の近くで2019年秋の完成をめざして建設中の複合高層ビル「コレド室町テラス」(日本橋室町三井タワー)内に出店する「誠品生活日本橋」。
コレド室町テラスは三井不動産が建設する大型複合ビルで、地上26階、地下3階建て。地下でJR新日本橋駅、東京メトロ三越前駅と直結される。
建物の高層階はオフィスで、商業施設は地下1階から地上2階まで。商業施設全体の売場面積は約6,000㎡で30店舗ほどが出店する予定だが、誠品生活以外のテナントは10月現在未発表だ。
誠品生活日本橋が出店するのは商業エリアの2階全床で、売場面積は約2,817㎡。三井不動産の石神取締役は誠品を「台湾の宝」だと評しており、今回の出店は三井不動産の熱いラブコールにより実現したものだという。
◆台湾グルメも出店!日本初出店の誠品、果たしてその品揃えは?
さて、誠品書店が日本初進出するにあたって気になることがいくつかある。
まず1つは、店内で台湾や香港などの書籍やCDの販売が行われるのか?ということだ。
実際、台湾や香港の誠品書店に行くと台湾の本のみならず、香港、中国、英語圏各国などの本も数多く品揃えされている。もちろん日本の書籍も同様で、日本語版のまま売られている本や雑誌が非常に多く、こうした(漢字圏の書物が中心であるとはいえ)国際色豊かな品揃えは「殆ど全てが和書」という日本国内の書店においてはあまり見られない光景だ。
また、一部の店舗では台湾アーティストのCDも販売されているが、台湾の書籍やCDを扱う書店は日本国内では少ないため、日本橋においてもこうした商品が販売されるかどうかが注目される。
今回の発表によると、誠品生活日本橋の店舗を運営するのは「誠品生活」が61%、「三井不動産」が39%を出資する「誠品生活MF」(資本金9900万円)。そして、書籍部門は同社よりライセンス供与を受けた有隣堂書店(横浜市)が誠品書店のノウハウを生かすかたちで運営する計画だ。
そのため、書籍の品揃えにおいてどれだけ誠品の力が及ぶのかは未知数であり、しかも売場面積についても2,000㎡台と、1万㎡を超える店舗も多い「誠品生活」業態としてはかなりの小型店舗となるため、台湾の書籍やCDの品揃えについてはそれほど期待できないものとなるかも知れない。
一方で「誠品生活」の売場については、誠品主導による誠品生活MFの運営となるため、台湾の各店と同様に、MIT雑貨の販売はもちろん、様々なイベント、ワークショップなども実施されるという。さらに、店内には台湾茶のティーサロンをはじめ台湾グルメの店舗の出店も予定されているといい、今後の詳細発表が楽しみだ。
◆各地へのチェーン展開はあり?
そして、もう1つ気になるのは、今後「誠品書店」が日本各地へとチェーン展開されていくのか?ということだ。
先述した通り、今回設立された「誠品生活MF」は誠品生活と三井不動産が出資する合弁企業だ。また、書籍部門には有隣堂書店が関わっているため、今後の店舗展開としては、有隣堂書店の出店エリアである首都圏周辺に立地する三井不動産運営の商業施設への新規出店が予想されるほか、「ららぽーと」などに出店する有隣堂の既存店が誠品へと業態転換される可能性もあろう。
さて、有隣堂が運営する「最新型複合書店」として思い出されるのが、今年3月に開業したばかりの東京ミッドタウン日比谷にある「日比谷セントラルマーケット」だ。
日比谷セントラルマーケットは東京ミッドタウン日比谷の3階、約783㎡に出店する複合書店で、アジアのストリートマーケットをコンセプトに、小さな路地に床屋、大衆酒場、喫茶店、アパレルショップなどが入り乱れる空間となっている。また「書店」でありながら書籍の販売数はごく少ない上にテーマに沿ってセレクトされたものが殆どで、ベストセラーが置かれている書店とは一線を画した品揃えとなっていることも特徴だ。
当初、日比谷セントラルマーケットは「面白い空間」として話題を呼び、物珍しさから多くの人を集めた。その一方で、「なんでもそろう街にしたかった」という有隣堂の思惑とは裏腹に「欲しいものが何もない」とも言われるようになり、特に周辺のオフィス街から「普通の本」や「普通の文具」を買いに来た客からは「書店じゃなかった…」「高級品しか売ってないなんて」と落胆する声も上がるなど、開業から半年経った現在は飲食店以外での売り上げはそれほど芳しくないように思われる。そのため、将来的には「テコ入れ」のために「誠品書店」へと転換される可能性もないとは言い切れない。
なお、東京ミッドタウン日比谷に隣接する「日比谷シャンテ」にも今年3月に複合書店「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」が出店したばかりだが、こちらもコテージをイメージした「女性のための書店」をコンセプトにしており、日比谷セントラルマーケットほどではないものの一般的な書店の品揃えとは異なる店舗となっている。
日本初となる誠品の出店まであと約1年。
「書店不況」が叫ばれる昨今ではあるが、台湾からやってくる黒船が伝統の街・日本橋に根づき、そしてアジアとの文化交流拠点として日本全国へと羽ばたいていくことを期待したい。
<取材・撮影・文/若杉優貴(都市商業研究所)>
【都市商業研究所】
若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「@toshouken」
※ 本も本屋・大型書店も好きなので、楽しみが一つ増えました!