(原題:RAISING CAIN)92年作品。結論から先に言ってしまうと“多重人格というテーマを取り上げた”という謳い文句だけで底が割れてしまうサスペンス映画である。最初の数分間で犯人がわかってしまうし、どういう盛り上げ方をして映画が進んで行くのかもバッチリ見通すことができるというような、まことに困ったシャシンなのだ。
幼児期における体験と、複雑な精神構造の形成について研究している心理学者のカーターは、自分の子供を実験台にして観察を続けている。そんな彼のもとに、突然双子の兄ケインがあらわれる。そして時を同じくして、彼の周りで殺人事件が次々と起こっていく・・・・。
監督はブライアン・デ・パルマで、ヒッチコックの影響多大な同監督であるから、テーマの“多重人格”は当然「サイコ」からのいただきで、車を沼に沈める有名なシーンの巧妙なパロディもあったりする。さらに、自分が過去に監督した作品からも大量にネタを引用している。「アンタッチャブル」(87年)の“階段落ち”をちょっとアレンジした“二階落ち”とか、「殺しのドレス」(80年)とよく似た不倫のシーン、「キャリー」(76年)のラストで使ったタイプのオチ、カメラの長回しを延々続けたり、映像のトリックで観客を引きずりまわしたり、果てはラストシーンで“これで終わりじゃないよ”式の処理を披露。全体的によくもまあこれだけ小手先のテクニックを集めたものだと感心してしまう。
いろいろやってはいるが、アイデアは全部二番煎じだし、公開当時のキャッチフレーズだった“デ・パルマの集大成”という触れ込みは信用できず、むしろ、ネタにつまって今までの貯金をすべておろしてしまった印象が強い。主演のジョン・リスゴーは怪演で、アクの強さが全面展開。しかしながら、ロリータ・ダヴィドヴィッチやスティーヴン・バウアーといった脇のキャストが弱いので、リスゴーの孤軍奮闘といった感が強い。
それにしても、音楽だけは素晴らしい。スコアを担当したのはデ・パルマ作品ではおなじみのピノ・ドナジオで、華麗なストリングスの響き、透明感あふれる調べは絶品だ。サントラ盤のみ要チェックの映画、ということになるだろうか。