駐車場へ向かう 屋外のエレベーターで
少し遅れて近づく女性を、ボタンを押して待った。
「待たなくてもよかったのに」
「今日の風は冷たいですから」
「どうも、ありがとう。今日はショックなことがあった」
と、何の前置きもなく 背中を向けたまま、お話がはじまった。
「検査の結果、私はあと三か月で死ぬと言われた。」
「三か月ですか・・・」
「主人に伝えろと言われても、男の人は、仕事が一番じゃろ。
私と仕事とどっちが大事?と聞いたこともあったけど
6年前から30回も、独りで入院したのに、ショックよ
でも仕方がない、誰もが皆、いづれ死ぬんじゃから」
エレベーターの扉が開いて、降りた。
「あんた、どっち?」と訊かれるまで、私を見なかったのは
ご自分と対話されていたのではないかしらん。
かける言葉が見つからず、とりあえず
「どうぞ、お気をつけて」と挨拶をして
トボトボとすすむ、小さな背中をしばらく見送った。
身体の痛みは薬でとれても、
周囲との人間関係から生ずる痛みまで軽減できるわけじゃない
お忙しいご主人も奥様の病気に無関心であるとは思えないし
お二人にとって、それなりのよい時間が流れますようにと願う。