邦銀に勤務していた頃に、従業員組合の代議員総会議長、続いて中央執行委員を務めました。
もっとも、『第二人事部』と揶揄されることもある組合で、一次選抜で課長や課長代理に昇格した行員の中から役員が選ばれるのが通例でした。
時は、日本が円高不況から脱してバブル経済に移行していく頃です。
中央執行委員は、賃金・賞与(組合用語では臨給)の引上げ、労働時間短縮などの要求案を策定し、組合員から承認を受けた後に、労使交渉の場を設け、銀行の経営陣に対して要求を提出します。
経済情勢、自行の経営状態や他の金融機関の動向などを踏まえて労使双方から理解を得ることのできるような要求案を作成するために、組合役員は長時間にわたる議論と深夜に及ぶ膨大な作業が必要。肉体的にもキツいです。
でも一番の苦労したのは、各職場に要求案を説明し、承認を受けることでした。
ひと昔前、大蔵省は、業務の外部委託、いわゆるアウトソーシングを銀行に許していませんでした。
その結果、営業ロビーの案内係、行用車の運転手さん、電話交換室、研修・保養施設の管理人さん、印刷室タイピスト、システム保守、ボイラー管理etc、当時の邦銀は、ありとあらゆる業務の担当者を全て正社員として抱え込むというのが当時の銀行の組織。
だから、各職場の組合員への説明も一筋縄にはいきません。
例えば、要求案を携えて職場に説明に行くと、
海外留学組の多い国際金融本部あたりからは『同じ課長級だからといって、住宅地のちっぽけな支店で通帳繰越しの検印を押している連中と、俺たちの給与水準が大して変わらないなんて納得できない』
体の不自由な方も数多く働く事務センターでは『私は左手が使えません。賃金は今のままで良いから、右手だけで操作できる端末機を導入してください』
(PCのキーボードでは、左右の手で同時に複数のキーを押す操作が多いため)
行用車の運転手さんたちからは、『採用時に、時間外手当の予想金額を含めた年収を説明されて、その金額を前提にして生活している。だから、時間外労働削減を組合は要求しないで欲しい』
いつも夜遅くまで不良債権と格闘している債権管理部門では、『支店勤務の行員たちは、かなり早い時間に帰宅している。なのに、ここは深夜残業ばかり。同じ給与水準なのに、労働環境が違いすぎる。組合費を払っているのだから、何とかしてくれないか』
自動車税事務所に設置されている銀行の派出窓口担当者からは『支店に勤務している組合の委員が、俺たち派出や出張所にいる行員の意見を聞かずに、職場旅行や忘年会の日程を決めてしまう。あの世間知らずの若造を委員から外してくれ』
海外拠点では組合員の行員の奥様たちとも意見交換するのですが、そこでは『支店長の奥さんが威張るので困っています。組合から苦言を呈してください』
とにかく多くの方々と話し、様々な声を聞きました。
それまで営業店での経験しかなかった私ですから、銀行にも色々な職場があるものだと驚きの連続でした。
もっとも、例えばメーカーに勤務されて、工場などの現場に赴任されたことのある方々にとっては、当たり前に経験することなのかも知れませんが。
あれから時代が変わり、邦銀も様々な業務を外部委託できるようになりました。
まして、今は極めてスリムな組織の外銀に勤務していますから、あの時の苦労が、今の仕事に役立っているのかどうか分かりません。
しかし、職場での討議を終えて、ボイラー室の技師さん、電話交換手さん、あるいは運転手さんたちと、缶ビールを飲みながら歓談した思い出は、私にとって、今も大切な宝物です。
(写真は、現在の私のデスク。壁に貼った写真は、ジョン・コルトレーン、ギル・エバンス、そしてセロニアス・モンクです)
もっとも、『第二人事部』と揶揄されることもある組合で、一次選抜で課長や課長代理に昇格した行員の中から役員が選ばれるのが通例でした。
時は、日本が円高不況から脱してバブル経済に移行していく頃です。
中央執行委員は、賃金・賞与(組合用語では臨給)の引上げ、労働時間短縮などの要求案を策定し、組合員から承認を受けた後に、労使交渉の場を設け、銀行の経営陣に対して要求を提出します。
経済情勢、自行の経営状態や他の金融機関の動向などを踏まえて労使双方から理解を得ることのできるような要求案を作成するために、組合役員は長時間にわたる議論と深夜に及ぶ膨大な作業が必要。肉体的にもキツいです。
でも一番の苦労したのは、各職場に要求案を説明し、承認を受けることでした。
ひと昔前、大蔵省は、業務の外部委託、いわゆるアウトソーシングを銀行に許していませんでした。
その結果、営業ロビーの案内係、行用車の運転手さん、電話交換室、研修・保養施設の管理人さん、印刷室タイピスト、システム保守、ボイラー管理etc、当時の邦銀は、ありとあらゆる業務の担当者を全て正社員として抱え込むというのが当時の銀行の組織。
だから、各職場の組合員への説明も一筋縄にはいきません。
例えば、要求案を携えて職場に説明に行くと、
海外留学組の多い国際金融本部あたりからは『同じ課長級だからといって、住宅地のちっぽけな支店で通帳繰越しの検印を押している連中と、俺たちの給与水準が大して変わらないなんて納得できない』
体の不自由な方も数多く働く事務センターでは『私は左手が使えません。賃金は今のままで良いから、右手だけで操作できる端末機を導入してください』
(PCのキーボードでは、左右の手で同時に複数のキーを押す操作が多いため)
行用車の運転手さんたちからは、『採用時に、時間外手当の予想金額を含めた年収を説明されて、その金額を前提にして生活している。だから、時間外労働削減を組合は要求しないで欲しい』
いつも夜遅くまで不良債権と格闘している債権管理部門では、『支店勤務の行員たちは、かなり早い時間に帰宅している。なのに、ここは深夜残業ばかり。同じ給与水準なのに、労働環境が違いすぎる。組合費を払っているのだから、何とかしてくれないか』
自動車税事務所に設置されている銀行の派出窓口担当者からは『支店に勤務している組合の委員が、俺たち派出や出張所にいる行員の意見を聞かずに、職場旅行や忘年会の日程を決めてしまう。あの世間知らずの若造を委員から外してくれ』
海外拠点では組合員の行員の奥様たちとも意見交換するのですが、そこでは『支店長の奥さんが威張るので困っています。組合から苦言を呈してください』
とにかく多くの方々と話し、様々な声を聞きました。
それまで営業店での経験しかなかった私ですから、銀行にも色々な職場があるものだと驚きの連続でした。
もっとも、例えばメーカーに勤務されて、工場などの現場に赴任されたことのある方々にとっては、当たり前に経験することなのかも知れませんが。
あれから時代が変わり、邦銀も様々な業務を外部委託できるようになりました。
まして、今は極めてスリムな組織の外銀に勤務していますから、あの時の苦労が、今の仕事に役立っているのかどうか分かりません。
しかし、職場での討議を終えて、ボイラー室の技師さん、電話交換手さん、あるいは運転手さんたちと、缶ビールを飲みながら歓談した思い出は、私にとって、今も大切な宝物です。
(写真は、現在の私のデスク。壁に貼った写真は、ジョン・コルトレーン、ギル・エバンス、そしてセロニアス・モンクです)