♪♪ 私の お寺ライフ ♪♪

 ブログアップして9年目に突入。相変わりませんが、私の「如是我聞」をお送りします。南無阿弥陀仏

慶聞抄2019年6月号

2019-05-21 22:03:19 | 随想

       上野千鶴子さん

ものを申すということ

ご門徒さん宅でのお参りの最中のことです。突然、女の子の強い抗議の声が聞こえてきました。内容までは分かりませんが必死に何かを訴えているようです。泣き出さんばかり、ギリギリ涙をこらえて声を張り上げています。こちらは耳をダンボにしながら、それでもお経さんを中断するわけにもいかず、最後のご文章までつつがなくお勤めしました。

後ろに控えておられた奥さんによると、声の主は、開け放した戸口から聞こえるお隣の3人兄弟のうちの一人ではないかと。日曜日であったと思い至り、それ以上大事にならず事態が収束したことに安堵しながらお暇を告げました。

ここから先は私の推測ですが、女の子の抗議の相手は親御さんか兄弟。今にも泣き出しそうな声のトーンからすると、相手との力関係は明らかに彼女が下、負けている。くじけそうな気持を必死で奮い起こし、恐怖に怯えながら主張したのでは。その後静寂が保たれたのは、聞き手が理解し言い分を受け入れてくれたのか、もし拒否されてみじめな結果に終わったなら、絶望の泣き声が住宅地を覆ったことでしょう。賢明にも暴力行使という最悪の状態は避けられたようで良かった。ホッ。

話はかわりますが、もう数か月も前のことになりますが、上野千鶴子さんの東大の入学式での祝辞が話題になりました。「あなたたちが今日『がんばったら報われる』と思えるのは、あなたたちの環境が背を押してくれたからです。世の中にはがんばっても報われないひと、がんばろうにもがんばれないひとたちもいます。(略)あなたたちのがんばりを、どうぞ自分が勝ち抜くためだけに使わないでください。恵まれた環境と能力とを、恵まれないひとびとを貶めるためだけでなく、そういうひとびとを助けるために使ってください。」

先日、テレビで徳田靖之という人を知りました。2001年ハンセン病国賠訴訟熊本地裁判決を勝利に導いた弁護士です。東大出ですから望めば霞が関のどこかのエリート官僚にもなれたでしょうに、弁護士を志望します。育ててくれた祖父母の介護に郷里の大分に帰ります。東京でお金持ち相手の仕事をすれば儲けることもできたでしょうが、お金のない人の弁護をする国選弁護人の仕事しかありません。

そんな中、ハンセン病元患者で人権回復を願う人々に出会います。知ってはいたが見過ごしてきたとの贖罪意識から弁護を引き受けます。最初は原告団の人数が少なくて苦労します。訴訟に加わったら療養所を追い出されるのでは、また家族に迷惑がかかるのではと心配するある原告は、遺書まで書いて裁判に臨んだといいます。13人で始めた原告団は779人になりました。そして勝訴。しかし賞賛の言葉を浴びる中で、徳田さんはこれは違うのではないかと思うのです。主人公は原告一人ひとりではないのかと。そして2016年、再び立ち上がったのが、引き裂かれ差別された家族の補償を求める訴訟でした。この6月28日に判決が出る予定です。


     国側の控訴断念を伝える新聞

誰もが自分の思いを自由に言えるわけではありません。社会的力関係、利害関係などの前でもがきます。やがて勇気を奮って声をあげねばならない時がきます。自分の尊厳を守るために。人間を貶めてはいけないのだから。 合掌
コメント
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