元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「赤ちゃん泥棒」

2019-04-19 06:53:02 | 映画の感想(あ行)
 (原題:Raising Arizona )87年作品。八方破れの筋書きを、空中分解させずにシッカリと着地させる演出と、それに応えるキャストの奮起がある。さらに破天荒な映像は、観る者を瞠目させる。若き日のコーエン兄弟の才気が迸っている快作で、鑑賞後の満足感は大きい。

 前科者のハイと不妊症に悩むその妻のエドは、子供がどうしても欲しくてたまらない。そんな折、無塗装家具で大儲けのアリゾナという男の妻が排卵誘発剤のおかげで一挙に5人も子供を産んで話題になる。あろうことかハイとエドは、そのうち1人を失敬してしまう。赤ん坊が手に入って喜ぶ2人だが、ハイの“一家”に過干渉するハイの上司の家族や、脱獄して間もないムショ仲間の兄弟、そしてハイの悪夢の中から出現するマッドマックス風の賞金稼ぎなどの“濃い”面々が跳梁跋扈し、事態は混迷の度を増してくる。



 自堕落な生活を送っていたハイが、思いがけず子供を持つことになり、父性本能に目覚めて奔走するというメイン・プロットが確立されているからこそ、周りにヘンな連中を配置しても映画はブレない。それどころか主人公の“成長”によって終盤には感動さえ覚えてしまう。

 そして何といってもこの映画の売り物は、全編に渡って縦横無尽に駆け巡る“シェイキーカム”の威力である。たとえば、ハイの夢の中で主人公の視線になったカメラが、猛スピードで母親の家の庭を突き進み、駐車中のクルマを乗り越えて、赤ちゃんの部屋の窓に立てかけられたハシゴを上って室内に侵入し、泣きわめく母親の口の中にまで突進するまでをワン・カットで披露するという荒業には度肝を抜かれる。

 さらには路上の紙おむつのパックをクルマの座席からパッと拾い上げる場面や、道路上に置き去りにされた赤ちゃんを、これまたクルマからすくい取るシーンなど、仰天するような場面の連続だ。

 主演のニコラス・ケイジとホリー・ハンターは絶好調で、特にケイジの突き抜けた演技には呆然とするしかない。トレイ・ウィルソンにジョン・グッドマン、フランシス・マクドーマンド、サム・マクマレイといった脇のキャストも万全だ。カーター・バーウェルの音楽も快調だが、後に監督に転身するバリー・ソネンフェルドによるカメラワークは見上げたものだ。
コメント
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