サー・カズオ・イシグロさん作品。
ノーベル文学賞作家です。
淡々とした語り口に引きこまれます。
★わたしを離さないで
著者:カズオ・イシグロ
訳者:土屋政雄
出版社: 早川書房
2011年に公開(日本)されたイギリス映画《わたしを離さないで》の原作。
公開当時はかなりの衝撃作として、
また注目の若手俳優の共演ということでも話題になりました、
物語はさもありふれた日常だったかのように淡々と過去が語られています。
しかし、若者たちの日常は、読み進むに連れ《不気味感が増幅》してゆきます。
それでもなお、抑制を効かせ、一層《美しい青春物語》かのように記憶が語られます。
(映画のシーンより)
彼らは、《クローン人間》です。
《臓器提供者》として作られ、
大人になるまでの一定期間隔離された施設で
何不自由なく育つことになります。
施設での他愛のない平和的な日常が淡々と語られ、
そして、その後、施設を出、
《提供期間》の絶望と希望も、抗議するでなく、
またもや淡々と語られます。
その際立った抑制された文章がむしろ異様なくらいです。
そして異様な世界だからこそ、
《人間本質》みたいなものをさらりと描いています。
作者カズオ・イシグロが書き込みたかったものは何でしょうか?
単に、《人間生命の倫理観》だけとは思えません。
過去の記憶が余りにも美しく描かれ、
登場人物たちの《過去への記憶の浄化作用》は尋常ではないような気がします。
せめて《生きた過去》を《美しいものだった》と無理やり思いたいような行動。
それは《記憶の捏造》とも言えるような気がします。
《記憶の捏造》こそ、人間の本質そのもの。
彼の関心はそこでしょうか?
浅学なる私の勝手な憶測。
数十年前ですが、《クローン羊》の誕生がイギリスで話題になりました。
クローン技術の哺乳類での成功は、我々人類にも適用できるということです。
SF世界では、戦闘要員や特殊工作員など、いろいろ物語が作られ、
最近では、テレビでも度々ドラマ化されます。
しかし、
《臓器提供》というまさに《生命の倫理観》に関わる物語は
やはり心穏やかでない世界です。