Sさんは今年72歳になる何処にでも居るお婆さんで、半年前胃がんの手術を受け総合病院に通院中だ。神経質な人で調子が良いということはなく、頭が重い、腰が痛いと訴えの絶えない人だ。そんな人が胃がんになって神経が参るかと思いきや命に係わる癌の方は症状がないせいか、さほど癌のことは心配されない、しかし。
昨日も前腕があちこち痛いというので、どれどれと見ると僅かな発赤が数か所ある。前日、総合病院の術後の定期診察で同様の訴えをしたところ、「細かいことを言うな、あんたは神経質」。と全く取り合ってもらえなかったと掻き口説かれる。今日はわざわざ、訴えを聞いて欲しくて私の所を受診したらしい。なにか薬の副作用かなと、飲んでいる薬を調べても、怪しげなものはない。赤いところは痛いので押さえたために赤くなっているように見える。たかだか数日前からのことのようで、現時点でははっきり分からないから、もう少し様子を見るように話す。さっきの泣きべそは何処へやら納得したようで腰を上げてくれた。
医師でない人は、総合病院の外科医はけしからんと思われるだろうか?。私はSさんの話を聞きながらありそうなことだと心の中で笑ってしまった。まあ、多少乱暴な医師ではあるかもしれないが正直で経験豊かな医師だろうと推測した。癌治療に専心する忙しい外科医には、細かい訴えに付き合う暇はないということなのだろう。
ちょっと飛躍するが、どういうものか日本ではSさんのような細事に囚われあれこれ気にする人が溢れ、その人達の訴えを慰撫、懐柔するために膨大な時間と費用がかかっているのだ。誤解を恐れず言えば、隙間と雖も巨大市場で巨大産業となっている。