フロムが、The Art of Loving 『人を大事にする術』を出版したのが1956年、今から58年前のこと。フロムは当時のアメリカ社会をベースにして、もちろんヨーロッパでの体験を含めて、この本を著しました。今の日本とは、場所も時代も違いますね。
フロムは、「人を大事にすることもバラバラ」といいますね。それは当時のアメリカ社会のことを第一義的には言っているはずです。しかし、それは資本主義、物質主義、唯物論的なものの見方が蔓延した社会でのことを言ったことも、確かですよね。そうすると、≪いまここ≫、現在の日本社会に対しても、射程範囲だと考えることもできますよね。
じゃぁ、今現在の日本社会は「人を大事にすることもバラバラ」なんでしょうか?
人を大事にすることがバラバラになっている社会病理の一つに、「一人でいるのが嫌だから、『一緒にいよう』と人を大事にする」ことがあると言いますよね。今の日本は、それよりもはるかに「進んでいる advanced」ことがハッキリ分かります。いくつか例を挙げましょう。
1つは、上の写真の記事が示すように、公営住宅での高齢者の単身世帯の急増と孤独死の激増です。高齢者は、社会の中で最も弱い存在の一つです。年を取ると、「一人でいるのは嫌だから、『一緒にいよう』と」しても、その相手が亡くなってしまうこともあります。また、別居していた家族と再び同居したり、新たなパートナーを見つけたりするのが、難しかったりするんでしょ。人を大事にするためには、相手が必要ですが、たくさんな高齢者は、その相手さえ見つからない、ということです。そして、長い人生を真面目に生きた人でさえ、その最後をたった一人で死んで行っているんですね。
もう1つは、このブログで繰り返し取り上げている、愛着障害の子どもたちが、ビックリするほど多い、ということ。今、小学校では、勉強以前のことで、子どもと係らなければならないことが「異常に多い」と小学校教員が何人もこぼすんですね。「(授業中でも立ち歩くような)落ち着かない子」、「何度注意しても、同じことを繰り返す子」、「すぐに暴力をふるう子」、「クラスの子と仲良くできない子」…。一対一の安定した愛着関係がないので、三項関係(一項目・子ども―二項目・教員など―三項目・授業やルールや時間割や振り返りなど)でやっている、三項目が、授業でもルールでも、時間割でも、振り返り学習でも、1つもできないんですね。授業に身を入れたり、ルールを忠実に守ることなど、出来ません。日本では、労働者の実質的な拘束時間が異常に長く、しかも、通勤時間も長い。すると、子どもと一緒にいる時間が、物理的に圧倒的に少なくなりますね。これは、虐待の一つ、ネグレクトになりますよね。北欧のように、17時すぎには自宅に戻って、夕食を家族全員でするのが当たり前、などと言う家庭は、日本ではほとんど「奇跡」なのですからね。すると、子どもも、親も、ぬくもりのある時間を日々共に体験することが、できないだけじゃぁない。話をする時間さえないという「異常事態」のネグレクトが「普通」になっちゃっているわけですね。愛着障害の子どもがこんだけ多いのも、ある意味当然ですね。
これらは、資本主義、物質主義、唯物論的ものの見方が蔓延した社会では、当然の帰結で、仕方がない、という人もいるでしょうね。
しかし、私はそうは考えない。これは ❝政治の無策、不作為のなせる業❞ です。この ❝政治の無策、不作為のなせる業❞ は、1つや2つではなくて、猛烈に多いんですね。とても言い尽くせませんから、1つ2つ記すにとどめます。
1つは働く者の人権を蔑ろにした結果です。法定労働時間を政治が順守する仕組みを作らないという不作為のために、過労死するほど、労働者は働かされています。子どもと夕食を共にする時間さえない。これでは、「人間らしい暮らし」とは言えません。
もう1つは、保育所、障碍者施設、医療機関が足りないこと、医者以外に医療保険の保険請求ができない仕組みが、欧米のように、パラメディカルに開かれていないことが、働く母親と子どもたちの、社会福祉サービス、医療サービスを安価で安定的に提供することを難しくしてんですね。つまり、母親と子どもの人権が蔑ろにされてます。たとえば、臨床心理士の仕事。これが医療保険で利用することができれば、町医者に行くように、医療保険片手で、私設相談室を利用できるようになります。いま、全額自己負担だと、1時間10,000円の利用料がかかるとすれば、それが今の診療報酬の基準に従ったら、3,000円、診療報酬の基準が下がれば、1,000円、保護世帯は無料で相談ができます。
法定労働時間が守られ、社会福祉サービスや医療サービスがこのように改善すれば、働く母親も働きやすく、子どもは生きやすくなりますね。
明日の選挙、私どもは、「人間らしい暮らし」を手に入れるための一票にしたい、と強く念じるものです。
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