あの戦後を代表する超ベストセラー『人間の条件』(全6巻)を書いた五味川純平氏が、1965年から1982年にかけて死力を尽くして書き上げた『戦争と人間』(全18巻)。
30年ほど前、東京にいたときに読んで感動し、山形に戻ってくるときに「ぜひこの本は」と持ち帰ってきたが、それっきり書棚にしまいっぱなしにしていた。
最近、第二次世界大戦前のようなにおいもあり、この本に手が伸びた。
氏は第18巻の巻末で「感傷的あとがき」と題して次のような一文を遺している。
一人でも多くの市井の人に、ぜひ味わってもらいたい。
「生きていて、少しも愉しくない。それは必ずしも妻を亡くしたからでも、世代の怒りを共にする友人が少ないからでもない。国も同胞の大部分も、大小の悪事をごまかすことを正念場と考えているからであり、悪者のみが栄えて権勢をふるい、少数の正直者、善悪の区別を知って悪に加担しない者は、悪者たちの残飯で辛うじて生きているという、情けない、みっともない状態が、この島国全土を蔽っているからである。
ペンは剣より強し、と、昔の賢人が言ったそうだが、果たしてそうか。私の眼には、ペンは邪剣に奉仕するに忙しいようである。
1982年10月 」