金正男氏の死とマレーシアの功績
A.金正男氏の死が教えるもの
1.金正男氏が、クアラルンプール国際空港の搭乗チェックイン機前で二人の女からVXガスを顔面に塗られて死亡するまでの時間は15分~20分と言います。空港職員に救護を要請したのは襲わ
れた直後と思われます。空港の救護コーナーのソファーに座った状態で体を投げ出し、右腕を突き出した状態の彼の写真は大きく報道されました。この時にはおそらく意識はありません。
2.金正男氏は常に刺客を警戒していた筈です。それでも襲われました。しかし襲われたときのことも考えていたのでしょう。金正男氏はすぐに救護を空港職員(テレビに映っていたのは女性)に求
めました。空港職員は金正男氏を空港警護職の男性の所へ案内し、金正男氏は、起こったことと自分の症状を、手ぶりを交えて説明しています。この場面は繰り返しテレビ放映されました。
3.もし、金正男氏が救護を求めていなかったとしたらどうでしょう?通路で倒れるか、航空機内で死亡します。航空機がまだ離陸していなければ、機内から救急搬送されることも考えられます。こ
れらはどの場合も、容疑者の特定が今回のように迅速には進まなかったことが考えられます。死亡原因は解明できなかったかも知れません。
4.襲われてから金正男氏がとった行動は正しいものだったと言えます。それによって、マレーシア警察と政府は迅速に行動し、事件に関与した北朝鮮国籍の容疑者を次ぎ次と明らかにして行きまし
た。今回、マレーシア政府のとった行動は、国際社会におけるマレーシアの信認度を増したものと言えます。
B.犯行が日本で行われていた場合を考える
1.金正男氏はマカオに滞在していました。日本からマカオへの直行便がある空港は、成田と関西国際空港です。成田を所轄する警察署は成田国際空港警察署→千葉県警です。関西国際空港は関西空
港警察署→大阪府警です。
2.今回は容疑者の一人に北朝鮮大使館の2等書記官がいます。日本の場合、所轄の警察署がマレーシア警察署のように、この書記官名を公表できるのでしょうか?
3.ここで日本の警察力を考えるうえで、別の事例を見てみましょう。それは、2014年1月に、内閣府からアメリカに研修のため派遣されていた男性職員が、冬の北九州の海岸でゴムボートと共
に死体で発見された事件です。男性職員氏は(国際)会議に出席するためにアメリカから韓国に渡ったと言われており、韓国の警察の派出所に本人名の足跡を残しています。(但し、これが本人かど
うかは疑うこともできます)。そしてその後、会議には出席せず、発見されたのが北九州若松区の海岸です。北九州若松区の所轄警察署は若松警察署→福岡県警です。
4.警察が捜査を行う場合の例として、上記の北朝鮮大使館の2等書記官名を公開する場合と、そして内閣府職員の北九州海岸での変死事件を考えてみましょう。二つの事件の捜査を行うには、警察
署の管轄を越えた捜査を行わなければならず、権限も必要となります。例えば、「2等書記官名を公表して良い」とするセクションが別にあれば、捜査チームはそのセクションの裁可を得た後に、そ
の所属と名前を公表することになります。時間がかかります。この日本方式はそれなりに良いところもありますが、これは海上保安庁の例ですが、2010年9月に発生した「尖閣列島中国違法操業
船取締事件」の映像公開のように、国民の批判を浴びることもあります。
5.この二つの事件を参考に日本の警察力を考えると、国外と日本以外の国の主権が絡んでくる事件を捜査する力は、日本はまだ弱く、これを克服するには、日本は、警察庁長官直轄の常設の捜査部
門を作って良い時期にあるのではないかと思います。
C.テロを予防する「テロ準備共謀罪」の導入は必要である
1.日本の警察は、「事後主義・発生主義」を取っていると私は考えており、この立場だと、しばしば大事件が発生し、「命が狙われている」、「付きまとわれている」と訴えている被害者が保護さ
れることなく命を落とし、加害者によって凄惨な殺傷事件を起こされることがしばしばあります。こういう事件をもう起こさせてはいけません。
2.「テロ準備共謀罪」は、いわば「予防主義」に立つものです。それは、被害を未然に防ぐことを可能にし、その事件が実行された場合に発生する被害の甚大さを防ぎます。そしてまた、1995
年3月に起きた「地下鉄サリン事件」を見れば、この事件は事件にかかわり死刑となる者たちが多いのが特徴です。このような事件を未然に防ぐことができれば、死刑となる者たちの数を少なくし、
彼らの命も救うことができます。
2月の夕日