(© SHOGAKUKAN Inc. 提供 ガールズ&パンツァーの聖地・大洗の大洗駅)

(アニメ/ガールズ&パンツァー)

① ""有名アニメ作品の「聖地巡礼」と鉄道、その現状と課題 ""
2019/01/27 16:00
「聖地巡礼」という言葉はもともと、聖人にゆかりがあったり、奇蹟が起きた土地を訪れることを指すが、最近はアニメーションの作中に登場する場所をファンが訪れることも表す。風光明媚な場所が作中モデルになることも多く、意外な場所に多くの観光客が訪れるきっかけともなっている。ライターの小川裕夫氏が、アニメ作品の聖地巡礼と、鉄道との関係についてレポートする。
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信仰心が薄いと言われる日本人だが、初詣や学業祈願などで神社仏閣に参拝したことがないという人は少数派だろう。日本では神社仏閣のほか山や川、海などは聖地と化し、人々の信仰を集めてきた。一例を挙げれば富士山がそれにあたり、そうした聖地を訪ねる旅は聖地巡礼と称されてきた。
聖地巡礼において、鉄道が果たした役割は大きい。関東なら成田山新勝寺や川崎大師、関西なら高野山や生駒山宝山寺といった聖地の多くは、鉄道が発達したことにより明治期から大正期にかけてメジャー化した。
神社仏閣を巡る鉄道は、いまだ人気がある。その一方、現在は聖地巡礼の新たな形が生まれている。それが、アニメやマンガの舞台になった地を訪れるというものだ。
アニメやマンガの舞台を巡る"聖地巡礼"は、近年、コンテンツツーリズムと呼ばれるようになった。2012年から放送を開始した「ガールズ&パンツァー」(ガルパン)は、コンテンツツーリズムの先駆けでもある。
茨城県大洗町に本拠地を置くとされる大洗女子高校と、戦車道という競技で競い合う女子高校生たちの奮闘ぶりを描いた同作では、あちこちのシーンで大洗の街並みが描かれている。同作のファンは、実際に現地に足を運びアニメの世界に没入する。
「鹿島臨海鉄道では、アニメ放映と同時にガルパンのラッピング車両を導入しました。現在までに、ガルパンのラッピング車両は4両製造しています。そのうち初代の1号車は塩害で車体が傷んだことで廃車になりましたが、2017年にリニューアルでラッピングを貼り替えて、新たに4号車として生まれ変わりました」と話すのは鹿島臨海鉄道の担当者だ。
鹿島臨海鉄道は、茨城県の水戸駅と鹿島サッカースタジアム駅との約53.0キロメートルを結ぶ路線。大洗町の玄関でもある大洗駅は、茨城県の水戸駅から3駅目に位置する。水戸駅からの乗車時間は、約15分と短い。
そのため、大洗駅から水戸へ通勤・通学している人も少なくない。なにより、大洗は東京から近い人気の海水浴場としても知られているので、夏場になると首都圏から多くの海水浴客が集まる。
その一方、大洗町の人口は約1万6000人と少なく、ほかの地方都市と同様に人口減少に悩まされている。
沿線の市町村人口が減少すれば、当然ながら鹿島臨海鉄道の利用者は減る。しかし、人口が増加する兆しは見えない。
そうした中、鹿島臨海鉄道は交流人口の増加に活路を見出そうとする。ガルパンとのコラボは地域を活性化させる一手段でもあった。
大洗駅は、作中で頻繁に登場する。それだけに駅構内ではガルパンの登場人物を描いたヘッドマークやポスターなどをあちこちで目にする。また、駅の中にある案内所はガルパングッズで埋め尽くされている。
さらに、駅を一歩外に出ればガルパンの顔出しパネルも設置されているので、駅で記念撮影をしていくファンが多い。大洗に足を運ぶだけではなく、ガルパンに登場する北浦湖畔駅を訪問する巡礼者もいる。
ガルパンの聖地になっている鹿島臨海鉄道は、遠方からの巡礼者に満足してもらおうと工夫を重ねている。特に、好評を博しているのが、記念入場券の販売だ。
「弊社では硬券の入場券を販売し、日付の入った記念スタンプを押しています。この記念スタンプはガルパンのキャラクターを絵柄にしているのですが、月替わりで絵柄を変えるようにしています。そのため、それを御朱印のように集めているファンも多いようです。また、日付が入るので、推しメンの誕生日に訪れるファンもいます」(同)
アニメと鉄道のコラボでは、2019年1月から劇場版が公開された「ラブライブ!サンシャイン!!」(ラブライブ!)も話題になっている。同シリーズは2010年からマンガ連載を開始し、すぐに人気に火がついた。
スクールアイドルという部活動で全国大会「ラブライブ!」に出場する物語である同作は、架空の高校・浦の星女学院高校が舞台になっている。その所在地とされているのが静岡県の沼津市と三島市の一帯だ。
沼津は鉄道の街としても知られる。過去には機関区があり、SLの名所でもあった。沼津駅は今でもその名残をとどめており、駅南口にはSLの煙室扉と動輪が展示されている。
ラブライブ!の作中では、その横で、津島善子が堕天使のパフォーマンスを披露するシーンがある。印象的なシーンではあるが、残念なことにJR東海や沼津駅、沼津市がラブライブ!を全面的にPRしている雰囲気は駅前からは感じられない。
地域に密着した私鉄とは異なり、JRが全面的にラブライブ!を押し出すことは難しいのかもしれない。
ラブライブ!とのコラボに力を入れているのは、三島駅-修善寺間の約19.8キロメートルの駿豆線を運行する伊豆箱根鉄道だ。
伊豆箱根鉄道駿豆線の伊豆長岡駅は、駅舎全体がラブライブ!のラッピングで覆われている。この駅舎ラッピングが大規模だったため、ファンや地域住民の間で大きな反響を呼んだ。しかし、「伊豆長岡駅では、2017年7月からラブライブ!のラッピングを施しました。しかし、市の"屋外"広告条例に抵触しているとの指摘を受けました。そうしたことから、2018年3月に“屋内”広告物に貼り替えることになりました。貼り替えと同時に、新しいデザインに変えています」と話すのは伊豆箱根鉄道総務課の担当者だ。
ラブライブ!のラッピングが施されていた駅舎のガラス壁は、厚さが約1センチ。はた目からしたら、屋外だろうが屋内だろうが、さほど違いを感じない。それでも内側と外側の違いだけで、条例に抵触してしまった。
市からの指摘を受けて新たに貼り替えられた屋内ラッピングは、屋外に貼り出されたモノよりサイズは大きくなった。これが、かえってファンを歓喜させた。
ラブライブ!効果は、数字にも表れている。伊豆長岡駅の一日平均乗降人員は、2015年度が4816人。対して、2017年度は4953人。一日あたり100人以上も増加した。
一日に100万人以上も利用される東京圏や大阪圏と比べれば、100人の増加は微々たる数字に思えるかもしれない。しかし、地方の鉄道にとって、一日100人の利用者増はかなり大きい。
人口減少待ったなしの地方都市にとって、公共交通の維持は至上命題になっている。なかでも、鉄道インフラの存亡は街の衰退を左右する。それだけに、自治体も鉄道維持には躍起になる。
しかし、どこの市町村も自治体財政は逼迫しており、地域にとって重要だとわかっていながらも鉄道会社の経営支援のために税金を投入することに二の足を踏む。
コンテンツツーリズムで聖地巡礼者を呼び、巡礼者たちが鉄道を利用することで鉄道維持にかかる地元住民の負担軽減にもつながる。それは、ひとえに地方都市の生存戦略にもなるだろう。
しかし、アニメファンを金づると見てしまえば、巡礼者はそっぽを向く。そうしたら、せっかくの地域振興が水の泡だ。
アニメの放映期間は原則的に3か月。マンガの場合はそれよりも長い連載になるが、それでも聖地巡礼は一時的なブームでしかないと冷ややかに見る向きもある。
しかし、クレヨンしんちゃんの埼玉県春日部市やちびまる子ちゃんの静岡県静岡市(マンガ連載時は清水市)のように一般に浸透した聖地もある。
地域資産として定着させるためには、地方自治体と鉄道会社の協力関係は不可欠だ。どのように巡礼者と向き合うのか? 地方自治体と鉄道会社の新たな向き合い方が注目される。
※ アニメと鉄道、地方公共団体となかなかユニークな切り口で面白いリポートです。
より根本的な問題がありますが、その答えは今のところ不明です。つまり、この
""聖地巡礼""が上手く仕掛けられたものなのか、-(バレンタインデーのチョコレート
は、森永製菓が仕掛けたものとされています)-それとも個人が始めて徐々に拡大して
行ったのか、それこそ諸説ありでしょうが一度、その原点を調べてみたいものです。
➡ 今はアニメ・漫画の影響力ですが、先行するものとしてNHKの大河ドラマや
映画の「フーテンの寅」の柴又やロケ先に観光客が行くという動きは現在も
続いています。