アメリカを考える
A.2016年8月1日の期待
1.2016年8月1日、ア.国民投票においてEUからの離脱が僅差で多数を得たイギリスの選択、イ.アメリカの大統領選挙、ウ.中華人民共和国の選択、エ.日本の選択について、その期待す
るところを書きました。
2.それから半年、それぞれの期待はあるべき期待であり続けているものの、アメリカはトランプ新大統領を選出し、アメリカは世界のNo1の大国であるが故に、トランプ大統領が掲げる「アメリ
カ第一」の政策は、大統領就任式からまだ3週間が経過していないと言うのに、世界が新たな秩序の再構築の時に入ったことを、おそらく世界の人々に思わせています。
3.世界はどのような秩序を作り上げるのか?
4.トランプ大統領の政策を、「ポピュリズム」とも呼んでいる人々もありますが、それは正しくありません。むしろそれは、「リアル・ベネフィッツ・ポリティックス」= “Real Benefits’ Politics”と
呼ぶべきものです。換言すれば、アメリカ功利主義の申し子のようなものです。トランプ大統領が海外展開をしている自国企業にアメリカに生産拠点を戻してアメリカ人の雇用を増やすように呼びか
けているそのさまは、それが字義通りに進めば、アメリカは今以上に国内に集積した巨大な工業力を持つことになります。この工業力には世界のどの国も及びません。問題は、アメリカはこのように
巨大な工業力を国内に集積することができるのか、この工業力をどのように維持するか、或いは維持できるかです。
5.ここでは便宜的に社会を維持するに必要な財を次の7つに分けて考えます。一つが農産物、二つがエネルギーを含む鉱物資源、三つ目が消費財、四つ目が生産財、五つ目が次の時代を作り準備す
る研究と投資財である次世代財、六番目が社会を維持するための社会インフラ財、七番目が社会(国)を防衛するための防衛(国防)財です。今回の大統領選挙は、アメリカの生産部門と社会インフ
ラ部門が疲弊していること、そしてこの生産部門に携わり、合衆国の富の恩恵から取り残された人々がトランプ大統領の誕生を支持したことを、私達に示しました。それ故、トランプ大統領の頭にあ
るものはこの2部門の立て直しと再構築です。そしてその政策は、保護主義であっても、地球温暖化に対する国連気候変動枠組条約であるパリ協定に抵触するものであっても、排外主義と思われるも
のであっても、「やる」という意志をトランプ氏は大統領選から示して来たのです。
6.ここで再び問題を理解しやすくするために、アメリカが、貿易において輸入するその金額の多い上位5か国である日本・ドイツ・カナダ・メキシコ・中国に対する貿易赤字を回避するために、今
まで輸入していた財を自国生産に切り替える場合を考えてみましょう。アメリカは、上記の七つの財の内、鉱物資源は厳密な考証が必要ですが、消費財と生産財を除き、世界の工業国に対して比較優
位の関係にあります。それ故、アメリカの輸入する財は主に消費財と生産財であり、輸出国はそれを生産します。
7.アメリカが輸入を行っている上位5か国は、金額の多い順に、① 中国、② カナダ、③ メキシコ、④ 日本、⑤ ドイツです。(2014年) それぞれの輸入・輸出額、貿易赤字額を下記に記しま
す。
追記:今日(2017年2月8日)、時事通信がアメリカ商務省の発表した国別の貿易赤字額をWebに掲載しました。その額を最下段に記します。日本は上位2位となりました。
中国 カナダ メキシコ 日本 ドイツ 小計
輸入額 4667 3477 2940 1340 1232 13656
輸出額 1236 3124 2402 668 493 7923
貿易赤字 3431 353 538 672 739 5733
2016年
貿易赤字 3470 632 689 649
出典:JETRO 年度:2014年 単位:億ドル 数値はアメリカのページに記載されているものによります。JETROは米商務省統計から作成。上記の値には消費財・生産財以外の財も含ん
でいることに留意してください。2016年の金額は時事通信社(JIJI.COM)。
8.次に、ここでは、アメリカが輸入する上位5か国の合計額:13656億ドルの内35%を消費財、生産財以外の財とみなすと、消費財、生産財の輸入額は13656×65%=8876億ドル
となります。そしてこの財をアメリカは輸入から自国で生産することになります。この生産をアメリカ国内でやることができます。しかし、働き手はどうしましょう?アメリカは地域によって高失業
率の所もあるようですが、「最大限の雇用という目標に近づきつつある」(FRBイエレン議長、2016年4月8日・ブルームバーグ)と認識されています。ならばロボットを使いましょう。オー
ト―メーション工場を建設してそこで生産すれば解決します。そうすればラストベルトと呼ばれる街々もよみがえることでしょう。
9.しかし、もう少し考えましょう。先ず貿易相手国のことを考えてみましょう。貿易相手国は、今まで生産していたアメリカ向け輸出品の販路が閉ざされるのですから、他に販路を求めなければな
らなくなります。販路が十分でなければ在庫は積み増し、投資した原価を少しでも回収するため、ダンピングが起こります。そして、輸出国内での生き残りをかけた競争が起こります。しかし販路が
減少しています。技術革新、新しい産業分野への転換、新しい販路を開拓できない生産設備は過剰となり、停止され休眠します。これが貿易相手国内で重層的に起こります。つまり、貿易相手国の経
済規模が縮小して行くのです。これは一国の貿易相手国に留(とど)まりません。貿易相手国相互に起こるのです。そして、世界が新しい産業分野への転換、新しい販路を開拓できない場合、世界の
経済規模が縮小して行きます。
10.では、アメリカはどうでしょう?アメリカが生産することになった生産財の中にはその機械を使って例えばデュポンのように輸出用の製品を作っているところもあるでしょう。共和党は、輸出
企業の税負担を軽減し、輸入企業に課税する国境税の調整案を考えており、トランプ政権になったからと言ってアメリカが輸出を奨励する態度には変わりがないと思われます。2014年のアメリカ
の輸入上位5か国相手の輸出額は7923億ドルです。(参考:2015年の貿易輸出総額=1兆5046億ドル<日本国外務省基礎データ> 2015年のアメリカのGDP=17兆9470億ド
ル <同>)。
だがしかし、アメリカの貿易相手国は、アメリカが輸入品を自国生産に切り替えたことによって、経済規模が縮小し、貧乏になっています。以前のようには輸入できません。
つまり、アメリカの輸出量も減るのです。このアメリカの貿易輸出の減少は、自国生産の増加、インフラ投資、勤労者所得の増加によって何年かは補うことができ、GDPが減ることはないと言えま
す。
11.ここで、上記4で立てた「アメリカは巨大な工業力を国内に集積することができるか」という問いは、「できる」という解を得ます。そして更に問題の核心は、輸出の減少を補う社会インフラ
の再構築の資金をどのように確保するかという所に移ります。
そして、ここにトランプ政権のアメリカ国内での評価が懸(か)かるのです。
12.トランプ新大統領の「アメリカ第一」は、アメリカの利益を最大にしようとする一つの理念だと言うことを、私達は知るべきです。そして政策はこの理念の下で行われます。アメリカへの輸出
国である日本とその最大の貿易財である自動車について言えば、トヨタやホンダはアメリカでコングロマリット企業となるという気概を持ち、そうすべきです。そして100年かけてデトロイト以上
の近代都市をつくれば良いのです。
それが日米友好の証となります。
13.トランプ大統領については、時代の変わり目に登場する復古主義者なのか、時代を前に進める変革者なのか、まだ分かりません。TPPについて言えば、トランプ大統領が今アメリカを思って
いるように、TPPへの参加国全域を一つのUnited Nations(連合国家)として思う視座を持ってくれれば良いと思っています。そして望んでいます。
冬の暖かき日