現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

中脇初枝「うそつき」きみはいい子所収

2016-09-03 08:26:00 | 作品論
 これもまた、ネグレクトあるいは虐待(あくまでも主人公である土地家屋調査士の男の推定にすぎないのですが)されている子どもの話です。
 率直に言って、読んでいて気分がムカムカして、本を壁に投げつけたくなりました(図書館で借りた本なのでもちろんできませんが、自分の本だったらそれでも気分が収まらずに、足で踏みにじっているかもしれません)。
 作者の書き方が、驚くほど偏見に満ちているからです。
 問題のある児童は、その家庭に何らかの欠損があると、作者は決めつけています。
 学級崩壊も、学校側や教師たちにはまったく責任はなく、問題児童やその親たちが原因であると断定しています。
 そして、学校、PTA、父母会、自治会、消防団という旧来の組織に対してはまるで無批判で、そういったものの「権力」が失われてきたから現代の様々な問題が起きていると主張しています。
 シンデレラや白雪姫を引き合いに出して、継母は必ず義理の子どもをいじめるという、まるで大昔の「母物」映画のような論理を振りかざしています。
 また、現在の経済環境など一切無視して、専業主婦を手放しで賛美しています。 
 こども110番の家を引き受け、自治会の役員を三回、子供会の会長を二回、幼稚園では父母会の会長、小学校ではPTA会長を四年続けている、よその家庭までなんでも見通せ、よその子どもの面倒も見て、子どものころは黒人とのハーフだった子(ご丁寧にアメリカに帰国してイラク戦争で戦死しているという設定になっています)と偏見にも負けずに親友だった「神のような」主人公の、何事にも達観したような上から目線がたまらなく嫌です。
 他にも、ネグレクトされているとしている子が住んでいる場所など、全くのご都合主義な設定があって指摘したい点はたくさんあるのですが、きりがないのでこのへんでやめにしておきます。
 どうしてこんな反動的で懐古趣味に満ちた話を出版する会社があるのかなと思ったら、例のタレントに賞をとらせて大儲けした出版社でした。
 また、この本が大人の女性の読者にうけているのは、彼女たちのジェンダー観の変化(自立した女性から専業主婦への回帰)が背景にあるのでしょう。
 しかし、そういったオールド・スキム(古い仕組み)を若い女性たちが志向するのならば、現在の非婚化や少子化の問題は解決しないでしょう。
 なぜならば、そういった女性のドリームを実現するような経済力のある男性は、非正規雇用が進んだ現代では少数派になっているからです。

きみはいい子 (一般書)
クリエーター情報なし
ポプラ社
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