「僕は昨日ウインドしたよ。結局は5.3ジャストだった。
小波だったけど、アウトではスピードセイリングが出来た。実に楽しかったよ。
夕刻に誰もいない沖で一人で走るのはとても充実感を感じる。
沖に向かうときは思い切り風上に上り、ジャイブして一気にビーチまで下らせるんだ。
ある程度の速度に達すると風が粘性を帯びてまったりしてくる。不思議な感覚。」
「あんたを見ていたよ。オイラは波待ちしながらあんたを見ていた。」
ウエーブ男が足首をさすりながら言った。
「あんたがゲッテイングアウトしていくとき、オイラのワキをかすめていった。
一つ言っておくけど、ビーチへ向かってくるときサーファーの群れの前で
派手に転ぶのは勘弁してくれよ。かなり怖いもんだよ。」
「それは悪かったね、ついつい夢中になってね。。
ところで、君は波乗りもするのか?なんで昨日は波乗りなんだ?」
ウエーブ男はまた足首をさすった。
「実は先週怪我をしたんだ。
オイラも調子に乗っててさ、リッピングしたらそこはビーチぎりぎりだったのさ。
海底にフィンが刺さり、足がストラップから抜けなくて、
その反動で体制崩してさ、頭から海底に激突したんだ。
目の前が真っ暗。そう、頭が海底に突き刺さったんだ。
その状態で引き波にやられたから、足だけバタバタしちゃってね、
足だけ海面から出ていたみたいだ。本当に苦しかった。死ぬかと思った。」
「君は案外おっちょこちょいだね。」僕は苦笑した。
「そこまで波を攻めるのはウエーブ男らしくないよ。何か自分を責めてる?
自虐的なものを感じるなぁ。どうしちゃったの?」
「あんたは誤解してるよ。オイラに『自分』はない。オイラはあんた自身だからね。」
「でも僕は海底に頭を突き刺すようなことはしないよ。上下反対だし!」
ついに僕は吹き出した。隣の彼女も大笑いをした。
彼女はジョージハリスンのレコードレーベルがプリントされているトレーナーを着ていた。
プリントは食べかけのリンゴのロゴだ。
ビートルズ解散後のジョージがアップルレーベルをふざけて『ザップル』にしたときのロゴ。
「ザップルって食べかけのリンゴって意味みたい。
本意ではない、という意味じゃなくって?
『海底に頭を刺すなんて本意ではない』、でしょ?ザップルさん!」
「おいおい、ヨーコ言い過ぎだよ。アップルさんでいいじゃないか。」
結局ウエーブ男はアップルさんと言われることになった。
アップルさんはみんなの中に生きている。みんな自身ということだ。
ウエーブだけして暮らしてく。。。ユートピアは海にありき。




命からがら海底から脱出したウエーブ男 『ご近所の茅ケ崎市民が撮影』
小波だったけど、アウトではスピードセイリングが出来た。実に楽しかったよ。
夕刻に誰もいない沖で一人で走るのはとても充実感を感じる。
沖に向かうときは思い切り風上に上り、ジャイブして一気にビーチまで下らせるんだ。
ある程度の速度に達すると風が粘性を帯びてまったりしてくる。不思議な感覚。」
「あんたを見ていたよ。オイラは波待ちしながらあんたを見ていた。」
ウエーブ男が足首をさすりながら言った。
「あんたがゲッテイングアウトしていくとき、オイラのワキをかすめていった。
一つ言っておくけど、ビーチへ向かってくるときサーファーの群れの前で
派手に転ぶのは勘弁してくれよ。かなり怖いもんだよ。」
「それは悪かったね、ついつい夢中になってね。。
ところで、君は波乗りもするのか?なんで昨日は波乗りなんだ?」
ウエーブ男はまた足首をさすった。
「実は先週怪我をしたんだ。
オイラも調子に乗っててさ、リッピングしたらそこはビーチぎりぎりだったのさ。
海底にフィンが刺さり、足がストラップから抜けなくて、
その反動で体制崩してさ、頭から海底に激突したんだ。
目の前が真っ暗。そう、頭が海底に突き刺さったんだ。
その状態で引き波にやられたから、足だけバタバタしちゃってね、
足だけ海面から出ていたみたいだ。本当に苦しかった。死ぬかと思った。」
「君は案外おっちょこちょいだね。」僕は苦笑した。
「そこまで波を攻めるのはウエーブ男らしくないよ。何か自分を責めてる?
自虐的なものを感じるなぁ。どうしちゃったの?」
「あんたは誤解してるよ。オイラに『自分』はない。オイラはあんた自身だからね。」
「でも僕は海底に頭を突き刺すようなことはしないよ。上下反対だし!」
ついに僕は吹き出した。隣の彼女も大笑いをした。
彼女はジョージハリスンのレコードレーベルがプリントされているトレーナーを着ていた。
プリントは食べかけのリンゴのロゴだ。
ビートルズ解散後のジョージがアップルレーベルをふざけて『ザップル』にしたときのロゴ。
「ザップルって食べかけのリンゴって意味みたい。
本意ではない、という意味じゃなくって?
『海底に頭を刺すなんて本意ではない』、でしょ?ザップルさん!」
「おいおい、ヨーコ言い過ぎだよ。アップルさんでいいじゃないか。」
結局ウエーブ男はアップルさんと言われることになった。
アップルさんはみんなの中に生きている。みんな自身ということだ。
ウエーブだけして暮らしてく。。。ユートピアは海にありき。




命からがら海底から脱出したウエーブ男 『ご近所の茅ケ崎市民が撮影』