老夫婦というのは多く二人暮らしで妻が食事を用意している。食事を作ることはそれこそ何十年も続けてきたことなのでさほど難しくないように思われる。とりわけ毎日の定番の味噌汁となれば目をつむっても作れそうだ。
ところがそれに異変が起きる。やたらと濃い。具が入っていないなど、夫はぎょっとする。そういえばこの頃物忘れが多い。ほとんどの夫は「こんな味噌汁が飲めるか」と怒鳴ったりしない。勿論、味が濃いとか何にも入っていないと注意するのだが、「ごめんなさい」という言葉は返ってこない。黙って薄めて食べたり、おかずを買ってきたりするようになる。訪ねてきた来た娘が気付き相談に来る。ああ、認知症ですねと簡単に事は進まない。本人にその自覚はないからだ。家族は医者に期待してくださるのだが、魔法はなく地道に向き合い少しづつほぐしてゆくしかない。ありがたいことに医者の言葉は比較的受け入れやすいようで、固唾を飲む家族に見守られながら声を掛けることになる。