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① ""国立天文台長 新年のご挨拶、常田佐久""
2019年1月 8日
Happy New Year! I will deliver the new year's message in Japanese. For those who are not familiar with Japanese, I have prepared an English translation.
明けましておめでとうございます。
昨年は、アルマとすばるが、継続して大きな成果を挙げました。アルマの第5期共同利用観測(Cycle5:2017年10月より開始)では、口径12mのアンテナの総観測時間は4000時間に達しており、第4期(Cycle4)の3000時間に比べて、大幅に増大しています。これは、チリ観測所職員と合同アルマ観測所のたゆみない運用改善努力によるものです。この他、太陽観測衛星「ひので」、天文シミュレーションプロジェクト(CfCA)の共同利用計算機、野辺山宇宙電波観測所の45m電波望遠鏡など各施設が活躍しました。また、大学等の支援を受けて維持されている、野辺山電波ヘリオグラフと系外惑星専用望遠鏡となったハワイ観測所岡山分室の188cm反射望遠鏡も、引き続き成果を出しています。
さらに、東京大学宇宙線研究所が中心となり、国立天文台が主要メンバーとして参画する大型低温重力波望遠鏡(KAGRA)の建設が、米国の重力波望遠鏡LIGOや欧州のVirgoとの共同観測を目指して、いよいよ本年後半の佳境に入ります。太陽グループでは、NASA の観測ロケット実験FOXSI-3搭載の光子計測型X線撮像装置による観測実験の成功、CLASPの成功を受けたCLASP2観測ロケット搭載紫外線偏光分光望遠鏡のNASAマーシャル宇宙センターへの出荷、国際大型気球実験SUNRISE-3搭載の近赤外線偏光分光装置の開発の進展など、活況を呈しています。これらの3つの飛翔体搭載装置は、外部資金により国立天文台を中心として開発されました。
国立天文台はこれまで、世界の天文学を牽引する顕著な成果を挙げ、国際的に卓越した研究所として国内外から高い評価を受けてきました。これらの成果を引き継ぎ、さらに発展させていくため、昨年4月の台長就任時に、国立天文台の運営方針として、以下を挙げました。
1.Thirty Meter Telescope(TMT)計画の遂行に万全の対応を取る、
2.TMT後の大型プロジェクトの立ち上げの検討を行う、
3.大学・天文学コミュニティと国立天文台の有機的な協力体制を維持発展させる、
4.天文台内部の研究者・職員の人材活用を図る、
5.政策立案者やメディア等に対して、天文学のビジョンについて、説得力をもって訴える、
6.スペースミッションへの展開を図る、
の6点です。新年にあたり、この中のいくつかについて、これまでの進展と今後の展望を含めて、お話ししたいと思います。
Thirty Meter Telescope(TMT)計画は、日本・米国・カナダ・中国・インドの5か国の協力で進められている口径30 m の超大型望遠鏡の建設計画で、国立天文台は計画の中枢部分の望遠鏡本体や主鏡の製作などを担当しています。ハワイ島マウナケア山頂での建設工事が4年近く中断し関係各方面にご心配をかけていますが、工事中断期間中も日本および各国の担当部分の設計・製作は着々と進行しています。
TMTをマウナケア山頂域に建設するために必要な保護地区利用許可(CDUP)は2017年9月に、その土地を管理するハワイ大学とTMT国際天文台(TIO)で締結している土地転貸借契約(サブリース)は2014年7月に、それぞれ、ハワイ州土地天然資源委員会(BLNR)により、承認されています。BLNR による承認について訴訟が提起されていましたが、ハワイ州最高裁判所が、サブリースについては2018年8月に問題はないとし、2018年10月には、保護地区利用許可が有効であるという判決を下しました。この間、TMT推進室関係者には苦しい時期が続きましたが、ハワイの人々と対話を重ねることで、多くの支持と理解を得ることができました。現在、TMTをハワイ島マウナケア山頂に建設するという不退転の決意のもと、早期の建設工事再開に向けて、ハワイ州関係者と慎重に協議を進めています。併せて、国立天文台職員のパサデナへの派遣による人的貢献の強化等を進めていきます。
すばる、アルマ、TMTの3大プロジェクトは、文部科学省の「大規模学術フロンティア促進事業」の支援を受けていますが、当初設定された事業期間の満了が近づいているため、今年は、飛躍的な科学成果が得られる機能強化(略称「すばる2」・「アルマ2」ないし「スーパーすばる」・「スーパーアルマ」)の提案を行っていく重要な時期となっています。すばる2は、現在すばるの科学成果をけん引している超広視野主焦点カメラ(HSC)、東京大学カブリIPMUを中心とした7か国による国際協力で開発が進められている超広視野多天体分光器(PFS)、現在提案中の広視野高解像赤外線観測装置(ULTIMATE)が3本柱となります。PFSは、2021年度からの科学観測開始を目指して準備が進んでいますが、今年は、ULTIMATEの開発にぜひ着手したいものです。すばる望遠鏡はその超広視野観測能力により、2020年代を通じて世界を牽引することは確実で、すばるの広視野観測への特化による運用の簡素化と、すばるの広視野観測で発見した現象をTMTで詳細観測するといった連携のために、すばる・TMT の一体運用化を立ち上げていく必要があります。
将来計画の創出を促進するために、Aプロジェクトの枠組みを活用していきます。Aプロジェクトで今後の天文学の新展開を起こせる計画を練り上げていくため、応募要件を改善して公募を行いました。今年はいくつかの新プロジェクトが発足し、活動を開始していくのが楽しみです。また、この中から、JAXAのみならず、NASAやESAの大型ミッションへの参加に通じる、新たなスペースミッションの提案が出てくることも期待しています。さらに、できるだけ若い世代にAプロジェクトのリーダーを務めていただき、プロジェクトをリードする経験を積むことにより、将来の国立天文台の大型プロジェクトを担う人材育成効果も狙っています。
これらの活動により、TMT後の大型プロジェクトだけでなく、大型プロジェクトに並走する予算規模の小さい国際協力プロジェクトが生まれていくことも期待しています。また、将来計画に必要とされる技術開発を行う先端技術センターの役割は、今後ますます重要となるでしょう。これに関連して、これまで台内予算配分の復活折衝的な位置づけであった「台長留置金」を廃止し、2019年度より「リーダーシップ経費」として、台長のリーダーシップによる将来計画に資する基礎開発と設備投資のための資金とします。
国立天文台はプロジェクトやセンター以外に、科学的な成果を上げるための研究部(理論研究部、電波研究部、光赤外 研究部、太陽プラズマ研究部)という組織を置いています。しかしながら、近時、観測手段が波長横断的となるに従って、電波や光赤外といった波長ごとの組織の意味が薄れてきていること、かつ各研究部にのみ属している研究教育職員の数が少ない現状を受けて、従来、研究部が果たしてきた役割に加えて、マルチメッセンジャー天文学の推進および将来計画の議論の活性化を意図して、4つの研究部を統合し科学研究部を設置します。
文部科学省の学術研究の大型科学プロジェクト予算は、最盛期に比べてかなり減少しており、科学的生産性の高い大型観測装置の運用や新規参入に支障を来しています。一方、国の極めて厳しい財政状況の下で、学術の重要性のみを訴えても、政府と国民の理解を得ることは難しいというのが実感であります。国立天文台がこの厳しい状況に対応していくためには、以下が大切です。
1.魅力ある大型計画を国際協力により推進し、顕著な学術成果を継続的に創出すること、
2.分野間の連携による新分野を創生していくこと、
3.自らスクラップ・アンド・ビルドを行うこと、そして、
4.国立天文台の持つ技術的資産を活用して産業振興などへ貢献していくこと、
の4点です。
世界に1台しかないような観測施設を大規模な国際協力により建設・運用していくことは、いまや、国立天文台の強みの一つとなっています。また、KAGRAと電磁波の望遠鏡が連携したマルチメッセンジャー天文学、アストロバイオロジーセンターとの連携による系外惑星探査とアストロバイオロジー研究、2018年3月に旧岡山天体物理観測所より改組したハワイ観測所岡山分室による京都大学3.8m望遠鏡「せいめい」の共同利用観測支援など、基礎物理学から生命科学に広がる分野間の連携による新分野創生の種はいくつもあります。また、国立天文台の技術ポテンシャルを生かすため産業連携室の設置を検討しています。
限りある予算と人材の中で、最優先するプロジェクトの実現を目指すために、国立天文台は常にコスト削減と資源の有効活用を行ってきました。国立天文台の歴史は、スクラップ・アンド・ビルドの繰り返しといっても過言ではありません。すばる、アルマ、TMTなどの新たな最先端の大型プロジェクトを推進する一方で、長期にわたり日本の天文学の発展を支え続けた国内施設を組織替えするということをしてきました。これらの施設の中には、干渉計型重力波アンテナTAMA300のように、ミッション終了後の現在も、若手教育や新しい技術開発のテストベッドとして、これから国際的に活躍していける施設があります。また、旧野辺山太陽電波観測所の電波ヘリオグラフおよび旧岡山天体物理観測所の望遠鏡群は、観測所の改組後も、引き続き利用を強く希望する大学を中心に国内外から調達された資金により、現在も維持されています。これらの活動には、大学が主要な役割を果たしており、国立天文台と大学との関わりについて新たな視点が必要と思ってい ます。今後も、国立天文台のリソースの選択と集中を進めるため、既存プロジェクトの在り方について積極的な検討を行っていきます。
日本の科学の失速が懸念されています。実際、物理、化学、医学、材料科学といった自然科学14分野のうち11分野では論文数が減少しており、増加している分野でも世界平均を下回っていることが報道されています。しかし、唯一、天文学分野は、論文数の増加が世界平均を上回っており、また日本からの論文数の世界シェアも、自然科学14分野のうち第1位となっています。(注)
すばるとアルマは、日本の科学の発展にとっても大きなマイルストーンとなりました。このような大型観測装置を基軸とした天文学の急速な進展は、我が国の大学共同利用機関を中心とした学術研究に新たな発展と刺激をもたらし、日本の国際的プレゼンスの向上、国民、特に若い世代に、科学への関心のみならず誇りと自信をもたらしています。国立天文台は、今後とも、大学共同利用機関としての責務を自覚し、新規技術の開拓にまい進し、魅力的な大型国際共同プロジェクトを提案・実現していきます。これらの事業に職員一丸となって取り組みたく、職員皆さんのご理解とご支援をお願い申し上げます。
2019年1月8日
国立天文台長 常田佐久