今までいくつもの劇場に足を運んだが、最高の絶景だったのは、イギリスのペンザンスの近くのランズエンド付近にある、ミナック・シアターという劇場である。
この劇場は断崖絶壁に作られた野外劇場で、後ろに海が見え、波の音が聞こえるという奇跡のロケーションである。
後ろにはポースカーノ湾が広がっている。
この劇場はロエナ・ケイドという婦人が、60年掛けてほとんど一人で石を運んで作ったという稀有な劇場で、ロエナ・ケイドさんのこの孤高の振る舞いは、トーベ・ヤンソンの登場人物みたいである。
私はここで「ジャバウォッキーに気をつけろ」という児童劇を見た。
見に行くと大勢の子どもと引率の先生だけで、ふつうの大人はほとんどいない。
何やら大きな芋虫のお化けみたいなのが登場して大暴れする、これと言って筋もない話なのだが、子どもたちには大受けで、みんな、キャーキャー言って手を叩いたり、足を鳴らしたりして喜んでいる。
何か子どもの五感を刺激するツボがこのタイプの児童劇にはあるらしい。
イギリスの子どもの幸せな歓声に包まれて、場違いな感じではあったが、こちらまで楽しくなってしまった。
そのあとポースカーノ湾に降りて行って、ビーチコーミングをしたりして過ごした。
今思えば夢のような光景である。一人の女性が手作りで仕上げた断崖絶壁の劇場など、ほとんど他に例がないだろう。地元の人にも大切にされ、子どもにまで親しまれている隠れた名所である。
今でもあれは夢ではなかったか、と思われるほど、幻想的な風景だった。
変わったところで劇を見てみたい、という人には是非お勧めしたい。
今まで長い間忘れていたのだが、今日思い出して無性に懐かしくなってしまった。ヨーロッパにはマザーグースをもとにした子ども向けの荒っぽい道化芝居「パンチとジュディー」のような、ナンセンスな子どものツボを刺激する娯楽の伝統があり、少しうらやましいぐらいの楽しい空間が時折広がるようだ。