(イギリス/クリスマスのオーナメント)

① ""〔焦点〕今後も続く英EU離脱交渉、3つのテーマが鮮明に ""
2018/12/10 13:34
[ブリュッセル 9日 ロイター] -
英議会は11日、メイ英首相と欧州連合(EU)が合意した英国のEU離脱協定素案について採決を行う。結果がどちらに転ぶにせよ、過去2年にわたるメイ氏とEUの交渉過程は、移行期間後の関係など、次の段階の協議へと進むEUに有用な教訓を残した。
交渉に関わった数十人への取材から、今後の交渉でも鍵を握りそうな3つのテーマが浮かび上がった。
◎結束は力
「われわれは、頭を切り落とされた鶏のように右往左往していた可能性もあった。しかし、常に恐れていた英国の情報操作マシンから身を守るため、加盟諸国に予防接種を行うことに成功した」──EU高官 11月14日の素案合意後
英国の外交官は当初、1国対27カ国の闘いは有利だと見ていた。大英帝国時代と同じく、敵同士を戦わせる分割統治の戦術が使えると考えたからだが、形勢は変わった。
英国側の交渉担当者にとっては、国内の政治対立が足かせとなった。一方でEU側は自らも驚くほどの結束を見せた。
EU本部は初日から27カ国に対し、合意条件で譲れば英国の真似をしようとする国が続出すると警告。メルケル・ドイツ首相は2016年10月、英国の「いいとこ取り」を許さないよう自国の経済界に呼びかけた。
EUは欧州委員会とバルニエ首席交渉官に交渉を一任。バルニエ氏は加盟国を駆け回り、労働組合から農家に至る関係主体との会談を重ねるとともに、EU加盟諸国および欧州議員との連絡を欠かさなかった。
バルニエ氏はまた、情報が漏れやすいEUの習性を逆手に取って交渉状況についての情報を流し、国内の論争から外の情報を締め出したい英国を苛立たせた。
アイルランド国境問題で英国への大幅な譲歩を盛り込んだ離脱合意素案が迅速に承認されたのは、バルニエ氏が加盟国首脳から信頼を取り付けていたからこそだった。
英議会で合意が承認された場合、4月からは将来の通商関係を巡るEUと英国の交渉が始まる。EUはますます結束が試されることを覚悟し、既に「バルニエ・モデル」を再現する準備ができている。
◎ユニコーン探し
「われわれはユニコーン(一角獣)を探しているのではない。頭に貝殻を乗せたただの馬だ」──関税協定を巡る英高官の発言 2018年12月
英領北アイルランドとEU加盟国アイルランドの国境で新たな紛争を防ぐための措置は、関税同盟の将来を巡る交渉の核心部分となった。
バルニエ氏は当初、激変緩和のための移行期間中に解決策が出ない場合、北アイルランドだけを関税同盟にとどめる「バックストップ(安全策)」を提案。これにはメイ政権に閣外協力する北アイルランドの地域政党、民主統一党(DUP)が激しく反発し、メイ氏は「目に見えない」ハイテク検問技術が導入されるまで、英国全体を関税同盟にとどめる「オールUKバックストップ」を提案した。
EU側はこの技術をユニコーン探しのような突飛な案だと嘲笑。メイ首相が裏口から単一市場にアクセスしようとしているのではないか、と警戒した。
EUと英国は最終的に、英国によるEU規則の順守について重い要求を盛り込んだ上で、英国全体を関税同盟にとどめるバックストップ妥協案で合意。この案には、規則順守が将来的に新検問技術によって代替されると記されている。
EU側はこの妥協案について、メイ首相が国内の有権者に対し、関税同盟について姿勢を転換したと認めるのを避ける方策だと考えているが、英国は本気で新技術が実現すると思っている。
英高官らは、関税同盟にとどまるのは新技術導入までの「つなぎ」に過ぎないと主張。技術の実現はまだ遠いが、EU高官が諭すように「ユニコーン探しを止める」気はない。
英国側にすれば、自動検問は見かけと違い、完全な国境開放ではない、つまりユニコーンではなく額に貝殻を乗せた馬に過ぎない。
◎締め切りが迫る
「締め切りは刻々と迫っている」──メイ首相がEUに離脱を通告した2017年3月29日以来、バルニエ首席交渉官が幾度となく発言
時間的なプレッシャーは、交渉において重要な役割を果たしてきた。
離脱手続きを定めたEU基本条約第50条は、離脱交渉の長期化を避けるために設けられた規則だ。EU側は、交渉の延長は最長1年までで、しかも27カ国すべての合意が必要という点を、今後もプレッシャーとして活用するだろう。
EU側はまた、必要であれば英国が合意なしで離脱する事態も覚悟していると圧力をかけている。
合意素案が英議会で承認されたとしても、すぐに次の期限が迫ってくる。移行期間を延長し、バックストップの発動を回避する期限である2020年7月だ。交渉が行き詰まれば、経済界はまた「崖っぷち」に向けて突進することになる。
(Alastair Macdonald記者)
🎄 英国民にとって、今年のクリスマスは何か落ち着かないもののようです。