近未来のお話。下らない妄想ですので(笑)。
20XX年の日本。国際条約によって「環境基準達成」が義務化され、一般家庭においても政府からの厳しい統制化に置かれることとなっていた――。政府は各家庭の消費エネルギー、電気、水、排出CO2、などの基礎的情報を全てモニタリングし、自動的に是正させる人工知能で管理することにした。この人工知能は環境省の「エコGメン」と呼ばれる環境査察部の管理下に置かれ、徹底した管理体制を維持していた。人々は環境省のことを「エコサ」と揶揄(たぶん短絡的に「マルサ」のパクリだろう)した。人々を恐怖に陥れる人工知能は「婆や」というネーミングで、口うるさい姑というイメージからそう呼ばれていた。彼女には、懲罰的プログラムの一種である、「スケさん」「カクさん」というサブのAI を有していた。彼らは音声で住民とのコミュニケーションをとりながら、生活のコントロールを行うのだ…
ここにある家族がいる。
タマキ(環)家は、父のヒロシ、母のアキコ、中学生の娘ユリ、小学生の息子タクの4人家族。
その生活ぶりを紹介しよう。
<シーン1>
母 「今日は暑いわね。もっと冷房温度を下げてくれないかしら」
娘 「オッケー。じゃあ24度に設定し直すわね」
―1時間経過後―
母 「なんだか、また暑くなってきたわ。婆や、ちょっとどういうこと?」
婆や 「ハイ、アキコさん。現在空調電力は予定をオーバーしていますので、温度を下げることができません」
娘 「もう、暑くて死にそうなんだけど」
婆や 「ユリさん、死ぬことはないのでご安心を」
娘 「そうじゃなくて、もっと冷やしてよ」
婆や 「それはできません。ユリさん、昨夜もケーキを食べましたね。ウェイト管理データでは…」
娘 「それ以上言わないで!暑いのよ、兎に角!何とかして!」
婆や 「どうやら、思い知って頂く必要があります。スケさん、懲らしめてあげなさい」
こういう時には懲罰AI の登場らしい。
スケさん 「了解しました。ユリさん、あなたの体重に問題があります」
娘 「判っているわよ、そんなこと…」
スケさん 「ユリさんがバイクマシンで発電量をクリアすれば、冷房は再開されます。ダイエット効果は抜群です。では、頑張って下さい、ユリさん」
娘 「しょうがないわね。漕げばいいのでしょ、漕げば」
・・・
スケさん 「休まずに、ハイ、漕いで、漕いで…今、ショートケーキ半個分のカロリーです。まだまだ、消費カロリーは足りません。空調回復まで、あと400回転は必要です」
娘 「もうダメ…お母さん、代わって…」
スケさん 「ユリさん、今の運動の消費カロリーは過去2日分の間食相当です。発電量は空調再開分には足りません」
母 「じゃあ、今度は私が。頑張って漕ぐから」
スケさん 「アキコさんは体脂肪率が目標値の12%オーバーです。千回転以上させるように、頑張って下さい」
・・・
母 「ハア、ハア、まだ空調再開できない?今室内温度は何度?」
婆や 「現在31度です、アキコさん。体重減量効果は24度の場合に比べて8%アップしています」
スケさん 「ハイ、アキコさん、休まず、漕いで、漕いで、いちにーさんしー、いちにーさんしー」
母 「ダメ、ちょっと休ませて…ユリ、後はお願い…」
娘 「エー、お母さん、もうギブアップ~?また私の番じゃない…しょうがないわね」
スケさん 「ハイ、ユリさん、頑張って下さーい!いちにーさんしー・・・」
バイクマシンとはダイエットを兼ねた発電マシンのことである。自転車のペダルを漕ぐのと基本的には似ている。家庭の消費電力がオーバーすると、自力で発電して補うか、空調や一部電力をカットされてしまうという、恐るべき仕組みとなっている。「婆や」は常に監視していて、ダイエットの進み具合までアドバイスをしてくれるという優れものなのだ。だが、この「お小言」が痛い、五月蝿い、というのが、「エコサ」AI の特徴なのである(笑)。発電量が基準値まで回復すると、空調が再開されるのである。命令に従わない場合には、標準値に戻るまで強制的に電力供給がカットされ、我慢を強いられることになるのである。
<シーン2>
深夜、ダウンロードした映像を居間の大型モニタで見ていたら・・・
父 「アレ??婆や、映像を止めたな!途中で止めないでよ」
婆や 「でも、ヒロシさん、今月は個人の消費基準値を超えましたので、これ以上モニタ電力は認められません」
父 「ええー、だって、丁度いい場面だったじゃない。何で見せてくれないんだよ~」
婆や 「困りましたね、カクさん、懲らしめてあげなさい」
父 「またかよ…」
カクさん 「了解しました。ではヒロシさん、発電ハンドルを回すか、映像中断か選択して下さい」
父 「見たいよ、そりゃー。回せばいいんでしょ、回せば。わ、か、りました」
カクさん 「頑張って回して下さい、ヒロシさん。応援の声は変えますか?」
父 「あったり前だろー。女性の声援じゃないと。ああ、音声5のバージョンでお願いします」
カクさん 「わかりました。これでいいでしょ?応援してあげるから、回してね、ゥフ」
父 「あー、やっぱ、女性キャラ声モードだと、結構回せるな」
カクさん 「ヒロシさん、すてき。でも最近、お腹周りが気になるわよー」
父 「そうなんだよ、会社のメディカルチェックに引っ掛かってさー、改善指示プログラムを…」
カクさん 「知ってるわよ、それ、私に入ってるんだもの。今年は改善目標が厳しいわよ」
父 「あー、もうダルくなってきた、これ以上回せないよ~」
カクさん 「アラ、もうダメ?じゃあ今度は足を動かして。バイクマシンで発電よ」
父 「えー、ちょっと休憩…」
カクさん 「ダメダメ、ダメよ、ヒロシい~、インターバルは3分、ね?」
父 「その声でお願いされると、ついつい従っちゃうんだよなー」
・・・
こうしてヒロシは映像再開まで発電させられる羽目に・・・
<シーン3>
息子のタクが風呂場のシャワーを浴びていたら・・・
タク 「冷たいよー、モロに水じゃん。さては婆やだな。お湯を出してよ」
婆や 「ダメです、タクさん。昨日ゲームを止めませんでしたね」
タク 「ちょー、つめてー、ねえ、お湯を…」
婆や 「タクさん、ゲームは基準プレイ時間を超えていたので、電力カットしたのですよ」
タク 「だって、みんなもうクリアしたって言ってて、僕だけ終わってないから…」
婆や 「ルールはルールです。なのに、AI の強制遮断措置を勝手に発動しましたね」
タク 「どうしてもやりたかったから…」
婆や 「ゲームの延長プレイに相当する電力までは懲罰を受けて頂きますので、お湯は出ません」
タク 「なんだよ、ケチ!婆やのバカ!」
婆や 「何とでも言いなさい。スケさん、懲らしめてあげなさい」
スケさん 「了解しました。タクさん、ゲームは暫くできません。懲罰終了まで電力供給は完全遮断です」
タク 「くっそー、あーあ、ポンコツAI のくせに…生意気だ」
スケさん 「今の発言で、シャワーは終了まで水と決定されました。頭を冷やして下さい」
タク 「スケさんなんてカクさんよりバカじゃないか。婆やも言ってたぞ」
スケさん 「今の発言により、ゲーム禁止期間は2週間延長されました」
タク 「うー、つめてー、何でだよー。悪かったよ~、もう約束破らないから~」
スケさん 「残念です、タクさん。初めからルールに従えば、懲罰は発動されませんでした。これが社会の決まりです」
タク 「ううっ・・・・」
・・・
こうして、タマキ一家に限らず、各家庭では「婆や」の管理下に置かれ、エネルギー消費や発電指示を受けねばならないのである。
「エコサ」の戦いは、まだまだ続くのだった…
AI 「婆や」の口癖
「発電せざるもの、消費するべからず」
「意志の弱い人間が多いからこそ、スケさん、カクさんが必要になってしまう」
「懲らしめてあげなさい」
一応、こんな未来は、というより「婆や」が一番やだな(笑)。