土曜日に梅田まで『リップヴァンウィンクルの花嫁』という映画を観にいったのは、岩井俊二監督×Cocco出演という条件がそろったからにほかならない。
前世紀末に私が最も感銘を受けたアーティストがCoccoであり、10数年前に観て、最も衝撃を受けた映画『リリイ・シュシュのすべて』を撮った監督が岩井俊二。
その思い入れ深い両者が10数年の時を経て繋がった。もう観に行くしかないだろう。
Coccoはドキュメンタリー映画合わせてすでに2本の映画で主役をはっているが、私はその2本ともなぜか観る気にはなれなかった。
歌手Coccoとしての思い入れが強すぎて、ステージでもあんなリアルなCoccoが映画で演技をしてるのを観るのがなんか怖かったのだ。
岩井作品に関しては、『リリイ~』鑑賞後他の作品も何本か観てみたが、『リリイ~』の衝撃が凄すぎたのか、どれもピンとこなくて『花とアリス』を劇場で観たっきり関知してこなかったが、今回の作品は実はそれ以来だったのね。
梅田ブルグという映画館は行ったことがなく、大阪のオフィス街の高そうなメシ屋がたくさん入居しているシャレオツなビルの上階のシネコン。
で、やっぱり岩井監督は凄かった。
劇場で映画を観て、何年か振りに感情を揺さぶられた。
主役の七海を演じるのは、NHK大河ドラマ『真田丸』などで今をときめく黒木華さん(先日死んじゃったんだっけ?)。
七海は、地味で引っ込み思案でうだつの上がらない、それでいてSNSで簡単に男と付き合ってしまうような、軽率で優柔不断で周りに流されやすい平凡な女性。
パンフレットとかでは、この普通の女性を見事演じきる黒木さんをしきりに絶賛する文章が目立つが、上手い下手抜きにして、私はこの黒木さん演じるあまりにも無力で危うい感じの女性像に最初イライラを禁じ得なかった。
彼役の人と接するときの控えめでかわいらしい仕草もなんかブリっ子すぎて鼻についた。
あと前半の結婚披露宴シーン。これはダルかった。
もう友人の余興とかよくあるベタな披露宴のシーンで、なんか赤の他人の披露宴ビデオを見せられているようで、これがまたイライラするのだ。
その時私が心の中で思ってたのは「Coccoいつ出てくんねん!」ってことであった。
ただ、『リリイ』を見た人なら分かっていると思うが、これこそが岩井監督独特の手法で、こういった誰もが見たことあるような淡い風景をジックリ見せることによって、鑑賞者にリアルな感覚を植え付けるのである。
ただ、この場面でひとつシラけた箇所があったのが、『花とアリス』でも散々やらかしてたどうでもいい有名人のカメオ出演。フジがからんでるらしく大人の事情があったんだろうが、せっかくのいい作品にケチがつくのでこういうのはやめてほしかった(せめてもうちょっと人を選べよ)。
トントン拍子で幸せ街道を突き進むかに見えた七海の人生は、中盤にさしかかると音をたててガラガラと崩れ始める。それはもう残酷に。この辺もいかにも岩井テイスト。リアルにエグい。
そこに暗躍するのが、綾野剛演じるなんでも屋(なりすまし屋)の安室。このミステリアスな安室の存在は、一種クライムサスペンス的な雰囲気をも匂わせ、もう物語がどういう方向にいくのか予測不能になる。私の浅はかな想像力では、「この映画って、大掛かりで壮大なスケールのドッキリ映画ちゃうか!?」なんてことを一瞬思ってしまった。
そして後半、ようやくCoccoが登場。
(あ、こっからはCocco贔屓のオッサンの意見なんで、気持ち悪がられるかもしれんけど)
Cocco演じる真白は、七海にはないものを全部持っているといった、破天荒で天使のような存在。
そして物語は真白の登場によってグっと引き締まったものとなり、七海の人格にも精気のようなものが宿り出すのだ。
Mステなど、テレビでの挙動ったCoccoしか見たことのない人は意外に思うかもしれないが、今回初めて観たCoccoの演技は、まぁほとんど普段の素のCoccoに近い。
(Coccoは気を許した人に対しては、本当に人懐っこくて気さくにしゃべりまくる人物なのだ。)
CoccoがCoccoを演じている感じ。つまり生々しくリアルなのだ。
こういったニュアンスは本格的な役者さんには出せない味だと思う。岩井俊二監督はまさにそれを求めていたのだと。Coccoそのものを撮りたかったのだと。
劇中では、彼女の生歌も披露される。
それはCoccoの作った曲ではなく、ユーミンの曲。
カラオケバーみたいなところで歌うシーンなのだが、東京の人ごみの中で真白とはぐれてしまった七海が、喧騒の街中で必死に真白を探し求めるシーンで、そのCoccoの歌がシンクロして響いてきたときは、やはり涙を抑えきれなかった。
あと、岩井監督がTVBrossのインタビューで「Coccoが音楽活動休止する前の最後のライブでMCで言ったことがこの映画のストーリーに影響している」と言っていた。
終盤、七海と真白がベッドの上で向かい合って話しているシーンが出てきた時、ここだなってのはすぐにわかった。
もうこのCoccoの長いセリフ、ライブでCoccoのMC聞いているときの感覚となんら変わらんかったもんな。
パンフ。寿タッチなデザインがシャレてていいね。
エンドロールで初めて気づいたのだが、この映画に個人的に思い入れ深かったAV女優さんも出演していて感慨深い気持ちになった。
ほんで岩井監督、ふざけてるのか、マジなのか、今回ちょいちょい(綾野氏演じるキャラクター名見てもわかるように)ガンダムネタをぶっこんできてて、劇場で何回か吹いてしまった。
とまぁ、私の好きなものが不可思議にも詰まりに詰まった大傑作映画であった。
オススメ度:★★★★★
今日の1曲:『コスモロジー』/ Cocco
前世紀末に私が最も感銘を受けたアーティストがCoccoであり、10数年前に観て、最も衝撃を受けた映画『リリイ・シュシュのすべて』を撮った監督が岩井俊二。
その思い入れ深い両者が10数年の時を経て繋がった。もう観に行くしかないだろう。
Coccoはドキュメンタリー映画合わせてすでに2本の映画で主役をはっているが、私はその2本ともなぜか観る気にはなれなかった。
歌手Coccoとしての思い入れが強すぎて、ステージでもあんなリアルなCoccoが映画で演技をしてるのを観るのがなんか怖かったのだ。
岩井作品に関しては、『リリイ~』鑑賞後他の作品も何本か観てみたが、『リリイ~』の衝撃が凄すぎたのか、どれもピンとこなくて『花とアリス』を劇場で観たっきり関知してこなかったが、今回の作品は実はそれ以来だったのね。
梅田ブルグという映画館は行ったことがなく、大阪のオフィス街の高そうなメシ屋がたくさん入居しているシャレオツなビルの上階のシネコン。
で、やっぱり岩井監督は凄かった。
劇場で映画を観て、何年か振りに感情を揺さぶられた。
主役の七海を演じるのは、NHK大河ドラマ『真田丸』などで今をときめく黒木華さん(先日死んじゃったんだっけ?)。
七海は、地味で引っ込み思案でうだつの上がらない、それでいてSNSで簡単に男と付き合ってしまうような、軽率で優柔不断で周りに流されやすい平凡な女性。
パンフレットとかでは、この普通の女性を見事演じきる黒木さんをしきりに絶賛する文章が目立つが、上手い下手抜きにして、私はこの黒木さん演じるあまりにも無力で危うい感じの女性像に最初イライラを禁じ得なかった。
彼役の人と接するときの控えめでかわいらしい仕草もなんかブリっ子すぎて鼻についた。
あと前半の結婚披露宴シーン。これはダルかった。
もう友人の余興とかよくあるベタな披露宴のシーンで、なんか赤の他人の披露宴ビデオを見せられているようで、これがまたイライラするのだ。
その時私が心の中で思ってたのは「Coccoいつ出てくんねん!」ってことであった。
ただ、『リリイ』を見た人なら分かっていると思うが、これこそが岩井監督独特の手法で、こういった誰もが見たことあるような淡い風景をジックリ見せることによって、鑑賞者にリアルな感覚を植え付けるのである。
ただ、この場面でひとつシラけた箇所があったのが、『花とアリス』でも散々やらかしてたどうでもいい有名人のカメオ出演。フジがからんでるらしく大人の事情があったんだろうが、せっかくのいい作品にケチがつくのでこういうのはやめてほしかった(せめてもうちょっと人を選べよ)。
トントン拍子で幸せ街道を突き進むかに見えた七海の人生は、中盤にさしかかると音をたててガラガラと崩れ始める。それはもう残酷に。この辺もいかにも岩井テイスト。リアルにエグい。
そこに暗躍するのが、綾野剛演じるなんでも屋(なりすまし屋)の安室。このミステリアスな安室の存在は、一種クライムサスペンス的な雰囲気をも匂わせ、もう物語がどういう方向にいくのか予測不能になる。私の浅はかな想像力では、「この映画って、大掛かりで壮大なスケールのドッキリ映画ちゃうか!?」なんてことを一瞬思ってしまった。
そして後半、ようやくCoccoが登場。
(あ、こっからはCocco贔屓のオッサンの意見なんで、気持ち悪がられるかもしれんけど)
Cocco演じる真白は、七海にはないものを全部持っているといった、破天荒で天使のような存在。
そして物語は真白の登場によってグっと引き締まったものとなり、七海の人格にも精気のようなものが宿り出すのだ。
Mステなど、テレビでの挙動ったCoccoしか見たことのない人は意外に思うかもしれないが、今回初めて観たCoccoの演技は、まぁほとんど普段の素のCoccoに近い。
(Coccoは気を許した人に対しては、本当に人懐っこくて気さくにしゃべりまくる人物なのだ。)
CoccoがCoccoを演じている感じ。つまり生々しくリアルなのだ。
こういったニュアンスは本格的な役者さんには出せない味だと思う。岩井俊二監督はまさにそれを求めていたのだと。Coccoそのものを撮りたかったのだと。
劇中では、彼女の生歌も披露される。
それはCoccoの作った曲ではなく、ユーミンの曲。
カラオケバーみたいなところで歌うシーンなのだが、東京の人ごみの中で真白とはぐれてしまった七海が、喧騒の街中で必死に真白を探し求めるシーンで、そのCoccoの歌がシンクロして響いてきたときは、やはり涙を抑えきれなかった。
あと、岩井監督がTVBrossのインタビューで「Coccoが音楽活動休止する前の最後のライブでMCで言ったことがこの映画のストーリーに影響している」と言っていた。
終盤、七海と真白がベッドの上で向かい合って話しているシーンが出てきた時、ここだなってのはすぐにわかった。
もうこのCoccoの長いセリフ、ライブでCoccoのMC聞いているときの感覚となんら変わらんかったもんな。
パンフ。寿タッチなデザインがシャレてていいね。
エンドロールで初めて気づいたのだが、この映画に個人的に思い入れ深かったAV女優さんも出演していて感慨深い気持ちになった。
ほんで岩井監督、ふざけてるのか、マジなのか、今回ちょいちょい(綾野氏演じるキャラクター名見てもわかるように)ガンダムネタをぶっこんできてて、劇場で何回か吹いてしまった。
とまぁ、私の好きなものが不可思議にも詰まりに詰まった大傑作映画であった。
オススメ度:★★★★★
今日の1曲:『コスモロジー』/ Cocco
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