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映画、読書などのメモ

レッドクリフ  Part Ⅰ

2020-07-24 | chinema(アジア系映画)

 

★レッドクリフ Part Ⅰ
原題:赤壁
監督:呉宇森(ジョン・ウー)
出演:梁朝偉(トニー・レオン)
   金城武
   張豊毅(チャン・フォンイー)
   張震(チャン・チェン)
   趙薇(ヴィッキー・チャオ)
   胡軍(フー・ジュン)
   中村獅童
   林志玲(リン・チーリン)
   その他
2008中国

 


私は三国志ものは何でも読む、何回でも読む。
古典としての吉川英治の三国志はいい。
陳舜臣の秘本三国志も面白い。
北方謙三の三国志は人間臭くてダイナミックである。
時に映像的文章で時にコミック的で、そういう意味では非常にモダンな作品である。
もちろん、ゲームもやるし、
横山光輝のコミックも読む。


三国志ものはいろんな視点をトレーニングするのに最適である。
登場人物が呆れるくらいに多く、
誰に焦点を合わせたらいいのか困ってしまうが、
そこが愉しく面白いところ。
RPGのように、誰を主人公にしても、物語ができる。
豪快な男気の曹操、
温和な理想家の劉備、
率直で野心家の孫権、
義の人である関羽、
豪快勇猛な張飛、
さらに豪快無欲の趙雲、
そして天才的知と理の人の孔明、
知略と勇気の人の周瑜、
などなど。魅力的人物がたくさん登場し、
いわゆる格言の世界を演出してくれる。

三国志の世界の前半クライマックスは「赤壁の戦い」、
後半終局は「五丈原の戦い」であり、
物語エネルギーがその戦いに集中する。
前半は赤イメージ、
後半は白イメージ
というのがボクの三国志世界観である。

 

 

公開初日は劇場に行った。(2008年)
いつもは混雑するであろう月の初日は避けるのに、
何かに取り憑かれたように足を運んでしまった。
ヤバいと何処かに不安なものがあったけど。
不安的中。
席はほとんど埋まる。
次のゆっくり観れる時間を選ぶことにした。


そして ついに観た。


「よくぞ作っていただきました」と感激。
「三国志」の新しい物語がまたひとつ増えた歓びが大きい。

『三国志』は多くのことわざに象徴されるように、
そこに描かれるエピソードの数々は多くの人生訓に満ちている。
登場人物へのそれぞれの思いをそれぞれの視点で
自由に語ってこそ「三国志」は現代に生きる。
この「レッドクリフ」は「赤壁の戦い」をモチーフにしながら、
二人の天才的軍師の心の繋がりを描いている。
曹操という巨大な敵を目の前にして、
一歩も引けぬ、譲れぬという命を懸けた「男たちのロマン」がテーマである。
が、覇権を競う物語にしては少し「覇気」が緩いのは、
監督ジョン・ウーの甘美な処方箋による。
「傷だらけの男達」にも通じる切ない男たちのドラマのようにも感じさせる。


「三国志」ファンとして、ちょっと注文がある。
曹操をもう少し人間的に大きく描いてほしかった。
彼のスケールの大きさが「三国志」の前半を引っ張るのである。
小喬という美人目当ての「赤壁」では、ちょっとね。
また周瑜の武人としての強靭さと知略家としての知性を引き出してほしかった。
ちょっと甘過ぎる。
しかしトニー・レオンは天性の甘さが魅力。
爽やかに笑みを浮かべるとイチコロ。


一方、金城武の諸葛孔明は、想像以上に良かった。
孫権を戦いに引き込む舌戦の場面は見惚れた。
たぶんpart IIでは七星壇を作って蝶のように舞う事だろう。
愉しみである。
趙雲フー・ジュンの「長坂橋の戦い」での孤軍奮闘の姿にはほれぼれとした。

物語のアクセントを付けたのが、周瑜の妻、小喬のリン・チーリン。
呉の誉れたかき美人として語られる女性である。
また孫権の妹、孫尚香ヴィッキー・チャオも魅力的だった。
「三国志」は男達の物語だが、この二人の女性によって、
映画「レッドクリフ」は甘く華やいだ。

めっけものなのが、甘興の中村獅童である。
さすが歌舞伎役者、様式美にハマると美しい。


208年、「赤壁の戦い」。
卑弥呼が魏に使いを送る30年ほど前の史実である。


「三国志」では、「赤壁の戦い」の最中でも、
周瑜は孔明の才能を警戒し、隙あらばと策略を巡らし、
曹操敗北後は、この二人は敵となり戦うこととなるが、
2年後の210年、12月3日、周瑜死す。
孔明への激しい怒りをぶつけ、
「天は何故この周瑜を生みながら、孔明までも生んだのか」
と孔明の才能を恨んだと伝える。


新しい三国志物語を愉しんだ。