憲法の基本的人権は「私権を制限したい」国家からすればきわめて邪魔な存在かもしれない。
コロナ禍により昨年4月から始まった緊急事態宣言がついに3度目となった。
この間、効果的な感染拡大防止対策らしきことをやらず「憲法では私権を制限することができない」からと、より強権的な法律を求めていたのが大阪維新の会の吉村洋文府知事。
そして憲法改悪を狙っているのが自民党であり、それもいまさら自衛隊を憲法に明記する必要もないのに声高に喚いていたのが安倍晋三だったが、ヤツラの真の狙いは「緊急事態条項」の新設であった。
それがあれば七面倒くさい「緊急事態宣言」なんか発令せずに、欧州各国のように簡単に「ロックダウン」が実施できたと主張していた。
それも国家安全保障上必要ならば国の専権事項となるのだが、かならず私権の制限が伴い、反対の声は絶えなかった。
今年の2月9日には、公明党顧問で弁護士でもいある漆原良夫がブログでこんな内容を発表していた。
「広範な土地等を国家の統制下に置く『重要土地等調査法案』」
この中では、①私権を制約するに足る立法事実が存在しない、②調査の対象が際限なく広がり、思想・良心の自由、信教の自由、集会結社及び言論、出版その他表現の自由を保障した基本的人権を侵害しかねないと指摘していた。
それから2週間後には、「続・重要土地等調査法案の検討」で具体的に詳説していた。
1,政府の説明は、次の通りです。 ①先ず立法事実です。立法事実そのものについて政府からの説明はありませんが、「外国資本等による土地の売買や適切な管理体制を構築するための法整備」を求める自治体からの意見書や「国土利用の実態把握の関する有識者会議」の「提言」(以下、単に「有識者会議の提言」と言います)が提出されました。 ②調査について。調査方法としては、現地調査、公簿収集、所有者からの報告徴収に限られ、立ち入り調査は行わないことになりました。 ③特別注視区域の事前届出について。同区域内の土地等売買契約は、事前届出の対象とされました(法第12条)。しかし、同法違反の売買契約は、罰則の適用はあっても(法第26条)、民法上の効力について何ら規制はなく所有権等の権利の移転は有効になされてしまいます。従って、好ましくない外国人による土地取得を拒むことはできません。 ④利用規制について。法第22条は(国による土地所有の買取り等)と題して「国は、・・(中略)・・国が適切な管理をおこなう必要があると認められるものについては、当該土地等の所有権・・(中略)・・の買取りその他の必要な措置を講ずるよう努めるものとする」と規定しています。この規定は、国に努力義務を課しただけで、土地を売却しようとする所有者に応諾義務を課したものではありません。従って、土地所有者が好ましくない外国人に土地を売却することを防ぐことはできません。 2,これらの政府の説明や法案を前提にすると以下のことが問題となります。 ① 本法案は、地方自治体の「意見書」や有識者会議の提言に応える内容に成っていないという事です。「外国資本等による土地売買等に関する法整備を求める意見書」は多くの自治体から提出されています。また、有識者会議の提言でも「経済合理性を見出し難い、外国資本による広大な土地の取得が発生する中、地域住民を始め、国民の間に不安や懸念が広がっている」と指摘し、さらに「安全保障は、安心・安全及び自由な経済活動の基盤である。・・(中略)・・この土地を巡る問題についても、できる限り速やかに、政府としての対応方針を決定し、実行に移すことが必要である」と、本法成立の必要を説いています。 しかし、1,②、③、④で述べた通り、本法は、これらの自治体からの要請には全く応えられておりません。地方住民の不安や懸念を本法作成の背景事情と説明しながら、これら住民の不安や懸念の解消に何ら答えられない本法案は、一体何のために立法されるのか根本的な疑問を感じざるを得ないのです。 ②「調査」は不要。 ・本法8条1項は、「土地の利用者が・・(中略)・・機能を阻害する行為の用に供」すると「認めるときは、・・( 中略)・・当該行為の用に供さないことその他必要な措置 を取るべき旨を勧告することが出来る」と規定しています。更に同条2項は、勧告に従わない場合には「当該措置を取るべきことを命ずることが出来る」し、違反者には罰則をもって担保しています(法第25条)。「機能を阻害する行為」とは、政府の説明によれば、電波妨害、ライフライン供給の阻害、坑道の掘削による施設への侵入等の準備行為等を指すとされています。 ・以上の通り、結局本法によって本法第1条所定の「目的」を実効的に規制できる「利用規制」は、同第8条所定の、「機能を阻害する利用行為の中止の勧告及命令」だけという事になります。そして、法第8条によって禁止される行為は「電波妨害、ライフライン供給の阻害、坑道の掘削による施設への侵入等への準備行為等」と具体的に明示されていますので、これらに該当する事実の有無が問題であって、本法が予定している「調査」は、以下の通り不要であります。 本法は、全国的に広範な区域を指定し、その区域内に住む膨大な住民の土地・建物について、その所有者情報(氏名、住所、国籍等)や利用実態を調査する権限を国に許容しようとする法案です。しかし、既に述べた通り、本法第8条と調査とは、何らの必然性も必要性もありません。また、多くの国民に故なく私権の制約を強いることは、有害ですらあります。 3,「目的」規定の曖昧さ 本法案の目的は「土地等が・・(中略)・・重要施設等の機能を阻害する行為の用に供されることを防止するため」(法第1条)とされています。 目的規定の曖昧さは、法案全体の曖昧さに通じます。ここで、政府の説明を求めたいと思います。 ①法第8条は、重要施設等の「機能を阻害する行為の用に供し」と法第1条の目的規定と同様の文言を使っていますが、両者は同じ意味か。仮に法第1条の方が広い概念とすれば、どのような事例を想定しているのか、具体的に示されたい。 ②外人や外国資本による不動産の売買で法第1条所定の「機能を阻害する行為の用に供される」に該当する場合はあるか。あるとすれば、どのような場合か。 ③氏名、住所、国籍が明らかになったとしてもそれだけで「機能を阻害する」か否かの判断はできないと思うが、調査事項に「氏名、住所、国籍等」を入れた理由は何か。 ④仮に、法第1条所定の「機能を阻害する行為の用に供される」に該当する事実があったとして、本法の解釈は1の②、③、④のままで良いと考えるか。 4,本法案を検討していて、推進者の皆さんの気になる言葉があります。それは、「この法律は、調査が目的ですので実害はありません」という言い方です。 ①本法は、調査が目的 ・有識者会議の提言には、かつて「防衛省・内閣府が防衛施設周辺、国境離島を調査したが、制度の裏付けがなく、利用実態等が必ずしも十分に把握できなった」、現状では「所有者の国籍、利用実態の情報が十分に収集できない」「一元的管理がなされていない」と記載されています。 ・調査に法的制度の裏付けを与えることが主たる目的であるとすれば、調査方法や事前届出や利用規制に強制力を持たせなかったことも理解できます。私権の制約が少なければ少ないほど、法案が国会を通過しやすいからです。 ・先ずは、重要施設周辺の土地等の所有・利用形態を調査し、本格的な規制は「5年後の見直し」で行えばよい。もしそうだとすれば、本法の立法事実を、本法の調査名目で探し出そうというもので、本末転倒と言わざるを得ません。 ・本法案の目的は、「安全保障の観点から、重要施設等の機能を阻害する土地等の利用を防止」する事であり、「調査」を目的とするものではありません。もし、調査目的のための法案が必要であれば、その旨の立法事実を明らかにした上で、法案を出し直すべきです。 ②調査が目的だから実害がない。 ・「調査が目的だから、まともな人には、私権の制約もなく実害もない、従って何の心配もありません。」これまで何回も耳にしました。 ・しかし、本法によれば、特定の区域に住む善良な国民が、土地・建物の所有情報や利用実態について調査され、場合によっては罰則付きの報告聴取を求められます。「何も悪い事をしていないのであれば、番屋で取調べを受けても怖いはずがないではないか」、役人の論理です。一定の区域に住んでいるだけで、国家からの故無き調査を強いられること自体、私は、実害と考えます。 |
おそらく多くの国民は余り関心がなかった問題なのだが、積極的にこの法案を支持している人も存在する。
1年半ほど前に、「日本はすでに侵略されている」 という本はこんな評価を得ていた。
本書は、法令や制度等によって何の制限もないままに、日本の国土(不動産)が中国や韓国の人・企業に買われており、長い間をかけて静かに日本の中国化・韓国化が進んでいる現状に警鐘を鳴らす本です。 この本でリスクとして取り上げられているのは、主に次の2つの類型です。 (1) 対馬など国境付近の地帯や北海道や南西諸島のリゾート地のようにいつの間にか、日本の国土でありながら中国や韓国の一部であるかのようになってしまう地域 (2) 自衛隊やアメリカの基地など防衛施設に隣接しており、安全保障に支障を及ぼしかねない場所そして、外国のペーパーカンパニー等に買収されることにより、真の所有者や保有目的が不明な状態となっていることに加えて、固定資産税も徴収できていない現状が説明されています。 |
この本の著者は、農水省林野庁入庁し国土庁企画官、環境省課長、農水省局長であった専門は外資土地買収、国土計画論の姫路大学特任教授平野秀樹であり、漆原良夫のブログ内容を念頭に、3月4日にこんな記事を投稿していた。
「やっと始まる外資の土地取引規制、阻むのは何者?」
そして2週間後には、「外資の土地取引規制、突如ブレーキの不可思議」と危機感を募らせていた。
この法案が正式に閣議決定され、国会に上程されるようになり、大手マスメディアがそれぞれの 立場から賛否の記事を出し始めた。
法案成立に積極的な産経新聞は、3月末に「【主張】土地規制法案 危うい骨抜きを懸念する」という社説を発表。
すると、「赤旗」が「土地調査規制法案 国民監視と人権侵害許されぬ」と反対運動抑え込みの危険性を指摘していた。
負けずと、朝日新聞は、「(社説)土地規制法案 乱用の恐れがぬぐえぬ」と主張していたが、朝日新聞嫌いのネトウヨ連中の餌食になっていたが、こんな意見も多かった。
「例えば法案は、政府が収集できる情報として「その他政令で定めるもの」「内閣府令で定める事項」という条項を設けている。国会のチェックは及ばず、政府のさじ加減ひとつでいかようにもなる。調査が個人の経歴や思想信条、家族・友人関係にまで及ぶことはないか」https://t.co/3SSMlySzCp
— 武天老師 (@MutenRooshi) April 2, 2021
徐々に国民の包囲網を狭めていく権力。国民が政治に関心を示さないとい「つか来た道」に後戻りさせられる恐れがある。
— こぶ (@tweetkowai) April 6, 2021
本当にこの国の多くの国民は無関心というか能天気というか、「お上」のいう事は無条件で聞く。
恐ろしい。
権力を疑い批判し監視する、基本の権利と義務。https://t.co/zGHHFEUliq
「基地周辺の土地規制法案が近く審議入り 対象区域は成立後 私権制限の懸念も」(東京新聞)
【東京新聞より】
規制対象となる区域や妨害行為など具体的な運用方針は法案に盛り込まれず、成立後に政府が決めるという、最近の政府提出法案の特徴であるきわめて悪質なものであり、国会でまともに審議するにも詳細な情報を隠すということは明らかな国会軽視というよりも国会無視に等しいのではないか、とオジサンは思う。
【参考】
「日本人が知らない…菅政権が『国民を監視できる国づくり』を静かに始めていた!」(半田滋)
必見!あなたも調査対象?基地周辺土地規制 黙って進む変な法案【半田滋の眼 NO.30】20210310