夢のあと

釣りには夢があります。夢を釣っていると言っても過言ではありません。よって、ここに掲載する総ては僕の夢のあとです。

将棋の駒

2017年10月11日 08時05分56秒 | その他
 画像の将棋の駒、なんだか普通の駒と違う感じがしませんか?いわゆる『盛り上げ駒』と言われる最高ランクの駒です。将棋の駒には彫り駒、彫り埋め駒、そしてこの盛り上げ駒があって、この順で製作難易度が上がるのだそうです。そしてその彫り師によっての個性もあるそうです。
 実はこの駒、当会会員のヘラおじさんの作品です。彼とは釣りを通して30年来のお付き合いをさせていただいています。そして、彼の半生を知る僕だからそう見えてしまうのかもしれませんが、この駒に美しさは勿論ですが、他の駒にはない何かを感じてしまうのです。
 彼との出会いは、僕が僕の渓流釣りのお師匠さんのお店にいた時。彼がわざわざ山梨からお師匠さんに合いに来た時でした。偶然にもそのちょっと前に、彼の庭と言っても過言でない川で団扇のような幅広ヤマメを釣ってお師匠さんの水槽に入れさせてもらい、仕事の帰りに時々寄りこんで見て楽しんでいました。ところがこのヤマメは餌の喰いが悪く、だんだんと痩せてきてしまって・・・お師匠さんの提案で彼に持ち帰ってもらって元の川にリリースしてもらう事になりました。嫌な顔一つせず、僕らの希望に応えてくれた彼。とても好感を持つことが出来ました。それからは何度も彼の住む街を訪れ、彼と釣りを楽しみ、あるときは某釣り雑誌の依頼で一緒に出たりもしました。
 その頃の彼は郷土料理屋をやっていて大繁盛。彼の料理はその地域では一線を画す素晴らしいもので、僕は大好きでした。そんな素敵な料理を普通に提供してくれていた彼ですが、ある時突然自信をなくした事があって。。。素晴らしい料理人であることは確かな事実と思いながらも、僕の舌がおかしいということも考えられます。そこで僕の業界で食通として名を馳せる人を連れて行って食べてもらったりしました。結果、帰りの車中でその食通は『赤坂かどこかの高級料亭の味です。もしかしたらこの地には合わないかもしれませんね。』と。あまりにもストレートであまりにも的確な感想を頂き、ビックリすると共に共感してしまいました。その事を彼に話すと彼も分かってくれて。しかし彼の悩みとはうらはらにお客さんはいつも満席。20~30人を収容できるそのお店はいつも満席で笑顔が溢れていました。
 そんな彼ですが、恐ろしい転機が訪れてしまいました。起業からずっと一緒にやってきた奥様が交通事故で帰らぬ人になってしまったのです。それからの彼の人生は完全に歯車が狂ってしまいました。お店も閉じ、また新たなお店を始めるもなかなか以前のように上手くはいかず。以前の大繁盛をしていた頃の彼のキラキラした瞳は曇り、友達として見ているのが辛くもありました。友達が辛い思いをしているのを見るのは、こちらとしても辛いものがあります。僕自身、徐々に彼の地に釣りに行くことも減っていきました。しかしよく考えればこんな時こそ友達が頼りなのです。ですから間違いなく彼の所に行くように、当会に毎年解禁には行く恒例行事を作りました。彼が苦悩した時間はかなり長かったです。しかし今思えば、それも彼がこういう素晴らしい駒を彫れるようになるための修行だったようにも思えます。
 お店を辞めた彼は職を転々とし、疲れ果てた毎日を繰り返していた中、偶然に駒作りの今のお師匠さん(大沢建夫氏)と出会ったのです。彼自身、最初はそれほど自分に期待せぬまま始めたと言う駒作りが、まだ始めて間もないにも関わらず思わぬ方向に走り出したのです。彼の駒は今年の日本将棋連盟の表紙を飾り(これって相当な名誉らしいです)、昨年リリースされた映画「聖の青春」でも使われたとか。昔からヘラ浮きを作ったりして器用な彼でしたが、ここまで素晴らしい駒を作れるほど器用だとは思ってもいませんでした(ゴメンナサイ)。今になって思えば、彼が今まで歩んできた人生の一つ一つが総て駒作りのためにあったように感じます。例えば・・・料理で培った美術的センス、そして包丁砥ぎ(良く切れる彫刻刀でないと文字のいい線が出ない)。そしてヘラ浮きでの漆塗りも、漆で文字を描く将棋の駒にはとても意味があったと思います。そういうことから考えると、彼はまだ駒彫り師としては新参者なのかもしれませんが、それに向けて今までずっと修行をして来たと言えるのです。それを加味すれば彼の駒は最初からベテランの域に達しているわけです。まさに彼の天職がここにあったわけで、今の彼は新進気鋭という言葉がピッタリ。友達だから担ぐわけではありませんが、僕はこの駒に彼の人生が見えてしまうのです。本当に素晴らしい駒だと思います。

 そんな彼が所属する会(「富士駒の会」)の展示会が開催されたので行って来ました。まず表の看板に第27回とありましたのでこの会を率いる大沢建夫氏の半生がここにあるように思え、ワクワクして入りました。将棋の駒だけではなく他の芸術のブースもあるのですが、僕が行った時は他のブースは閑散としていたのに富士駒のブースには沢山の人。失礼ですが、僕は将棋の駒に世間の人たちがこんなに興味を持っているなどとは知らないでいました。ですからイメージとしては他のブースの方が圧倒的に人が入るだろうと思っていたのです。この人の多さは藤井四段の快挙や映画などで一大ブームになっている将棋の世界だからかもしれません。でも、理由は何であれ、友としてこの光景に嬉しさを感じました。
 すぐに彼は僕を見つけて出て来てくれました。そして彼と一緒に彼の作品や友達、はたまた他の人の駒を見せていただきました。お師匠さんも来てくれて。。。お師匠さんとは過去に一度お会いしているのですが、とても温厚そうで好感が持てる人です。僕は遊び将棋くらいしかやりませんので駒の良し悪しは判りません。でもじっくりと駒を見ていると心が落ち着いて来ます。これがとてもいい気持ちなのです。実はここに来る前に釣りをしていて、珍しく大釣りだったのです。その舞い上がっていた気持ちが、将棋の駒を見ていると和いで来ます。不思議です。やはり和の物はいいです。つくづく日本人だなぁ・・・なんて思えて来ます。
 そして将棋の駒に素人の僕に色々と説明をしてくれている彼にあの苦悩に満ちた日々を送っていた頃の曇った瞳が今はまたキラキラして来ていて、完全に昔の彼の瞳に戻っていました。彼がこうして幸福を得られたのはお師匠さんである大沢建夫氏の御尽力による物が大きいと思います。ここに友としてお師匠さんにお礼を述べさせていただきたいと思います。・・・本当にありがとうございます。

えっ?・・・その彫り師の名前?
そうかぁ・・・。彼の名前は『かく峯』というのですが、「かく」の文字がこのソフトでは出て来ないのです。「将棋の駒 かくほう」でググるとすぐ出ますのでよろしくお願い致します。

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