福島章恭 合唱指揮とレコード蒐集に生きるⅢ

合唱指揮者、音楽評論家である福島章恭が、レコード、CD、オーディオ、合唱指揮活動から世間話まで、気ままに綴ります。

古いブログより ~ ボールトのブランデンブルク協奏曲(レコード徒然草 2007.06.01)

2013-12-29 06:03:00 | コーラス、オーケストラ
かつて、「レコード徒然草」というブログをやりはじめて挫折したことがある。
廃業して久しいブログの中から、記事保存の意味からも、今後いくつかの記事を再掲しておきたいと思う。


2007年06月01日
ボールトの季節

ボールトの名盤が2組入手できた。ここのところ、ボールトに入れ込んでいるが、どうも今はそういう周期のようだ。どういうわけか、次から次へとボールトのレコードが、眼前に飛び込んでくる。こんな時は、その流れに素直に従うまでだろう。

J.S.バッハ:
ブランデンブルク協奏曲全曲
サー・エイドリアン・ボールト指揮 ロンドン・フィル

英EMI SLS868(モノクロ切手レーベル、73年リリース)  

何という大らかで、豊穣なバッハだろう。大編成のオーケストラをたっぷり鳴らして、などというと古楽器ファンからソッポを向かれてしまいそうだが、ボールト翁の自由な境地の前では、オーケストラの大小、演奏様式の新旧など、まったくどうでもよくなってしまう。否、ボールトの破天荒なパワーは、小さな古楽器オーケストラでは受け止めきれなかったに違いない。
 どのナンバーも、まるで源泉から勢いよくお湯が噴出するような、無尽蔵のエネルギー感と躍動感に溢れており、さらには、まるで少年のような純粋さと老境ならではの魂の自由な境地が同居している。リリースされた73年(残念ながら録音データ無記載)といえば、1889年生まれのボールトが84歳ということになるが、そこに枯淡の味わいは皆無。今まさに青春を謳歌しているといった風情が嬉しいではないか。ヴァイオリンなしの編成で、渋い響きが身上の「第6」すら、底抜けの明るさなのには驚かされる。因みに、ボールトの没年は1983年なので、この演奏に「晩年の」という形容詞は不要である。
 ソリストたちも素晴らしい。「第5」に於けるレイモンド・レッパードのチェンバロの雄弁さが、ボールトの演奏に誠に相応しいものだが、もっとも個人的に嬉しいのが、「第2」「第4」のリコーダー奏者が、あの夭折の天才デイヴィド・マンローであることだ。私が、もっとも愛するリコーダー奏者に、ここで出会えるとは望外の歓びである。
 マンロウの演奏は、期待通りの美しさで、憂いを帯びつつも透明な音色にしろ、タンギングや節回しひとつとっても、他の誰もが真似できない孤高の境地にある。「第4」では、盟友ジョン・ターナーとのデュエットがまさに一心同体の至芸!
 なお、当BOXはSLSという規格番号だが、Niel Ellingham氏編纂の「The HMV Book of Numberd」によると、クレンペラーのベートーヴェン交響曲全集のようなSAX盤のリイッシューではなく、オリジナルのようである。それにしても、こんな素晴らしいパフォーマンスが、皆さんにCDで聴いて頂けないとは残念である。別に意地悪で書いているわけではないのだけれど。

追記
昨年発売された下記のBOXに「ブランデンブルク協奏曲全曲」が収録されております。
限定盤とのこと。まだ、在庫があると良いのですが・・・。

From Bach to Wagner
http://tower.jp/item/3130244/From-Bach-to-Wagner<限定盤>