現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

怒り

2016-09-17 15:09:21 | 映画
 吉田修一の同名のベストセラー(その記事を参照してください)の映画化です。
 周囲に猟奇的な殺人事件の犯人と思われている三人の若者、それに犯人を追う刑事たちといった、四つの独立したストーリーが並列して書かれている原作を、どのように映像化するのか興味があったので見に行きました。
 結論から言うと、危惧していたようにどのストーリーも未消化なまま終わってしまいました。
 おそらく、原作を読んでいない人にはよくわからなかったでしょう。
 小説の分量と映画の限られた時間といった制約からすると、これはやむを得ない点もあるのですが、その割には扇情的なシーン(殺人現場、ゲイ同士のからみシーン、レイプ(未遂)シーンなど)に必要以上に時間を割いていて、登場人物のドラマを描く時間とのバランスの悪さが目立ちました。

怒り(上) (中公文庫)
クリエーター情報なし
中央公論新社
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児童文学における動物記について

2016-09-17 08:34:25 | 考察
 かつて児童文学においては、動物記は重要なジャンルでした。
 有名な「ファーブル昆虫記」と「シートン動物記」の、子供向けにリライトされた本はベストセラーでしたし、スカラベの不思議な生態や「オオカミ王ロボ」の活躍は子どもたちにとってのコモンセンスでした。
 この両巨頭以外にも、日本には椋鳩十や戸川幸夫といった優れた動物記の書き手がいましたし、海外にも「野生の呼び声」や「白い牙」で知られるジャック・ロンドンの作品などが日本の子どもたちにも読まれていました。
 しかし、今ではこの分野はすっかり廃れてしまって、あったとしてもペットや盲導犬などの話に限られてしまっています。
 この衰退の大きな原因としては、児童文学におけるファンタジー作品の流行があると思われます。
 かつての動物記は、未知なものを知るといった部分がありましたし、動物記自体も「ファーブル」(これも厳密な意味ではノンフィクションとは言えません)を除くとフィクションであり、時には動物たちが擬人化されている場合もありました。
 また、動物記を書くには、きちんとした動物の知識が求められるため、調査なり取材を必要として、現在の児童文学の出版状況では経済的に成り立たないのかもしれません。
 さらに、動物記の読者は主に男の子たちだったのですが、現在は女の子よりも男の子の方が読書離れが進んでいるので(現在の男の子たちの「物語消費欲求」は、主としてスポーツ、携帯やカードゲームで満たされています)、出版社にとって魅力のある分野ではありません。
 また、現在の児童文学の書き手の大半は女性なので、動物記を書く人材が見当たらないことも原因の一つかもしれません。

野性の呼び声 (光文社古典新訳文庫)
クリエーター情報なし
光文社
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